ドールズフロントラジオ 銃器紹介コーナー 作:通りすがる傭兵
これがやりたかっただけなんだ(小声)
もうこれドルフロじゃないやん......
「来たか」
「ああ、来たぞ。フロストノヴァ」
基地の最奥。吹雪吹き荒れる地下施設。
履いた息が白く煙る寒気が覆う中、彼らは再会した。
「フロストノヴァさん。ロドスは感染者を受け入れる組織です。無論レユニオンであったとしても、それは変わりません。
感染者との無駄な衝突は引き起こしたくない。特に、貴方と貴方のチームとは」
「......こちらへ、来てくれないか?」
フロストノヴァに手を差し伸べようとするドクターとアーミヤ。しかし、彼女はその手を振りはらう。
「......私もだ。私もお前たちと無駄な争いはしたくない」
「では......!」
「しかし、ここは戦場で、私はレユニオンで、お前たちはロドスだ。戦場で敵と会うことは殺し合うこと。
その手を取ることはできない」
「そんな!」
拒絶の意を示すように、彼女の周囲に鋭く尖った氷塊が浮かびあがる。それは彼女の髪色のような白ではなく、ドス黒く染まっていた。同時に彼女の顔が痛みで強張るのをブレイズは見逃していなかった。
「......まさか、皮膚からオリジ二ウムの結晶が滲み出てきて、空気中の水分と混じり合い、黒い氷の結晶となった?」
「なっ......! それはつまり!」
「ふざけるな!」
同じ結論に至ったナガンが驚き、ブレイズが叫んだ。
「やめろ! 死ぬ気なのか!? 源石が皮膚を食い破るほど暴走させて、アーツを行使してるんだろ!」
「......」
彼女は答えず、無言でアーミヤとドクターの方へと手を伸ばす。素肌からは鋭く尖った源石が皮膚を突き破り、赤い血が表皮に凍り付いていた。
「お前たちはこの戦いを終わらせに来たんだろう?
敵の指揮官が死ぬまで、この闘いは終わらない。
いや、終わらせない。
熱くなれ。お前たちの敵は、目の前に立っているぞ」
言葉を引き金に地面が凍りつき、白い冷気が霧のように濃くたちこめていく。
「まずい、こんな低温じゃ私の機器が動かなくなっちゃう......!」
「ドクター、下がって!」
「天災の安売りでもしてるわけっ!?
止まってフロストノヴァ、あなたは自分を殺すつもりなの? こんな強度のアーツを使わなくても貴方は十分に強いでしょう!」
「やめたほうがいい。もう言葉では足りんよ」
防寒用の革手袋の指を通したナガンがブレイズを制す。
「見ない顔だな。最近雇われた傭兵か」
「そんなところじゃな。さてフロストノヴァといったか。
お主には血を吐き身体を壊してまでも通す義理と決意があると見た。
そんな輩にはお決まりの文句があるんじゃよ」
「ほう......?」
「話はベッドで聞かせてもらう。傷まみれの身体に包帯を巻かれて点滴でも通されて、ゆっくりと傷を癒しながら続きを語ってもらえばいい」
「私を倒すと?」
「そうとも」
「ーーその大言、飲み込むなよ。
私は指揮官としては敗北したとしても、戦士として敗北した覚えはない」
「......近隣にいる部隊に通達。援護は必要なし。連絡があるまで、この区域から退避を。ナガンさん達も無理をする必要はありません」
「ここまで来て下がれってのは冗談でしょ」
「この程度の寒気は慣れている。それに下準備は済ませた」
「......わかりました。では、4人でフロストノヴァを倒します。ドクターは撤退を」
「断る。この戦いを、最後まで見守らせてくれ」
決意はフードに隠れた表情から伝わったのか、アーミヤはドクターを一瞥して何も言わなかった。
「......準備はできたか?」
「さあ、始めようか!」
ブレイズのチェーンソーが唸りを上げて火花を散らす。
彼女の突撃と共に、戦闘が始まった。
「戦え。どちらかが死にどちらかが生きるまで」
「ちいっ!?」
「悪くないが......私を侮るなよ」
ブレイズのチェーンソーを氷の刃が受け止める。チェーンがガリガリと音を立て熱波を突き立てるが氷の刃は無慈悲に熱を奪い跳ね返す。
「アーミヤ、援護を!」
「任せてくだ......あ、うっ」
「どうしたの!」
「そんな、指が......」
アーミヤは指にはめられた10個の指輪を起点にアーツを操作している。しかしその指輪は黒い氷に覆われてしまっていた。
「お前とタルラの戦いを見ていた。その指輪を解除することでアーツを解放するんだろう? それを封じてしまえばいい」
「指輪をいくつか凍らせただけだっていうのにペラペラと余裕そうだね」
「果たしてそうかな?」
(氷が私の熱でも溶けない......?)
「ブレイズさん引いてください! この冷気のトラップ......まさか最初から仕込んでいたのですか」
「戦闘はお前たちがこの層に足を踏み入れた時点で始まっていた。この10個の結晶は体温を吸い取り、おまえのアーツを搾り取る。加える力が大きければ大きいほど、より氷はより強固となり、より冷たいものとなる。
たわいもない手段で、私に勝つつもりか?」
「いいや、そうでもないよ」
銃声が場をつん裂いた。
フロストノヴァの氷の装甲に弾かれるが、その射手は何事もなかったかのように銃を構える。
「戦場とは不確定要素がつきもの。勝手に暴れて勝手に死なれては面白みがないよね」
「殺すのであれば手足を直接凍らせれば良いものを武器だけに絞るとは余裕じゃな。
「戦いに楽しさを求めるか」
「そうでなくてはやってられぬよ」
撃ち放った銃弾が空中で凍りつき失速させるが、本人はしてやったりと口角を吊り上げる。
「10m。その内側がキルゾーン」
「いいねぇインファイトは大好きなんだ」
M14がポーチから何本もの銃剣を抜き放ち、ナガンが弾丸を再装填する。もうひとつの愛銃の1発目には赤い弾丸を詰めてホルスターに仕舞い込んだ。
(使わぬことを願うしかあるまい)
そう念じながら、彼女達は駆け出す。
「銃か。だが......!」
「そうそう、そんなことやられちゃ弾丸は通らないよね」
何枚もの氷の装甲が空中に浮かび斜線を塞ぐ、だがM14はそれを足場にしてフロストノヴァに肉薄していく。
「合わせて能天気熱血おバカさん!」
「私の名前はブレイズだ!」
チェーンソーが装甲をうがち、その間隙を銃剣と弾丸が走る。冷気をものともしないM14に防戦一方になるフロストノヴァ。
「こんな戦闘スタイル初めてなんじゃない?」
「......それが?」
「図星だね!だってそんな身体を壊すほどにアーツを使うなんて一生に一度! ほおら隙ができちゃった!」
「防御はやはり甘いな」
M14の言葉と同時にフロストノヴァの太腿を弾丸が穿つ。
「次は腕をもらうぞ」
宣言通りに右腕を弾丸が穿つ。
「次は指か? 目か? 角か? 望み通りに吹き飛ばしてやるぞ」
「......なぜ凍らない」
「凍っておるぞ。バッチリとな。ただ少しばかり身体が特殊なだけじゃ」
ひらひらと凍りついた左手を振って見せるナガン。フロストノヴァの言う通り2人も氷結罠を武器に受けているし、事実薄着であるため指の何本かは凍りついている。だが彼女らは戦術人形、コアが無事なら頭だけになろうが銃は撃てるし戦闘もできるからこそ、たかだか指の1、2本の凍傷でコンディションが落ちるはずもない。
「ならば」
バシバシ、と冷気が奔る。
その矛先は冷たさと痛みに動きが遅いアーミヤの方へ。
「しまっーー」
「アーミヤっ!」
「仕損じた、か」
「そんな、ナガンさん!」
「嘘でしょっ」
「......ワシも、情に脆くなったものじゃ」
諦めたように肩を竦めるナガン。彼女の膝から下は、どす黒い氷が覆い尽くし、地面に繋ぎ止めてしまっていた。
「これで狙撃は封じた。お前なら彼女を庇うと思っていたよ」
「何故そう思う」
「お前の切った啖呵の裏すら読めないと?」
「......ならばわしの本気も読めなくてはな。脚部ボルトパージ」
パシ、と短い発砲音とともにナガンの膝が砕け散った。
人工皮膚が破れ、血液が飛び散り、フレームの金属パーツがバラバラに散らばる。
「なっ」
「な、なにそれ」
支えを無くし地面に転がるナガンは器用に体を起こした上で告げた。
「......生体アンドロイド、
「なるほど。熱を感じなかったのはそのせいか」
「無駄な機能は長期戦には不向き故にな。冷気のせいでバッテリーの減りも早いから節約しなければならなかった」
「な、ナガンはロボットだったってこと?! 膝から下が義体だったわけじゃなくて?」
「薄皮一枚剥けば金属の塊じゃよ。今からやってみせるか?」
「戦闘中だよまだ、戦える?」
「背負ってくれ。M14」
脚を失っても平然とするナガンとその堂々とした言葉に納得するしかないアーミヤとブレイズ。M14はナガンを背負い簡単に紐で縛りつけると、フロストノヴァに正対する。
そして残念そうに唾を吐き捨てあーあ、と落胆したような声を響かせた。
「勝つためなら手段を選ぶな、敵は自分だ。なんて煽っといてなんで喋ってる途中に攻撃しないんだか、教え子だったら喉掻っ切る所の大馬鹿。
......結局のところその程度の想いしか抱えてないわけ? それとも私たちに同情でもしてるわけ? 冗談にしては三流ね。
自分が死ねば部下は助かるからって前向きな自殺、典型的な死に急ぎ野郎。映画で見たよくある主人公だかになったつもりなのかしら。
部下の面倒を最後まで見るのが隊長の務めよ。
勝利への執念も上に立つ者の責任も放り出すなんて、戦士としても死んでるわよ」
挑発に中指すら立て始めたM14にフロストノヴァが無言で氷の刃を降らせる。それを銃剣で弾きながら背中のナガンに問いかける。
「いける?」
「早めに決着をつけねば彼奴が持たんからな」
「撃てるの?」
「射線があればな」
左ホルスターから2丁目の愛銃を取り出す。弾倉には赤く輝く特製の源石弾丸が1発のみ。
右目を精密射撃モードに移行させ、構える右手は目標に向かって真っ直ぐと。
「一撃必中......外さんよ」
「舞台は私たちが整えてあげるっ! いくよアーミヤ!」
「はいっ!」
アーミヤの使う黒い稲妻のようなアーツが迸り、ブレイズがその影を縫うように走る。そこに氷の障壁が立ち塞がり、飛び越えた先には槍の雨が降り注ぐ。
「もっと! もっと燃え上がれ!」
自身の髪や衣服すら焼け焦がすような熱を放出し、槍を削り裂くブレイズ。
「燃え上がれ、私の魂ィィィィィ!」
叫ぶほどに、滾るほどに彼女の熱量は増し、炎を纏う錯覚すら覚えるほどの熱気が空間を支配する。
冷気と熱気が食い合い、水蒸気が当たりを霧状に包み込むほどのヒートアップする。
「まだ、底ではなかったか」
「当然! あなたができて私にできない道理がない! この一撃、確実に通してみせる!」
「その意気だ。だが......!」
「ぐ、うっ」
フロストノヴァが手をかざすだけで、状況は一変した、暴風が熱気を吹き散らし、寒気が空間を支配する。
燃え上がるほどに暑くなっていたブレイズの腕と武器は、もう凍りついて動かない。
「一手、不足だったな」
「ええ、あと一手が足りなかった」
だが、ブレイズは不適に笑う。
「だから、その一手を託したのよ!」
「射点、確保ッ!」
「目標確認、照準よし。
気がついたときにはもう遅い。
赤い一撃が、フロストノヴァの胸元を貫いた。
◇◇◇
「砕けた、か」
胸元の無骨なペンダントの破片がバラバラと崩れていく。
「戦いに耐えられると言っていたが、これで砕けてしまうとは、な」
赤い血が、地面に垂れる。
口から血を吐きながら、フロストノヴァはゆっくりと倒れていく。
それを抱きとめたのはドクターだった。
「見事な勝利だ、ロドス。
これでは......私の家族は無駄死にさせてしまったか。
何故だ? 私の命には何の価値もないというのに。何故外した。心臓を穿てば、良かったものを」
「彼らは、君の信念に敬意を評しただけだ」
「......だが、私はもう助からん。お前たちは助かる命を救いに行け。私の死に価値はない。行け、行ってくれ」
「ドクター......?」
「アーミヤ、指揮を任せる。もう少しだけ私は残る」
「わかりました......」
「行こう、アーミヤ」
ブレイズに連れられこの場をさろうとするアーミヤは、地下区域を出る直前に深々と頭を下げた。
その意味は、当の本人しか分からないだろうが。
2人だけの空間になり、ドクターが声を絞り出す。
「ロドスに入る、約束は、どうした」
「悪人には悪人の末路を。私の手は汚れすぎた。
生きていたとして。私の知る場所など、雪原しかない。故郷へ、美しい大地へ、ウルサスへ、帰りたかった」
「フロストノヴァ」
「ああ......すまない。もう何も見えないんだ」
力なく手を伸ばす。その手を、ドクターは固く掴んだ。
「冷たいか、私の手は」
「暖かい」
「......最期に、人と触れ合うことができて良かった」
「もう一度聞く。ロドスに、来ないか?」
「私には資格はない」
「過ちを正す資格はある。そのための場所だ」
「残念だな。ドクター......私にはもう時間はない」
「いいや時間をくれてやる。とっておきの特等席をな!」
2人だけの空間に割って入る無粋な声。
それど同時に。
「まに、あったか!?」
「遅い! 早くしなければ間に合わんぞ!」
「こっちだって事情が......ってお前足と右腕は?」
「いいから早く!」
何かを担いだガンスミスが息を切らしながら飛び込んできた。その隣には煤塗れ泥まみれの小隊の面々が並ぶ。
「無茶させないでよ! なに! 戦場でナガンの義体を拾った上でガンスミスさんと機材を無傷で運べって鬼なの!」
「やかましい! 死ぬか生きるかの瀬戸際なんじゃコイツは!」
いいから早くしないか、と急かすナガンに追い立てられるようにガンスミス達がフロストノヴァへと駆け寄る。
「ああもうこんなの非人道的すぎて2度とやらないからな! 成功するかも5分なんだから」
「なに、を」
「今から君の脳をデータ化してコピーしてナガンのフレームに移す! 人間やめるけどいいよね? もう始めてるけど!
ドクターさん、これでもいいかい!?
フロストノヴァはここで死ぬ! 助けられるのは限りなく彼女に近い誰かになる。それでも」
「......頼む」
「わたしは」
「人間誰にだってやり直す機会を与えられるべき。そうは思わないかい。誰も彼も間違いをおかすんだ。それを認めるのがヒトってもんよ! どうするの? やるの、やらないの?!」
「わたし、は......」
◇◇◇
「ただいま帰還しました......」
「遅い! 3日も消息不明になってなにしてたのガンスミスさん!」
「ちょっと東欧で人助けを」
「はぁ......ってなるかい! 護衛の面子は?」
「損傷したから整備室」
「一体何してきたのよ......」
「ノーコメントで」
「話しなさいよ」
「黙秘権を行使します!」
「裁判じゃないから」
「守秘義務が......」
「いいから話しなさいよ! 全く何日も心配させてからに!」
「先輩ガンスミスさんが死んじゃいますステイ!」
後日。
報告に来たガンスミスを締め上げる元指揮官とそれを窘めようとする後輩の姿がそこにはあった。
いつものように騒がしくなり始めた指揮官室の片隅で、黄金色の髪の少女がふとつぶやくと、無線から同じ声で笑い声が返ってくる。
「......騒がしいな、ココは」
『そうじゃろうそうじゃろう。身体が馴染むまでの期間だけじゃが、宜しく頼むぞ
「わかったナガン。......話が長いな。氷漬けにしていいかあの女」
『何故アーツを行使するか貴様!』
「まだしていない」
「あれ、ナガンさん。珍しく静かですね。止めないんですか」
「ああ、今からな」
彼女が手をかざすと、クーラーで涼しくなっていた部屋が真冬かくもやと言わんばかりまでに冷え込む。
「さ、さむっ!?」
「これで静かになったか」
白い冷気を指先から漂わせながら、白い少女......この基地最古参の戦術人形と同じ姿をした彼女は告げる。
「フロストノヴァだ。これから世話になる。
これでも兵を率いるものだった。指揮は任せてくれ」
「「......誰?」」
愉快な仲間が増えました。やったね!
これで夏を涼しく過ごせる。
というわけで次は頑張って紹介書きます。