幕末・浪漫千香〜どんな時代でも、幸せになれる〜 作:秋藤冨美
「それでは山南さん。また会おう。ゆっくり休んで帰ってくるのを待っている。 」
これから暫くの間長期休暇を出された山南を隊士総出で見守る中、近藤が切り出した。近藤の隣には幹部が続き、その後ろに平隊士が連なっていた。あまり背の高くない千香はその隙間から様子を伺うしかなかった。こういう公の前で幹部と並んで前に行くのも憚られたからである。明里は屯所を出た後、迎えに行くらしい。
「本当にありがとう。早く治して、また皆と共に隊務に励みたいと思う。そして、森宮千香さん!出てきてくれないか。 」
その瞬間、千香の目の前に立っていた隊士たちがバッと振り返った。一斉に大勢の視線を浴び、ギョッとしていると、後ろに回った一人に背中を押されて山南の目の前までやって来てしまった。
「あ、あの...。 」
突然連れてこられたので何と言っていいかよく分からず、苦笑いをしてしまう。山南はにこりと笑って、
「貴方のおかげだ。息詰まって行き場のなかった私が、今こうして晴れ晴れとした気持ちでいれるのは。心に寄り添って親身に話を聞いてくれたからこそ、また笑顔になれたのだと思う。 」
「いいえ。私だけの力ではありませんよ。幹部の皆さんや、他の隊士の方々、明里さんも山南さんのことを心配して色々協力して下さったんです。 」
千香は近藤たちに目をやりながら、山南に言った。
「ですから、お礼を言うなら皆さんに言ってください。 」
千香も山南と同じ様にふわりと笑った。
「ったく、ほんまに千香は無欲やね。ちったあ自分がいい目みてやろとか思わんのん? 」
原田が呆れ気味に、顔を歪める。それを藤堂が制して。
「千香はそういう奴でしょう?だからこそ、俺たちも気兼ね無く隊務に集中出来るのではないでしょうか? 」
「そうですよ。原田さん。今まで共に過ごして来て分かっている筈です。 」
沖田も藤堂に頷き。
「おいてめえら!今は山南さんの見送りをしているんだろうが!森宮なんぞどうでもいい。 」
「そうですよ。暫く会えなくなるんですから、心行くまでたくさんお話しなさるほうがいいと思います。 」
少し眉をピクピクさせながら、千香も土方へ同意した。
「それでは、行こうと思う。 」
各々山南と挨拶を済ませると、近藤の後ろへ下がった。まだ言い足りない様子だが、これ以上留まると離れ難くなるのだろう。
「達者でな。山南さん。 」
近藤が皆の気持ちを代弁するかの様に、山南へ言う。千香はにこりと笑って深く頭を下げた。山南も深く頭を下げると、荷物を抱え直し踵を返して門の外へと向かって行く。
「山南さん!どうかご達者で!! 」
藤堂が一歩前に出て声を飛ばした。それに続いて、他の幹部たちも各々声をかけていく。そうして、平隊士たちも手を振り始めた。その声を受けてか、山南も足を止めこちらへと向き直り、
「皆さんもご達者でお過ごし下さい! 」
と言った。暫く近藤達に視線を送った後、また踵を返して足を進め始めた。これで、山南の運命が変わったのだと千香は確信した。