幕末・浪漫千香〜どんな時代でも、幸せになれる〜 作:秋藤冨美
藤堂の手を借り、無事買い物を終えた千香は道場に戻ると急いで昼餉の支度を始めた。
幸いまだ鐘が九つ鳴る前に帰ることができたので、伊東を待たせるといったことにはならなかった。今日伊東は荷造りのために、家を開けることはないので伊東の分の昼餉も作らなければならないのである。敵である伊東に塩を送るというのは快く無いが、買い物にと金を握らされてしまったので、買わざるを得ない。
「ええと、お味噌汁とお魚と...。こんなもんでどうかしら。 」
二人分の膳を用意し、その一つを持って伊東の部屋へと向かう。
部屋の前に着くと、千香は声をかけた。
「伊東さん、昼餉用意できたので召し上がってください。ここに置いておきますね。 」
返事も聞かぬまま、厨房へと引き返して自分も昼餉を摂った。
「流石に二度も一緒に食べる気はしないわ。というか朝餉の時は、なんか、寂しそうに見えたからであって...。断じて気を許したっていう訳ではないから。うん。 」
今更ながら、千香は今朝の自分の行いに疑問を持っていた。しかし、考えれば考えるほどよく分からず。
「や、まあ、誰でもあの状況だったら、一緒にどうですかって聞いちゃうよね!そうだよね! 」
いつまでも一つの物事に囚われていては拉致があかない。他にも考えるべきことや、やることがたくさんあるのだから。と無理矢理結論を出してしまう。
「さてと、私もちゃちゃっと昼餉済ませちゃお。 」
なるべく早く、しかしよく噛んで、昼餉を平らげた。
膳を下げに伊東の部屋へ向かうと、空になった器が見受けられたので、ちゃんと食べてるな、よしよし、と頷きそうになる、駄目だ。と気を持ち直して。
寂しい気持ちは、自分も体験したことがあるのでそんな時にはそばに誰か居て欲しいものだということが分かっていた。
だから、だ。自分は懐柔などされていないのだ、と言い聞かせつつ、千香は膳を持って厨房に移動した。
厨房に立ち洗い物を済ませると、夕方には近藤たちが江戸に着くのだというのを思い出し、部屋の掃除をと思い立つも。
「って、里帰りならまず実家に行くんじゃ...。ああ!気付かなかった。なら、ここに来るのはもう少し後になるよね...。 」
自分の早合点で、てっきり近藤たちはこのまま伊東道場に来るものだと思っていたのだ。冷静に考えれば、そんなことはあり得ないのに。
「実家...。ってことは、試衛館よね。ッ!!行きたい!生のこの時代の試衛館なんて、新選組ファンだったら絶対見るしかないよね!!下手したら、彦五郎さんやノブさんにも会えるかもしれないし!これは、行くっきゃない!! 」
瞳を爛々と輝かせ、久々に込み上げて来る熱い想いを噛み締めた。元を返せば千香も、唯の一新選組ファンなのだ。近頃は色々なことに奔走していたために忘れかけていた情熱が芽を出したとあれば、もう誰の制止にも耳を貸す気は無い様だ。
「ああッ!でも、此処から試衛館の行き方分からない!...仕方ない。また明日にしよう。平助に教えてもらいながらゆっくり迷わないようにしなきゃ。はあ...。取り敢えず、掃除するかあ。 」
深くため息をつきながら、千香は箒を手に取った。