幕末・浪漫千香〜どんな時代でも、幸せになれる〜   作:秋藤冨美

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新しい屯所

新しい屯所に移ってから早二〇日。なんやかんやで部屋割りや荷解きを始めていたものの、土方たちを送り出したりでまだまだほとんど手付かずのままであった。残っている沖田、永倉、原田、藤堂を中心に指揮をとるも、やはり土方の様に上手く采配出来ず。千香はどうしたものかと、縁側でふて腐れていた。

 

「いっつも、どかたにはムカつくけど、居らんなら居らんでこうも困るとは...。ああ。私にどかた並みの指揮執れたらなあ。 」

 

膝を抱え込んで、大きく溜め息を吐いた。

 

「でも、いつまで悩みよっても状況は変わらん。ほんなら、自分が出来ることから始めるべきや!ようし! 」

 

すっくと立ち上がると、箒とちりとりを持ってまだ掃除が済んでいない部屋へと向かう。荷物を運び込むのは、とてもじゃないが自分一人の力では出来ない。とすれば、自分に出来るのはいつでも荷物を運び込める様環境を整えることだ。障子を開け、ようしとたすき掛けをし気合いを入れる。

 

「でも、結構片付いとるなあ。お坊さんらが、気使うて掃除してくれたんだろか。後でお礼言いに行こ。 」

 

部屋の隅から隅までじっくりと見てみると、予想に反して片付いていたことに少し罪悪感を覚えた。西本願寺に屯所を移したのも、土方の一方的な勧告だったと聞く。だから、それが確定した時点で寺の坊主たちが慌てて部屋の掃除をしたのかもしれない。まあ、掃除も日課の一つらしいが。

 

「誰か居るー?って、千香か。掃除してくれたんだ。有り難う。 」

 

途端、障子が開いて声が聞こえた。くるりと、その声の方へ向き直すと、

 

「私で悪かったねえ。掃除してないよ。しよ思て、部屋来たらもう既に掃除されとったんよ。 」

 

あ、と気づいたときにはもう遅く。藤堂は、ニヤリ、として。

 

「千香、とうとう方言とやらが出た。なんか何処と無く原田さんと語感が似てるなあ。 」

 

「ああ。もういかん。標準語、話せんわ...、」

 

へなへなと力無く崩れ落ち、両手で顔を覆う。しかし、それも藤堂によって素早く制され。羞恥で赤らめ、薄く涙を浮かべた顔をまじまじと見つめられる。

 

「いいんだよ。もっと話してよ。これが本来の千香なんだろう?こっちの方が、俺に心を許してくれてるんだなって思えるから。 」

 

ぎゅっと口を結んで、首を横に振ろうとしたとき。

 

「それに、方言で話してる方が、なんか、...可愛いし。それに、もっと触れたいって思う。 」

 

藤堂の手が千香の頬を包み込み、冷たいその手が熱くなった顔を冷ますのに丁度いい温度で、千香は目を細めた。その仕草が、触れて欲しいという合図かと思ったのか、気付けば藤堂の顔が目の前にあり。

 

「ちょ、へ、すけ!待って。ん...!! 」

 

息をする余裕も与えない程、激しく口付けられる。次第に腰が砕け、力が入らなくなり床に背中をつけてしまう。すると、藤堂も千香を床に縫い止めるかの様にして、口付けを続けた。

 

「ま、だ。外明るいよ。せめ、て。は、あッ!夜にして...んッ! 」

 

必死にそう訴えるも、一向にその嵐は治ることを知らず。いつもならこういう時に限って、誰か部屋に来るものなのだが、生憎今日は誰も来ない。千香の足の間に、藤堂の足が割り込む様に入った。そして、手が着物の合わせにかかりするりと肩まで下され。これ以上は。と藤堂に制止を図ろうと、両肩を叩くもビクともせず。やはり背丈は自分と変わらずとも、毎日鍛錬しているため力では到底抗えない。藤堂の手が千香の足を撫でる様に触れ始めたところで。

 

「へ、いすけ。怖い。やめ、て。 」

 

無意識に流れ出た涙が、千香の声を震わせ。そこで漸く、藤堂が正気を取り戻した。

 

「...ごめん。千香の気持ちも確かめないで急にこんなことして。でも、嫌わないで欲しい。俺、俺...。千香のことを本当に好いているから、こういうことしたいって考えちまうんだ。好きでもない女と、こんなことしたりしない。 」

 

千香の上から苦虫を潰した様な顔で、藤堂は言う。はだけた胸元を隠しながら、千香も、

 

「分かってる。私も、いつかはって思ってた。でも、急すぎると心の準備が出来てなくて怖いって思っちゃうから...。 」

 

涙を流しながら、体を震わせた。藤堂は力の入らない千香の体を起こし、着物の合わせを直し。

 

「本当にごめん。俺さ、時々自分がこうしたいって思うと抑えが利かなくなることがあるんだ。頭では分かってても体が動いちまう。千香に怖い思いをさせようなんてこれっぽっちも思っちゃいない。でも、さっきは、怖い思いさせちまった。男として最低だ。 」

 

「ううん。そんなことない。ただ、もう少し、待って欲しいの。今はまだ心の準備が出来てないし、やることがたくさんあるから。 」

 

ぎゅっと硬く握り締めた藤堂の手を、千香の手が優しく包み込んで。

 

「だから、今は平助の気持ちに応えられない。ごめんなさい。 」

 

目を伏せて、額をコツンと藤堂の肩に当てて。

 

「分かった。じゃあ、心の準備が出来てやることが全部終わったら、...覚悟しておいて。 」

 

またニヤリと、藤堂が口角を上げる。顔が見えずとも、声だけでその表情は容易に想像出来て、千香はこれ以上ない程顔を赤らめた。

 

「か、くご。って....。そんな、私恥ずかし過ぎて。...んッ! 」

 

ふと顔を上げると、上からまた口付けが降ってきて。そうして、耳元で囁かれる。

 

「次の日、歩かせる気ないから。 」

 

いつもよりも低く艶めかしい声に、ゾクリと背中に何かが走る様な感覚がした。その時どうなってしまうのだろうと思いながらも、藤堂になら何をされても良い、と思えてしまった。

 

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