ドールズフロントラジオ 銃器紹介コーナー 作:通りすがる傭兵
というわけで前回言及した焔薙さんとのコラボ回をこちら側視点で書いてみました。需要あると思う?
「ガーンスミスさん」
甘ったるい声が狭苦しい部屋に反射して響く、その持ち主は言うまでもないだろう。みんなご存知、ウチの指揮官どのだ。
「ちと待ってくれ、仕事中だ」
「はーい、でもガンスミスさんが仕事してるなんて珍し」
「何か言ったか」
「なんでもないでーす」
この能天気、指揮官で女じゃなかったらモノ投げつけてたところだぞ、たく。
最後にニスを塗って乾燥ブースに入れれば整備終了、木製ストックは味はあるんだがいちいち調整が面倒だから嫌いだ。
作業がひと段落したところでマスクを外してから向き直る。ここら辺の礼儀は疎かにしたくないからな。
「んで、なんの用事」
「へへへ、実はですねぇ、出張サービス二回目が決まりました、拍手!」
「お、おう」
いつもよりハイテンションな勢いに気圧される。そのまま流れるように渡された書類を受け取るやいなや、
「それじゃよろしく。内容は書類に書いてあるから!」
ばたむ、と扉を蹴破って勢いよく去っていった指揮官。
「......全く、嵐みたいなやつだな」
指揮官に渡されたのは書類と言うよりは紙の束。少しめくってみると、どうやら先方が気を利かせて色々と資料を寄越した様子。
そして費用や経費はあちら持ち、移動用のガソリン代や消耗品代も負担してくれるとは太っ腹な基地だなオイ。給料は前回と同じでそこそこに高額、まじかよ。
一応、戦闘地域を通るみたいだし護衛は必須と注意書きされてるが、
「ナガンでいいか」
気心も知れてる、そして前回もついてきたし勝手もしれてるだろ。練度も申し分ないし適役だ。
「となるとカリーナに連絡だな。アイツは......ラジオの時でいいか」
あの指揮官の様子じゃ、カリーナも知らないだろうからな。
「と、こんな時間か。そろそろラジオの方の取り掛からねえと」
「ガンスミスと」
「M1895の」
「「銃器紹介コーナー!」」
「お疲れ様でした」
「お疲れ様なのじゃー」
「お疲れ様」
収録は無事に終了。スイッチを切ったところで緊張の糸がプッツリと切れた。退出するゲストのM1ガーランドに手を振っておく。
ナガンが手足を伸ばして身体をほぐすのを見て俺も体を伸ばす。
俺も資料集めん時から座りっぱなしだし、体が痛えや。
「と、ナガン。というわけで今回も頼める?」
「合点承知の助じゃ」
「......その挨拶誰から習った?」
「一〇〇式じゃよ、放送以来仲良くしとるんじゃ」
「へー」
ラジオにそんな影響があるとは意外だ。趣味半分で始めたもんだが、プラス方向に働いてんのかね。
「それで、詳しい日程は?」
「明後日からだ。1日2日かかると思うが、日帰りかもしれん」
「なんじゃ、そのにえきらん返事は」
「俺も予想がつかないんだわ」
先程指揮官から渡された分厚い資料を見せて説明する。こいつも同行人だし、詳しく説明するのが筋ってもんだろう。
「前回は銃全体のオーバーホールが必要な奴ばかりだったし、診断から始めなきゃいけないから時間がかかったんだ。
でも今回はご丁寧に写真付きの資料もあるし、そこまで痛みがひどい銃もない」
「なるほど、丁寧に扱われとるということじゃな」
「そゆこと。前回よりは楽で済みそうだ」
別に前回の基地の扱いが悪いというわけじゃねえが、この基地は他と比べてとりわけ丁寧だ。
「というわけで、よろしく」
「任された。明日のスケジュールを組み直してくる」
「教官殿は大変だね、忙しいったらありゃしない」
「そいつはお互い様じゃろう?」
「はは、こいつぁ一本取られた」
暇なのはお互い様だもんな、言ったら怒られるから口が裂けても言わないけれど。
ナガンが出て言ったのを見計らってパソコンを起動。とある相手にビデオ付き通話をかける。しばらくすれば、くまのひどい顔が画面に映った。
「そんでペルシカ、連絡してくれとは一体どういうことだ?」
『これは突然、がっつきすぎる男は好かれないわよ?』
「好かれようとは思ってないさ」
軽口を叩いてから、気を引き締めて問いかける。
「相手の指揮官、どう見たって未成年だろコリャ。連絡しろなんて書かれてなくても不審に思うさ」
『その子はちょっとワケありなのよ。一応機密事項だからオフレコで頼むわね。冗談抜きで漏らすと暗殺されるから』
「おお怖い。幹部の隠し子か何か?」
『そんな簡単なもんなら言わないわよ』
「んじゃ何さ」
『......詳しくは言えないけど、人体実験の元被験者なの。その子は人をヒトと認識できない、極度の人見知りみたいなものと考えればいいわ』
「それだけ?」
『人間不信が極まってるのよ。本人いわく少数の人間以外のヒトはマネキンに見えるそうよ』
「なるほど、PTSDな」
『そんなところかしら』
PTSD、又の名をパニック障害。何かしら心に深い傷を負った時、再度似たような状況になると心身不安定、発作などが起きる心の病。
......このご時世珍しくもない病気だ。
「そいつは随分と難儀なこって。でも本当に俺でいいのか?」
『貴方は割と人当たりもいいじゃない。それに下心の持ち合わせもないし、ナガンともうまくやってるし』
「そんだけ?」
『実は聞かれたとき思いついただけ』
「最低だなオイ!」
そりゃ最近会ったばかりで印象深いだろうけどさ、そいつはあんまりじゃねえの?!
『要するに、多少の無礼な行為は見逃してあげてって事。本人も人見知りを直そうと頑張ってるの』
「無礼なのはウチの指揮官で慣れてる」
『......なら安心した。よろしくね』
ペルシカはそれだけ言うと、通話を切った。
訳ありの以来なんて昔を思い出すからやめてほしいんだがな、でも仕事な以上仕方あるまいて。
「さて、どう扱ったもんかなぁ」
「人間不信じゃと?」
結局、同行人に頼るしか思いつかないというね。
その事を移動中の車中で隣に座るナガンに言うと、そのままおうむ返しに返された。でも本当のことを言えるはずもないのでぼかした言い方をしておく。
「そうらしい。どうにも虐待をうけたことがあるんだと。それでも成績優秀だから指揮官やってんだってさ」
「その様子じゃ整備員も怖がる始末か」
「だろうな、人間は指揮官含め2人だけだとさ」
「......それはそれで回るのか?」
そこは俺もそう思うが、ウチの基地も似たり寄ったりだろうて。
「......ふうむ、なるほどのう」
突然ナガンが窓の方をちらりと見やると、大きく窓を開けたかと思いきや身を乗り出す。
「おいおいおい、ちょっと!?」
「いやー、風は気持ち良いのう」
「危ないから戻れって!」
「はは、たまにははしゃぎたくなるんじゃよ」
「突然やんのは心臓に悪いぞ......」
「すまんすまん」
笑いながらナガンが窓を閉める。
するとニコニコとした顔は変わらないが、声色を真面目なソレにして話し始めた。
「なに、ちと狙撃兵の気配を感じての。ちょいと挑発をな」
「スナイパー?! もしかして鉄け」
「いや、どうやらご同輩じゃ。あのような絶好の狙撃チャンスを見逃す以上、超凄腕か敵意がないのう」
「いや完全に無防備でしたよね?!」
「あの角度では頭を狙うても角度があるからの、対物ライフル以外では一撃では倒せぬ。それにあの距離ではな」
「なるほど、今日は風が強いから」
弾丸の大きさの関係上不確定要素の多い対物ライフルは長距離狙撃には不向きだ。ましてや今日は風も強いし、狙撃にはとことん向かない日だろうな。
「やるとすれば地雷じゃのう」
「物騒なこと言うなし!?」
「かっかっか、冗談じゃ」
こいつより人生長いのに弄ばれてる感が半端じゃねえ。それなりに濃い人生送ってきたつもりなんだが、まだ勝てそうにないってか?
「っと、もうすぐ見えるようじゃ」
「おお、これは結構広いじゃないの。ウチよりも大きいとか相当だよ」
「荷物出しておくか?」
「後ろのやつ確認しといてくれる? 忘れ物あれば用意してもらうから」
「了解なのじゃ」
基地の前には、どうにも案内人らしい人影が数人ほど立っている。グリフィン制服のようだしあれが指揮官かな。怖がらせないように少し遠目に止めとくか、ガソリン車は今時の子は知らんだろ。
「着いたぞ」
「もう少し待つのじゃ......よし」
ナガンが態勢を整えるのを見計らってドアを開ける。その時に少しは服のシワを伸ばしておくのも忘れない、礼儀は大事だ。
挨拶しようと口を開く前に、ナガンの驚きの声が先に出た。
「むむ、わしが居るぞ?」
「珍しくもないだろうよ、っと今回出張サービスを利用頂きありがとうございます、ガンスミスです」
「ご丁寧に、わしはこの基地の副官を務めておるM1895じゃ。そうさな、そっちとゴチャゴチャになるのもいかんし副官と呼んどくれ、でこっちがほれ」
「あ、えっと、この基地の指揮官です、本日は遠路はるばるお越しいただき誠にありがとうございます」
ぺこりと頭を下げると、あちらの副官も頭を軽く下げて、っておいおい、右手右足まで一緒に出しちゃって。しかも声も身体もガッチガチだし、聞いてたより酷いじゃないか。
(なあ、大丈夫なのかのう)
(......ちょっと不安になってきた)
大丈夫なのかこの基地。