ドールズフロントラジオ 銃器紹介コーナー 作:通りすがる傭兵
注意
今回はコラボを前提とした話となっており、コラボ先である焔薙さん作「それいけぽんこつ指揮官と(以下略」
の最新話までの読了を強く推奨しております。
要するにスルーしてもいい話ってことだわさ。
あとアンケートで解説してくれって言ってた人ごめんこれ終わったら書くから!
「では行きましょうガンスミスさん」
「いやちょっと待て、それなんだ?」
「ちょーっと借りてきました」
そう何気なく言う後輩ちゃんの姿はいつもの指揮官服ではなかった。
赤いキャスケットに黒基調のドレス、背中には大きな赤いリボンが目立つ。髪もウィッグを被っているのか白髪になり、水色のカラコンまで入れている。
ましてや手に持った武器がソレであるならばもはや間違いはない。
「ワザワザMP5のコスプレをする必要性は?」
「保険ですよ保険、指揮官が出向けば狙われるかもですし何より本部が喧しいですからね。
それにガンスミスさんも言った通りの格好でしょう?」
「まあ、言われたからな」
かくいう俺もツナギではなく、白い大きなジャケットと黒のインナー姿、手には大柄なフルオートショットガンAA-12、いつぞや弟に説明してたっけな。
戦術人形AA-12のプロトモデルな事が役に立つ日がくるとは思いもしなかった。
「ガンスミスさんの知名度もなかなかですが、義体の方は知名度低いですからね。顔つきも同じですしバレないでしょう多分」
「だいぶ苦し紛れな気がするんだがな。双子の入れ替わりトリックみたいなもんだろこれ」
「気にしたら負けですよ、では運転よろしくお願いしますね、
「......オーケー、わかったよ
「気持ちは分かりますけど法定速度は守ってくださいね」
「わかった、100マイルでぶっ飛ばす」
「聞いてました?!」
「今回はお見舞いではなくカウンセリングとして行く、というより先方からカウンセリングして欲しいと依頼されまして」
「カウンセリング? ま、刺されたんだからそりゃ必要だわな。でも、なんでお前が? 刺された事あんの?」
「別にありますけどそれと別件ですよ。
あの親バカな副官に『お主の過去を見込んで頼みがある』と切り出されちゃあ断れません」
「過去を見込んで?」
「暗に脅迫された気分ですよ、バラされたらそれはそれで困る黒歴史ですから。ボクもまさか調べられるとは思わなかったのですがねえ」
「......ま、詳しくは聞かねえよ」
「英断ですね、聞いたら首をねじ切るところでした」
「死ぬところだったの?!」
「冗談ですよ。
それで、ひとつお願いがあるのですがーーー」
「AA-12にMP5、ですか。珍しい組み合わせですね」
「私たちはまだまだ練度不足ですから、それに、みなさん忙しくて。指揮官さんに行ってこいって言われちゃいました」
隣の基地に無事到着し医務室に通してもらう。医者役のPPSh-41によれば1ヶ月は安静にとの事だが、傷口以外の後遺症は無いという。ただもうすこしズレていたら、そんな彼女の呟きに思わずゾッとした。
「医務室では騒がないで下さいね。でないとナガンさんにつまみ出して貰いますから」
「あ、指揮官さんに言われて花束持ってきたので、花瓶ありますか?」
「こちらにありますが......」
「どうかしました?」
「PPSh、客人をまじまじと眺めるもんでも無かろう」
「そうですよね、ごめんなさい」
彼女はコスプレのMP5を本物と見間違えたのか、特になにを言うでもなく病室に通してくれた。
すれ違いざま、ドアに寄りかかるナガンが後輩ちゃんにだけ聞こえるような小声でつぶやく。
「......頼んだぞ」
「お任せください♪」
ドアが閉まったところで、堅苦しかったのか後輩ちゃんが蹴伸びをする。俺も猫背を作るのちと辛かったから背中が痛えや。
「以外とやってみるもんですねえ」
「その声どうやって出してんだよ、本物かと思ったぞ」
「死神さんに声帯模写を習いまして。これなら合格は貰えそうですね」
「変態化が進むなぁ」
「うるさいですね......あ、ボクやることがあるので先どうぞ」
持ってきたカバンからなにかしら取り出し作業を始めた後輩ちゃんは放っておいて病室奥側、仕切りで区切られている窓際のベッドに向かう。
とりあえず気楽に気楽に......
「や、やっほー」
「あ、ガンスミスさん!」
病衣姿のユノちゃんが笑顔で出迎えてくれた。すこし顔色は悪いものの他に目立った違いはない。元気そうで何よりだ。
「お見舞いに来てくれたんですか?」
「そんなところだ。花持ってきたから、花瓶に飾っとくね」
「わあい、ありがとうございます」
ニコニコと年頃の女の子らしい振る舞い。ただ、それが俺にはかなり薄ら寒いもののように感じた。
普通刺されたらもっと気分が沈むものではなかろうか、なにかしら考えるものではなかろうか。
刺された事ないから知らんが少なくともウチの弟は怪我した時にはもっと沈んで、荒れてた。
(俺がお見舞いに来てるから......なのか?)
こっちは大人なんだ、吐き出した不安を受け止める心構えは出来ていると言うのに。
もしくは信頼されていなかったか、されなくなってしまったのか。俺は彼女の力になれないんだろうか、そう考えれば考えるほど自分の無力さが恨めしい。
その時だった。
吐き気のするような、何か形容しがたいような寒気を背中に感じた。
例えるなら蛇のような、獲物をなめつけるような薄気味悪さ。戦場で一度だけあったことのある頭のイかれた野郎に会った時の、それを煮詰めたような強烈な嫌悪感。
おおよそ、人に向ける感情ではない事は確かだ。
「準備完了、さーていっぱいお話ししましょうねー?」
「ひっ」
「おやーコスプレ否定派ですか?
それとも
突然飛び出してきた人間にユノ指揮官の顔が恐怖に歪むのを見、その人間が嗜虐的な笑みを浮かべた。
逃げるように枕元のナースコールを押そうとするが、人間はニコニコと笑いながらハサミを突きつけて宣告する。
「配線は切りましたので外には繋がりませんよ? 監視カメラにもダミー映像が流れているところでしょう。それにお見舞い中に来客が来ることはないでしょうね。
ドアもさっき封鎖してきたところなので、都合30分はボクとあなた、おまけのガンスミスさんと一緒です」
さあ、たくさんお話ししましょうねぇ?
椅子に座ってにっこり笑う。
いつもの人懐っこい笑みのはずなのに、俺はその笑顔の裏にあるだろう何かの得体の知れなさに恐怖した。
コイツは......俺が知っている人間なのだろうか。
「そうは言ってもボクはあなたの事を知っていても、あなたはボクの事を知りません。
仲良くなるのは自己紹介からと言うのが鉄板だそうですが......まあ今更ですしどうでもいいですねぇ。
クソ後輩、後輩ちゃん、変態、銀色坊主、弟子1号、好きにお呼びください。
あなたのお名前は?」
にこやかに挨拶しても縮こまるばかり。逃げ場を求めるように部屋の隅で枕を抱えてうずくまってしまった。
「拙者キサマのような不埒者に名乗る名前は御座いませぬ、そう言いたいようですね。ではボクは適当にユノ指揮官と呼びましょう」
「出てって......!」
「お見舞い人に出て行けとは殺生な。
ボクはともかくガンスミスさんは誠意を持って花まで買ってきたんですよ?」
「出てって、出てって、出てって!」
「んー、これは重症」
「傷口に塩塗り込むようなことしていけしゃあしゃあと、流石に我慢できねえぞオイ!」
「荒療治って奴ですよ。こんな様子じゃ歪んでいくのは確かですからね、こんなのに殺されるのって嫌ですよボク」
「殺されるて、そんな誇大妄想にも程があるだろ」
「彼女は人間を信じられない、今回の事件でそれが憎悪や殺意に変わっていてもおかしくありません。
今はまだ、でしょうが」
そう言ってのけた後輩ちゃんの顔にウソは無かった、今の発言は冗談でも出まかせでもないらしい。
おいおい、冗談キツイぜ......
「カウンセリングにボクを呼びつけた副官殿は慧眼ですね。とはいえコイントスでもするような気持ちでしたでしょう。
ボクってほら、イロイロと危うい人間ですから」
「おばあちゃんが......?」
「......んー、これは更にマズイ」
副官殿と言う言葉に反応して恐る恐るではあるが顔を出してくれたユノちゃんに後輩ちゃんは渋い顔を見せる。
「おばあちゃんが言うなら......頑張らないと」
「ちなみに彼女にはボクは来るとは一言も告げてませんよ。ほんとは先輩が来る予定でしたが代理で、そうですよねガンスミスさん?」
「ん、あ、ああ、そうだっけ?」
「あー、言ってませんでしたごめんなさいね?
しっかし副官殿? も節穴ですねえ、こんなボクみたいな不審人物を素通しするなんて」
「......ちがうの」
「違いますよ。本来来る人はもうちょい親身でドライでちょっと壊れたボクの愛しの人です。
代理できたのは親身さのかけらのないネジが外れたロクデナシです。
人を簡単に信頼するのは悪い癖ですねえ?
自分の目でしっかりと確かめる努力をしないと、いつか痛い目をつい先日見たばかりですかごめんなさいねえ!」
「ひいっ」
わざと声を荒げて威圧、つくづくタチが悪い。
ただ『今回ばかりは手出し無用』て命令だからな。流石に限度越えれば手が出るとは言ってあるが......割ともう限界なんだが。
「人形が信頼してるから私も信頼しよう、そう考えるのは早計どころが愚策以下です。
だいたい人形が人間に勝てる通りがありますかそこに、観察眼という点では人形は人間にどう転んでも勝てないんですよ?
たかが10年ぽっち前に生産された人形が、三倍は長生きしてるような人間の本性を見抜けると思いますか?
貴女は人間観察という人見知りを直す第一段階を放棄している、間抜けか何かですか?
人形の付属品のまま一生を終えるつもりですか」
「おばあちゃんの事を悪く言わないで!」
「おばあちゃんとまで言ってしまいますか......随分と慕っているようですね。
纏う空気が変わった。得体の知れない生温いような理解不能な雰囲気が、刺すほどに寒いような殺意混じりへ。
その発生源は言うまでもなく後輩ちゃん、いや、指揮官から発せられていた。
「人形ほど信頼できない存在はない。
妹を蹴り飛ばして踏み潰した。
母をかばう父の前で母を撃った。
父は両手両足を潰して頭を砕いた。
弟の手足を引き千切った!
昨日まで笑いあっていた、家族だと思っていた!
なのにあんな事になった!
泣いていたんだ......泣いていたんだよ。
殺したくないって言いながら殺していたんだ!
その時まで忘れていた。
人形は人間じゃない。
人形はあくまで機械なんだって。
プログラムやメモリーの書き換えで信頼していた仲間が敵になる。
家族が殺人鬼に成り下がる。
戦術人形だって同じ。
セキュリティが強固? G&K社の管理体制?
そんなもの鼻で笑えるようなスキルを持った人間はごまんといる。
少しダークウェブに潜り込んで金を払えば殺人鬼がひとり生まれる。それを眺めて笑ってるような人間も!
昨日まで笑い合っていた仲間が翌朝には銃を向けている......そんな未来が待っているかもしれないんです!
なんでそんな事を言える!
なぜ
「だって......だって、わたしには
わたしを助けてくれたのは
あれ、あれ、あれ?」
「おいユノちゃん?」
「みんなは大切な家族で
「落ち着けユノちゃん! 一回冷静になれ!」
「わたしにひどい事をするのが
「おいユノちゃん、しっかりしろ! ユノちゃん!」
「壊れましたか、哀れなものですねぇ」
目を虚ろにして同じようなことばかり繰り返すユノちゃんに対し、指揮官はゴミでも見るような目で吐き捨てた。
「所詮はどっちつかずの半端者ですか。中途半端な立ち位置に立ったおかげでそんなになったんです。
こんな揺さぶりでこうなるようでは、先が思いやられますね」
「まるで他人事みてえに言いやがって、お前が壊したんだろうがっ!」
「実際他人事でしょう? それに、一から積み直した方が都合が良いですからね」
「ふざけんなよお前......! そんな積み木みたいに人間どうとでもなるもんじゃ無いんだぞ!」
指揮官を押しのけ、ガタガタと震えて頭を抱えるユノちゃんの肩を掴んで無理やりにこちらを向かせる。
どうする......ユノちゃんを正気に戻す方法は、この状況を一言で解決できるようなそんな言葉は。
ああもうそんなん考えつくわけないだろ馬鹿な俺に!
「いいから正気に戻れこんにゃろう!」
気がついた時には手が出ていた。呆気にとられて頰を抑えることもなくこちらを見るユノちゃんの肩を掴んで、揺さぶって、叫んだ。
「人形とか人間とか、そんなくだらん問題で悩むな!
ここにいるみんなは家族なんだろ、大切な仲間なんだろ! もうそれでいいじゃねえか!
人形とか人間とか、そんなこと関係なく仲良くすればいい!
酷いことするやつも、良いことをするやつも、人形も人間も、それをひっくるめてあんたの周りに存在してるんだ! そんなのに線引きしてたら息苦しいだけじゃないか!」
昔は人形は機械なんだって思ってた。でも今は違う。人形も笑って、怒って、泣いて、喜ぶんだ。
結局そこに違いなんて見出す方が馬鹿馬鹿しい。
んなもん一緒くたで別に良いじゃないか。
「それに、悪人とだって仲良くできますしねー。
先日きたおじさん、死神さんとか名乗ってましたけどカレ元暗殺者なんですよ、何百人殺してるんだか。
そんな人間でも仲良くできてしまうのが人間の不思議なところです。
仲良く、というのは違いますかね。
聞いてるかどうかは知らないので独り言ですけど、先人からのアドバイスというやつです。
ボクがなぜ死神さんを雇っているか、ご存知ですか?
最初にあった時にはカレはボクのいとしの先輩を殺そうとしてまして。身柄を確保した後は八つ裂きにしてやろうかと思ってたんですよ。今では職員の1人として死ぬほどこき使ってますけどね。
正直今でも殺したいくらいには憎んでますよ。未遂だからとかそんなチープな言い訳が先輩を殺そうとしたことへの言い訳になるはずがない。
でもカレをボクは雇用している。それは何故か?
彼の『暗殺者としてのスキル』これが今のボクには必要だったからです。
自分にできないことが彼には出来るから、ただその一点のみで彼を雇用しています。
信頼も信用も憐憫も愛情も憤怒も共感もできないような人間こそ、貴女は触れるべきなのです。
それこそ人間というものを知る一歩であり、周りの誰かがひた隠しにしてきた現実に目を向ける事でもあります。
貴女は人間の闇を見てしまっている。だからこそ光に触れてほしい、光の中にいて欲しい。気持ちはよーーーーーーく理解できますとも。
だが光が強いほど影が強くなるように、この仕事は残念ながら闇無くしては遂行できません。
今誰から代行している闇の仕事、それに触れて真に人間を理解して欲しい。
それと同時に、いい人とたくさん交流してください。
人間を闇一辺倒だとは思わないでください。
元暗殺者の人はコーヒー入れるの上手なんですよ。それこそスプリングフィールドさんなんか目じゃないんですよ? 彼はコーヒーの話をするとき、ガンスミスさんが銃の話をする時と同じかそれ以上に生き生きしています。
人間は必ずしも悪だけではない、そのようなクソゴミ野郎はボクをはじめとした極少数なんです。
先輩に出会ってからボクに友達が出来たように、貴女も誰かを通じて友達を作ってください。
善人でも悪人でも戦術人形でも鉄血でも異世界の住民でも動物でも植物でも無機物でも、なんでも構いません。
あ、ボクはやめてくださいね?
ボクは信頼してはいけない人種なのは自覚があります。
この件で貴女もボクの事が嫌いになったでしょう?
ですので、ボクはクソみたいな人間と付き合う練習とでもしてください。
同じS09地区を守る基地の司令官として、よろしくお願いします。
私はあなたのことが大嫌いですが! ほんとうに! 貴女と友達になるくらいならドブ水を啜る方がマシなくらいなので! 仕事仲間として! しょうがなく! ほんとうなら殺したいくらい憎たらしいですが! どうしても!
......てな感じで。
ボクとあなたの関係は、きっとそれが丁度いい。
互いに利用し合うような仲間と敵の両方であるべきなんですよ。
最後にひとつだけ。
殻に閉じこもるのだけはよろしくないです。
この基地はいい基地ですが、一歩も外に出ないような、このぬるま湯に浸かり続けるような事は絶対にだけです。
歩みを止めたならば人間は堕落し腐敗し数年と経たないうちに破綻します。
そのようにはならないでくださいね」
そろそろ時間ですし帰りますかー、と帰る準備を始めた、っていうかもうドアに手をかけてるとか早すぎだろ待てオイ!
最後に一言ぐらい......えと、えっとだな......
「お、お大事に......?」
俺のバカー!
「後輩ちゃんにあんな重い過去があったなんてなー」
「あ、アレ演技ですけど?」
「......なんつった?」
「実は昔役者まがいの事をしてまして割と黒歴史なんですよ。
画面越しとはいえ先輩以外に媚び売ってたとか......!」
「同情して損した」