ドールズフロントラジオ 銃器紹介コーナー   作:通りすがる傭兵

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みんな、気を張りすぎなんじゃないの?
もっと力を抜いて、楽に生きていきましょ。
正義の味方? ムリムリ、私の柄じゃないから。



自己満ですまんな。


小話-6 指揮官の独白

 

 

 

 

「はーだるいだるい。正装はやっぱ疲れるわー」

 

正装の堅苦しい軍服をもう放り出して、首元を緩め大きく息をする指揮官。悪い意味で女性らしさに欠ける振る舞いに、お目付役でありカリーナから仕事を押し付けられた同僚の金庫番が苦言を呈する。

 

「そんなんでいいんですか指揮官、本部の激励会なんですよ、しっかりしてください。

まだ人が見てるんですから」

「いーのいーの、どーせ何も言われやしないんだから。成績は出してるんだし文句言われてもどうって事ないのよ金庫番君」

「確かにそうですが......て何ですかそのあだ名」

「基地のお財布事情、支出の方は君の担当でしょ、だから金庫番君。

言っとくけど、前戦もロクに支えられない赤字指揮官にナニ言われても痛くも痒くも無いんだな、あっはっは!」

 

周りの同僚指揮官に見せつけるように大声を出す指揮官。

指揮官が自称するように彼女は最高とまではいかなくとも、五指に入るレベルの激戦区を一年以上も守り、安全区域を確保している凄腕指揮官。しかもキッチリ担当地域の安全確保も行い、周辺民間人からの受けもよく、資源収支は黒字を計上するほど。

性格と正反対に完璧な成績を叩き出す彼女はもちろんやっかみの対象になる事は言うまでもない。

睨みつけであったり妬ましさの混ざった暗い視線を意にかいすることなく、むしろ楽しんでいるように肩で風を切り意気揚々と駐車場に向かった。

 

 

 

 

帰りの車中、金庫番が助手席で書類をめく指揮官に問いかける。

 

「さっきの言い方、どうかと思いますよ」

「なに?」

「集会が終わった後のです。見下すような、煽るような言い方をして......同じグリフィンの仲間ですよ、少しは協力しようとか」

「事実を言ったまでじゃん。上手いことやりくり出来ないのは指揮官の責任だね」

「事実であっても言い過ぎです、無闇矢鱈に敵を作る事もないじゃ無いですか!」

 

荒げた声にんー、と考え込む指揮官。暫くして帰ってきた答えは金庫番にとって意外なものだった。

 

「それで死ぬわけでもないし、別に?」

 

予想とは斜め上に回答に、今度は金庫番の側が黙り込む。指揮官は特に気にするでもなく世間話をするような軽い口調で、

 

「ウチの基地を潰すつもりなら、S地区をまるっと鉄血に明け渡して街を三つ潰す事と同じ。隣接するR地区は工業地帯、ここを攻め落とされれば圧倒的に戦況不利。

こんなのも理解できない阿呆が指揮官になれるとは思えない。やる気だったら潰し返して無能が一つ減るだけ」

「協力しようとかそういうのは無いんですか!?」

「そりゃするよ。前にガンスミスが出張してたお隣さんはじめS地区の指揮官とは仲良くしてるし。合同作戦つってもどーせ地区単位でしかやんないでしょ。

困ってる人同士の助け合いは大いにやるべきだけど、別に困ってないからいいじゃん」

「それは......」

 

指揮官の言うことは理には叶っている。だがこのご時世あんまりなことでは無いのか。

 

「ひどい女だ、とか思ってるでしょ金庫番君。顔に出てるよ」

「......ええ、ひどい上司だと思います」

「自覚はあるよ、もともと薄情者だもの。

ココ何年も手紙送るだけで実家には帰ってないし、私人のこと考えるの性に合わないんだ。生まれついてにクソ野郎だね」

「自覚はあるんですね」

「あるよあるある。あるアルヨ」

「......」

「何か言ってよ」

 

沈黙が車内を支配する。

指揮官にはイマジナリーフレンドとか見えない友人とかが憑いているわけでも無いので、話し相手は金庫番だけだ。彼が喋らねばとてつもなく暇になってしまう。

 

「......どうして、指揮官になったんですか?」

「このご時世で食いっぱぐれないから」

 

身もふたも夢もないごくありふれた理由。

結局違う形に収まったとはいえ、故郷を守ろうとG&K社の門を叩いた金庫番には理解しがたい。

心境が顔にありありと出ていたのか、金庫番の横顔を見てため息をついた指揮官が言葉を補う。

 

「正義の味方とか、誰かを守るのって疲れるじゃん。常に勝ち続けなきゃいけないんだから」

「勝ち続ける?」

「誰かを守るには攻める誰かに勝つ。

だけど戦争に勝ち続ける方法は存在しない、いずれ敗北する。あのナポレオンだって結局は負けたんだから」

「......現実主義者(リアリスト)のつもりですか」

「現実主義者だよ、私は」

 

黄昏空を見上げる。

冬日の短い夕焼けは、もう地平線に沈もうとしていた。

 

「何かを背負えば強くなる。

同時に、背負った何かを失えば崩壊する。

......私は壊れるわけにはいかない。

私の仕事は、あの場所に立ち続けることなんだから。

何があっても、誰が死のうと」

「......背負ってるじゃないですか。色々なモノを」

「だからよ。もう私は背負いたくない。

期待とか希望とか夢とか、キラキラしたものは荷が重すぎる。

ちょっと下ろすくらいが丁度いいのよ。

適度に手を抜いていかないと疲れちゃう。

そうは思わない、金庫番君」

 

 

 




指揮官......正義の味方とか夢物語を好まないリアリスト。

「勝ち続ける方法は負けるときに上手く負ければいいの、勝つ事なんていつでも出来るんだから」

金庫番......基地財政の支出担当。基地のお財布の紐を握っているのはこの男なのだ。お金を稼ぐ方担当のカリーナは金遣いが荒いのでしょっちゅう喧嘩してるとかなんとか。

「正義の味方って、なんでしょうね」

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