ドールズフロントラジオ 銃器紹介コーナー   作:通りすがる傭兵

124 / 157
年末年始は遊んでばかりでした。


コミケ楽しかったです。それではどうぞ

2020/01/11 タイトルを変更しました


番外編 ーーーの消失 前編

 

 

 

 

 

「ちょいさー!」

「はーい」

「よっせ!」

「べー」

「もっと気合入れてよ!」

「そんな気張る作業でもないし」

「おふたりは仲がいいですねぇ〜」

「......(きね)が残像しか見えないんですが、どんな速さなんです???」

「ガンスミスの弟さん特製の高速餅つきOSです、ウチの風物詩になってるんですよ、初めてですか?」

「せんじゅつにんぎょうってすごーい!」

「あーうん、喜んでくれてなによりです......」

 

 本部からかっぱらってきた(支給されたともいう)赤や白など明るい色が目立つ晴れ着に身を包み、餅つき機も真っ青と言わんばかりの高速餅つきを披露するロクヨン式と62式の日本出身コンビ(犯人はプログラマー)。

 ずぞぞ、と通販でかった煎茶をすする補給班長とその隣でワイワイと騒ぐ子供、そしてため息をつく後輩ちゃんこと現指揮官。

 

 そう、今日は新年ということで基地開放の交流デー。基地内に近所の人を招いてのお祭りだ。

 

「にしてもこのスープ美味しいですね、甘くて」

「お汁粉、だそうです。ジャパンでは年越しや冬場に食べるってガンスミスさんが」

「日本って......輸送費とかは?」

P基地(おとなりさま)から格安で。さまさまです」

「ほんとなにしてるんですかアソコ!?」

「さあねぇ」

 

 掴み所のないこの壮年の男が指揮官はどうにも苦手だった。P基地との物品の受け渡しはこの男が責任者だというが、何か隠しているのではないかとつい勘繰ってしまう。  帳簿の上ではきな臭いのだがなぜか証拠が出てこないのも彼の不信感に拍車をかけた。

 とはいえ優秀なのは事実、ガンスミスの同僚ということもあり信頼は一応置いている。

 

 さておき今は1月は1日。せっかく基地を開放しているのだし積極的に交流せねばと立ち上がって、

 

「おしるこだって!」

「どんな味なんだろうねディーちゃん」

「たのしみ!」

「ぶっふう!?」

 

 戦場で見覚えのある白髪ツインテール幼女を見かけて思わず吹き出した。

 

「ウチの子がどうかしましたか?」

「えっと、その......なんでもないです」

「へんなのー」

(あれデストロイヤーでしょ、なんて言える訳ないでしょう!)

 

 同伴する姉らしき学生ほどの少女に咎められ気まずくて目線を逸らす。その様子をニマニマと眺める補給班長。その騒ぎに気がついてか、餅を配っていた漢陽88式が寄ってきた。

 

「つきたてのお餅ですよ〜、きな子に、あんこ、砂糖醤油もありますよー」

「お姉ちゃんお餅ってなにー?」

「え、えーと......」

「遠い島国でよく食べられてるデザートさ、嬢ちゃん。好きなのひとつ持ってきな」

「わーい!」

「こらディーちゃん、お礼は?」

「ありがとうおじさん! ハッピーニューイヤー!」

「お、おじっ......」

「気にしてたんですか?」

「......聞くな、まだこれでも三十路なんだ」

(嘘でしょう?! 明らかに50代の顔ですって!)

 

 

 

◇◇◇

 

 

「新年そうそうよくわからないことばかり......へんなのは来るし、出所不明の食材に戦術人形の高度な電脳に一切干渉すること無く組み込める外付けOSに鉄血人形らしきモノに!

 最前線なのに緊張感が足りないとは思いませんか! ねえガンスミスさん!」

「俺に絡まれても困るぞ」

 

 時と場所は移り娯楽室ことBar『Spring field』。珍しくカウンターにはスーツ姿のガンスミスが立っていた。

 ここは基地開放ゾーンの外であり、今日の喧騒から逃れられる場所でもある。現在進行形で重要なイベントが行われている以上閑古鳥が鳴いている状況がのぞましいのだが、ひとり客がいた。

 

「だいたい身長が低いからってコスプレ扱い......! ボクは20超えてるんです! お酒呑めるんです!」

「はいはい、甘酒飲んで一息つきな後輩ちゃん。お酒じゃないけど」

「ガンスミスさんまでボクを子供扱いですか」

「日本じゃ年末年始に飲むもんさ。味は人を選ぶけど、あったまる」

 

 差し出された陶器製のカップに注がれた白い液体を啜ろうとして、ふとある言葉を口に出す。

 

「楽しいですか?」

「ん? ああ、これかい? 外に出るのは嫌いじゃない訳じゃないんだけど、今は気分じゃなくてね」

「やっぱりナガンさんが居ないからですか?」

 

 きゅいきゅい、とグラスを拭いていたガンスミスの手が止まった。

 

「図星ですか。だいたい新年だってのに雰囲気が暗いんですよ。人形の皆さんはともかく、人間はそういうの隠すの得意だと思ってたんですが、ダダ漏れじゃあないですか」

 

 新年早々これではいいスタートが切れませんよ、と愚痴を零す。思い当たる理由など、ひとつしかない。

 

「それだけナガンは大切な存在だったって事ですか?」

「そうだよ。指揮官ちゃん、今は戦術補佐官だっけか。この基地はあの子とナガンの2人で作ったと言っても過言じゃない。

 それに、ナガンはここの立ち上げメンバーの1人だよ。詳しくは知らないけどな」

「あれ、ガンスミスさんて最初からここ所属じゃないんですか?」

「違う違う、俺は中途入社だよ」

「あんなに溶け込んでいるからてっきり」

「割と加入が初期の方だった、てのもあるけど、1番の理由はやっぱりナガンじゃねえかなぁ」

「ナガンが?」

「聞けば俺、ナガンの一声で雇われたって話だし」

 

 長い話になりそうだから、とカウンター側に移動したガンスミス。後輩ちゃんの隣に座り自分で注いだ甘酒を飲みながら、過去を懐かしむように話し出した。

 

「昔は人も資材もカツカツでね、損傷も直さずに出撃してた位には切羽詰まった運用してたらしいのよ。

 その時はP基地も無かった訳で、指揮官ちゃんはあの人間不信ぶり。支援のシの字も出ない、どこの旧時代の兵站かっていうね。それを改善したのは本部から派遣されてたナガンだったって話」

「人形がそんな提案をするとは思えませんが」

「ほら、戦術人形って前職がある訳じゃん。本人は記憶にないかもしれないけど、服装とか立ち振る舞いとかでだいたい察しはつくでしょ?」

「軍人だったり、コールガールだったり、メイドだったり、カフェの店員だったり、ですか?」

「ナガンにも聞いたことあるんだけど、なんだと思う?」

「......あの服装ですし寒冷地において活動を考えられているとは思いますが、それ以上は」

「北欧風のカフェで働いてたんだと。でも主人が倒れたから経営から食事接客清掃ぜんぶやってたってさ。結局のところご主人が亡くなって暇してたところをスカウトされた......つー話」

「はー、だから気が回るんですねぇ。お茶出してくれたり書類整理だとか」

 

 そういえばなんかそれっぽい、と1人納得する後輩ちゃんを待ってガンスミスは語りを続ける。

 

「人件費を増やしてでも仕事は分散させる。仕事を完全に部署分けして独立させる事で負担を増やさない。

 指揮官には最終決定権を渡すだけにして戦闘に集中させる。なかなか理にかなった事だと思うね」

「良くも悪くも会社みたいですよね」

「そのぶん風通しは良くなるように、人形を噛ませて雰囲気だけは明るくしてるのさ。

 それにラジオだってもっと住民に理解を得たい、て始めたことだしな。これもナガンが言い出したこと。

 案を出したのは俺だけど、それを形にしたのはアイツだしな。最初は新聞にするともりだったんだが、

『こんな紙切れでは血が通っとらん! せめて映像なり声でやらんか!』てな訳でラジオ放送になったわけだ。

アイツがいなきゃどうなってたことやら。この基地なんてとっくに空中分解してたかもなぁ」

「......人形といえども侮れないモノですね」

「だからこそ、アイツが無言で出ていったことが信じられないんだよ。あの世話焼きが無言で出るか? ありえない、今回の出撃で死んだって方が信じられる」

「それほどまでにですか?」

「ああ。信じたくないけどな」

 

突然内線電話が鳴り響く。ガンスミスがとり少し話したところで、後輩ちゃんに手招きした。

 

「隣のP基地からだ、なんか話があるんだと」

「話ですか......はいこちらS09地区B基地指揮官、ワイズマンです」

『こちらP基地指揮官ユノです。おば......ナガンちゃんのことでお話があって』

「ああ転属の話ですか。大丈夫ですよ、彼女は元々本部付きですし、呼び戻されたっておかしくは」

『ええと、ちがくて。この前の大規模な戦闘がありましたよね、そこでナガンが戦闘中に行方不明(MIA)になったことで、お話が』

 

 

その声は静かなbarによく響いた。

 

 

作戦行動中行方不明(MIA)

 

それは、奇跡のような例外を除いて。

 

 

戦死を、意味していた。

 

 

 

『と言うことでしたのでこちらで捜索隊を作り......』

「どういうことですか?! その話! ボクは聞いてませんよ!」

『え、はい、指揮官不在ということでマクレーンさんにP基地はナデシコも使っての捜索を協力すると』

 

「......わかりました。

 こうなったら本人を問いただすしか、一体なんのつもりなんですか!」

『あ、ちょっ』

 

 電話を乱雑に切り上げ怒りを露わにする指揮官、そのまま走ってBarを飛び出して行った。

 

「ナガンが......死んだ......?」

 

 

 

 

 

 

 




焔薙様『それいけポンコツ指揮官(以下略)』様ではあちら視点のお話もあります。
最新話ではありませぬが、そちらもぜひ

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。