ドールズフロントラジオ 銃器紹介コーナー   作:通りすがる傭兵

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まだまだ続くよクロスオーバー

だいぶ長めになります(どうしてこうなった)。

割と久々に本気で長文を書いている


番外編-Co 北に向かいて死神を討て Ⅱ

 

 

 

鈍色の空、肌を刺す寒風。

 

 黒く汚れ風化したコンクリートはこの都市が長く放棄されている事を示し、アスファルトの捲れ上がった光景は戦闘があった証左。

そして何より、隠しきれぬ血溜まりの跡があったことを如実に物語る。

 

「いかにも紛争地域、て感じだね」

『各員警戒は怠らないようにしてください。何ひとつ見逃してはいけません」

「ナガンはそう遠くに行ってないはずなんだけど」

「どーしてすぐ突っ込んんだのに見つからないのよー!」

 

ARTが叫ぶ通り、一行はナガンを見失っていた。

 数秒しか経っていない上怪我人を担ぐことで足の遅いはずのナガン、方やこちらは軍用ジープ。追いつくのは容易いはずなのだが、どういうわけか影も形も見つからない。さらには車載のレーダーも何かしらの影響を受けて使用不能になっており、まさしく五里霧中といった有様だ。

 あてもなく車を走らせてはいるものの、この道が正解かもわからない。

 

「うーん、やっぱり壊れてるんじゃない?」

「バンバン叩くなよM14。備品なんだから」

「ちょっと! 痛いってば」

「ロシア製なら45度に蹴っ飛ばせば写るんだけど」

「乱暴だな!」

 

 車載機銃にLWMMGが乗っているとはいえ、狭苦しい軍用車に1小隊は多い。その上、各一体の予備ダミーまで詰め込んであればすし詰め状態。手なんて振り上げようものなら誰かにぶつかるのは当たり前だ。

 

「ほんと勘弁してほしいよ。重いし」

「重いって言わないでよ! かわいいっていってよ!」

「はいかわいい」

「ふふ〜」

 

 スペースのなさから膝上に座るARTを適当にあしらい、瓦礫を避けて通りを右折する。こちらの通りは廃棄されたらしい自動車が路肩や真ん中に駐められている。いくつかは原型を保っているが、炎上したり衝撃でねじくれたり弾痕らしきもので穴だらけになっているものも少なくはない。

 

「......人影なし。ほんとに廃棄都市って感じ」

「狙撃ポイントまみれだから気をつけてね」

『了解。新調したヘルメットも被ってますし』

「ライフル弾も防げるって謳い文句のやつ? 騙されたんじゃないの?」

『製品テストの動画も実験データも大丈夫でした。だから大丈夫です!』

「メットなんぞ被ってなくても変わらないって、頭に当たったらだいたいパー」

「さすが古株、キツいお言葉」

「14の方がこの基地ではながいでしょ? ロートルだからって弄らないで」

「ごめーんM1911!」

「にしても、寒い」

「そお? そんなにかな......寒っ」

「な? おかしいだろうこんなに寒いのは」

「北欧だからじゃなくて?」

「夏でか? 朝方にしても冷え込みすぎだ、息が白くなるなんておかしい」

 

 窓を開けてはー、とガンスミスが息を吐くと白く曇る、これは気温が10度以下であるということ。

 

「それに......薄らとだけど霜も降りてるしな、スリップにゃ気をつけねえと」

「さっすがガンスミスさん! 細かいところにまで気が効くね!」

「私たちが気がつかないといけないんだよARTちゃん。指揮官として失格! それに偵察にだって連絡してない!」

「うへー、もうしょうがないなぁ......」

 

 小言がうるさいベテランのセリフにケモ耳を塞ぎならも、渋々したがい通信を飛ばすART556。

 

『Dacota LよりDacota2。どう? そっちは?』

『10時の方向、アクセル全開にゃ』

 

 スカウト役を買って出たIDWの唯ならぬ様子の一言に皆が殺気立つ。同時にM14ら戦闘狂(ジャンキー)どもがにたりと笑みを浮かべた。それを見てため息を吐きつつも、ガンスミスは指示通りにハンドルを切ってアクセルを踏み込む。

 

『白い帽子の戦術人形が交戦中。なら、相対するのは敵で間違いないのにゃ? どうする、リーダー?』

『Dakota Lより Dakota全員へ。

安全装置は解除してある? 初弾は装填した? ならオッケー!

さーてみんな、戦争しよう(あそぼう)よ』

 

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

 

「年寄り1人によってたかって襲いかかってからに......こちらは時間がないんじゃ、押し通らせて貰うぞ」

 

 物陰から一瞬だけ身を乗り出し7連射、弾丸をは向かってくる重装備の兵士らしき人物の頭部を正確に撃ち抜き倒す。

 しかしそれをものともしない物陰から際限なく湧いてくるように感じる援軍の数。皆一様に白いフードと仮面を被り、暴徒のような調達した雑多な刀剣や鈍器を持ち一様にこちらに向かってくる様は不気味そのもの。

 

「きょ、きょう......かん......」

「今は話すでないジェシカ。もう少しで助けが来る」

 

 弾薬ベルトから弾丸を引っ張り出し再装填するが、残り弾丸と敵の数を照らし合わせると明らかに不足している。そもそもただの偵察任務に弾薬は必要ない。ガンスミスの車には予備弾薬が備蓄してあったが......

 そこまで考えついて首を振り考えを頭から消す。自分がその道を絶った以上、頼ることは許されない。

 

(ジェシカの通信機でSOSは発信してある。もう少しすれば必ず救助隊はくる、そこまで耐えるのがわしの仕事!)

 

 うかつに身体を物陰から出した間抜けの脚を打ち抜き転ばせ無力化、それを見て助けに行こうとしたものの腕を吹き飛ばし武器を取り落とさせる。

 

「ーーー! ーーー!!」

「ーーーーーーーー!」

「もう少し大きな声で話せば良いものを! ハッキリと物を言わぬと伝わらぬじゃろうが!」

 

 何か叫んでいることがするが戦闘音にかき消されて届かず、思わず怒鳴り返すほどに苛立ちを隠せないナガン。怪我人を抱え状況は手詰まり、もし打破できるとすればいつ来るかもわからない救援を待つのみ。

 有り体に言ってほぼ詰んでいる状況、現実は創作のように都合よく援護が間に合うものではない。

 09地区であれば、指揮官が状況を察して援護を寄越せたかもしれない。同じS地区から助けの手が差し伸べるかもしれない。

 

でもここはS09地区ではない。

ここは北欧チェルノボーグ、人を排斥し虐げる極地。

弱者が喰われ強者がのさばる世界。

 

そう都合の良いコト起こる筈がないのだ。

 

「ああクソ、どうしてわしのリボルバーはこうも旧式なんじゃ! 落ち着いたら振り出し式に改造してやる!」

 

自分の写身に文句を言いつつ射撃戦を繰り広げるナガン。その目の前に現れたのは、

 

「ーーー! ーーーーーーー!」

 

 身長は2mを越えようかという大柄な体に、全身を雑多な防弾アーマーで覆い、さらには身の丈に余るほどの大楯を軽々と盛り上げる大男。

 ナガンは一度自分の銃に目を落とし、そして大男を見直し、銃弾を2発。

 

 しかし自身の体を覆うように押し出される盾が銃弾を軽々と弾き、表面に傷をつけた。

 

 余談だが、経験豊富な戦術人形は剥げた塗装から除く銀色と跳弾の音から大体の装甲厚と材質は割り出すことができる。

 そしてナガンの思考回路はそれが可能。そして先ほどの判断材料から想定されたモノの材質は防弾用の高強度特殊合金に近しいもので、厚みは10mm以上。

 

ナガンの7mm口径ごときの拳銃では、突破は不可能だ。

 

 「......さて、逃げるとするかの」

 

 三十六計逃げるにしかず、逃げるは恥だが役に立つ、と即断即決。ホルスターに銃を仕舞い、物陰に寝かせてあるジェシカを担ごうと立ち上がる。

 

 しかし、ナガンはひとつため息をつくと徐に両手を上げた。

 

「ワイヤー使いとは、妙なものがおるものじゃ」

「お、察しがいいじゃないの。もう少しで首が飛ぶところだったぜい」

「その程度気がつかぬと思うてか」

「いやいや、たいした奴だと思うぜアンタは」

「抜かせ」

 

 ナガンのすぐ後ろに目を向けると、同じ白フードに身を包んだ爬虫類然とした顔の男が景色を上書きするように現れる。その両手にはワイヤーを巻いたヨーヨーがあり、その糸はナガンの首元にピンと張り詰めていた。

 

「光学迷彩とは、気がつかぬワシも耄碌したか」

「そんなチープなもんじゃないぜ、ネタバラシはしないけど」

 

 おーいコッチだ、と彼が声をかければ先の大男をはじめとした白装束の兵士達がやってくる。

 

「おい、ロドスのオペレーターを捕まえたってのは本当かイーサン」

「運が良かっただけだ」

 

 イーサンと呼ばれた人物がシュルシュルとワイヤーを巻き取り、軽くリーダー格らしい人物の方へナガンを押し出す。リーダー格であろう男はナガンをしげしげと観察し、殴り飛ばし唾を吐きかける。

 

「ッチ、手こずらせやがって。ロドスの犬が」

「そんなものになった覚えはない」

「どうかな。俺たちには向かうのはよっぽどの馬鹿かロドスのクソ野郎だけだが、テメエはどうやらよっぽどの馬鹿だったらしい。恨むならテメエを恨みな。レユニオンに歯向かうのがいかに愚かってのがわかったろ」

「......全く持ってそうじゃな」

 

 悪態に付き合いつつも、その視線は倒れているジェシカの方へ。今のところ何かされているわけではないが、時間が経てばたつほど助かる見込みは減る。

 

「......これからワシらを如何するつもりじゃ?」

「殺すさ。

 

散々苦しませて殺す。

絶望を与えてから殺す。

心をへし折ってから殺す。

 

こうでもしないにゃ俺たちの恨みは晴らされない。これでも足りねえくらいだ」

「ただの憂さ晴らしじゃろうに」

 

 そう返したナガンを再度殴り飛ばす。

 

「俺たち感染者がどれだけ虐げられてきたか知らねえんだろう?! お前らは人を押しやり成果だけを享受しのうのうと平和を謳歌してきた! 俺たちを踏み台にしてな!

その報いを受ける時が来たんだ!

 

......殺す」

「ぐっ......!」

 

 リーダー格の男がナガンの首を掴み高々と持ち上げ締め上げる。そして各々が重い思いの武器を持ち、こちらに一歩一歩と歩み寄る。

 

「無様にくたばれ、クソ野郎」

 

 

「くたばんのはお前だ、にゃ」

 

そこに、悪魔が舞い降りた。

 

 頭上から音もなく着地した黒い影がその背後に回り込みナイフで首を裂く。

 男が崩れ落ちる暇もなく、ナイフを近くにいた兵士に投げつけマウントしていたPDWを両手に構えて乱射し始める。

 リーダー格の死と突然の奇襲に混乱する中、その人影はナガンの手を引き怪我人ジェシカを抱え上げ脱兎の如く逃げ出した。

 

「お主......その声は」

「にゃは! やっと見つけたにゃ!」

 

 ピコンとフードから覗く黄金色の猫耳と髪、手に持つ独特の形状が目を引くサブマシンガン。そしてこの特徴的な語尾の話しかた。

その人物は振り向き、にぱっと笑顔を受けべて答えた。

 

「ボディーガードIDWただいま参上! ちょいと私がくるのが早過ぎたかにゃん?」

「......いいや、最高じゃよ」

 

 道をかける中、おっとと急にしゃがめば頭上をクロスボウのボルトが通り抜けていく。後ろを振り抜けば無傷だった集団がこちらに殺意を向け追撃してくる様子が見て取れる。

 

「このままでは追いつかれるぞ!」

「だいじょぶだいじょぶ! 頼もしい援軍が来てくれてるにゃ!」

「援軍? じゃが......」

「そう! みんな大好き愛すべき馬鹿!」

 

 自身のすぐ後ろで鉄パイプを振りかぶっているのも気にせず、軽口で答えるIDW。

 

「S09基地は、仲間を見捨てないにゃ!」

「前方不注意ですまんね!」

 

 突如がしゃんと派手な音を立てて、後ろにいた兵士が吹き飛んでいく。

 

 背後を向くナガンの目に飛び込んできたのは、カーキの車体にG&K社のエンブレムと09の文字がペイントされたジープ。

 急停止したジープの助手席が蹴破られるように開き、運転手が身を乗り出して質問する。

 

「お前が居なくて誰がラジオの相方やってくれんだ?」

「ほんとにもう、お主という奴は......!」

「はい乗った乗った!」

 

 差し伸べられた手を掴み、車内に飛び乗る。

 IDWは怪我人ごと後部荷台に飛び乗りマガジン残弾をお見舞いした。ガンスミスの膝の上ではARTが窓から銃身を突き出して弾幕を貼り、M14は膝や腕などいやらしい部分を狙撃、仮設銃座ではLWMMGがフルオートで徹甲弾を撒き散らして敵を牽制していた。

 

「早く出して!」

「アイアイ、サー!」

「サー! じゃない!」

 

 同じく後部打席のM1911が座席を蹴っ飛ばし、答えるガンスミスもアクセル全開。

 死体の山と怪我人の山を積み上げるおまけもつけて、ナガンたちは華麗にその場から逃走した。

 

 

 

 


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