ドールズフロントラジオ 銃器紹介コーナー   作:通りすがる傭兵

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もう何も言うまい......(話数が伸びて行く音)


番外編 北に向かいて死神を討て Ⅴ

 

 

 

 

 

 

「それで? ナガンとはどういう関係なのさ」

 

 車を走らせて数分。情報交流に盛り上がる後部座席の騒がしさに紛れて、助手席でナビゲーター役を買って出たドーベルマンにガンスミスが質問を投げかけた。

 

「関係、とは」

「どこそこで一緒に戦ったか、とかね。だいぶナガンも気を許してるみたいだしそういう仲なんでしょ?」

「彼女とは親しいのだな」

「もう何年もの付き合いだよ」

「そうか」

 

 素っ気なくかえすのはきっと彼女が不器用だからだろう、それがわからないほどガンスミスは察しが悪いわけでもない。

 特に気を悪くすることなくそれで? と言葉を促した。

 

「彼女とは、ここではないが同じチェルノボーグで出会ったんだ。重要な作戦の最中で神経を尖らせていてな、白い服装だから反射的に敵かと思ったものだ」

「実際手を出してきよったからなコイツ」

「不可抗力だ」

「まあまあ落ち着いて。それで、続きは?」

「そこに折り悪く襲撃してきたのがレユニオンの奇襲部隊だ。見境なく襲いかかってきたからなし崩し的に共闘することになったのだ。

 その時に居合わせていたのが、ジェシカを隊長にする特務隊だ。私が指揮を取る手筈だったがいつのまにか指揮権を渡してしまっていたよ。

......ナガンさんの指揮がなければあの苦境を脱することは難しかっただろう。

 だから私はオペレーターとして協力する事を提案した。これほどの腕を持つ人物はそうそういない。そのまま私の隊に編入して戦闘指揮を互いにとりつつ、作戦を進行していった。そして......」

 

 そこまで言いかけたところで彼女は押し黙ってしまう。不思議に思ったガンスミスが声をかけようとするがナガンが無言で静止し、口を開く。

 

「ここからはワシが話すべきじゃな。

 その作戦というのはとある人物の救出と暴動鎮圧、というものじゃった。救出任務は首尾よく行ったが、問題は鎮圧任務の方じゃ。

 感染すると身体能力も向上するのかの。人間かというのにハイエンドかくもやのと言わんばかりの埒外の人間ばかりじゃった。それに純粋な人数の差、都市の労働者全員がそっくりそのまま暴徒化したおかげで警察も飲み込まれた。都市と共同戦線を敷く鎮圧作戦は放棄され、脱出のためにレユニオンの包囲網を突破する事になったんじゃよ。

 

 先鋒を買って出たワシらには当然負担がかかる。補給もままならぬ中、なんとかあと一歩というところまで来て、奇襲部隊に捕まってしもうての!

 口先八丁で時間を稼ぎなんとか機転をきかせて脱出したと思ったんじゃが、気がついたらP基地の医者がワシの顔を覗き込んでおったのう」

「生き残ってらしたんですね」

「見ての通りピンピンしておるぞ」

 

 そこ右です、と時折指示を交えながらではあるが聞き入っていたドーベルマンとガンスミス。ま、過ぎたことではあるがの、とナガンが付け加えたところで無線にノイズが走った。戦場ではよくある感度の悪い時の通信機特有の合図のようなものだ。

 

『そ......の車両、停止......』

「こちら行動隊A1、隊長のドーベルマンだ。警戒を解かれたし」

『了......いしました。どうぞ』

 

 扉もなければ検問所があるわけでもない。本当に臨時で作ったんだな、と言いつつアクセルをかけて車を進める。

 

 しばらく進めば指揮所の前に着いた。こちらもわかりやすいランドマークがあるわけではないが山積みの物資と人の出入りを見れば一目瞭然。促されるままに降車し、ドーベルマンの後に続く。

 

 途中物珍しいげにこちらを見てくる人もいるにはいるが、ほとんどは目もくれずあちこちを走り回り自分の仕事に没頭していた。

 奇妙なのは、皆ほとんど一様に人間ではないような耳や尻尾が生えている事だろうか。

 

「珍しいか?」

「そう、ですね。あまり見たことはないです」

「......ここではアーツ適性が強いほど重宝される。そのせいで身体の一部を肥大化させている者もいるのだ、言及するなよ」

「気をつけますよ」

「ここだ。ドーベルマン、入室の許可を求めます。クルーガー社の面々も一緒です」

「どうぞ」

 

突き当たりにある比較的綺麗な部屋の扉をノックすると、不釣り合いに可愛らしい声が聞こえてきた。

 それに疑問符を浮かべつつも、いうがままに入室する。

 

「ようこそロドスへ。CEOのアーミヤです。こちらが指揮官のドクターです」

「......」

 

 サイズの合わないロドスの制服らしいパーカーと、兎耳を生やした少女。その奥の執務机には、目深にフードをかぶったいかにも不審者な人物が手を振っている。

 

「......?どうしました?」

「あ、ああ。こちらこそよろしく。ガンスミスと呼んでください」

「はい、よろしくお願いしますガンスミスさん」

 

 アーミヤと握手をかわし、こちらへどうぞと手招きするドクターに促されるまま座る。

 いかにも先ほど瓦礫の中から用意しましたと言わんばかりの汚れ具合のソファだがないよりはマシ。一拍遅れてナガンが隣に座り、思い出したようにART 556も座る。

 

「ジェシカさんを保護してくださりありがとうございます」

「いえいえ、自分たちはできる事をしたまでです。それに主導したのは彼女、ナガンです。感謝するのであればそちらに」

「! これは失礼しました!」

「世辞はいい。本題に入ろうアーミヤ、ドクター」

 

 漂っていた堅苦しい空気を取っ払い、ナガンが前のめりになりながらドクターに問いかけた。

 

「戦況は」

 

 これに対し、ドクターは首を緩々と横に振ってからアーミヤにアイコンタクトを送る。それを理解した彼女が悔しそうな顔で説明してくれた。

 

「戦線は押され気味の膠着状態、芳しくありません」

「じゃろうな。面々の顔を見ればわかる」

「龍門やペンギン急便の支援があればよかったのですが、望めないものを戦力としては数えられません」

「現在計画立案している作戦はあるか」

「あります。

 この膠着を生んでいるのは尋常ではない冷気と、それらが生み出す霧や寒冷地の特徴を利用した攻撃です。ですがそれを行えるのはフロストノヴァと、彼女の部下である『スノーデビル小隊』だけになります。

 彼らをどうにかして出し抜きフロストノヴァを攻略する。そのために、現在このように部隊を編成して」

「それ作戦ではなく努力目標じゃ」

「う......」

 

 アーミヤがしょぼくれると同時に耳もペタンと萎れるが、ナガンは気にせずズバズバと切り込んでいく。

 

「それで? 作戦としては少数精鋭による一点突破、さらには他の部隊を陽動に用いるってところじゃろ?」

「はい、現在はそのために準備を」

「無理でしょ」

 

 2人の会話に割り込んできたのは今まで見に徹していたART。幼い顔を目一杯しかめながら指を折って問題点を数えて見せた。

 

「その1、あれだけの物資があるなら少数精鋭である必要がない。もっと多角的な部隊運営をするべきだよ。

 その2、多分陽動は効かない。あっちは戦線を作るだけでいいんだから、陽動に突っかかる必要性が皆無。ただの戦力分散の愚策でしょ。

 その3、周りくどい。もっと派手にやればいいのに」

「派手に、とは」

「私たちがそいつをぶちのめす。そっちは一切口出しなしで」

「「はい?」」

 

 アーミヤとガンスミスの驚くセリフが重なるがARTはお構いなしに言葉を続けた。なにせ合法的にひと暴れできる滅多にないチャンス、逃すわけにはいかない。

 

「新しい戦力。それも既存の編成とはガラリと変わった統率のとれて戦闘力の高い部隊、欲しいでしょ?」

「た、確かにそうですが」

「それに目標は達成したのと同じだしね。

 今の部隊は基地の中でも戦闘力はあるLWMMGととM14がいるし経験を積んでるM1911とナガンもいる。IDWも私も弱いわけじゃないし、何度か同じ部隊で任務もこなしてるから連携もバッチリ。

 早く帰りたいだろうガンスミスさんには悪いけどどう? やらない?」

「乗り掛かった船から逃げるほど阿呆でもない。わしも彼らには恩と義理がある」

「じゃあ!」

「......あまりやる気は出ないが、やるしかあるまい。もうレユニオンにも顔は覚えられておるじゃろう」

「いよっしゃ!」

 

 小さくガッツポーズを見せるARTに対し、渋々了承したと言わんばかりにため息を吐くナガン。嫌なら反対すればいいのに、とガンスミスが言いかけたところで突然ナガンが立ち上がる。

 

「ああドクター、折角の再会じゃ、少し2人で話さぬか?」

「......」

「大丈夫ですよ。少しだけ休憩時間があります。その間に私は皆さんを空き部屋に案内しますがよろしいでしょうか?」

「......」

「わかりました。皆さん着いて来てくれますか?」

「やっと広いところで休めるにゃ?」

「あまり広いとは言えませんが」

「いやたー! 狭っ苦しい車内とはおさらばにゃ! LWの隠れ巨乳に劣等感を抱かなくてすむにゃん!」

「ちょっとIDWさんどういうことですか! さんざん触ってきたのはあなたの方からでしょう?!」

「まーまーふたりとも」

「アーミヤさんとか言ったっけ? 射撃場とかある? 訓練場はー?」

「君らちょっと騒ぎすぎ。アーミヤさん困ってるでしょ」

「皆さん元気ですね」

 

 ワイワイと騒ぎながら部屋を出て行く一同を見送ってから、ナガンが帽子を取って格好を崩す。それと同時にドクターもまた気を楽にして椅子に身体を沈めた。

 

「お互い苦労はしたくないものじゃなぁ」

「......そう、思う」

「息災かドクター。久しぶりじゃな」

「そちら、こそ。元気、で、よかった」

「勝手に居なくなってしまってすまんの」

「だいじょう、ぶ。あなたのおかげで、たすかった」

 

 ガラガラにヒビ割れた声に吃った口調。彼が人前では無口で基本的に口を開かないのにはそのようなコンプレックスがあるからなのだが、ナガンの目の前では気にしてはいない。

 

「しかし、お前のようなものが指揮官とは出世したもんじゃな。記憶を失う前はそれなりの博士だったと聞くが、才能というのはわからぬものじゃ」

「おかげで、たすかってる、よ、ししょう」

「よせ、わしは基礎基本といくつかの例を見せただけ。紛れもなくお主の才覚と勉学の賜物なんじゃよ」

「そう、かな?」

 

 褒められて嬉しそうに頬を掻くドクター。ナガンが思うにガンスミスとほぼ同い年であろう青年である彼は、ナガンを救ってくれた人物の1人であり、それなりに気安い仲なのだ。

 

「そ、れで? どうして、ここに」

「わしにもわからん。前と同じように源石が悪さをしたか、もしくは他の原因があるか。その口ぶりからするに結局は分からずじまいだったんじゃろう?」

「そう、だね。これからは、どうするの?」

「ここの他に行くあてもない。不肖の部下と同僚までついてきおって騒がしくなるがしばらく世話になる。

 仲間としてではなく戦力としても少しは頼っても良いのじゃぞ?」

「ありがとう」

「旅は道連れ世は情け。受けた恩は忘れぬよ。それでーーー

 

Aceは? あれからどうなった?」

「......」

 

 沈黙が答えだ、と言わんばかりに俯くドクターの様子からどうなったかを悟った。

「......そうか」

 

 無粋なことを聞いてすまなかった、とだけ告げてこの場を去ろうと立ち上がるナガン。その背中をドクターは何をいうまでもなく見送った。

 

「お主まで死ぬこともなかったというのに......」

 

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

 

「おっすドクター。A2行動隊隊長Aceただいま帰還と。

どうした、慌てたような顔して?」

「......! ......!」

「え? 昔の知り合いが来たけど俺が死んだと勘違いさせちまったって? オイオイ勝手に殺すなよ」

「............」

「どこに配属してたか思い出そうとしてたらもう居なかった? そりゃ仕方ねえなぁ」

「......!」

「お、どうした悪い顔して? なに? 面白いこと考えたって?」

「......」

「............そういうユーモアは大好きだ! で、誰を追加で抱き込む? こいつは派手にやれそうだぜ」

 

 

 

 

 

 

 

 




ここから日常交流会を挟んで戦争の時間だよー

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