幕末・浪漫千香〜どんな時代でも、幸せになれる〜   作:秋藤冨美

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江戸へ

それから、藤堂が江戸へ発つ日まで千香は秘密裏に準備を進めた。

予め藤堂に、自分も一緒に江戸へ行くという旨を伝えようかとも考えたが、当日になるまで黙っていることにした。何せ長旅になるので、藤堂が女子に負担はかけられないとかの理由で断られかねないからである。

 

沖田から事情を聞いていた近藤、土方に挨拶を済ませ、食事等の世話を井上に任せた。

伊東についてのことは悩んだ末、道中直接千香から話すことにした。出来るだけ傷つけない様に、説得しようと心懸けたいが、上手くいくだろうか。

そして、夜。旅支度をしながら、これからどうなるのだろうと胸に不安が募る。

風呂敷の結び目をキュッと結んで、深く溜め息を吐いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

翌朝、他の隊士たちが藤堂を見送りに立っていた。各々、お前は小さいんだから、童と間違えられてかどわかされんなよ。とか、俺も行きたかったぜえとか勝手に言っていた中、ひょっこりと千香が現れた。先程から藤堂は千香の姿が見当たらないと不安になっていた。それ故に、隊士たちから掛けられる言葉も右から左へと聞き流していたため、千香が居ることを確認することができ、ホッと胸を撫で下ろした。しかし、その装いは旅に行く様な物だったので、もしや。と嫌な予感がした刹那、その千香が確信を持たせた。

 

「皆さま!私も、平助に同行します。食事とかのことは井上さんに任せておきましたので、御心配には及びません。近藤さん、永倉さん、尾形さんに武田さん。後程江戸でお会い致しましょう。では行って参ります。 」

 

千香は隊士たちにゆるりと頭を下げると、藤堂の側へと駆け寄った。

 

「平助。道中よろしくね! 」

 

千香は弾ける様な笑顔を藤堂へ向ける。これからやらなければならないことを思うと、不安しか無いが、決して顔に出すわけにはいくまいと顔に笑みを貼り付けた。

 

「千香!!どうしてついて来るんだ!京から江戸へは遠いことくらい分かってただろう? 」

 

藤堂としては、千香の予想が当たった様で、女子に長旅は辛いだろうし、これは隊務なのだから、千香に危険が及ぶかもしれないと思っている様だ。少し声を荒げて言った。

 

「分かってるよ。でも、なんだか、一人旅って寂しいでしょう? 」

 

それを知ってか知らずか、千香は冷静に返した。そして、藤堂の手を引いて歩き出す。

 

「皆さーん!お元気で!不摂生な生活しちゃ駄目ですよ! 」

 

遠ざかって行く屯所から、ここでも魁先生なんですねー、清いお付き合いを頼んだぞ!という声が聞こえなくなってきた辺りで、千香は藤堂の手を離した。

藤堂は有無を言わせない勢いで連れて来られたため、近藤たちとろくに話もできなかった。それに少し拗ねて、唇を尖らせているとクスリ、と笑うのが聞こえた。

 

「笑うことないだろ!俺がこんな顔してるのは、千香の所為なんだからな。 」

 

「ふふっ...。ごめん。でも、後から近藤さんたちも来るんだからいいじゃない!それに、帰ったら皆に江戸ではどうだったか話す楽しみができるでしょう?隊務も捗るはずよ! 」

 

藤堂は屈託無く笑う千香に、仕方がないか、と折れた。眉を下げて、愛おしそうに笑いながら。

 

「まあ、千香は俺より二つ年下だからなあ。年上として、許してやらねえとな。 」

 

藤堂はニヤリと口角を上げ、ふふん!と踏ん反り返った。

 

「何よー!たった二つじゃない!そんなの無いに等しいわよ! 」

 

「いーや!年上は年上だ!敬うのが筋ってもんよ! 」

 

「もう、そんなこと言っちゃお嫁さん貰えないよ!なんか、頑固なところあるよね。平助って。 」

 

「そうか?というか、千香が俺と夫婦になってくれるんだろ?だったら何の問題も無いだろ! 」

 

「め、おと? 」

 

千香は藤堂の言葉に、どこか違和感を感じ思考を巡らせた。そうだ。今まで特に意識せず話していたから、忘れていた。自分はこの時代の人間ではない。だから、藤堂と恋仲になろうとも、結婚はできない。藤堂が助けられれば、一緒になれると、浮かれて、忘れて。馬鹿だ。そもそも、自分は異質な存在だったじゃないか。

 

「千香?どうしたんだ? 」

 

藤堂は急に立ち止まり、その場に立ち尽くした千香の顔を覗く。傷つける様な言葉は言っていないつもりなのだが。無表情で固まったままの千香を前に、おろおろし始めた。

 

「ごめん!俺、気付かない内に非道いこと言ったかもしれない。本当にごめん。 」

 

頭を下げて、地面を見つめながら千香の声を待った。何も出発した日に喧嘩することはないだろう。でなければ、残りの道中気まずいことこの上ない。

 

対して千香は、藤堂が困り果てていることなど露知らず。たった今自分の置かれている立場を再認識し、それに身も心も支配されていた。

側から見れば、若夫婦の痴話喧嘩と言ったところであるのだろう。先程から行き交う人全員が、苦笑を漏らしていた。こんな目立つところで何をやっているのか。

藤堂が時々助けを求めて目線をやっても、直ぐに逸らされる。

 

「平助。行こっか。ごめんね。ちょっと、頭痛がして...。 」

 

藤堂の手をギュッと握り、千香は漸く言葉を発した。

 

「い、いや。大丈夫?風邪じゃないといいけど。 」

 

それでも、まずは。

藤堂を助けると決めたのだから。この温かい手を、守るためなら。

傷つけてしまうかもしれないけれど、目を背けずに真実を伝えよう。

 

「平助、あのね...。 」

 

どこか遠くを見る様にして、千香は切り出した。

 

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