幕末・浪漫千香〜どんな時代でも、幸せになれる〜 作:秋藤冨美
九月一五日。この日、小島鹿之助が試衛館を訪ねてきて近藤と面談していた。
「小島鹿之助さんと言えば、佐藤彦五郎さんと近藤さんと義兄弟の契りを交わした人!!これは、見るっきゃない!でも、くれぐれも、羽目を外しすぎないように本来の目的を見失わない程度にしなきゃ。...ッは!近藤さんにまだ伊東のこと言ってないじゃない!ああ私ったら何やってんのもう! 」
近藤が江戸を案内してくれると言うので、千香は朝から藤堂に連れられ別れた後試衛館に来ていた。しかし、さて行こうかとなった所で小島が訪ねて来たため、案内はその後に回されることになったのである。そしてまたもや、いつぞの松本捨助が訪ねて来た時の様に襖をほんの少し開けて中を覗こうと画策していたのだが。実は伊東の件が深刻な事態になりつつあるのだということを近藤に伝えるのを忘れており、一人青ざめた顔をしていた。
「いっちばん大事なことじゃない!それこそ今すぐ近藤さんに言わなきゃいけないことだけど...。小島さんが来てるから、駄目よねえ...。 」
どうすれば、と廊下を右往左往していると。スーッと襖が開いて、近藤と小島らしき人物が顔を覗かせた。襖を開けたのは近藤で、千香と目と目があった瞬間得も言われぬものを感じ、ぽかんとした顔をしてしまった。
「す、すみません。お邪魔ですよね。あっちへ行っています。 」
ぺこりと頭を下げ、踵を返そうとした時、近藤が焦って千香を呼び止めた。
「待ってくれ森宮さん!実は鹿之助さんに森宮さんのことを紹介しておこうと思ったんだが...。大丈夫かい?何だか顔色が優れないようだが。 」
「そ、そうだったんですね。そんなに顔色、悪く見えますか?最近あまり眠れないので、そうなのかもしれませんね。 」
千香は咄嗟に嘘を吐いた。小島のいる前で話をしないほうがいいと思ったからだ。小島は近藤の義兄弟ということもあり、度々相談相手になっているので新選組のことで知らないことは無い。だから、伊東の話も藤堂の話も耳に入れば更にややこしいことになり兼ねないのだ。きっとそれを知ったならば、組の人間ではないのに世話をかけてしまうことになる。組内でさえ上手く処理できないものを、外の人間に無闇に頼るのは良くないと思えたのだ。
「そうか...。実は私もそうなんだよ。最近は何かと忙しくてな。お互い体には気を付けねばな。 」
うんうんと腕組みをして頷いている近藤の側に、小島がぬっと歩み寄って。
「勇さん。話しているところ悪いのだが、この方を紹介してくれるつもりだったのではないか? 」
おいおい、と軽くツッコミを入れるかの様に小島が近藤に言った。
「おおっ!すみません。すっかり忘れていた。...こほん。こちら、森宮千香さん。主に組の賄いや掃除、隊士たちの健康管理をしてもらっています。 」
近藤が言い終わると千香は軽く頭を下げた。
「こちらは、小島鹿之助さん。紹介は...。特に言わずとも知っていそうだから大丈夫か。 」
千香がえ、と近藤を見ると、案の定小島が怪訝そうな表情を浮かべていて。
「こ、近藤さん、 」
後に続くであろう言葉を遮ろうとするも、
「実はな、森宮さんは先の世から来たんだ。 」
既に時遅し。
「はあ。勇さん、一体それは何の冗談なんだ? 」
全く近藤の言うことを理解出来ないと言った風に、小島は呆れ顔を浮かべた。恐らく気の置けない仲である二人の間では、こういった冗談も多いのだろう。だが、今は違うのだ。
「冗談なんかじゃなくて、本当のことを言っているんですよ。森宮さんは、本当に先の世から来たんです。鹿之助さんに隠し事は作りたくないので。 」
最初の時は命がかかっていたのと、新選組を救いたいと思っていたためやむなく事情を話したが、今回はその必要は無いのだ。本当は、無闇に自分が未来から来たことをぺらぺらと話すつもりなどない。だから、いくら近藤と小島が義兄弟の契りを結んでいるとはいえ、自分の秘密を許可も無く明かされては良い気分はしない。しかし、近藤に助けられた手前その旨を伝えるのには少し勇気が要った。
「...まあ。勇さんが言うなら、本当なんだろうな。その様子じゃ、歳三もそれを信じている様だし。 」
流石、と言うべきなのだろうか。近藤の言葉に一点の曇りもなく、首を縦に振るのは。しかし、それで信じるにはあまりにも安直過ぎるのではないだろうか。
「あ、あの。小島さん。何でそんなに簡単に信じられるのですか? 」
千香が恐る恐る尋ねると、
「答えはいたって単純だ。なぜなら勇さんは今まで一度も嘘を吐いたことがないからだ。そういう一本気なところに惚れて、私は義兄弟の契りを結ぼうと思ったんだ。 」
そう、けろり、と返してみせた。
「これからも勇さんや歳三を頼んだぞ。森宮さん。 」
「は、はい。 」
やはりこの二人の間には、千香の理解の及ばない関係がある様だ。