仮面ライダーアーツ   作:CrackMasterMk03

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Ep.1-2

「テストを返す、赤城ー」

「はーい」

 

 夏も過ぎ去った秋の入り口。二学期の生徒にしてみれば、それはまさに一喜一憂するにふさわしい時期である。

 今日はテストの返却日。大変喜ぶ者もいれば、大変落ち込む者もいる。高校生にとっては「成績」というレーティングを下される運命の瞬間である。

 そんな試験であるが、相変わらず彼、水野海斗の点数は平均点ちょっと上であった。

 容姿も並み、運動能力も並み、頭脳も並みな彼はザ・普通と呼ぶにふさわしい人間。それが彼、水野海斗だった。

 

「水野ー」

「はい」

 

 テストが返却される。そこに書かれた点数は六十七点。授業の冒頭で発表された平均点は六十五点。またも平均より少し上だ。

 

「海斗、どーだったよ」

「別に。いつも通りだよ」

 

 隣の席の澤部が話しかけてくる。わかってるくせに、と思いながらも断る理由がないので答案を見せる。

 

「お前、やっぱり平均点くらいだよな。いいなぁ、俺なんて赤点ちょっと上だぜ」

 

 それは自慢げに言えたことではない、と思いつつも澤部の答案を確認する。三十二点。数学が苦手な澤部にしては頑張った方だな、という評価を脳内で下す。よく見ればケアレスミスばかりだったりするので、地頭はそんなに悪くないのでは、とも思う。

 

「お前、もうちょっと頑張れよ。ケアレスミスばっかだろ」

「そのあとちょっとがわからないんだよなぁ」

 

 塾にでも行けよ、と割と本気で思った。

 そうこうしているうちに、テストの返却が終了した。学生である彼らにとっては、つかぬ間の安息の時である。

 

「なぁなぁ海斗、今日AOに入るか?」

「入るよ。経験値ボーナス期間なんだし、今のうちにレベリングしておかなきゃだしさ」

 

 AOとは、現在社会現象にまでなっている世界初のフルダイブ型MMORPGである。その正式名称はART-imate Online。ヒーローからヴィランまで、戦闘から生産まで、幅広いプレイスタイルがウリのオンラインゲームである。

 無論、澤部も海斗もそのAOのプレイヤーであった。

 チャイムが鳴る。それは、その日の授業が全て終了したことと、テスト返却が全て完了したことを意味していた。

 

「よっしゃぁ、全部終わったぁ!はー、長く苦しい戦いだった……」

「大袈裟だよ」

 

 往年のゲームの名言を吐いて机に突っ伏す澤部。

 

「まだホームルームもあるんだしもうちょっと我慢しなよ」

「あーもう、早く帰ってAOしてぇ……」

「駄目だこいつ」

 

 そんな茶番をしているうちにホームルームも終了し、下校時間になった。

 そこにいる生徒のほぼ全員が、思い思いの時間を過ごすため帰宅の準備を始める。

 

「早く帰ろうぜ。もう我慢できねぇよ」

「ヤクでもキメてんのかうぬは」

 

 それは海斗と澤部も例外ではなく、二人は帰路についた。

 

「そういえばさ」

「ん?」

 

 澤部が語り出す。

 

「最近、妙な噂を聞くんだよ。AOでも、リアルでも」

「妙な噂?」

 

 海斗は、特に噂に心当たりはなかった。

 

「なんだそれ」

「ああ。なんでも、最近リアルで、AOの敵モブやヴィランに似た怪人が暴れてるらしい」

 

 突拍子も無いその噂に、海斗は顔をしかめた。

 

「流石に特撮の見過ぎだろ。なんだよ、怪人って」

「それが、結構マジらしいんだよ。最近増えてるだろ、ガス爆発事故とか、建物の崩落事故とか。あれは、その怪人の仕業らしいぜ」

 

 妙に真剣に語るので、海斗はその話に少し薄ら寒さを感じた。

 

「そんなことがあったら警察が黙っちゃいないだろ」

「それがどうやら、警察が揉み消してるらしい」

「まさか」

 

 そんな話をしているうちに、澤部と海斗の帰路の分かれ道に着いた。

 

「あの噂、結構マジらしいから気をつけろよ。じゃあな」

「ああ、また後で」

 

 そうして別れ、自宅への歩みを進める。

 しかし自宅への歩みを進めていると、その帰路の途中でガラの悪そうな三人組に絡まれてしまった。

 

「なぁ」

「俺たち、今金に困ってんだよね」

「ちょっとだけでもさ、分けてくれない?」

 

 なんとも典型的なカツアゲである。

 しかし、ごく普通の生徒である海斗は、その形相に完全に怯んでしまっていた。

 

「いや、僕、そんなにお金持ってないです……」

「いいからいいから、財布出してみなって」

「痛くしないからさあ、ね?」

「ちょっとカバンから財布を出すだけだって。簡単でしょ?」

 

 リーダー格と思しき大男が凄みながら、取り巻きとともに詰め寄ってくる。

 あまりにも頭が近くなってきたので、海斗はある脱出方法を思いついた。

 

「えっと、その……」

「なぁ、俺たち時間ないんだよね」

「そうそう、早くしてくれないかなぁ」

「ほら早く早くゥ」

 

 あまりにも凄むことに集中しているあまり、彼らは互いの顔が近いことに気づいていなかった。

 そこで。

 

「ちょっと待ってください……なっ‼︎」

 

 両手を大きく広げ、思いっきり挟み込んだ。

 ──三人の頭を巻き込んで。

 

「がっ」

「ぐっ」

「ぐぇ」

 

 そしてそのまま、悶絶する三人組をよそに、脱兎の如く逃げ帰ったのであった。


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