幕末・浪漫千香〜どんな時代でも、幸せになれる〜   作:秋藤冨美

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そこまで望んじゃいない

「次は京都、京都でございます。 」

 

アナウンスを聞き、荷物をまとめ始めた。旅行の日程は、あまり混まないであろう平日を選んだので、自由席でもゆっくり座ることが出来た。田舎から東京の大学に出てきた少女は、既に東京にある新選組所縁の地へは行っていた。その時ももちろん嬉しかったが、今度は新選組全盛期時代の屯所があった京都へ行くので、殊更テンションが上がっている。

ふと、もしあのとき地元の大学へ進学していたらと考える。実家から京都へ行くには、朝から電車に乗ったとしても、その後何時間もそのまま揺られなければ辿り着けない。おまけに、交通費も馬鹿にならず元々倹約家な彼女にとってはとても考えられない出費である。心底、都会に出てきて良かったと思う。

 

 

 

 

 

 

 

 

京都駅に降り立つと、ふわり、と駅独特の臭いが漂って来た。暫くその雰囲気を味わっていたいと思ったが、後ろから迫って来る降車客を感じ、普段の何倍か歩幅を広めて歩き始めた。コロコロとキャリーケースを転がしながらコインロッカーに荷物を預けようかと思ったが、時間とお金が惜しいと感じたためその足で向かうことにした。

 

「う、わあ。本物だぁ。写真でも資料でもない。 」

 

目に前にそびえ立つ建築物に歴史を感じ、感嘆の声を漏らした。

 

「八木邸って、確か、芹沢さん斬られちゃったとこだよね。 」

 

頭の中の記憶の引き出しを開け、目を閉じながら、幕末への想いを馳せた。そして、すぅ、と大きく深呼吸をして気合いを入れる。

 

「よし!新選組の皆さんお邪魔します! 」

 

軽く頭を下げて、足を踏み入れたその時だった。景色がぐにゃりと斜めに歪んだように見えて。心なしか、先程まで聞こえていた喧騒が急に音を潜めた気もする。

 

「え?今何が...。 」

 

「#誰方__どなた__#ですか?何用でこちらにいらっしゃるのです? 」

 

今何が起こったのか考える間も無いままに、背後から男の声が聞こえた。言葉遣いは柔らかいものの、言葉の端々には棘が感じられる。まさしく警戒しているときのそれだ。恐る恐る声のした方へ振り向くと。男の風体を目の当たりにして、少女は目を見張った。丁髷に、着物を着ていて、腰に刀まで差している。まさに今、自分の思考がどっぷりと浸かっている世界を具現化している様だった。驚きでその場に立ち尽くし、固まったままでいる無言の少女を脅すかのようにその男は腰に刺した刀に手をかける。こんな風体で現代を歩いている人など、おおよそコスプレをしているか、ドラマの撮影かの二つに一つだ。何処かにカメラは、と首を忙しく動かすがそれらしい物は確認できず。

シャキン...。男はとうとう痺れを切らして抜刀した様であった。そうして一陣の風が吹いたこと思うと。ピト。少女の首にはひんやりとした感覚と、ピリ、と少し身が切れたような感覚が走る。

...___分かった、これは夢だ。きっと、幕末の本の読み過ぎて夢にまで侵食を果たしたんだろう。なんて呑気に考えていると、はらりはらり舞いながら、少女の髪が切られてしまい、流れる様に落ちて行く。コマ送りの様にゆっくりと落ちて行く自分の髪を見つめて、地面に落ちたところで漸く自分が何をされたのかを認識できた。

 

「...髪は女の命って言うでしょーがあああ!!! 」

 

その刹那少女の足が男の腹へ伸び、数メートル先まで蹴飛ばした。その拍子に左頬も少し切れたが、そんなことは少しも気にならなかった。只々、切られた髪の束を見つめその場に崩れ落ちて。大部分を切られたわけではないが、髪を結った時にあまり見栄えが良くない程度まで切られていた。

 

「アア...折角伸ばしてたのに。例え夢の中でも髪を切られるのは嫌だよう... 。 」

 

ううっと袖口で涙を拭う。止め処なく溢れてくる涙がぽたぽたと地面を濡らし始めたときである。ダダダダッと騒がしい足音が聞こえたかと思うと、途端に視界が反転し、髪を引きずられるようにして何処かへと連れていかれた。

 

「組のやつを伸すなんて、並みの女じゃねえ。お前、全部吐かせてやるから覚悟しておくんだな。 」

 

思い切り髪を引っ張られた痛みに顔を引攣らせながらも、ちらりと相手の顔を確認すると。それは、見覚えのある、というか毎日見ている顔だった。土方、歳三。新選組副長として、後の世に名を残す人物。これは、夢にしては、出来過ぎているのではないか。土方なんかは、まるで写真から抜け出て来た様に見える。そこまで考えると、ジャリジャリとした感覚を背に少女は意識を手放した。次に目覚めたときには、元居た屯所跡に戻っていることを信じて疑わずに。

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