幕末・浪漫千香〜どんな時代でも、幸せになれる〜   作:秋藤冨美

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確実に

あの後千香が目を覚ましたのは次の日の朝のことだった。やってしまった!と起き上がり身支度を整えようとしたとき。

 

「千香さん。入りま、...。 」

 

「へ?おきた、さ...。きゃあ!んんッ! 」

 

襦袢を変えようと着替えている最中に沖田が部屋に入って来て、一瞬思考が停止した後。叫び声をあげそうになるも。

 

「静かに。 」

 

後ろから抱え込まれ口を塞がれて。息も出来ず、開いたままの襦袢の前から胸元がちらちらと覗くが、それを隠すことも出来ず。

 

「あ...。すみません。 」

 

それに気が付いた沖田が千香を解放した。

 

「ふ、普通、着替えよる、ときに入って、こら、れたら叫ぶに決まっ、とるやないですか! 」

 

息を整えながら、襦袢の前を合わせて沖田と距離を取る。

 

「土方さんの気が立っているので、朝から騒ぎがあってはいけないと思って。でも、どうしてよりにもよってその姿なんですか! 」

 

「そ、そんなこと言われても困ります! 」

 

「けどこの姿を見たのが平助か私ではなかったら、大変なことになっていましたよ。 」

 

「というかその前に、一声かけて下さいよ。 」

 

いつまでも見られているままでは着替えも出来ない。と沖田に目で訴えるも。

 

「それでも、貴方を好いている私が貴方のその姿を見たらこうしてしまう。 」

 

警戒して取っていた距離が瞬時に詰められ、両手首を掴まれてしまう。

 

「え?きゃ、...なにするんですか! 」

 

「どうして平助なんですか。 」

 

気付けば背中に壁がついており。逃げ場はない。

 

「苦しく、ないのですか。 」

 

「何、がですか? 」

 

「昨日、体調が優れないから休んでいた様ですが...。 」

 

「あ、ああ。ご迷惑をおかけしました。もう快調なので心配しないで下さ、 」

 

「私なら、貴方を縛り付けたりなんてしないのに。 」

 

「すみません。離して下さい。 」

 

目を逸らしているのに、沖田は片手で両手首を頭の上にし千香を自分の方へ向かせ。熱のこもった瞳で千香を捉え。まずい、と思い逃れようとするも、流石に力の差は歴然だった。

 

「私なら、貴方を泣かせたりしないのに。 」

 

「沖田さ、...んん! 」

 

沖田が千香の唇を塞いだ。嫌だ、止めてほしいと思うのと裏腹に、沖田は千香を逃れさすまいと口付けが深いものへと変わっていき。

 

「ッ!い、や。やめ、んんん! 」

 

ふと唇が解放されるも、再び沖田の熱のこもった瞳に見つめられ。千香は目が反らせなくなってしまう。

 

「千香さん、何故私ではないんですか。 」

 

「やめて...。沖田さんとは、兄妹みたいな、かんけ、でおり、たいッ。 」

 

視界がぼやけて、前が見えない。けれど、切れ切れでも言葉を紡がなければ。目を、覚ましてもらわなければ。

 

「けれど、私は...。いや。千香さん、すまない。私は取り返しのつかないことを...。 」

 

千香の涙を見て漸く自分の行いに気が付いたのか、沖田は千香の拘束を解いた。

 

「いつも自分に言い聞かせていたはずなのに...。 」

 

沖田は少し後退りしながら、頭を抱え下を向いて呟いた。

 

「おき、たさん。 」

 

千香はそれにどう声をかければ良いか分からず、声を詰まらせ。すると沖田は急に咳き込み始め。嫌な、予感がした。これは、絶対に。

 

「げほ、げほ...。ごふッ!! 」

 

「沖田さん!?血、吐いてしもとる!誰か!誰か!!来て下さい!! 」

 

案の定、沖田は喀血しその場に崩れ落ちた。千香は沖田を支え背中をさすりながら、声を張り上げた。咳がある程度落ち着くと、誰か来ても良いように急いで上着を羽織り、沖田を蒲団に寝かせた。

 

「どうした!? 」

 

千香の声にただ事ではない様子を感じて、島田が部屋へ駆け込んで来た。息も荒く、表情からも焦っていることが読み取れる。

 

「島田さん!沖田さん、さっき血、吐いてしもた。熱もあるみたいやし。今は落ち着いとるけど、このこと近藤さんと土方さんに伝えて来てほしいです。私、水汲んで来ます! 」

 

「承知!急ぎ伝えて参る! 」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

それから、沖田が目を覚ますまで皆気が気ではなかった。誰もが数分置きに部屋を覗きに来て、まともに着物を着ることが出来ていない千香を誰も指摘する暇などない程、必死になって看病に当たった。

 

「...あ、つ。あれ、私、は一体...。 」

 

「良かった!目え覚めた!近藤さん!土方さん!沖田さん目え覚ましました! 」

 

「何!?本当か! 」

 

「千香さん。ありがとう。もし一人で倒れていたらどうなっていたことか! 」

 

「いいえ。気にせんとって下さい。あ。この急須に入っとるお水飲ましてあげて下さい。ようけ汗かいて、喉乾いとる思うんで。じゃあ、後はお任せします。 」

 

千香は沖田が目を覚ましたときに備えて、水に砂糖と塩を混ぜた経口補水液を作っていた。

 

「あ、ああ。すまねえな。 」

 

珍しく土方がお礼を言ったものの、千香の口調が普段と違っていたため、首を傾げていた。それに千香は小さく笑い、失礼します、と部屋を後にした。

 

「...ふう。良かった、とは言えんけど、一先ずは、安心なん、だろか。 」

 

千香が縁側に腰を下ろし、暮れ始めた太陽を見つめていると。

 

「千香。ちょっと部屋来て。 」

 

「ありゃ。平助。どして? 」

 

「良いから。 」

 

「え。ちょ、ちょっと。 」

 

不意に現れた藤堂に腕を引かれ、千香は藤堂の部屋へと連れて来られてしまった。

 

「あの。平助。実は...。 」

 

「訳は聞かない。取り敢えず、着物ちゃんと着てよ。 」

 

藤堂は前に街へ着物を買いに行ったときに千香に貸した、着物と袴を差し出した。

 

「...ありがとう。 」

 

「後ろ、向いているから。 」

 

「うん。 」

 

藤堂が後ろを向いたのを確認すると、千香は着替え始めた。久し振りに着る男物の着物に少し手間取るが、何とか着替えを終え声をかけた。

 

「着替え、たよ、平助。 」

 

「...千香。大丈夫か。怖かっただろう。 」

 

藤堂は千香の方を向き、心配そうな表情を浮かべた。ああ、藤堂は色々解ってくれているのだろうと、千香は微笑み。

 

「大丈夫よ。心配してくれてありがとう。何かもう、慌ただし過ぎて怖いとか思う暇無かったわね。 」

 

「そうか。まあ、確かに皆沖田さんの目が覚めるまで気を張っていたからな。 」

 

漸くお互い張りつめていた気が緩んで、声を上げて笑い合う。そうして笑いが収まると、千香は先程とは打って変わって真剣な表情で言った。

 

「...沖田さん喀血してもうたけん、もう無理出来んよ。休ませてあげないかん。 」

 

「そうだよな。俺たちも協力しないと。 」

 

「沖田さんには酷やけど、これからは巡察も控えてもらわないかん。 」

 

「寂しくなるけど、仕方ないな。 」

 

泣きそうな顔をして笑う藤堂を見ていると、千香は涙が溢れてきた。けれど、それをすぐに拭い。

 

「...ほんなら、私これから夕餉の支度せないかんけん行くね。栄養あるもんようけ作るね。 」

 

「ああ。楽しみにしてる。 」

 

藤堂は笑顔で千香に返し。千香は藤堂の部屋を後にした。厨房へ向かいながら、今日の沖田とのことは、胸に秘めておこうと、決して藤堂に言ってはいけないと固く誓った。

 

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