ドールズフロントラジオ 銃器紹介コーナー   作:通りすがる傭兵

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指揮官がクビになるお話です


小話-7 おわりとはじまり

 

 

 

『単刀直入に言おう。

貴殿から指揮官の資格を剥奪する』

 

 

赤服の上司(ヘリアントス)から告げられた宣告。

どうしてと理由を考える前に、ある言葉が思い浮かぶ。

 

 

私の負け。

 

 

私は結局のところ勝負に負けたのだ。人形だけではなく、人間とも戦わなければならなかったのだ。

それを見落とし、もう一つの勝負をおざなりにしてきたツケが今回ってきたのだろう。

 

「たはー」

 

感慨も、達成感も、憤慨も、寂寥感もない。

あるのは指揮官でなくなったという義務感の喪失。

 

「そんじゃ片付けでも......ん?」

 

バタバタと誰かが廊下をかける足音。

きっと聞かれちゃったかな、こういうのはひとりでやりたかったのに。

 

「まあいいか、今更どーにでもなるわけじゃないし。敗者は敗者らしく潔くしないとね」

 

 

 

 

「辞めるってんはホントかよ!?」

「おおうガンスミスさんがけしかけて来るとは」

「くくくくクビになっちゃんですか?!」

「なっちゃう」

 

大慌てでやってきたのはガンスミスさんとカリーナ。カリーナが多分聞いてて、それなりに親交のあったガンスミスさんに声をかけたのかな。

しかし、こんなに感情をあらわにするガンスミスさんてはじめてみたかも。いつもはしかめっ面だったり笑う顔だった。仕事中もずーっとニヤついてるし、こんな真面目な顔なんて見せること無かったもん。

「それなりにこの地区も落ち着いてきたし、もうちょい人望ある人にってことだと思うよ。

戦闘しか能のないやつはお払い箱ってねー」

「今は小康状態ってだけで平和になったわけじゃないだろ、上層部の目は節穴か?!」

「さあねえ、何考えてるんだか」

 

心当たりはある。

私の人付き合いの悪さは折り紙つきだ。この地区の顔役と上手くやれているとかと言われるとノー。他の基地のように工場なんかと提携したりだとかそんな事はしていない。

そこが上層部の目に触ったんだろうね、いちおう住民に寄り添うだのと謳っているわけなんだし。

特に激戦区だったこの地区は常に戦闘に巻き込まれるリスクを孕む。そのメンタルケアが行き届いていなかったとか、そんな理由。

 

なんてつまんない考え方。

大方私の足を引っ張りたい誰かの工作。

 

だけど、私はあくまでいち社員、わがままを通す気なんてない。言われた分には仕方ないよ。

 

「私これから引き継ぎ資料とかも作らないとだし、人形のみんなにも伝えとかないと。

忙しいから帰った帰った、ガンスミスさんもカリーナもまだ仕事あるでしょー」

 

二人の背中を押して指揮官室から追い出した。

基地立ち上げ当初からいたあの二人に、私の情けない姿は見せたくはない。

 

「なあおい、ちょっ」

「指揮官さま、話だけでも」

 

扉に鍵をかける。

 

「ごめん、ひとりでゆっくりやりたいからさ」

 

叩かれる扉、だが開けるつもりもない。

怒りすら感じるような強い殴打の音を聞きながら、私は紙にペン先を走らせる。

引き継ぎといっても型通りのものばかり。ここしばらくの資源収支を纏めたりとか、お得意様をリストアップして次の顔合わせの準備とか、あと部隊の運用法とかメンバー振り分けの理由とかも纏めとこうかな。

これだけあれば誰でもみんな上手く使ってくれるはず。

 

「あと誰が何を得意とかも纏めとくかな」

 

指揮官として最後までできることはやっておきたいしね。指揮官の椅子にいつまでもしがみつきたいような未練がましさみたいなのを感じるけど、ただの義務感よ義務感。仕事をしてるだけなんだから。

人形の一覧をめくると今より随分と生真面目で顔の硬い写真が目に入った。

 

「......懐かしいな」

 

昔は今よりずっと冷静で、融通がきかなかった。

本部付きとして長い間副官を務めてくれた彼女は、私のことをどう思ってるんだろう。私よりも年下で、私よりもベテランで、私よりも戦い続けた小さな淑女(レディ)

幾多の人間を見てきた彼女の目に私はどう映っているんだろう。

 

『お主は、大バカ者じゃ!』

「そうだねぇ」

 

めくる。

基地立ち上げから付き合ってくれていた頼れるお姉さん。最近は出撃の機会もないけど、出会うたびに声をかけて優しくしれくれたっけ。

 

『あなたはいつも1人で抱えこんで』

「みんなに迷惑はかけられないでしょ?」

 

めくる。

少し変わった喋り方で、部隊を盛り上げてくれたムードメーカー。今ではネームド部隊の副隊長まで勤め上げるほど立派に成長してくれた。

 

『ほんま、あんさんは阿呆や』

「ごめんね」

 

めくる。

格好とは反対に生真面目で戦うことが大好きで。それでもみんなといることを選んでくれた。

幽霊(スペクトラ)と呼ばれながら、一番存在感を示したかわりもの。

 

『指揮官はいつも無理をして!』

「してるのかな。よくわかんないや」

 

めくる。

素直じゃないけど世話焼きで、色々なところに目が届く優しい人。文句ばかりいうのは、もっと出来るって意味の励ましだったのかな。

 

『私がいないと何もできないんだから!』

「大丈夫、できるよ」

 

沢山の人に出会った。沢山の人形にも出会った。

だけど最初に出会った人は不思議とよく覚えている。

『新しい指揮官様ですか? 私はカリーナです。カリン、とお呼びください。早速ですか、買い物、したくないですか?』

 

『お前が指揮官か。俺はまー、ガンスミスと呼んでくれればそれでいい。仕事は言われなくたってキッチリとやるさ、なんせ好きでやってるんだしな』

 

『わしが本部から派遣されたM1895ナガンじゃ。

新人だからといって容赦はせぬぞ、覚悟しておれ!』

 

『貴殿は私が基地の司令官たる器に相応しいと思った。貴殿をS09基地の指揮官に任命する。

人類の砦として、職務に励んでほしい』

 

『私が上官のヘリアントスだ。良い戦果を期待している。

なに、この前居酒屋で見かけた、だと。合コンをしているようだった......上官命令だ、今すぐ忘れろ。

なんだその顔は、おい、こら! 基地中にばら撒こうとするな! やめろ!』

 

いろんな人がいたなぁ。

楽しい人、つまらない人、優しい人、厳しい人。

他にもたくさんたくさん、たくさんの人と出会った。

 

「もっと......」

 

「もっと一緒に......」

 

「もっと一緒に、いたかったな......」

 

いつのまにか扉を叩く音は消えていた。

執務室って、ひとりだとこんなに静かだったんだ。

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

「そんじゃ、引き継ぎはよろしくね金庫番クン」

 

朝日が昇るか登らないかというころ。遅番の金庫番クンにだけは事情を話して、こっそりと抜け出させてもらった。今日の6時まで私はまだ指揮官だからねん。

 

「送別会の準備もしてるのに、みんな楽しみにしてたんですよ」

「いーのいーの、そんなことしたら仕事にならないじゃない。いつも通りでいいんだよ、ただの人事異動なんだから」

 

戦士に休息は許されない。ましてここは最前線、そう簡単に防衛ラインに穴を開けるわけにはいかないよ。

 

「悲しくないんですか?」

 

金庫番クンの言葉にどんな意味が込められているのか私にはわからなかった。

だから私はこう返した。

「私はみんなを駒としてうまく扱っただけ。そこに、感情があったわけじゃないから」

「......そう、ですか」

 

それじゃとボストンバックひとつ分の荷物を背負って、基地の門のパネルにカードをかざす。

「これももう必要ないね、あげる。記念にでもといたら?」

 

軽くカードを投げると、くるくると輪を描いて金庫番クンの手にちょうどおさまった。我ながら会心の出来だねぇ。ラッキー。

 

「これからどうするんですか?」

「どうしよっかー。決めてないや。

久しぶりに実家でも帰って、農業でもしようかな」

「......向いてないっすよ、指揮官には」

「そうかなー、やってみたら案外楽しいかもよ?」

「そんなもんですかね」

「そんなもんよ、金庫番クン」

 

後ろ手に手を振って、私は基地の敷地の外に足を踏み入れた。

 

 

 

時刻はちょうど6時ジャスト。

 

これで、私にはなにもなくなった。

 

 

 

◇◇◇

 

 

「ボクが新しくこの基地の指揮官になった者です。

早速ですが、ボクは指揮官としてあなたたちに最初の命令を下そうと思います。命令はーーーーー」

 

 

◇◇◇

 

 

 

街を歩く。

 

「ねえ今度どうしよっか」

「俺昨日さー」

「あはは、それほんとかよー」

「私〇〇社のものですが」

 

誰も振り向かず、誰も注目することはない。

当然だ地域とのつながりをもった試しなどない。基地があることは知っていても、その職員までは知られてはいない。

それが基地のトップであろうとも、知られていない。

これが私が守ってきた民間人のありのままの姿。

 

「やんなっちゃうねー」

 

現実を知っちゃうとやる気無くすわ。

 

ふらふらと目的もなく街を歩く。

比較的華やかなな繁華街を抜ければゴミだらけのスラム街。

型落ち品や壊れた何かのパーツ、見覚えのあるジャンク部品。人形らしき人体パーツの成れの果て。

他にも扇情的な格好をした女性や、カタギでもなさそうな男の姿。

「知らなかったな、こんな場所があるなんて......っと」

「ごめんねおねーさん!」

「はは、子供は元気が一番だぞー」

 

ボロボロのタンクトップを着た少年が駆けていく。

少し遅れて、スカートのポッケが軽くなることに気がついた。

 

「んなろーサイフ盗みやがった」

 

......まあいいか、めぼしいもんはなんも入ってないし、現金は持ち歩かない主義だしね。

「さーて、バス停はどっちかねぇ」

 

歩く。

 

歩く。

 

あてもなく歩いて、

目的もなく彷徨って、

理由もなく足を動かして。

 

 

「この財布は君のもののだろう?」

「ん、あー、サンキュ」

 

投げ渡されたサイフを受け取る。中身は、少し減ってるか、当然だよね。

投げ渡してきた相手は黒いコートの似合う渋い声の男。クルーガーさんとも違う渋さだ。カフェの老マスターが似合いそうだな、と見当違いな感想を持った。

 

「ご親切にどうも、でも、どうやって?」

「いや、たまたま目に入ったものでな。それに、仕事をするときは善行をしてからと決めている」

 

袖口から滑り落ちるように手に収まったのは、つや消しが塗られた黒い小型ナイフ。

「誰に雇われたとかは聞くのは野暮だよね」

「許しは乞わん、もとよりそういう仕事だ」

「いいよ、なんか疲れちゃったし。どうぞ」

 

黒い刃が迫る。

 

それを私は......

 

「何やっとるんじゃ()()()!」

 

銃声。

 

小型ナイフが歪んでねじ切れ、男の手から弾き飛ぶ。

 

壁を蹴って目の前に割り込んできた白い影。

暑い毛皮のロシア帽。白いファーコート。胸元まで届かない小さな身体。

そして......未だ白煙を銃口からたちのぼらせる、旧式回転拳銃(リボルバー)

「両手を上げよ。わしは戦術人形、慈悲は無いと知れ」

「やれやれ、私もヤキが回ったか」

 

状況が全くわからない。

両手をあげる男。

銃を構えるナガン。

なぜ、どうして、どうやって?

 

「新しい指揮官に感謝するんじゃな、先輩」

「先輩......?」

「先パァイ!」

「ぐふっ!?」

 

この学生時代にやたら食らった覚えのあるタックル。

なんかすっごく嫌な予感するんだけど!

グリグリと胸に顔を埋めてくる小柄な紫髪、声といい言動といいまさか......

 

「先パイの匂いだぁーーーーー!!!」

「いやだあああ実家帰るううううう!」

 

「説明を要求したいのだがいいかね?」

「わしにも分からん」

 

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

「一言で状況を説明すると?」

「私が新しい指揮官です!」

「なるほど、そんで私は?」

「戦術アドバイザーですね!」

「そんな仕事あったっけ?」

「ないので作りました!」

 

目の前には、学生時代散々私を追いかけ回してくれた後輩ちゃん。グリフィンの制服姿がよく似合う......とかではなく。

 

「私は用済みになった存在。外部とはいえ呼び戻すことなんて簡単に出来ることじゃ」

「先輩と一緒に居たいからじゃダメですか?」

「真剣に話してるの」

「そうですね、ちょーっとオネガイしました。

最近の人は隠し事が多くて嫌ですね。でもボクはいつでも先輩にオープンですよ! バッチコイ!」

「やかましい!」

「ああんいけずぅ」

 

大方弱みでも握って無理に通したな。私のクビだってそうやって通したもんだろうし、復帰するのはそう難しくはないけどさあ。

 

「それに、先輩はひとりでなんでもしようとしちゃいますから。たまにはお灸を据えておかないよですよね。

基地のみんな、心配してましたよ。急に居なくなったりしてなんて怒ってました。発信機はありましたけど、町中探し回れたのは、戦術人形の協力があっての事です。あそこまで自主的に動き回るのは生まれて初めて見ました。

でも一番心配してたのはボクですからね! 」

「......私にそんな価値があるとは思えないけど」

「そんな悲しいこと言わないでくださいよ」

後輩の目が潤む。

「先輩は優しすぎるんです。

先輩は天才ですから、人より物がわかって、できてしまう。人より優れてるということはそれだけで他人を傷つけてしまいます。

だから先輩は線引きをしているのです。

親しい人間には優しく、それ以外は厳しく。

 

先輩は自分の価値観で人を憐れみたくないのです。

だから極端に人間関係を狭めて、自分ではどうしてもできないことだけを他人にやらせる。

そのいびつな優しさはボクは大好きですけど、人を傷つけてしまいます。やめるべきです。

もっと信頼しましょう、先輩。

まずはボクから、初めてみませんか」

「後輩ちゃん......」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「その巧妙な告白に騙されはしないから」

「辛辣っ! でもボクは大好きです! もっと罵ってください!」

「今すぐにこの縄を解けー!」

「この縄はボクと先輩の間に結ばれた運命の赤い糸、例え死神だろうと断ち切る事は出来ないのです」

「こんなの認められるかああああああああ、ぬおおおおおおお!」

「さあ先輩、一緒に愛を深めましょう!」

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

「今度の指揮官、指揮官から後輩ちゃん呼ばわりされたけど知り合いかな?」

「恋人って言ってましたね。自称ですけど」

「自称」

「でもお似合いじゃないですか? これで指揮官も少しは人当たりは良くなると思いますよ」

「時には荒療治も治療法なりうるのだ。これでまた一つ学びが増えたな、若人よ」

「さらっとそこでコーヒー飲んでる暗殺者の人はなんでいるんですかね怖いわ!」

「ああ、これから厄介になるよ。近接格闘術や潜入術を教えてほしいそうだ。

そろそろ歳だから引退しようと思ってはいたが、とんだ余生になりそうだ。スプリングフィールド女史、もう一杯頼めるかね?」

「もうやだこの基地」

 

 

 




指揮官→戦術アドバイザー
クビになったがまた雇われて基地に戻ることとなった。苦手だった庶務はやらなくていいので昔よりいい仕事かもしれない。
ただし特大のおまけがついてきたことを除けば。
後輩ちゃんと恋人(後輩のみ自称)になった。春と呼んでいいものか

「まあその、ただいま?」

後輩ちゃん
新任指揮官。指揮官の後輩で、学校生活の時一目惚れして今に至る。
あんまりにも離れすぎたのでヤンヤンしているのかもしれない。
なお指揮官より有能で、人付き合いもそこそこ出来る。
指揮官が仕事を効率よくこなすタイプだとすれば、後輩ちゃんは与えられた仕事を高速で片付け結果指揮官より先に仕事が終わる力技タイプ。
ショタが押し倒してくる(誰得)。

「これが先輩とボクのラブラブパワーです!」

暗殺者(死神さん)
一昔前一世を風靡したやばい殺し屋。だが現在では年齢の衰えには勝てず、あの頃のキレは失われている。結果ナガンにKOされた。
カリーナの機転と人材強化の名目のもとその場でヘッドハントされ、近接格闘や潜入の教官になった。
コーヒー党で、どこからともなく豆を仕入れてくる。そのためカフェで豆が切れることはまずなくなった。
イケオジ(重要)

「死神の名前も返上かね......おかわりをもらえるかな」

ガンスミス
取り越し苦労で無駄に疲れただけ。
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