幕末・浪漫千香〜どんな時代でも、幸せになれる〜 作:秋藤冨美
翌日、千香は幕末に戻る術を探すべく屯所跡へと向かった。結局昨晩は一睡も出来ず、ただただベットに横になっているだけだった。頭の中でも、どうすれば戻れるのか、歴史を変えてしまえばどうなるか等とぐるぐる考えていたので、とてもじゃないが眠れなかったが。
「もう一度、中に入れば行けるかも!試す価値はあるよね! 」
初めてタイムスリップしたときは屯所跡に入った瞬間、グワンと空間が歪んだと思ったら、幕末にいたのだ。だから、もう一度同じ条件を揃えれば行けるのではないだろうか。あの日と同じ服、荷物で門を前にする。
どうか、戻れます様にと心で強く願ってから、屯所跡に足を踏み入れた。
「無理か...。だったらどうすれば帰れるの...。」
願い叶わず、屯所跡に入っても辺りの風景に変化は無く。
途端、千香の腹の虫が泣いた。こんな時でさえお腹が空くなんて、と呆れ返るも、早く幕末に帰る方法を見つけたいがために朝食を摂らずにホテルを飛び出して来たのだから当然である。
一旦仕方無いと諦め、近くにあったカフェへと立ち寄り軽食を済ませた。
悩んでいるときは、何か他のことをしてみれば自ずと答えが出ることもある。と誰かが言っていたのを思い出して、折角京都に来たのだから、純粋に楽しもうと適当に散策を始めた。
暫く歩くと、見覚えのある甘味処が千香の視界に入った。どうして知っているのだろうと、頭を悩ませていると無意識のうちに暖簾を潜り、店へと入ってしまっていた。
中は客で溢れかえっていて、なかなか繁盛していることが伺える。
「って、何で私お店に入っちゃってるのよ!用が無いんだから出なきゃ。 」
くるりと方向転換し、店を後にしようと引き戸に手を掛けた瞬間、背後から聞き覚えのある声がして千香は思わず後ろを振り返った。
「いらっしゃいませー。って、お客さんもう帰るんですか?まだ店の甘味一つも食べてへんのに。 」
「...お千代、ちゃん? 」
現代に千代がいては可笑しいが、千香の目に映った少女は千代以外の何者にも見えないため、思わず目を見張った。
「ちゃうちゃう。うちは千鶴言います。お千代は曾祖母ちゃんのお名前。お客さんよう知ってはるなあ。 」
ケラケラと、軽やかに笑うところ。可愛らしい笑顔。明るい雰囲気。
千鶴は、千代にそっくりだった。血が繋がっているからだろうか。千香はパチパチと瞬きをして、目を擦る。
「...すみません。お団子、一つお願いします。 」
内装はあの時代の頃とさほど変わっていない様で、千代が生きた証を残している様だと感じた。千代がこの店を守り抜いて、現在まで残していたのだ。
「ご注文ありがとうございます。お席はこちらです。 」
にこりと笑う千鶴に促され、席に着く。前に来たのは一五〇年前だ。なんて一体誰が信じるだろう。常識では有り得ないと一蹴されるのが関の山と言ったところか。
暫く待っていると、机に団子が置かれた。
「このお店、江戸時代から続いてるんです。団子の味もその頃からずうっと変わってないんですよ。あんまり知られてないけど、かの有名な坂本龍馬も団子を食べに来たこともあるそうで。...何やお客さん疲れてるみたいやし、ゆっくりしていって下さいね。 」
千鶴の言葉に、千香は思わず涙する。この店には、自分の生きた証も残されていたのか。道理で覚えている訳だ。
その様子に驚いた千鶴は慌てて訳を聞いた。
「ど、どうかされたんですか? 」
「いいえ。ただ、懐かしくて。あの頃に戻ったみたいです。 」
涙を手の甲で拭いながら、千香は答える。
それに千鶴は千代にそっくりな顔でふわっと笑って。
「あの頃?何やよう分かりませんけど、お力になれた様やったら、嬉しいです。元気、出してください。笑ってたら、自然と幸せを呼び寄せるって言いますよ。それじゃ、私は失礼します。 」
千鶴が去った後、千香は口一杯に団子を頬張った。
ぽろぽろと零れ落ちる涙と共に、幕末で過ごした思い出さえも無くなってしまう様な感覚を覚えてしまう。
「味、変わってない。美味しいままだね。お千代ちゃん。 」
それを打ち消す様に、千香は夢中で団子を口へと運ぶ。
団子を平らげ勘定を済ませると千香は店を出て、幕末に居たときに立ち寄った覚えのある店を巡り始めた。
日も落ちて来た頃、千香はもう一度屯所跡へ戻って来た。いくら考えても、ここ以外幕末に戻れそうな場所は無いという結論に至ったからである。
「今度こそ、戻れますように! 」
千香は瞼をギュッと閉じて、胸の前で両手を合わせて強く祈った。
自分には新選組を命を懸けて、護る覚悟があるんだ。だから、神様お願いします!
バクバク脈打つ心臓を落ち着かせる様に、大きく深呼吸をしてもう一度屯所跡へと足を踏み入れた。