ドールズフロントラジオ 銃器紹介コーナー 作:通りすがる傭兵
囲碁サッカーといえば、囲碁サッカー
「ぐわー!負けたぁー!」
「ふふん、私の処理速度なめないで下さい」
娯楽室でロクヨン式が絶叫する。その前では、白い石を摘んだ振袖姿の一〇〇式が自慢げにしていた。
「はー、今日も疲れたー、って何してるの?」
「あ、指揮官にナガン。大掃除の時に碁盤と碁石を見つけて、囲碁をしてるんです」
「へーえ、囲碁かぁ、懐かしいな」
学生時代を思い出すのかしみじみと思い出にふける指揮官。一方今日の副官であるナガンは首を傾げた。
「指揮官、どんなゲームなのか?」
「陣取りゲームなんだけど......どう説明したものか」
それを見た一〇〇式が思いついたように手を叩く。
「指揮官、一戦どうですか? 見てもらった方が早いですよ」
「うーん、久し振りだからな......手加減出来なかったらゴメンね?」
「負けませんよ」
ロクヨン式が退いたところにどっかりと座り込み、盤上の石を片付けていく。
「じゃあ、行こうか」
「はい!」
「......えっ?」
◇◇◇
雪をかかれた基地前の広場。
一〇〇式が指揮官が無言で向かい合っている。
指揮官は直立不動のまま右手を斜め上にピンと掲げ、
一〇〇式が逆立ちをして、足の間にボールを挟み込んでいる。
漂う異様な雰囲気。
立会人として呼ばれたナガンは、先程指揮官に言われた言葉を思い出していた。
『囲碁サッカーは今は平和なスポーツですが、昔は殺人術でした。
ですから、立会人をお願いします。
......死人が出てからでは遅いですから』
(先程からこの2人、何をやっているのか全然分からん。
......じゃが、この異様な雰囲気は、一体なんじゃ。
これが、囲碁サッカーなのか......!)
「素人が入門書を齧ったところでどうにでもなるわけではありませんよ」
「その声カリーナか?」
頼りになるであろう有能副官の声に振り返る。だが、カリーナもまた、修羅の1人であったのだ。
首から下げたボードに碁石の入った容器が載せてあった。
側から見れば、異様。
度肝を抜かれてフリーズするナガンを横目に、カリーナが一歩進みでる。
「いわば両者、初めから禁じ手を使った状態。
セオリー無視の、ハイレベルな攻防です」
「なあっ!」
「例えば、あのまっすぐに伸ばされた手、あれが碁盤の脚とするならば、
一〇〇式のあの構えは碁石!
一見相性がよさそうに見えますが、あの脚に挟んだボールが曲者。
私の推測ですがあの2人は、
太陽になろうとしている」
「なんじゃと!?」
ナガンの電脳を閃光が駆け抜ける。
(何を言っておるのかサッパリ分からん!)
「あっ、動きますっ!」
「はうわっ」
指揮官が手のひらを上へ向けながらゆっくりと右手を下げると同時、同時に左手をゆっくりと上げて、
「ふっーーーーー、ちゃす!」
脚をガニ股に、腕は手のひらを前に斜め下へ、腰を大きく落として構えた!
「不味いっ! ビー、ラブド!」
カリーナの切羽詰まった叫びが聞こえる。
気がつけば、カリーナが指揮官の背後へ回り込み、両手に碁石を摘んでまるで強大なものを抑え込むかのような腰の入ったポーズで固まっていた。
訪れる一瞬の空白。
「か、カリーナ、それはどういう......」
「しっ、静かに」
「ふえっ?」
カリーナの鬼気迫る表情。その目線は未だ無言の圧を発する2人から離れない、いや、離すことができないのだ。
「わかりませんか、あの2人の間を流れるしたりげな空気。
下手したらこれ、
「なん、じゃと......」
冬にもかかわらずカリーナの額から冷や汗が流れ落ちる。
ナガンの理解の範疇を大幅に飛び越えた、まさに理外の絶技。
(一体、何が起きておるんじゃ......)
「私もこれほどまでにハイレベルな試合を見るのは久し振りです。
どうりで今日は風が騒がしいわけですよ」
「えっ、えっ、えっ?」
指揮官、動く。
腕は鳥のように大きく羽ばたかせるように、低く沈んでいた腰を少し上げ、
右腕はまっすぐ真横へ、
左手は手の甲を相手へ向け腰を支える。
「はあっ、マズイ!
野良試合であれをやるというのですか、正気の沙汰ではありません!」
気圧されたように後ずさるカリーナだが、苦しい表情で心臓あたりを握りしめる。
「しかしこの状況、見過ごすわけにはいきません......
師範、使わせて頂きます」
両手を槍のように尖らせ、碁石を勢いよく掴み取った!
溢れた碁石が周りに飛び散る中、姿勢を低くし顔を伏せ、なにかを振り払うように碁石を掴んだ両手を伸ばす。
「これもまた正義のために......光さす、星とならん!
小木禁止点流奥義!
小木星!」
星に手を届かんとさせるまでに勢いよく手を伸ばしたカリーナが、板と碁石を投げ捨てひた走る。
両足で踏み切り、
基地の壁に飛び移り、跳んだ。
カリーナが宙を舞う。
「はああああああああああっ!」
2回目の踏み切り。
爆撃機が急降下するように、ピンと一直線に飛び込んだカリーナの身体が一〇〇式がと指揮官の地面の間をすり抜け、
地面すれすれを滑るカリーナの身体を、光の輪が包み込んだ!
「これぞ、あ、ファイナル、ラブドッ!」
「ぐはっ」
「ああっ」
両者倒れ伏す。
側から見れば一瞬の出来事、しかし、2人にとってすれば、永久よりも長い時間だったに違いない。
肩で息をする両者。
指揮官が先に立ち上がり地面で大の字に倒れる一〇〇式に手を差し伸べた。
「やるじゃない」
「えへへっ、指揮官こそ」
そして2人が、ガッチリと握手を交わした。
(軽い気持ちで聞いたことだったのじゃが、これは、とんだパンドラの箱を開けてしまったのかもしれんのう......)
今年もよろしくお願いします。
元ネタ......TVアニメ「日常」日常の82より
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