幕末・浪漫千香〜どんな時代でも、幸せになれる〜   作:秋藤冨美

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引き抜き

年が明けて一八六七年の元日。伊東が永倉、斎藤を誘い角屋で酒宴を開いていた。そしてそのまま無断で三日まで流連したので、怒り狂った土方が千香と峻三を角屋へ向かわせた。

 

「永倉さん、斎藤さん!いつまで呑んだくれとんですか!無断で居らんなったけん、土方さん怒り狂ってますよ!近藤さんも心配しています!帰りましょう! 」

 

角屋の玄関で事情を話し、部屋に上げてもらうと千香は勢い良く障子を開けた。峻三は背後へついて行き、居心地の悪そうに眉を下げる。一瞬、永倉と斎藤は千香の伊予弁に首をかしげるも、この場では触れることではないと思い直し。

 

「伊東さんは、二人に流連することの許可を得たと聞いたが。 」

 

「私もだ。 」

 

千香の言葉に対し、一体何を言っているのだとでも言う様に永倉と斎藤は肩を竦めた。

 

「伊東は、信用したらいかんと思います。二人がここに呼ばれたんは恐らく自分の手の内に置いときたいと思たけんです。近藤さんや土方さんに流連の許可取ってあるって言うのも嘘です。 」

 

「千香よ。お前が先のことを知っていて、伊東さんを良く思っていないのも知っている。けどな、何もかも憶測でものを言っちゃあいけねえ。 」

 

永倉はまあ座りな、と千香と峻三に促す。千香も渋々永倉の言うことに従うことにした。何はともあれ、二人にここを離れる様に促さなければならないからだ。

 

「永倉さん、斎藤さん。私がここに来た訳をなるべく手短にお話しします。 」

 

背筋を伸ばし目の前の永倉と斎藤の目をしっかりと見て、

 

「今年の弥生に新選組は分派します。近藤さんと伊東とに。そんときに、伊東はお二人を連れて行こ思とんです。所謂引き抜きって言うやつでしょうか。元日からここに呼んどるのも、その話をするためです。私はそうさせんために来たんです。 」

 

と言った。すると今まで黙っていた斎藤が腕を組みながらぎろりと千香を睨みつける。

 

「これは女子(おなご)のお前にどうこう出来ることではないだろう。それに、私たちはそう簡単に伊東に靡いたりしない。奴の企みなど最初から分かった上でここに来ている。 」

 

斎藤は組のことに女子(おなご)が首を突っ込むのを良しとしなかった。ただ身の回りの世話をするだけなら良いが、自分たちのやることなすことにいちいち口を挟まれる謂れは無いと。

 

「でも、そうやとしても、少しずつ歴史は変わっとんです。ほやけん、これから先何が起こるか分かりません。でも何か起こったときに止めれるとしたら、私しか居らん思うんです。女子(おなご)の身で差し出がましくてすみません。 」

 

けれども斎藤の圧に怯まず千香は引き下がらなかった。何か一つ違うだけで歯車が狂いかねないのだ。今までのことで、もう大きく歴史は変わっている。だから、これから先起こることが千香の知っている通りのこととは限らない。

 

「おや。千香さんもお越しになったのですね。いらっしゃい。 」

 

「...。伊東、さん、平助。 」

 

上品に笑いながら、伊東が藤堂を引き連れて千香たちの居る部屋へと入ってきた。千香は目を伏せ、なるべく藤堂の顔を見ない様にする。...出来れば会いたくなかった。伊東の側に居る藤堂を見ていると、山南の家の場所を教えた犯人だという確信が強まってしまうからだ。

 

「丁度良いところに来てくれた。永倉さんと斎藤さん、そして千香さんにお話があります。 」

 

膳の置かれた場所に腰を下ろし、にやりと笑った。藤堂もその側に腰を下ろし、永倉と斎藤の顔を見据えた。しかし決して千香と目を合わせようとはしなかった。

 

「貴方方を是非、御陵衛士へお迎えしたいと思っています。 」

 

伊東の唐突な発言に、永倉と斎藤は何を言っているのだと呆れ返った。しかしこの御陵衛士、というものが新選組と分派を成す組織だということは解り。千香は、何故自分がと驚きで固まってしまう。

 

「伊東さん、俺はあんたの学があって剣もできる、という点は買っている。けどな、俺たちは近藤さんの人柄に惹かれて新選組にいるんだ。残念ながらあんたには、近藤さんの様な人徳は無い。今はっきりと分かったよ。 」

 

永倉は盃に残っていた酒をくい、と飲み干した。

 

「平助、お前千香を悲しませる様なことはやめておけ。今ならまだ間に合うんじゃないか。 」

 

伊東の側に居る藤堂へ、やんわりと言葉を投げかけるも。

 

「俺は、伊東先生に恩義があります。だから、近藤さんには申し訳無いけど組が分派しても先生について行きます。 」

 

藤堂はきっぱりと否定してみせる。藤堂の言葉に崩れ落ちそうになる。けれども気をしっかり持とうと、千香は膝の上で拳を握りしめ面を伏せた。

 

「...そうか。お前の気持ちは分かった。それじゃあ、伊東さん俺たちは帰ります。お邪魔した。 」

 

永倉が盃を膳に置いて立ち上がり部屋を出た。斎藤もそれに続く。峻三は足に力の入らない千香の手を取り立ち上がると、浅く頭を下げ部屋を後にした。

 

「ごめんな、千香。俺には、お前を幸せにしてやることはできない...。 」

 

藤堂は隣に居る伊東にも聞こえない様な声で、小さく呟いた。

 

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