奈緒さんに手を引かれて、俺達は別のマックに来た。
正直言ってかなり恥ずかしかった。手を握られるだけならまだ良い。いや良くはないが、この際そこはもう良い。問題なのはこの3人が馬鹿みたいな美少女だという事だ。
この3人が歩くだけで必ず人の視線を奪ってしまう。奪ってしまった結果、一緒にいる俺に『なんだコイツ殺すぞ』と言ってるような視線が注がれるのだ。
まぁそんな事があって、今俺の目の前には大量のポテトがある。確かにポテト食べたいって言ったけど、なにこの量。Lサイズの量なんて軽く超えている。Lサイズ4個分くらいありそうだ。そしてそのポテトを美味しそうに頬張っているツインテールの女の子。黒髪の子は特に気にする様子もなく、普通にスマートフォンを操作していた、隣の奈緒さんはまたか、と言った感じだった。
そんなこんなで俺もポテトを食べる。うん、美味い。
さて、なんで俺も連れ出されたんだろう。
俺まで連れ出された理由が全く分からない。
しかし、どうやって切り出そうか。
ポテトを食べながら色々考えていると、正面の通路側に座る……加蓮さん? がちょんちょんと俺の制服を揺らした。
「君、名前はなんて言うの?」
そう言えばまだ自己紹介してなかったな。
「あ、こういう時は自分からするのが礼儀なんだよね。わたしは
ふむふむ、このツインテールの女の子が北条加蓮さんか。
そう言って、北条さんはチラッと隣を見た。
「
うんうん、それからこの黒髪の子が渋谷凛さんか。よし、覚えた。
「で、これが奈緒のコスプレ姿」
「!? やめろぉぉぉぉおお!! いつの間に写真撮ったんだ加蓮!?」
なるほどなるほど。
北条さんのスマートフォンの画面にはプリキュアのような格好をした奈緒さんが写っていた。可愛い。
目の前で起こる取っ組み合いに少し驚いたが、一つ分かった事がある。多分この奈緒さんって子は凄く弄られやすいタイプなんだ。別に本気で怒っているわけじゃない。普段からこんな感じなんだろうな。
なんか、楽しそうだな。
「あはは、ごめん奈緒。冗談だから。見せてないから」
「いやチラッと見えたぞ!?」
「で、君の名前は?」
奈緒さんの手を掴みながら、チラッと北条さんが俺の方へ視線を流して再度俺の名前を聞いてきた。
「この状況で良く聞いてこれるな」
「うん、慣れてるから」
「かーれーん!」
「奈緒、静かに」
周りの状況を見て、奈緒さんは自分が座っていた席に戻る。どうぞどうぞ、とささっと両手を向ける北条さん。
「俺は
ふむふむ、と顎に手を当てながら、北条さんの視線は奈緒さんに向けられていた。奈緒さんはまだ機嫌が悪いらしく、北条さんをジト目で見つめてから、俺の方を向いた。
「あたしは、
「はい、じゃあ全員自己紹介も終わった事だし、後は奈緒に任せて、わたし達は帰ろうか」
「そうだね」
「え?」
ーーーーー
神谷奈緒は可愛い。
ーーーーー
きょとんとしている神谷さんを放ったらかして、2人は離れていく。
え、待ってどうするのこの大量のポテト。
とにかく食べるしかないだろう。
あ、今思ったらお金払ってないや。後で神谷さんに渡しておこう。
神谷さんは申し訳なさそうに後頭部に手を当てていた。俺はポテトを食べていた。
「えっと、ごめんな」
神谷さんは謝りながら、言葉を探していた。
「急でびっくりしただろ?」
「大丈夫だよ」
本当はびっくりしたけど、こういう時くらい嘘ついても良いだろう。
「そっか、よかった。……それで、さ、今日はこの前のお礼が言いたくて、ここまで連れて来ちゃったんだ」
「この前……モンハンのか?」
「うん、それのお礼」
「お礼ってあの時言ってただろ。別に大した事じゃないし」
「小さいとか大きいとかじゃないんだ」
神谷さんは少し頬を赤らめながら、
「嬉しかったから、改めてちゃんとお礼言おうって思ったんだ」
「……」
「だから、ありがとな」
目を細めて笑う神谷さんは今まで見てきた女の子の中で、ダントツに可愛かった。ドクンーーーと心臓が強く鼓動するのがわかった。生まれて初めてかもしれない。本気で可愛いって思ったのは。
「そ、そっか」
さっきの笑顔が可愛すぎて目が合わせられない。
「ーーーで、さっきから2人はなにしてるんだ?」
笑顔から真顔に戻った神谷さんは首を傾けながら、俺の後ろを見つめていた。それに釣られて振り返ると、さっき帰ったはずの北条さんと渋谷さんがいた。
笑いながら出てくる北条さんと少し気まずそうな渋谷さん。
「ごめんごめん。2人にした方が良いかなって思ったんだけど、正解だった?」
優しい笑顔を浮かべながら神谷さんに話しかける北条さん。
「ごめん奈緒。帰ろうって言ったんだけど加蓮が見守るって言って離れなくて」
申し訳なさそうに渋谷さんが神谷さんに謝る。
取り敢えずわかったことがある。
神谷さんは弄られキャラ。
北条さんはすぐに神谷さんをからかう。
渋谷さんはそんな2人に挟まれた苦労人。
「……、良いよ別に」
ふてくされる神谷さん。ころころと表情が変わる神谷さんは見ていて面白いな。
「それで、言えた?」
その場にしゃがみ込んで、神谷さんを下から見上げる北条さん。
神谷さんは目をそらして頬をかきながら答えた。
「……言えたけど」
「そ、よかった」
話終わったならポテト食べるの手伝ってくれないかな。全然減らないんだけど。
「じゃあ
そう言ってスマートフォンを取り出す北条さん。
渋谷さんも普通に取り出してるし。
「はい波瑠君、スマホ出して」
「いやいやちょっと待て。それはおかしい」
「なにがおかしいの?」
「いやおかしいだろ。だってあたし達は」
「あたし達は?」
「……、」
「大丈夫だよ。この人はそういう人じゃない。そう言ったのは
「それは……そうだけどさ」
「じゃあ大丈夫だよ。わたし達は別にやましい事をするわけじゃない。これから新しい友達を作るだけ。どこかおかしいところはある?」
「……ありません」
「じゃあ交換しよっか」
「わかったよ」
ポケットからスマートフォンを取り出す神谷さん。
3人から『早くスマホ出せ』と込められてそうな視線を注がれたので、急いでスマホを取り出してLINEを起動する。
新しく3人のLINEを登録した。
神谷さんはまだどこか納得がいってない感じだった。
それを見て北条さんが呟く。
「まだ心配してるの? 大丈夫だって。
『え?』
その発言に2人の声が重なった。
「あ、今のなし。忘れて」
「え、今の話って本当なのか?」
「知らなかった」
2人に囲まれる北条さん。さっきまでの仕返しとばかりに食いつく神谷さんと渋谷さん。
誰もポテトを食べてくれないから仕方なく全部俺が食べて、お金もちゃんと北条さんに払った。
♯2 波瑠護と神谷奈緒 ②
帰宅後、風呂に入ってベッドに寝転がって少年ジャンプを読んでいたら、ヴヴ、とスマートフォンが震えたので、拾い上げて画面を見ると1通のLINEが届いていた。相手は神谷さん。
奈緒
『モンハン売ってるぞ』
場所を聞いて速攻で買いに行った。