ドールズフロントラジオ 銃器紹介コーナー   作:通りすがる傭兵

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皆さんお待ちかね「死神さん家の娘」のお話。


ちなみに続きはあるかもしれないとだけ言っておきます。


番外編 世界の片隅に生きる

 

 

 

『あの人を恨んじゃいけない。恨むなら、あいつを愛した私を恨みな』

『......そんなに元気なら死なないかって? バカ言え、んなもん気合いに決まってんだろーがそのうち死ぬわ。

それに、あたしが死ななきゃアンタが巻き添えで死ぬ。これでいいんだよ』

 

『最期に親として最後にひとつだけ言っておきたいことがある』

 

『人として死ね。犬でもなく、死体でもなく、人形としてでもなく人として』

 

『自分が死んでもイイと、胸を張って死ね。

あたしはあんたを守って死ぬ。

あんたを残すことは心残りだけど、どうってことは無い。あんたが生きてくれれば、それでいいんだ』

 

『さあ行け、生きろ。そして死ね。

地獄か天国が、どっちかであんたを待ってる』

 

『あたしみたいに思い残すような死に方するんじゃ無いぞ。さあ走れ、我が娘よ!』

 

『くたばるまで止まるんじゃ無いよ!』

 

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

「終わった......かな?」

「せんせー、おわったー?」

「あそびたーい」

「おとしないよー」

 

蓋がわりの鉄板をそろそろと持ち上げあたりの様子を伺う。

爆発音も足音もなし、ひと段落ついた様子。しかし空を見て見ないことにはどうにもならない。

 

「じゃ先生行ってくるから、待っててね」

「「「行ってらっしゃーい」」」

 

蓋を持ち上げてズラし人ひとりが通れる隙間をこじ開け、へりに手をかけて上半身を持ち上げる。

目に入るのは見事なまでに青い空と、焦げ臭い匂い。

地面を靴で軽く叩くと、ザクという音を立てて沈み込んだ。

「ハァ、いい感じに耕してくれちゃって」

 

どこぞの誰かさんが爆撃で入念にここら一帯を更地にしていったらしい。生きてるだけでどーして目の敵にされるのやらとため息をせずにはいられない。

この様子じゃ全部がオシャカになってるだろうし、しばらくは備蓄食料で食いつながないとならない。

使える廃材もどれだけ残ってるかわからない、建物の再建もままならないだろう。

金庫の残ってるお金があれだけだとこれしか出来なくて、でも更地になってるし業者もぽっくり死んでるだろうなぁ、どっから仕入れたもんか。

 

「あははー、ひろーい!」

「こげくさーい!」

「ふわふわー!」

「あっ、こら! まだ出てきたらダメって言ったでしょう!」

「いいじゃないかセンセ、俺の経験じゃこんだけこっぴどくやりゃあ反復爆撃は来ねえよ」

「......団長がそういうなら仕方ないですね。

じゃーみんな、おうちなくなったからしばらくは秘密基地で寝泊まり出来るぞー!」

「「「わーい!」」」

「......ハァ」

 

好き勝手に走り回る子供たちと、それを見守る髭面で相変わらずむさ苦しい私の元上司の団長。

団長は軽く笑って流すけれど、新しい家、足りない食糧、そして増えるであろう孤児。問題は山積みも良いところ。

団長さんが傭兵時代から貯めた貯金も順調に食いつぶしてるところだし、どうにかして金を稼がないといけない。どうしたもんか。

 

「なんか当てあります団長さん。私は白旗をあげたいところなんですけど」

「少年兵でも育てりゃいいのか?」

「......団長に聞いた私が馬鹿でした」

「よくわかってんじゃねえか」

 

団長はそう皮肉っぽく言うと、ポッケから取り出したちびたタバコに火をつけた。それを見た私は目一杯非難がましい目をして団長を睨み付けると、その髭面を歪ませてクックと笑う。

 

「どこまで行こうと俺は前時代的な戦争バカだよ。それにここのボスはお前だ、自分で考えな」

「それじゃ子供達にその怖い顔を活用してきてくださいな」

「あいサー院長どの。おーいお前らー、おじさんと鬼ごっこするかーい」

「鬼ごっこー!」

「おじさんが鬼だー!」

「逃げろ逃げろー!」

「はっは、10秒待ってやるぞー! いーち、にーい、さーん!」

 

傭兵団が解散して3年。

 

それが私がこの孤児院を開いてから経った年数と同じで、そんな私はもう17歳になった。

 

どういうわけか、私はまだ生きているようだ。

 

 

 

 

 

わたしには親がいない。

というより『いた』と過去形で話した方が正しいだろう。

なんて事はない、死別しただけだ。

何があってどうして死んだかなんてのはあまり良く思い出せないがママが死んだ事だけは覚えていたし、物心つくまえからパパの記憶なんてものはなかった。

今思えばうん、シングルマザーでお母さんG&K社のそこそこ偉い人だったし、暗殺でもされたんじゃないかな......なんて事くらい察しはつくけど、4歳児がそんな事わかるはずないじゃん?

 

それから危うくやばい研究機関だかなんだかに拉致されかけて死ぬより酷い目にあうというよくある悲劇まっしぐら、になるところだったのだけれど。

 

『よう嬢ちゃん、元気か?』

 

今よりもっと若くて逞しくて......それでいて無精髭はさっぱり変わらない団長と出会った。

最初ふつうに見捨てられかけたのだけど、幼いながらも『これを逃したら死ぬ!』という事くらいは理解できたから、文字通りブーツにかじりついて死ぬほど見捨てないでくださいってびゃーびゃー泣き喚いて。

 

弱冠4歳児の傭兵が誕生したのである、すげえなおい。

実際は金勘定や後方支援など書類仕事ばかりのホワイトカラー組なので特に無理はなかったけどね。流石に4歳児を戦場に放り出す真似はされなかったので良かった。

とはいえ4歳児なんて言葉くらいしか能のないワガママに使い所など皆無だったのだが、G&K社の職員で親バカで勉強熱心の母親のおかげもあってか物覚えとてぎわはそれなりに良かったこともあり放り出されることはなかった。サンキューマッマ。

むしろウチの傭兵団のマスコットキャラ扱いされやたら可愛がられた。ただ『死んだ娘と同じ年なんだ』とか言われると微妙な気持ちになるのでやめて欲しい、お前はわたしの顔も知らない父親かっつーの。

 

年を経て資金も十分に溜まったところで孤児院を始めた。別に子供のためとかは言わない、ただ、自分が助かったのに他人を助けないのはクソ後味が悪かっただけだ。

 

本当はもうすこし働きたかったし、何より雇われとしてどこかの孤児院なり子供を預けるような施設で働いてノウハウを集めてから、と現実的というか夢のないようなことを考えていたのだけどーーー

 

G&K社と戦術人形、この2つの台頭により人間のPMCは価値を失いつつあった。何かしら一芸に秀でているならともかく、ただの中堅規模の傭兵団だったウチに太刀打ちできるはずもない。

 

ひとりまたひとりと傭兵を辞めていった。

あるものは希望を見失って命をたち、

あるものは苛烈な戦場を求めて東欧へ旅立ち、

あるものは銃を置き商売を始め、

あるものは技能を生かせる平和な職へ着いた。

あの歳の割に老け顔の整備職の兄ちゃんなんかG&K社直々にヘッドハントされた。

あの銃も握れない穀潰しが、ってあん時は誰しも目ん玉が飛び出しそうになってたね。

 

そしてまたひとりと人が消え、人員が全盛期の半分なったところでウチの団長は解散を宣言した。

団の資金を分配し、身の振り方を皆で手伝い、残る全員が手に職をつけ野垂れ死ぬ事が無くなったことを確認して、

 

ウチの団長は、ただのオッさんになった。

そして私が院長になり、団長は雇われ1号になった。

 

そんな話はどうでもいいや。

 

そんな事よりこの状況をどうにかせねばならない。

 

なーんか使えるような資材は残ってないかと瓦礫の山をひっくり返していたところ見つけてしまった、血の気の失せた白い腕。血だまりは見つからない上に腐敗臭もしない、きっとここ数日で出来た死体、恐らくはあの爆撃の日だ。

腕だけひょっこり見えているだけなのでもしかしたら他の部分は、と考えるだけで思わず背筋が総毛立つ。

子供に見せてパニックにさせるわけにもいかない、さっさと掘り出して町のはずれにでも埋めてこようと瓦礫の隙間に棒を突っ込み、思い切り持ち上げようと力を込める。

 

「よい、しょっと」

 

幸いにも瓦礫は非力な私が持ち上げられるくらいには小さかったらしくすぐに退かせた。

さあてどんな潰れたトマトみたいな死体が待っているのやら、と半ば冗談みたいな事を思い浮かべながらうすーく閉じた目で腕のあるあたりを見て、

 

押し黙る。

 

白い肌に白い髪色、無機質さを際立たせる黒色の衣装。

煤まみれ泥まみれだけど大きな損傷はなく、多分爆撃の衝撃かなんかでトンでいるだけかも。

 

自然と腰に下げた護身用の小型拳銃に手が伸びる。

 

......決めなければいけない。

 

私は今、みんなの命を預かる上官なんだ、だから何があっても私が決断しなくちゃならない。

 

「ん......むぅ......」

 

小さな口から声が漏れる。

じじ、とほんの小さな電子音が耳に届く。

時間はない。

ここから団長を呼びに行く頃には起きているかもしれない。私が決断しないといけない。

 

ホスルターのボタンを外し、両手でしっかりとグリップを握りこむ。

安全装置を外すことも忘れない。

 

「......あ......う......」

 

ゆっくりと瞼が開く。

黄金色の瞳がこちらを覗き込んでいる。

 

私は撃鉄を親指で倒した。

 

肘はまっすぐ直線に、照門は彼女の眉間へ。

倒せるかもしれない、倒せないかもしれない。

だけど、ここで見過ごす事はできない。

 

「ーーーーーー」

 

彼女がなにかを口にする。

 

 

そして、私は決断した。

 

この行動には意味があると自分に言い聞かせながら。

 

 

 

 

「食費が月いくらで、燃料費がこれくらい、発電機修理代がこんだけで稼ぎと貯金がーーー」

「ねーまっまー、何してるの?」

「ディーちゃんダメ、今仕事中」

「いーじゃん、遊ぼーよー」

「もう、悪い子にはお仕置きなんだから!」

「くすぐ、なはは、あははは、ひぃ!」

「このこのこのこの!」

「やめてマッマ、あはっ、にゃははあはは!」

 

こちょこちょこ、と私の背中に飛び乗ってきたこの最近うちにきた特級問題児をしばく。

人間の体よりもずっしりとした重量と、鼻先をくすぐる白色のツインテール、そして死体より血の気のない灰色の肌色が特徴的だ。

 

鉄血工廠ハイエンドモデル『デストロイヤー』。

少し旧式よりとはいえ高い制圧力と生産性がウリの戦術人形。戦場で何度か戦った覚えがあるし、昔何回か共同戦線を張ったりしたことも覚えている。

 

そして、現在の人類の敵だ。

 

だが、この子は......

 

「ディーちゃーん! 一緒におままごとしよー!」

「いーねー、やるやる! 私の犬はすごんだぞー!」

「ディーの犬ってすごいよな、犬みたい!」

「ふふーん、もっとほめてもいいのよ!」

 

どういうわけか普通の子供みたいな立ち振る舞いをするばかり。確かに子供っぽい性格をプログラミングされているとはいえどもここまで子供みたいだっけか。

今のところ無害なので問題ないし、スラム街はほぼ灰になったので今更怪しい人が増えてもどうとでもなる。

問題ごとを背負ってくるなと団長には言われたけど、そんなもん知らないとねじ伏せ今に至るというわけ。

G&K社に嗅ぎつけられでもすればおおごとになりかねないけどまあいいや。

 

「あー、可愛い可愛い」

「マッマやめてよー」

「うりうりー」

「きゃー」

 

可愛いならだいたいは許される。

そこに是非はないでしょう?

 




院長(死神の娘)......現在は孤児院を営む17歳。可愛いものが好き

おじさん(元団長)......そろそろ60歳の傭兵崩れ、最近では料理の腕ばかり上達しているのが悩み。

ディーちゃん(デストロイヤー)......スラム街に紛れ込んでいたハイエンドモデル。不良品としてパーツ市場に紛れ込んでいたもののようだ。
どこかの戦場で拾われたらしいが、本人はそれを知らない。

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