ドールズフロントラジオ 銃器紹介コーナー 作:通りすがる傭兵
次と次の次でおわりだから!
もし終わらなかったら木の下に埋めてくれても構わないよ!
ロドス・アイランドの
もとより戦うことを求めたものもいれば、心情の変化により身を置くようになったものもいる。
やんごとなき事情で流れ着いたものもいれば、ここに居場所を定めた流浪人もいる。
患者であっても現状を憂い自身を戦場に置くものもいれば、才覚を見いだされ戦場に立つものもいる。
他にも仕事であったり打算であったりと目的すら決して一枚岩ではないのだ。
それ故か、様々な人種もいるわけで。
◇赤い暗殺者と気紛れな猫
「......む」
赤いモッズコートに身を纏う少女は、己の昼寝場所に先客がいることに小さく唸った。
ここは前線基地の中でとりわけ日当たりが良く彼女のお気に入り。出撃のない晴れた日にはよく日向ぼっこしながら微睡にふけるのが彼女の数少ない楽しみ。時折小さな術師ドゥリンなど邪魔者がいないわけでもないが、彼女の居場所を横取りするなんてことはしない。
しかし、どうやら今日は違うらしい。
「どいて欲しい。ここは私の場所」
「ん〜、にゃはは。ちゅーるはマグロに限るニャァ〜」
「......」
ゆさゆさ、と見覚えのない軽装で猫耳と貧相な尻尾の生えたオペレーターの肩を揺らすが、寝ぼけてばかりで起きる気配はない。
「......いい加減に起きて欲しい」
「んや〜、にゅふふにゃ〜」
さらに力を込めて揺らすが盗人は寝ぼけて、あまつさえ肩に置いた手をエサか何かと勘違いしてかハムハムと甘噛みしだす始末。
ひとつ余談なのだが、このレッドというオペレーターは非常に世間知らずで喧嘩っ早い。これも彼女の得意な経歴が理由なのだがそれは今問題ではない。
つまるところ。
「......いい加減起きて」
こんな天気のいい昼下がり、さて昼寝しようと思ってスキップしながら着いたお気に入りの場所に無作法な誰かが陣取っていることに対して、堪忍袋の尾が切れた。
コートの中に持ち歩くナイフを取り出し暴力的な手段に訴えかけようとしたところで待ったをかける声が。
「やめておいた方がいいにゃ」
今まで寝ぼけていた誰かが声を発する。
右手をひらひらとさせ、薄く目を開けてこちらの方を見ながら面倒臭そうに告げた。
「実力者も見抜けない2流にはこの場所は渡せないニャァ......zzz」
じゃらり、と枕にしていた左手にレッドが隠し持っていた6対のナイフ全てを広げて見せびらかしながら、彼女はまた眠りについた。
「おひるねおひるね〜、って、レッド、どうしたの?」
「......ドゥリン。訓練、付き合って」
「え〜? なんでよ〜」
「昼寝の場所を、勝ち取るために」
眠気は燃え上がる闘志に、劣等感は覚えるまもなく嫉妬から向上心に変化する。
彼女のコードネームはレッド。
その名の通り、赤く燃えるような闘志を秘めるオペレーターだ。
◇フェイス・コミュニケーション
「......む、貴殿は確かクルーガー社の」
廊下を散歩するガバメントの対面から現れたのは、白い鱗に覆われた爬虫類が二足歩行しているような生物。もちろん生物兵器などではなくこの世界ではごくありふれた種族であるサヴラのオペレーターだ。
「はい。PMCクルーガー社のガバメントです。短い間になりますがよろしくお願いしますよ」
「
軽く会釈すると12Fもまた挨拶を返した。そのまますれ違おうとするが、ガバメントの物珍しい物を見る目に思わず立ち止まる。
「......私が珍しいですか?」
「貴方の様な人は見たことありませんから」
「はは、私の様な人は見たことがないと言いますか。遠方からいらしたのですものね」
「そうなんですよ! 触っても?」
「ええ、構いませんよ」
自分の顔に手が届く様に屈み込んだ12Fの顔を恐る恐るながらさわさわと撫でるガバメント。
「見れば見るほど不思議ですねぇ......」
「そう珍しいものではありませんよ。ただ、ロドスには少ないというだけですから」
「へーえ。あ、ここ紙やすりみたいにザラザラしてる」
「爪を削るのに重宝してます」
「あはは、身嗜みには困らないんですね」
「逆です。汚れが隙間によくたまるので苦労しているんですよ。貴方の方は肌がすべすべですね。触っても?」
「お互い様でしょう?」
「では遠慮なく......おお、これは......」
どの様な形であれ、触れ合うことは最高のコミュニケーションになる。
もっとも、廊下の片隅で幼女と長身の竜人がお互いの顔を触り合う光景はいかがなものではあるのだが。
「ト、12Fさん貴方そうゆう趣味だったんですか......?」
「そうなの、この人が無理やり......! まー冗談なんd」
「警備兵! 警備兵の方はいらっしゃいませんか!」
「「ご、誤解です!」」
◇消えてしまった憧憬をもう一度
「アーツを纏わせると硬度が跳ね上がるとは、不可解極まりない」
「そうだよねぇ。なんでだろうね?」
元々は公園だっただろう空き地で腹這いに伏せていたLWが立ち上がり服の砂を払いながら、目標を見据える。
まるで嘘の様に軽く堅固な盾。というか、盾ですらない背負い鞄。それが自身の8.6mm弾50発の連続射撃を防いで見せたことにLWMMGは驚きを隠せなかった。
「......やっぱアーツってすごいんだね?」
「何故そこで疑問形なのですか」
「わからないものはわからないよ!」
私に聞かないでよねと盾の持ち主であるオペレーター、オーバーサイズの濃い緑のジャケットを纏い金属バットを担ぐ少女クオーラは元気に溌剌と笑った。
「無強化の一般的な盾では穴だらけだった筈なのですが、アーツを通すだけでこれほどまでに強度が増すとは。
徹甲弾でももしかすれば貫通が難しいかもしれません」
「ところでおねーさん変わったボウガン使うんだね!」
「え? 違います、これはマシンガン、銃のひとつですよ」
「そうなんだ、カッコいいね!」
「もしよかったら、触ってみますか?」
「いいの? やったぁ!」
壊してしまわない様に触って欲しくない部分を伝えながらも、先程の自分と同じく2脚を立てて腹這いになり構える格好をするクオーラを見守る。その年頃の女性かと思わんばかりの仕草に、ふと気になることがあった。
「貴方、ハイスクールは......?」
「ハイスクール? なにそれ」
「学校のことです。貴方の格好は見るからに学生といった出立ですが、もう通っていないんですか?」
質問に対してんー、と少しだけ考え込んでなんでもない様にクオーラは答えた。
「わかんないや。私記憶喪失だから」
「記憶喪失......」
「そう、なーんも覚えてないの! 覚えてるのは自分の名前だけ!
「......」
話ぶりとは大違いの過去に言葉が出ない。そんな彼女の様子を自分の境遇を哀れんでいると勘違いしたか慌てる様に手を振って、
「別に気にしてないよ! 戦うのはちょっとだけ怖いけど、ここはいろんな人も、美味しいご飯もあるから好きなんだ!
野球をする人がいないのは、ちょっぴり悲しいけど」
「野球なら、少しだけ投手の心得がありますよ」
「本当に? ちょっと投げて見せてよ!」
野球の話題が出た途端に噛みつかんばかりにし迫ってくるクオーラ。すぐにバッグの中からミットとボールを彼女に押しつけ自分といえばもうすでにバットを構えて打者気分。
少しだけ苦笑いしてLWMMGはミットをはめボールを握った。握りはもちろん、基本のストレート。
「行きますよ」
「さっこーい!」
プレートも何もない平坦な地面で投手が振りかぶり、
ボックスもベースもない場所で打者が構える。
打ち返した打球は金属音とともに青空に吸い込まれていき。
キャー
ドクターガタオレター
エーセーヘー!
「......うん。みなかったことにしよっか!」
「そうですね」
◇戦士の心得
「そこまで」
銃剣を模した模擬槍の穂先が喉元に突きつけられたところで、教官役のドーベルマンが終了の掛け声をかけた。
「まいりました......」
「メランサまで負けちゃうなんて! すごいね!」
「へっへーん、どんなもんよ」
くるくると武器の柄を回しながらカーディガン姿の少女M14は笑えって返す。そして野次馬に集まってきたオペレーターたちを見回しながら、くいくい、と人差し指で手招きした。
「で、次は?」
「よーっし、じゃあ吾輩が!」
「よせ。もう時間だマトイマル」
「えー、盛り上がってるのにやめちまうのか?」
「次の使用者がいるんだ、これ以上時間をかけるなら迷惑をかけないよう使わせないこともできる。
他のものも仕事に戻れ!」
教官らしい強権と権威をちらつかせこの場をおさめたドーベルマン。野次馬がすっかり散ってしまったところで、ひとりさも当然のように残るオペレーターがひとり。
「少し、時間をお願いできますか?」
「フェンちゃん?」
青髪
「貴方が強くなった理由を教えてください。クルーガー社の中でも、貴方はとりわけ強いように見えましたし、そう感じました。ロドスのオペレーターの中でも強いのは、さっき見ました。
だから教えてください。私は強くなりたいんです!」
「よし。じゃあ映画見よっか」
「映画?」
「そう、私の魂のバイブル、私を形作った作品」
どこからともなくDVDを取り出すM14。
そのタイトルは言うまでもなく。
「くそったれの戦場へようこそ」
『フルメタル・ジャケット』
『地獄の黙示録』
『プラトーン』
「死んだレユニオンが良いレユニオンだ! あはははは!」
「フェンが壊れた!」
「ちょっと刺激が強すぎたかな?」
◇なんでもない日にお祭りを
「おいしい!」
殺風景なロドス前線基地食堂、そこでただ飯にありついていたのは翠色の髪が眩しい猫耳ART556。両手にフォークを握りしめ口の周りを少しだけ汚しながら言えば、となりでフライパンを持ってニコニコ笑っている
「遠いところからって来たって聞いたけど、ウルサスの料理が口に合うようで良かった良かった!」
「不思議な味だね、でもおいしい!」
こんがり焼かれたソーセージをモゴモゴと齧りながら答える様は見た目相応の子供そのもの。殺伐とした戦場には無縁の微笑ましい光景に心安らぐような、そんな空間が食堂の片隅で起きていた。
「あとはガンスミスさんのデザートがあれば完璧なんだけど」
「ガンスミスさんて、一緒にいたおじさんのこと?」
「そうそう! 料理はヘタクソなんだけど、お菓子はとってもおいしいんだよ! ハロウィンの時やバレンタインの時なんかはおいしいかぼちゃのケーキとチョコをもらったの!」
「お菓子もらえるなんていいなぁ......ここはそんなイベントとは無縁だから」
「だったらやっちゃえば?」
「えっ?」
ふと漏らした弱音にあっけからんと解決策を投げつけられぽかんとするグムを横目にARTが言葉を続ける。
「ないならやっちゃえばいいんだ! おいしいお菓子をたくさん食べて、みんなで盛り上がるような楽しいこと!」
「なるほど、面白そうですね」
「お菓子作りですか......久しぶりに腕が鳴ります」
「マッターホルンさんにアズリウスさん?」
「いま面白そうな話してる?」
「ガンスミスのおじさんまで!?」
「お、おじさんちゃうわ!」
「と、いうわけで」
「「「「G&K社とロドス・アイランド業務提携を祝して! かんぱーい!」」」
数時間後、食堂は人で溢れかえっていた。
机の上にはさまざまな料理とお菓子が並び、オペレーター職員問わずさまざまな人が入り乱れていた。突然のパーティともなって全員が集まっているわけではないが、多くの人がここにいて楽しんでくれていることが確かだ。
「......どーしてこうなっちゃった?」
「みんなお祭りが好きだからね! となりいいよね?」
「うん」
「にゃはは、勝手に計画してよかった。ドクターさんも簡単にOK出してくれたし、ちょっと食材の準備に手間が掛かったけど、いっぱいシェフが来てくれた良かった!」
「すごい......こんな光景はじめて」
「はじめて? それは良かった!」
ニコニコと笑うARTにつられて、思わず固くなっていた顔がほぐれるグム。それと同時に少しだけ涙ぐんでしまうほどに、目の前の光景は平和だった。
それこそ、戦乱が起きる前。故郷ウルサスで楽しい学生生活を送っていたあの頃のように。
(いけないいけない。ないちゃいけない。楽しい場所を邪魔しちゃダメだよ)
「それとねー。こんなパーティにはトラブルと悪戯もなきゃね」
「カフッ」
「ドクターがまた倒れた!」
「この味......姉さ、ハイビスカスを厨房に入れたのはどこの誰ですか!?」
「え、料理できるって引っ張ってきたって聞いたんだけど」
「彼女ですね」
「何か意図があるとは思っていましたが」
彼女の目の前で料理を食べたドクターが泡を拭いて倒れ、ラヴァの発言に同じく厨房に立っていた面々から一斉に指を差されるART556。
「どっきり大成功! これも全部私のせいだ、でも私を謝らせたかったら捕まえてみなさいなー! じゃあパーティー楽しんでねー! あーでぃおーすあみーごー!」
颯爽と窓に飛びつき、煽るだけ煽ってひょいと逃げ出すARTを追いかける数人のオペレーターを見送ったところで紙皿のケーキを一口食べるグム。
ケーキは、少しだけ塩の味がした。
「......おいしい」