ドールズフロントラジオ 銃器紹介コーナー 作:通りすがる傭兵
09B基地のとっておきとやばいやつが前線にやってきました、思う存分楽しんで。
「......で」
「はい」
「なんで俺が運転手な訳?」
「ウチで1番修羅場慣れしてるドライバーだからですけど?」
「今回は楽な仕事だと思ってたんだけどなぁ」
「くっちゃべってないで応戦してよ!!!」
ズバババ、と重い12.7mm特有の発射音を身体で感じつつガンスミスはアクセルを踏み込む。いつもの愛車より馬力も装甲もマシマシの現指揮官の愛用指揮車は動き出しこそ遅いものの、トップスピードであればいつものソレよりも十分に速い。
なんら問題がなければ本部から最前線まで時間はかからない、はずだったのだが。
「どういう了見だ狙われすぎてんじゃねーの!? おいおいいつから人気者になったんだアンタらは!」
「こちらの打つ手を潰しに来たと見えます。指揮官が前線で指揮をしては迷惑なんでしょうね」
「だからといってここまでするかって話だけどね!
ファッキューサソリ! 蜂の巣になってくれない!?」
彼らは現在、報告にあった敵の新型に襲われていた。
サソリを機械化したような八本足に車輪をつけ、背中には戦車砲と20mm機銃。ハサミは攻防一体になるであろうシールドブレイドがこちらを刈り取ろうと刃を煌めかせ、さっきは口元から噴き出される火炎放射に焼かれかけたところだ。
装甲も分厚く、12.7mm程度では歯が立ちそうにはない。つまりダネルなど一部の大型、対物に分類されるRF戦術人形でもないと対処は困難ということになる。その事実には指揮官も爪を噛むしかない。
「コイツはかなり厄介です、対戦術人形用の小銃なんかじゃ対策もへったくれもありませんよ......?」
「ごめん! 牽制にはなるけど撃破は無理そう!」
「知って、る、掴まれ!」
天井の機銃座から怒鳴る戦術補佐官の言葉に怒鳴るように答えながら、挟み込むように移動してきた2機の間をすり抜けるように急制動。後ろから狙ってくる砲口は車を横滑りさせることでかわし、ぶつかった2機には同士討ちをさせ砲撃で足を止めるうちにこちらも立て直す。
「......んで、今度は何をやらかすつもりだ?」
「現場指揮ですよ現場指揮。無線が使えないなら有線で、できることを探すのが仕事です。気分は一次大戦か日露戦争かって話ですけど、なんのために給料もらってるのかって話ですよ」
「だからといってここまでっ! 死ににいくようなことすっかね!」
「別に好きでやりたいわけじゃないけどこれも義務ってやつ、私は給料分は働くって決めてるの」
「そういうわけです。ソレにまたこっちの不手際で戦術人形を失うわけにもいかないでしょう?」
よっこらせ、と荷物から対戦車用バズーカを徐に引っ張り出し、徐にドアを開けて社外に身を乗り出す指揮官。バリバリと音を立てる機銃に気を取られているのかこちらに注意を向けてないその新型に狙いを定めて......
「安全装置よし後方の安全よしとりあえずくたばれ!」
ちょうど頭であろうセンサー部分にぶちかます。
一瞬の爆発の後100mm厚の鉄板をも抜けるメタルジェット噴射を受け頭部をぐずぐずにされた新型が脱落していくがその仇をとらんとどこからともなくまた新型が湧いて出てくる。
「歩兵の随伴のない戦車なんてただの的......これ、どうしましょうか?」
「それを考えるのが指揮官の務めだろーがっ!? どっちに行けばいいんだよ!」
「決まってます、1番騒がしくて、1番ドンパチやってる鉄火場ですよっ!」
「俺はまだ遺書書いてねーんだぞバカヤローッ!」
「んじゃ死ぬ気で死なないでねっ! 私も書いてないからちょっと困るんだっ!」
2発目を冷静にリロードしつつ笑う指揮官に吠えるガンスミスに、恐怖を誤魔化すように楽しそうにはしゃぐ補佐官。戦術人形ではほとんど見ない、人間特有の表情、これをやけっぱちという。
敵の装甲兵器は味方を落とされて怒り狂ったのか驚異度を改めたのか、主砲横の20mm機銃がこちらに指向する。
主砲がダメなら機銃で確実に始末するということだ。
「なあ指揮官、この車20mm防げる?」
「やだなあ、戦車が必要なら言ってくださいよ」
「防げないってことかよコンチクショー!」
「やばっ!?」
補佐官が車内へ引っ込んだ瞬間にガンスミスは目一杯車体をその装甲兵器にぶつけた。
主砲と車体がぶつかった衝撃であらぬ方向へ機銃が放たれる中、冷静にバズーカを構えた指揮官が至近距離でソレをぶっ放す。
「こ、ろ、す、き、か、よ?! バックブラストで焼き鳥になるところだったぞ!?」
「ガンスミスさん察しいいからドア開けてたじゃないですか。ほら次ですよ次」
「俺は戦争屋からは足を洗ったんだぁ! どうしてこんなことせにゃならん本部に返してくれ!」
「無事に帰れるならどうぞ。折り返しはもう遥か後ろですが」
「『放送禁止用語』」
「おおこわ、先輩どうぞ」
「2人は呑気でいいねえ、えい」
150mmが耳元を掠めていく衝撃を感じつつ、指揮官からパスされた銃座からバズーカをぶっ放して3機目を撃破。
「で、どこ向かってるの?」
「ナガンとフロストの合流地点ですよ。ああは言いましたが1番現実的な集合地点を取るのは当たり前でしょう」
「......ひとつ提案があるんだけど?」
いつもは嫌な顔ひとつしないどころか逆に嫌な顔させまくっている現指揮官が思わず声を漏らす。
「先輩が人生で見たことないくらいイキイキしてる、碌でもないこと考えてません?」
「生きるか死ぬかの大博打だけど、ちょっと乗ってみない?
補佐官が指を刺した、ちょうど集合地点の反対方向の空には対空兵器もかくもやの曳光弾が飛び交い、爆発で人が飛び散っている。さらにはそこから先ほど広域通信で喚き散らした声の数倍の叫び声だから歌声だかが轟いている。
「30mmの音がするな。ソレにこの発射レート、もしかしてあの嬢ちゃんじゃないわな......いやでもあいつならやりかねん......」
「考え事ですかガンスミスさん?」
「知り合いかもしれん、行こう」
「わかりました、でもなるべくお早めに」
「なんでまた」
「対戦車バズーカはさっきので打ち止めですので」
「早く言ってくんないかなそういうのは!?」
◇◇◇
「
戦場に場違いな伸びやかな歌声が響く。
黄金色の髪をなびかせ、身の丈に余る大型軍用バイクに跨る少女がソレを歌っていた。
自分に酔いしれるように軽く身体を揺らし、時折目を瞑って歌声に聞き惚れるようなさえ見せて。まさに街角か自分の部屋で歌ってでもいるような、リラックスした表情で。
彼女は戦場で歌を歌う。
(ナガンから教えてもらったが、
「
彼女は戦場で歌を歌う。
銃弾を氷で弾き返し。
銃を凍らせ無力化し、
飛びかかる無作法者は串刺しにして。
立ち塞がる愚か者は氷像に変えて。
(身体を心配せずアーツを行使するのも、しがらみを背負わずに戦うのも、初めてだ。
悪いな、兄弟姉妹達。そしてロドスのドクターよ。そちらにいくのには、まだ時間がかかりそうだ。
この場所は、春のように少しばかり居心地がいい......)
「
彼女は歌を歌う。
自分のために、誰かのために。
そして、同胞達のために。