幕末・浪漫千香〜どんな時代でも、幸せになれる〜   作:秋藤冨美

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最期に笑顔を

三月一三日。先程、伊東が近藤、土方に分離の許可を得た。これで名実共に、御陵衛士として活動出来るということになった訳である。

そもそもこの分離のきっかけは、幕臣取り立ての内定にあったとされている。伊東はそれに勤王の志のために脱藩した自分が幕臣になれば、主君を二重に持ってしまうことになると不本意を申し立てた。前々から数回に分けて伊東篠原が、近藤土方と時局論を戦わせていた。そのときに、篠原が二人に承諾しなければ斬り捨てる程の勢いで迫ったのだと自身の手記である“泰林日記”に記録がある。

そして今日。正式に分離を承諾し、これでもう伊東らは新選組隊士ではなくなった。

 

「二〇日には出て行ってしまうんか...。なんか、早いなあ。 」

 

千香は今日も一人女中部屋で机に突っ伏していた。やはり、歴史は変えられないのかもしれない。そうなると、山南もいずれかの形で命を落とすのだろうか。史実通りの時期から逸れただけであって、命が失われるのに変わりはないのだろうか。

 

「あ...。油小路の変の三日後、近江屋事件や。龍馬さんに手紙送ったほうが良えね。 」

 

心配は藤堂や山南のことだけに尽きなかった。知り合ってしまった以上、龍馬のことも気になってしまうのだ。龍馬は十月に起こる大政奉還の後に、何者かに襲撃され暗殺されてしまう。確か油小路の変の数日前に、伊東が龍馬を訪ね狙われているので気を付ける様に、と忠告したという記録が残っている。恐らく龍馬は伊東からも心配される程、政に深く関わりすぎたのだろう。

 

「ほんだら、まずは龍馬さんに手紙や。ええと今は確か、長崎に居るよね。亀山社中が海援隊に変わったんかいね。ちゃあんと手紙届こか。 」

 

以前届いた手紙に大体の住所は書いてあったが。どうなんだろうと思いながらも、硯に墨をすっていく。紙を用意し、筆に墨をつけた。

 

「あ。でも、今新婚旅行で長崎おんよね。お龍さんも居るし。無粋かね...。いやでも、命は何にも変えれんし...。 」

 

紙に筆をつけるすんでのところで、ふと思い出し。しかし、その思いを振り切り手紙を書き始めた。

 

「ううん。今、逃したらこれから先伝えれんかもしれんし。書こ。 」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

手紙を書いて飛脚に渡した後、久しぶりに晴れたので縁側から隊士たちの蒲団を運んでいた。

 

「わっ!落ち、る。...あれ。 」

 

一回に三枚ずつ運んでいると、視界が悪くなりさらに重さで転びそうになった。しかし前から蒲団を持ち上げられ。よろけた身体を踏ん張ってその場に留め、顔を上げると。

 

「あ...。平、助。ありがとう。 」

 

「気を付けろよ。 」

 

意識せずともぎこちなくなってしまう。それから蒲団を干すのを手伝ってくれるらしく、干竿のそばに居る千香に蒲団を手渡していく。どう言葉をかければいいか分からず、千香も渡された蒲団を黙々と干していくしかなかった。

蒲団を全て干し終えると、藤堂がまだその場に残っていた。

 

「千香。ごめん。俺やっぱり伊東さんについて行くよ。 」

 

「うん。 」

 

「何にも言わないのか。 」

 

「この時代やったら、女の人はこういうときは身引くんが、良え女ってやつなんやろ。 」

 

胸は痛むけれど。せめて今だけは、一番の笑顔を見せたい。きっともう次に会うときは。

 

「元気でね。 」

 

「ああ。 」

 

 

 

藤堂の最期だろうから。

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