幕末・浪漫千香〜どんな時代でも、幸せになれる〜   作:秋藤冨美

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歴史は変えられる

明里が屯所を訪れた翌日。昼餉が済んだ後、膳を下げ食器を洗い終えたその足で千香は副長部屋へと向かった。昨日の山南と明里の姿を見て、より一層二人を引き裂かせてなるものかと心に誓っていたからだ。

 

「土方さん、失礼します。 」

 

部屋の前に着くと、心なしかいつもより荒々しい声で千香は聞いた。戸を開け、目線を上げると。一瞬息を忘れそうになった。

 

「沖田さんに、平助? 」

 

既に部屋にいた二人の姿を確認し、千香は瞠若した。昼餉の後足早に二人連れだって何処かへ向かうのを見たと思えば。もしかすると二人の要件が済んでから、出直すのがいいかもしれない。

 

「ほら。やはり千香さんも来ました。これだけの人間が揃って訴えているんですよ。 」

 

沖田が千香に目をやりながら、土方に言う。

 

「いや、俺たちだけじゃない。山南さんを心配しているのは、新選組隊士全員なんだよ。もし山南さんが追い詰められていると知ったら、同じことをすると思う。だから、どうかお願いします。 」

 

藤堂は土方へ深く頭を下げて。千香も状況を把握し、近藤からも許可が下りている旨を伝えた。そうして暫く静かさが走った後、土方が口を開いて。

 

「...分かった。近藤さんがそう言うなら、仕方あるまい。 」

 

その瞬間、千香は心がパアッと晴れて何故だか涙が溢れてきた。藤堂も沖田も涙ぐみながら、土方に頭を下げた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

沖田と藤堂の二人は隊務があるから、と別れた後千香は山南の部屋へと向かった。その足取りは宙へ浮かびそうな程軽く、と同時に心底ホッとしていた。

 

「山南さん、森宮です。入ります。 」

 

「どうぞ。 」

 

明里と会ってからというもの、返事の声も幾分か明るくなっていた。今朝千香が朝餉を運んできた時も、笑顔が増えていて良かったと安心していた。それで、正式に休暇が許されたとあればもうすぐにでも元気になるかもしれない。千香はニコニコしながら、山南の部屋へと足を踏み入れた。そして布団から起き上がった山南の側に座る。

 

「山南さん、お加減いかがですか? 」

 

「もう、だいぶ楽になってきた気がするよ。いつもすまないね。 」

 

そう言う山南には笑顔が溢れていて。千香もそれに笑いかける。

 

「いいえ。...ところで、山南さんにとても良い知らせがあります。 」

 

「...まさか、本当に許しが出たのかい?よく土方くんを説得できたね。」

 

皆まで言わずとも、千香が何を言わんとしているか分かり山南は驚倒した。

 

「はい。どうかゆっくり、休んで下さい。 」

 

千香は心からの笑顔を山南に送った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

女中部屋へ戻ると、もしかするとと思い、久し振りに史料本を開いてみる。

 

「...変わっとる。一八六五年、元治二年。二月三日。土方が山南に休暇を出す。...やっぱり、歴史は変えれるんよ。ほんなら、あの夢に深い意味はないよね。生きとる人の力が、時代を作っていくんじゃけん。ほんなら、平助も助けれる筈よね。 」

 

土方に蔵に閉じ込められた時に見た夢が、今まで千香の不安を払拭出来ないでいた。しかし実際には山南の運命を変えられたのだ。これでもう、誰かを救おうと行動する度に感じてきた心労が消える。結局あの夢は、意味を成さないものだったのだ。ふうと息を吐き出し、パタンと史料本を閉じると、ふと龍馬のことが脳裏によぎった。近頃あまり手紙が届かないが、今はどこで何をしている頃だろうか。今まで新選組のことで手一杯になっていたため、気にする余裕もなかった。

 

「また、手紙書いてみよかな。折角知り合いになれたんやもん。ほんで、出来たら龍馬さんも助けたい。絶対明治になっても生きとったら、今と違う日本作った思うもん。...って、もしかしたら、戊辰戦争起こさずに済むかもしれん。幕府と新政府が手を取り合って、戦以外の道を見つけれるかも。 」

 

千香は史料本を見つめながら、あらゆる可能性に胸を熱くさせた。誰も傷つけずに、国を変える方法を探していきたいと。そしていつか。自分が元の世に帰る時が来ても、笑って帰ることができるように、心残りを残さないようにしなければと。

 

「あ、でもそうなったら、幕府側の偉い人と知り合いの方が都合ええかも。...あ。松平容保さん。丁度新選組がお世話になっとる人やけん、会える可能性高いね。今度近藤さんとかについて行ってええか聞いてみよ。 」

 

部屋の周りには誰も居ないだろうと、千香は思いついたことをどんどん口に出してしまっていた。事情を知っている人間ならまだしも、新選組には話を聞かれては都合の悪い人間というのも居るのだ。千香はそれをすっかり忘れてしまっていたのである。

 

「そう易々と、上手くいくでしょうかね。私にはそうは思えませんが。 」

 

 

 

薄気味悪く、女中部屋の前で参謀が笑った。

 

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