ドールズフロントラジオ 銃器紹介コーナー 作:通りすがる傭兵
最近は友人に勧められて始めたエクバが楽しくて仕方ないです。
まだまだ少尉1ですが気楽にやってます。だから執筆時間がね......
「世話になったの」
「元気になって何よりです、ですが」
「気にしてはおらぬよ」
P基地医務室。そこにはいつもの衣装に袖を通したナガンの姿があった。しかし改装前の旧モデルということはつまり、この基地の副官であるM1895ナガンではないということを示していた。
「すみません、私たちの実力ではこれが限界でした。でも、本当にいいんですか?」
「なんの話じゃ」
「その傷ですよ」
彼女の発言に対し発言に振り向くナガン。その顔には大きな裂傷が走り火傷の跡が痛々しい。服で隠れているが身体も同様に生々しい傷跡が残っていた。
しかし傷をそのままにしたのはナガン自身の決断であったのだ。
「M1895型義体にはメンタルアップグレード、MOD改装に対応した新義体があります。ペルシカさんも引き受けてくれるでしょうし、副官のように新しいボディに換装しても」
「そちらの副官殿は戦うためにMOD改装を受けたのは聞いた。しかし、わしはそういう立場にはなるつもりはない。
確かにわしも身体にガタがきておったのは事実ではあるし、何もなくても有事に備えて改装するのも悪くない」
「だったら」
「だが、わしはこれで良いのじゃ」
何かを思い出すように晴れ渡る空を見上げる。
「話は変わるが夢を見ての」
「夢? 戦術人形がですか?
「そうじゃ。わしもずいぶんと驚いた。
その夢で面白いやつと会うてな、色々と影響されてしまったのじゃよ。
わしの身の丈に余るようなことじゃし、人形がそう思うのは本当に滑稽だとは思うが......」
一息置いて。
重荷を降ろしたような晴れ晴れとした表情で。
これからの未来が楽しみだと、期待で胸を膨らませながら。
「人間として生きてみたくなったのじゃよ。それにーーー」
「それに?」
「P基地には優秀なハッカーがおるようじゃし、利用してちと花火をあげようと思うてな」
「うわ悪い顔。何を始めるつもりですか?」
「なあに、ちいとばかし花火を打ち上げるだけじゃが?」
「.............ああ、そういう事ですか」
「察しのいい人形は好きじゃぞ。この事は内密にな」
◇◇◇
「雰囲気が悪い!」
「元気そうね」
「煩わしい太陽ですね(おはようございます)」
「代打コンビおはよう、何用?」
「ここしばらくは整備の腕が悪くてね! 再メンテよ再メンテ!」
「相方の銃整備を学ぶのも役に立つかもしれませんし、この機嫌ですしね」
「はいはい、じゃ出すもん出して」
「まったく、あんた以外信頼できないわ。どうしてこんなこともできないのかしらね」
ギロリとガンスミスを睨みつけるWA2000を遠まわしに諫めるウェルロッド。いつものことだとガンスミスが無視して整備を始めようとしたところで珍しくウェルロッドが口を開いた。
「空気が澱んでいる、というのは私も同意します。特に司令室の空気はよくありません」
「確かに張り詰めた空気。まるで作戦中の修羅場よ。私たちならともかく新兵が震え上がってちゃ動けないわ」
「ベテランらしい意見どうも。しかし、後輩ちゃんが口を聞かなくなったのは驚いたよ」
「一方的に会話してたものね。だからこそコミュニケーションが取れていたとも言うけども」
「ただの伝達ミスがどうしてここまで発展したのか、私はわかりませんね。
ナガンさんは戻ってくる事ですし、水に流せば良いじゃないですか」
「そんな事じゃないんだよな」
ウェルロッドの物言いが引っかかるのか、作業を中断して2人に向き直るガンスミス。
「今回はナガンが死にかけたのが問題じゃあない、そのことが共有されなかったことが問題なんだ。
指揮官ちゃんが後輩ちゃんに報告を上げてりゃ、問題は......まあナガンが死ぬことは大問題だし俺もどうなってたかわからんが、ナガンを見捨てることはそれほど問題じゃあない。
大を助け小を見捨てる。その中にたまたま今回ナガンが入っていただけの事。
それを1人で抱え込むのが問題だったんだ。
いいか? 今回ばかりは指揮官が悪いが、その理由はわからんでもない。
......俺だって、ナガンが死んでたらかなり取り乱した自信はある、この基地を辞めていたかもわからん。それを見過ごせない指揮官ちゃんが誤魔化しをした気持ちも理解できるよう。
でも、後輩ちゃん的にはそれが許せないんだろうさ。最悪隠し通すにしたって自分に話して欲しかった。そう思ってたんだろ。
だけど指揮官ちゃんがひとりで抱え込んでしまってこの始末。怒鳴り散らすのも無理はないさ」
「それはただ今の指揮官が信頼されると思い込んでただけでしょう? 理想を押し付けて勝手に失望しただけじゃない」
「しかしだな」
「……私も同感ではあります」
「そもそも人形に助けを求めるのが間違いなのよ。人間同士の問題は人間同士で解決すべき。私たちはただの
つっけんどんな物言いにへこむガンスミス。それに対し先ほどから考え込んでいた様子のウェルロッドが妙案でも思いついたように指を鳴らした。
「ナガンさんであれば、説得は可能かもしれませんね」
「ナガンが? どうしてまた」
「元指揮官から信頼を受ける人形ということもありますし、市井の生活が長い経験から一番人間らしい価値観を養っているということは明らかです。今回の事件の発端でもありますし、彼女をおいて事件を収めることはできませんよ」
「ふーん、ナガンを通せば解決するかもって、そう言いたいわけ?」
「可能性は一番高いかと」
「問題は、いつ戻ってくるかわからないってことか。あれからとんと音沙汰がない。もう2週間も経つんだぞ」
ガンスミスの言う通り、ナガン自身が無事であると言う連絡をしたのは2週間前の話。しかしそれ以降連絡は一切なく音信不通。保護したP基地にも連絡を入れ確認をとったものの、P基地側も忙しく十分な連絡が取れていないと言うのが現状だ。
それに音信不通だけが問題なのではない。
「他にも問題は山積みです。除籍処分の話は? 取り消しなんですよね」
「それを決めた本人があれだぞ、話しかけられるかっての。本部に連絡したかどうかもわからないのに」
「もしかすれば、もう戻ってこないかもしれないわね」
「別の基地に転属ってことですか?! このまま!」
「あながちない訳でもなさそうなのがな。本人だって自覚してたから」
「彼女の出自を鑑みればない話でもないですが……」
「このままこじれれば、取り返しがつかなくなる。どうにか……ん?」
WA2000が素早く整備台においていたライフルWA2000を構え、ウェルロッドも抜け目なく拳銃に弾を込めあたりの気配を伺う。ガンスミスは手頃な工具を持って姿勢を低くし同じくあたりにきを配る。
「敵か?」
「ここには私たちしかいない。スパイかも」
「冗談きついぜ」
「静かに、敵の先手を取るんです」
このような奥まった場所では拳銃の独壇場。WA2000に目配せをしてウェルロッドは静かに音の発生源へ向かう。
脳裏に色々な可能性が巡る。この不和を見てどこかの勢力が仕掛けてきたか、はたまた競合他社のスパイか。
(…何か這いずるような音、ダクトか地下の配管の二択ですか。音が変に反響してやりづらい。ですが)
「そこです!」
「……ハズレじゃ。まだまだ、任せるには技術が足りんのう」
「その声は......なるほどそういうことですか」
ちゃき、と後頭部に銃口を突きつけられ手を挙げるウェルロッド。銃をつけつける侵入者とは、もちろん。
「お前......」
「あなた......」
「まあその、なんじゃ」
彼女は振り向いて、傷だらけの顔に苦いような照れ臭いような表情を浮かべながら。
「こんなとき、なんといえばいいのか」
「......たく、遅い帰りだったな」
「心配するだけ、やっぱり無駄だったわね」
「おかえり、ナガン」
「......っ、ただいま」
「それはそれとして協力してほしいことがあるんじゃが。具体的にいうとだな......ごにょごにょ」
「......ショック療法って大事だよな」
「いいんじゃない?」
「劇物は時に薬となりますが、大丈夫でしょうか」
「なんとかなるじゃろ。もう仕掛けは張ったことじゃし、話を聞いたお主らはもれなく共犯者じゃ」
「嵌めやがったな!」
◇◇◇
「というわけでのこのこと帰ってきたわけじゃが......まあ随分と様変わりしたのう」
ナガン自身がひらひらと手で振っているのは、自身の除籍処分通達書の写し。その目線の先には俯く元指揮官と、少し離れて作業に勤しむ現指揮官の姿。
「事の
ますます暗い雰囲気が増す元指揮官。現指揮官のタイピングの音が耳に痛いほどに大きくなっていく。
これほどまで仲が悪化してるとは思わなかった、と内心驚くナガンであったがこれ以上は引き返せない。
「お主らの養子として適当に書類を書き換えておいた。よろしくの、母上、父上」
「......なんの話です」
「いやなに、本当は生き別れた妹とかに改竄しても良かったんだがの、両方とも親族が存命なれば騙せるものではない。であれば夫婦の養子としてなれば出自は怪しくとも引き取ることも容易じゃろうて」
「......夫婦?」
タイピングの音が止まり視線がこちらを向いた。あとは野となれ山となれと内心やけっぱちになりながらさも妙案のように自信を持って言い放つ。
「というわけで、結婚おめでとうなのじゃ」
「......は?」
「はい?」
呆気にとられる2人。
しかしこれは電撃戦、畳み掛けるが定石。
「そもそも人を信頼できない悪癖がここまで問題を拗れさせたんじゃ。まず隗より始めよという古い諺に倣って1番身近な人間同士、ちと親交を深めてみればというお節介をーー」
「いやいやいやどういうことですか説明を要求します!」
「ワシはここにいたい、お主は此奴と結婚したい、こやつは性格を矯正したい。
win-win-winのまさにパーフェクトな案じゃろう? かーっ、思いついたわしが憎い」
「確かにそうでしたが、時と場合を弁えるべきーー」
「できないよ」
ハッキリとした声で拒絶する声。
ふるふると、力なく元指揮官は首を横に振った。
「だってさ、私はナガンちゃんを、見捨てたんだよ。こんな私が......」
「たわけ。そもそもわしはお主の判断が間違ったものだとは思っておらんわい」
「いてっ!」
意気消沈して言い訳をするやるせない顔を軽く叩き、世話がかかるとため息をつく。
「別にわしを見捨てるのは間違いでない。お主とわしが逆の立場でもそうするし、お主も納得するはずじゃ。現にわしも納得はしていた。
今回はそれを他人に相談しなかった、お主の悪癖がもたらしたことじゃ」
「......」
「これで見えてくるものもあるかもしれん。しばらくは、自分を見つめ直すのも悪くないのではないのか?」
ではこれで失礼する、と回れ右をして去ろうとするナガン。
「あ、あの」
「結婚式は己がしたい時にすれば良いじゃろう、わしは干渉せぬよ」
ぱたむ、と扉が閉まる。
「......」
「......」
「ふ、ふつつか者ですがよろしくお願いします?」
「......私は嫌だから。ナガンのために仕方ないから」
「デスヨネ......」
結婚したな、ヨシ!(現場猫