ドールズフロントラジオ 銃器紹介コーナー   作:通りすがる傭兵

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と、いうわけでございまして。


第--回 The War has End!

 

 基地の中で1番広い広場に職員、戦術人形が整列し。弾薬箱に乗って少しだけこちらを見下ろす正装姿の後輩ちゃんがこほんとひとつ咳払いをする。隣にはカリーナが控え、こちらも珍しく制服姿で姿勢を正す。

 だが、今日だけは全員がそうなのだ。いつもはラフなシャツ姿の職員やツナギ姿の作業員も、ちょっとばかし破廉恥なかっこうの戦術人形も全員が全員、かっちりとした制服を着込んでいる。それはもちろん俺も含めて例外なく、全員が。

 

 それはそうだ。今日はとてつもなくめでたい日であって、とてつもなく悲しい日にもなるだろうから。

 

「えー、本日はお日柄もよく......えーっと、なんだっけカリーナ」

「最後まで締まらない人ですね......カンペ渡したじゃないですか」

「そうだったそうだった。確かここらへんに」

 

 ......やっぱりいつも通りらしい。無駄に多い制服のポッケをまさぐり、メモ用紙の切れっ端を見つけて堂々と見ながら読み上げる。

 

 「まず先日の作戦を持って、鉄血工廠最後の生産基地を破壊、データに関しても削除された事を確認しました。

 残党もまた本部属部隊をもってしてこれを殲滅したことも重ねてここに報告します。よってこの日付をもって鉄血工廠の暴走戦術人形を殲滅、再生産を不可能にした、ということになります。

 これをもって、G&K社が提唱する『鉄血工廠の脅威に対抗する』目的を達成したことになりました。

 またE.L.I.D及び崩壊液の無力化を確認。壊滅状態のアジア、北米、ヨーロッパの除染も始まりました。

 よって、このS地区は01基地を除き全て解体とし、同基地に勤める者を除く職員及び戦術人形を解雇します。

 

 ここからは僕の言葉で語らせてもらいましょう。まどろっこしいのは苦手なので」

 

メモ用紙をまるめて投げ捨て、彼はこう告げた。

 

「......戦争は終わりました。

それに伴いこの基地も放棄されます。

 今まで、お疲れ様でした」

 

 

そう、戦争は終わった。

戦争と呼べるようなものではなかったかもしれないが。

 

それでも、俺たちが言う「戦争」は確かに終わったんだ。

 

「最後に一つ。

この戦いで散っていった仲間に。祈りを」

 

後輩ちゃんが被っていた帽子を胸に抱え、静かに目を閉じる。職員全員がそれに倣い黙祷を捧げた。

 

 

死んでいった友に。

砕けた戦友たちに。

立ち塞がった敵に。

 

戦場でなくなった全てのものに祈りと、願いを。

 

どうか安らかに。

 

願わくば、あるべき場所に立ち戻れるように。

 

 

 

◇◇◇

 

 

「それで? お別れを言いに来たってわけ?」

「腕利きの戦術人形ってのは引く手数多なのよ」

「私たちは戦う以外はまだ知らないことも多いですからね。自然こんな就職先を選ぶ戦術人形も多いんですよ」

 

 式典も終わり荷物をまとめる最中、見知った顔が工廠に顔を出す。短く手伝うわ、と告げて近くにいたナガンに指示を仰いでいた。

 WA2000とウェルロッドMk.Ⅱは北米へ渡り、警察組織に協力するという。そこでは数百年前の開拓時代のようにまだ安定した生活は望めず暴力が罷り通る場所も多い。だからこそ最前線で経験を積んだ彼女らの実力は充分に役に立つことだろう。

 

「しかしSTARS、なんて面白いネーミングセンスね」

「願わくば我々が希望の星になれる様、なんて」

「ロマンチストね」

「性分ですよ」

「......ま、先方からは催促も来ているとこだし、バッジももう届いてるわ。じゃ、ここでお別れねガンスミス。あんたの腕は最高だったわ」

「ラクーンシティに来ることがあれば、歓迎しますよ」

「おう、いつか銃を見に顔出してやんよ。身体も銃もメンテサボるんじゃないぞ」

「当たり前じゃない。私達はプロフェッショナルよ」

 

 

 

『よう兄貴! 人生で何度目の就活だ?』

「ほっとけ、お前はどうなんだ?」

『俺はラボに残るぜ。なんせやる事はまだまだ尽きないからな』

 

弟のプログラマーは16Labに残るという。戦術人形の再民生化や、鹵獲したハイエンドモデルの調査とやる事は沢山あるそうだ。面白い同僚も増えた事だしな、と黒髪に真っ白な肌の戦術人形のツーショットが......カノジョ戦場で見たことあるような?

 

 

「寂しくなるヨー。それにこの老耄(もうろく)の就職先なんてこんなところ以外どこにあるってのサ」

「俺知ってますよ、08地区のカフェにヘッドハントされてるって。春田さんもそこでしょう」

「耳が早いネー」

 

 死神さんは隣地区のカフェに務めることが決まっていた。なんでも、基地を一般に向け解放したときにやってきた人形が彼のコーヒーにいたく感動したようで『是非ウチに!』とのことらしい。

 あの約束から数年は経っているとはいえ約束は約束だ、とマスターと名乗る亜麻色の髪の民生人形がついでのように春田さんもかっさらっていった。もし行き詰まることがあったら気分転換に行ってみよう。

 

 

 

「本部に栄転とはいい話だとは思うんですけどねぇ」

「お前早々に俺のところに愚痴りにくるなよ、仮にも指揮官だろうて」

「ボクは今日付で指揮官の任を解かれてますんでただのヒラ職員ですよーだ」

「理屈っぽいというか子供っぽいというか」

「ナガンさんがそれを言いますか」

「やかましい!」

 

 後輩ちゃんはG&K社から逃げられなかった、もとい本部部署へ転属されることが決まったらしい。なんでも昔いた情報作戦班に戻ってこいと当時の上官がクルーガーさんを通して怒鳴ってきただとか。

 

「先輩とハネムーンするつもりだったんですけどね。数年くらい仕事サボれるだけのお金はありますし」

「あいつがそれを認めるかは知らんけどな」

「もちろん断られましたよ、秒で」

「じゃろうな」

「そんなことにお金回すくらいなら子供の養育費に積み立てとけーって」

「ハイハイ......はい?」

「こ、子供じゃと?」

 

 ナガン共々思わず振り返ると、いたずらが成功したようににししとわらいながらピースサインで返して、

 

「今で3ヶ月です」

「......お主らにもついに春が来おったか」

「このクソ忙しい時にとは思いますけどね」

 

 やれやれと首をすくめつつ、少しだけ嬉しそうに笑う。なんやかんやで同棲も始まった後輩ちゃんと元指揮官ちゃんの関係はどうにかこうにかうまくいっているらしい。後輩ちゃんの恋はやっとこさ実ったのだ、全く、長い片想いだったな。

 

「で、結局本部に行くのか? 指揮官ちゃんと一緒に?」

「ええまあ。先輩は子供ができるので専業主婦って話ですけど、ついて来てくれますよ」

 

 それで、と前置きした上で後輩ちゃんが口を開く。

 

「ガンスミスさんはどうするんですか? それにナガンも。身の振り先をボクが知らないのはあと2人だけなんですから」

「ソレはおいおい話すさ」

「とりあえずやることを済ませねえとな。このチャンスを逃した日にゃ次はないんだからよ」

「やること? チャンス? 次?」

「決まっておるじゃろう」

 

 俺とナガンは共々ヘッドフォンを被り、機材の主電源を入れる。今日のために原稿は書いてきたわけじゃあないが、なに、アドリブでもどうにかなるさ。

 

「ラジオの収録」

「ここの職員が一堂に会するのはコレで最後なんじゃろう?」

「うちの名物でファンレターもたくさん届いてたんだ。しばらくは出来なかったし、最終回のお別れの挨拶くらいはなくちゃな」

 

 

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

 

「ガンスミスと」

 

「M1895ナガンの」

 

「「銃器紹介!」

 

ガンスミス

「このコーナーは銃についてあんまり詳しくない指揮官殿に銃器を解説する、というテイで銃を紹介、解説していくラジオ番組です」

 

ナガン

「偏見思い込み勘違い......そこは大目に見てほしいのう。間違いがあれば随時感想欄などにて受け付けているのじゃ」

 

ガンスミス

「性能諸元は主にWikiを参考にしています」

 

「「それでは、スタート!」」

 

 

 

 

 

「とは言っても、今日は銃紹介は無いんだけど」

「なんせ最終回じゃからのう。

戦争も終わった、G&K社も大幅にリストラが敢行されめでたく我々はお払い箱、てわけなんじゃなこれが」

「まー、うちの指揮官ちゃんは面倒見がいいからね。就活には困らないさ」

 

 軽くオープニングトークで最終回なことを告げて本題はここからだ。

 

「ざっと......-年間か......不定期とはいえ、よくここまで長続きしたもんだ」

「最初はただの趣味の思いつきだったものを。近くにいたせいで巻き込まれた身としては災難ではあったがな」

「それに最初はナガン自身を紹介しないっていうね! 全く、不親切にも程があるってもんよ」

「思い返せばゲストの扱いもぞんざいであるし、原稿もまぁ......読みにくければ話しずらいもの」

「よくやろうと思ったけど、なんせ人がついてきちゃあなぁ」

「数回続けてみれば面白かっただのためになっただの、そう言われてしまうとねえ」

 

 思い返せばそんなことのだけ。

 だけど、感想をもらってしまうってのは、それだけでしごく楽しかった。

 

「他所の基地に呼ばれもしたし、他所から放送したこともあったってか」

「P基地には随分と世話になったものじゃ」

「他のS地区基地にも行ったし、D地区にも行ったし......あと鉄血のヤベーやつに攫われたこともあったっけな」

「それだけ見ればひどい経歴よな」

「ま、どれもこれも揃えて俺のファンだの腕を見込んでだの......まったく、やんなっちゃうね」

 

 思い返せば拉致だのなんだのとひどい誘いもあったし、個人的なトラブルに巻き込まれたこともあった。逆にこっちが暴走したり迷惑をかけてしまったりってのもあった。

 

「ま、その付き合いもここまでって事だ。俺はいち市民に戻るし、ナガンは......聞いてないけどどうするの?」

「これでも本部所属。辞令あるまで待機ではあるが本部所属のボディーガードにでもなるじゃろう」

「なるほど、このコンビも解散ってわけだ」

「短いような長いような関係じゃったのう。戦友でもなし、親友でもなし、パートナーというわけでもなしと言葉にし難い間柄じゃったが......なんというと思う?」

「上手いこと形容できる言葉は思い浮かばねえが、ま、そういう関係だったって事でいいんじゃねえの?」

「......そうじゃな」

 

 俺は音が入らない様、少しだけゆっくりと拳を突き出す。その意図を察してくれたナガンも、同じように拳を突き出し、それを合わせた。

 

「とまあそういうわけだ。これからは少し寂しくなるだろうが......もし、S09地区で会う事があったら」

「そうじゃな。もし奇跡の様なことがあって。このコンビが再開することがあれば」

「「銃器紹介ラジオが復活するその時まで、またいつか!」」

 

 何も言っていなかったが、意思は通じ合っていた。

 

 さよならは言わない。またいつか。

 

「......じゃあな。また」

「そうじゃな。またいつか」

 

 そして俺たちは別れた。

 互いの道を進むため。互いの将来を叶えるために。

 

 

 

 

◇◇◇

 

「......ビバ、俺の店、開店!」

 

 あれから数年。流れの整備士としてG&K社の時のツテを使って金を稼いでいた俺はついに自分の店を持つことができた。

 銃を整備できる最低限の資材と、商品。そして趣味を叶えるための小規模なキッチン。

 

「......まー、今どき需要はねーけど」

 

 場所は土地代の安い裏路地で、店も居抜きのものを小改造しただけのこじんまりとしたやつ。少々の休憩スペースと、ついでに誰でも使える整備台を置いた鉄くさい様な甘い様な、中途半端な店。

 ケーキと銃が並ぶことになりそうなショーケースに寄りかかりつつ、久しく吸っていなかったタバコに火をつける。

 

「......アイツは元気にしてっかねえ」

 

 ちんちくりんのアイツの姿を思い浮かべる。胸くらいの高さで、時代がかった口調の、可愛い可愛い頼れる相棒。別れて以来、めっきり連絡は取ってはいない。

 もしかしたら初期化されたか事故で死んだか、忘れてしまったのか。

 

「......店主」

「おっと、開店は明日だぜ、おチビちゃん」

 

 ガラでもなく感傷に浸っているとキャスケットを被った子供が店の戸をくぐったらしく、ベルの音が響く。俺はタバコを咥えたまま適当にあしらおうと入り口の方を向いて。

 

 

  子供はまぶかに被っていたキャスケットをこちらに投げると、指にチラシを挟んで突き出した。

 

「バイト募集とは、書いてあったじゃろう?。 可愛い看板娘は必要か?」

「......オーライ。また世話になるな、ナガン」

「互い様じゃろう、ガンスミス」

 

久しく呼ばれていなかった名前と、変わっている様で、何も変わっていない彼女。俺は少しだけ込み上げる何かを見せるのが恥ずかしくて、手に持った帽子をナガンに乱暴に被せ、寄りかかっていたショーケースから起きて伸びをした。

 

「何をするか!」

「お? 店長に逆らうたぁ生意気なバイトだな?」

「やかましいわい! だいたいこんな店わしの様な可愛い娘がおらんと人が集まらんじゃろう。感謝して欲しいくらいじゃな」

「言ってくれるなオイ......!」

「お、やるか? わしは戦術人形じゃぞ?」

「やってやろうじゃねえかこのやろう!」

 

大人気なく飛び蹴りをかましながら、俺は笑った。

 

 

 

 

 ま。こんな騒がしい店ではありますが。

 

パティスリー『ブラックアイアン』をどうかご贔屓に。




短い間でしたが。ありがとうございました。



......もう少しだけ続いたりするんじゃよ?

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