幕末・浪漫千香〜どんな時代でも、幸せになれる〜   作:秋藤冨美

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報い
人を愛するということ


千香が離れた後も、暫く藤堂の思考は停止していた。唇に温かいものが触れたかと思うと、目の前に千香の顔があったのだ。その状況を飲み込めないで居ると、千香が離れ、頬に泣いた跡が見えた。

 

「...。千香、江戸への道中から何か様子が変だ。悩み事があるのなら、相談して欲しい。一人で抱え込んでいる姿なんて、見たく無いんだよ....。 」

 

千香の涙の跡をなぞりながら、藤堂は何処か寂しそうな顔をした。自分では、役不足なのか。話を聞くことすらも、満足にできないと言うのだろうか。

 

「今まで、千香が沖田さんに何でも相談してきたのは知ってる。でも、俺たち恋仲だろう?少しくらい、痛みを分けてくれないか...。 」

 

「ごめん。こればかりは平助には言えない。ごめんなさい...。 」

 

間髪を入れず、千香が返した。藤堂はそれに諦めの表情を表した。

 

「分かった...。やっぱり男と女だからな。言いにくいことも、あるよな。 」

 

藤堂は目線を下にして、うまく見つからない言葉を拾っていく。

 

「...でも、私が特別沖田さんを頼っているわけではないの。あの人を兄の様に思っているから、きっと相談しやすいだけ。だから、決して平助が頼りないとかそういうんじゃないの。誤解しないで。 」

 

頬を拭いながら、千香は弁解した。心の底から、藤堂を大切に思うからこそ、この件は自分で落とし前をつけなければならない。この先も、一緒に生きていたいと願うのならば。

 

「...うん。早く解決すればいいね。 」

 

千香にも何か思うところがあるのだろうと、藤堂は表情と言葉からこれ以上の深入りは不要だと悟った。

千香は藤堂のその顔に胸を痛めたが、駄目だ。と心の中で振り払う。

 

「...ああ!そうそう。私、伊東さんに呼ばれてたの。そろそろ行かなきゃ。 」

 

本当は呼ばれてなどいない。しかし、このまま何もせず伊東が来るのを待つのは、癪だと思った。

 

「いってらっしゃい。蒲団、敷いて待ってるよ。 」

 

藤堂もまたそれに勘付いたのか、少し腑に落ちないと言った顔をしながらも、千香に言葉を向ける。少し着崩れた着物の裾を直しながら、千香は立ち上がった。

 

「それじゃ、行ってくるね。遅い様だったら、先に寝ててもかまわないからね。疲れてるだろうし、無理しちゃ駄目よ! 」

 

「うん。じゃあ、無理しない程度に。 」

 

二人は目と目を見合わせると、千香が手を振りながら襖を開けて部屋から出て行った。

 

「俺じゃ、駄目なのかよ...。辛いときに側にいても力になれないんじゃ、無意味だろ...。絶対死なせないって、どういうことなんだよ。教えてくれよ...ッ! 」

 

藤堂の呟きが一人きりの部屋に消えていった。

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