淫獄都市ブルース   作:ハイカラさんかれあ

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というわけで、ようやく対魔忍がアヘる対魔忍クロス、始まります


淫獄都市ブルース<深者の章 後編3>(長編)

「んほぉぉぉぉぉぉぉ!だめぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!ばかになっちゃうのほぉぉぉぉぉぉ!」

「これは酷い」

 

低く傾いた天井から微細な隙間を通して邪悪で異様な光は黄、紅、藍が分ち難く入り組んだ狂気の混合光が漏れ出している。

その狭いようで広大な空間に漂う生臭い空気に混じって微かなアンモニア臭がする、恐らく快楽のあまり失禁しているのであろう。

見事なアヘ顔を晒しており、モザイクをかけたほうがいいんじゃないかというような顔になっていた。

 

玉虫色の泡の集簇(しゅうぞく)万華鏡(まんげきょう)の様に変化する小型多面体の肉壁に覆われたさくらは見るもの全てが言いようもなく脅迫的で恐ろしく、動きからみて彼女が包まれた『それ』が有機体の一つだろうと気づく度に混じりけのない恐るべき戦慄に襲われ、大抵はショックのために気を失ってしまうような有様であった。

 

「うーん? 触手の一種かなー、さっぱりわからん」

 

常人ならとうに過剰な脳内麻薬の分泌に完全に脳が焼ききれて発狂している状態でも耐え抜いているのはさすが対魔忍という所であるが、完全に快楽にとらわれて周囲の状態を認識するどころではない。

 

恐らくこの悪夢のような名状しがたい『それ』は取り込んだものから出た体液を吸収して宿主に栄養として返しているいるのであろうか?

囚われて狂態を晒し続けているであろうさくらの顔色は騒ぎ続けているにも関わらず健康そのものであった。

一体どのような意図で存在するのかもときには見当もつかない。

 

ようやく目的の井河さくらを発見したもときであったが、この場所にたどり着くまで何があったかは少し前の時間まで遡る。

 

1、

用心棒のオーク、東郷に助けられたもときは先程倒した『なにか』を調べてみたところ、それは牛とも犬ともつかぬ大きな体躯、鋭い牙と爪、全身に纏わせた瘴気を持つ生き物であった。

 

対魔忍をやっていたもときには見覚えのある生き物だ。

『ブラッドドッグ』

魔界に生息する魔獣である。

 

魔界の狩人だが魔界の者がしばしば人間界に持ち込み、そしてそれを欲しがり高い金を出す人間がいるため近年人間界でも見かけることが多い。

 

現役対魔忍をやっていた時には敵が番犬代わりに使いよく戦わされた相手だ。

――無論、ここまで強くなかったが。

 

見習い対魔忍でもやり方をきちんとすれば対処可能な相手であり、反応速度だけなら対魔忍の上位勢すら凌駕する秋もときが見失うほどのスピードを出す生き物では間違ってもない。

 

藤曲 佐兵衛(ふじまがり さべえ)の制作した改造魔獣か」

 

クトゥルフ神話で犬といえば『ティンダロスの猟犬』だがあれは犬と名がついているが外見は犬とは似ても似つかない異形の存在だ。

襲われて助かった生存者は殆どおらず目撃した者は「肉体をそなえていない」「痩せて、飢えていた、宇宙の邪悪さが全部あの痩せて飢えた体に集約されているようだった」と語る。

 

「猟犬」というのも常に飢え、非常に執念深い性格で人間および他の普通の生物が持つなにかを追い求め、時空を超えて一度目を付けると執拗に追い立てる性質から例えられているだけである。

 

「見立てて作ったのか、ただの偶然か、……そんなことより何故こいつは使用人を殺したのか?」

 

偶々逃げ出して襲いかかったというには会話のタイミングが良すぎる。

客人であるもときに害をなしたことに対する制裁か、館の情報が外部の人間に漏れるのを嫌ったのか……。

 

「わからんことは置いといて、話をしましょう、そうしましょう」

「……生憎だが、俺には世間話……、という習慣はない……仕事の時には…な」

「そこをなんとか」

 

そう言ってもときは闇を紡いだようなコートのポケットからなにか取り出して東郷に渡す、胡乱(うろん)げな目がカッと見開かれ野生の獣さえ慄く危険な眼光がもときを貫いた様に思えた。

 

「…………用件を、聞こうか」

「話が早い人は好きだよミスター東郷」

 

ちなみに渡したのはアミダハラに行った時に娼婦にナンパされ、無理やり押し付けられた娼館優待割引き券である。

 

 

東郷の拠点である庭の片隅にあるテントの前に移動して話をすることになった。

焚き火の側に夜食だったのかKINGサイズのカップ麺が転がっていた。

 

「何で館の外にわざわざテントを張っているんです?」

「……サボって娼館に行ったら部屋を追い出されて」

「はぁ」

 

空いた部屋にもときが割り振られたのは余談である。

 

「で、さっきのは一体何?」

「……予想はできているだろうが藤曲佐兵衛が作った実験体だ」

「へー」

「俺の仕事は用心棒というが、どちらかというと実験体が外部に逃げ出すのを阻止する仕事だ」

「守るのは館の住人でなく、館の外の住人」

「そうだ」

 

一代にして巨万の富を築いた藤曲 佐兵衛だがその名を聞くだけで十中八九、否、十人中十人が恐れ慄くのはこの「実験」が原因である。

魔界の門が出る前から様々な実験を繰り返し、生物学の常識を揺るがすような論文を幾度となく提出しながら認められるどころか学者たちが魔女狩りの時代の審問官が疑わしき対象に焚き木を用意して焼き尽くすさんとするような、忌まわしき呪われた存在だったのだ。

 

時代を先取りしすぎた異端の狂人は、自分を認めない存在に対して時に『刺客』さえ差し向けた。

その結果、警察の介入を数度招き時には対魔忍さえ動く自体になったらしい。

闇の存在であるはずの対魔忍すら動かすような「モノ」を作り出す天才も最終的にはついには抵抗を諦めた。

――二十年程前の話である。

 

どうやら狂気の天才が再び活動を開始したらしい、しかも設備が整った様々な対策を練ってあるであろう環境から逃げ出す程の知性を持った存在を定期的に――迷惑も甚だしい話である。

 

「しかし館の住人が実験体のせいで亡くなってるんですが用心棒的にいいんですか?」

「カエル顔の二人か?」

「ええ」

 

一人はもときが原因だとは言わない、とどめを刺したのはあの実験体なので間違ったことは言っていないのだ。

 

「なら大丈夫だ、その二人以外なら問題だがな。 そいつらならすぐ補充(、、)される」

「『補充』」

「次は性格がいい奴らだといいんだが、どうにも主人には忠実だが残忍な奴らばっかりが生える(、、、)

「『生える』」

 

聞き捨てならない言葉が続くが当たり前のような顔をしているあたり、このオークも館の狂気に少々染まっているらしい。

 

「ところでこの女の子知らない?」

 

そういってさくらの写真を見せる。

 

「……もっと幼い方が好みだなスタイルは文句なしだが」

「誰があんたの好みを聞いた」

「冗談だ、館を探っていたので俺が捕らえて引き渡した」

「――へぇ」

「殺気を向けるな、――俺も対応せざるを得ない」

 

もときの春風のような穏やかさを保つ美貌が僅かに揺らいだ、次の瞬間に東郷の手にはすでに撃鉄を起こしてこちらに照準を合わせた状態の拳銃が握られていた。

S&W M19の2.5インチモデル、コンバットマグナムと呼ばれる名銃だ。

某怪盗紳士の三代目の相棒が愛用している銃でもある。

――相手は後は引き金(トリガー)を引くだけだが、こちらも既に糸は巻いている(、、、、、、、、、)

 

「わるいね、その女の子の身内なものだから興奮した」

 

そう言って手を上げる。

自分らしくもない反応だと反省する、気持ちを鎮めよう。 

さくらを倒せるほどの手練だ、会話で済むならわざわざ戦闘する必要もないだろう。

 

それを見て東郷は撃鉄を戻して拳銃を脇のホルダー収めた。

過信でも慢心でもなく仮にこちらが攻撃の意志がないと油断させてから不意打ちしようとしても、こちらが動く前にそれより早く撃ち抜くいう絶対の自信があっての行動だ。

 

「恋人か?」

「雇用主と従業員だよ」

「……娼館かキャバクラどっちだ?」

人探し(マンサーチャー)

 

普通なら色ボケし過ぎとツッコミを入れたくなるが、魔界都市や東京キングダムやアミダハラでは行方不明者が働いてた職業に水商売はよくあるのでそんなに変な質問ではない、さらにいえば行方不明になって水商売をやるのはもっとよくあることである。

 

「元対魔忍の人探しか珍しい」

「対魔忍出身とわかるんだ?」

「あんなピッチリスーツで機械や近代兵器を使わず、能力を使う人間は対魔忍ぐらいなものだ」

「ですよねー」

 

米連の強化人間もピッチリした服を着てるが大体機械などで補助したり、近代装備を駆使するので人間なら対魔忍に消去法でなる。

魔族? そもそも人間ではないが服装に関してはピッチリした服どころか服着ろよレベルの痴女とかいるので流石に対魔忍も比べたら怒る、もときからしてみたら五十歩百歩だと思うが。

 

「それでさくら、その女の子は研究室にいると聞いたけど行き方は?」

「……知っていても、言うと思うのか?」

 

もときは懐から再び何かを取り出し東郷に渡す、これまたアミダハラに行った時にナンパされて押し付けられたキャバレーの特別サービス券である。

 

「――普通の方法では無理だ、魔術的な『鍵』がいる」

「魔術的な『鍵』ね」

 

もときの妖糸でも隠し部屋の察知ができないのでそんなことだろうと思ったが……。

 

「その『鍵』は持ってる?」

「外に追い出されてる有様で持ってると思うか?」

「うーん、使えない」

「俺の仕事は外に出ようとする『作品』の処理だ、別に必要ない……」

「でもその仕事を娼館行ってサボってたよね?」

「だってさっちゃんの初仕事の相手になりたかったんだもん」

「『もん』っていうなキモい」

 

パチッと薪が弾けて焚き火から舞い上がった火の粉がひらひらと地面に落ちた、庭が火事にならないのかと視線をずらすと横に水の入ったバケツが置いてあった、気の回る男である。

ふと、水道はどこかなと気になって周りを見渡すと庭の一角に墓があることに気づく。

佐兵衛が古い館を買い取ったといったが、その墓石を見るとそんなに時間が立ってないように見える。

 

「……あの墓は?」

「あぁ、藤曲夫婦の息子の墓だ」

「はぁ」

「数年前に事故でなくなったという話だ、この館は息子を海の見える場所で眠らせてやりたいとの思いで購入したらしい」

「へぇ」

 

海の見える屋敷というが魔界の『門』がある、アミダハラ近辺をわざわざ選ばなくてもいいと思うのだが。

 

「『鍵』は何処にあるか、心当たりは?」

 

手持ちのピンクなサービス券を全部渡して聞いてみた。

 

「……なんでこんなに持ってるんだお前?」

「全部貰い物、未成年にこんなに渡されても困るので処分できるしそちらも貰って嬉しいWIN-WINな取引でしょ?」

 

東郷は券を確認して「おっ、高級店のがあるな」「……ウッソだろ、あの店の人気No1嬢の一日指名券だと!?」と興奮していた。

 

「確認は後でゆっくりして、『鍵』の場所教えて」

「ハァ…ハァ…、ふぅーーーーーーーーーー、いいだろう(キリッ)」

 

何やら格好つけているがすでに色々手遅れだった。

 

2、

「書庫にあるってこれ、さっきので入れない」

 

魔術関連の道具は書庫にあると聞いて部屋に向かうと、本棚が倒れこんでいるのか入り口が開かない。

しかし、あれだけの騒ぎで佐兵衛はともかく奥方ともうひとりの使用人が出てこないのはどうしてだろうか?

 

「「「……う…うぅ…あ・・・・・・ぁ…あ…」」」

「ん?」

 

声に振り向くと、肉体が腐り果て目が白濁した佐兵衛老……ではなく動く死者(ウォーキング・デッド)が複数いた。

 

「犬の次はゾンビか、植木鉢から緑や赤い薬草を採取して調合したほうがいいかな?」

 

白く濁った目にはもときの指から放たれた極小の光は見えなかったであろう。

仮に見えていたとしても次の瞬間に自分の五体がバラける光景が見ることになるなら、見えていないほうが幸運かもしれない――そんなことを思う知性は再び動かなくなった死者はもっていない。

『すでに死んでいる死者は殺せない』というが、特別な『技』をつかうまでもなく無力化出来たようだ。

 

「黄金の右足で踏み砕いといたほうがいいかなー、しかしなんだね泊めるとか言っといて食事以降もてなす気ないよね」

 

 

死後を弄ばれる哀れな亡者を悼む感情など最初から持ち合わせていないような口ぶりである。

 

トゥルルルルルル、トゥルルルルルル

 

「はい、もしもし」

 

懐に入れていた携帯電話からの着信に液晶を見ると非通知とでている。

構わずでると、電波が悪いのかノイズ混じりで途切れ途切れの声がした。

 

「……か…ぎ……しょ……こ…まど………た」

「もしもし?」

 

ブツッと音がして電話が切れる、見るとアンテナは立っていなかった。

 

「ファンの一人かな? サイボーグ忍者に心当たりは……」

 

両腕に義手と両脚に義足をつけたピンク色のピッチリスーツを着た米連に所属する元対魔忍を思い出した。

 

「そういえばいたな、いま電話したのとは間違いなく別人だけど」

 

幼い子供の声であった――書庫の窓の下と聞こえたが?

他に当てもないので館の外に出て見ることにした。

 

 

「本? ……これが『鍵』かな」

 

月明かりだけが大地照らす館の裏庭にでると二階にある書庫の窓の下に散乱した紙片と本棚の残骸と思わしき木片、そして一冊の本が落ちていた。

記憶が正しければ執事の山岡の側に落ちていた本である。

 

本を拾い上げ移動して館の入り口の灯りの下で地上に美しい影を投影しながらもときはページをめくり書に目を通してみる、ラテン語でなにやら死者がどうやら秘術がどうやら、神がどうやらと書いてある、すぐに閉じた。

 

短時間流し読みしただけで目眩と吐き気がしてくる……。

本にタイトルは書かれていない。

 

 

「――魔導書の写本か、アミダハラなら手に入るだろう」

 

『鍵』は手に入った、次は鍵穴を探して扉を開くとしよう。

東郷は『鍵』の存在は知っていても研究室の具体的な場所は知らないと言っていた。

研究室へは目隠しをされたうえ何らかの薬をのまされて意識を失った状態で連れて行かれたそうだ。

夢うつつだが上に昇っていた気がすると言うので恐らく二階の何処かであろう。

 

『鍵』である魔導書がおいてあり、入れなくなった書庫を除くと二階の部屋は、寝室、客室、美術室、ダンスホール、娯楽室。

客室はすでに調べてあるが『鍵』があればなにか違うかもしれない。

 

 

そして時間は冒頭に巻き戻る。

 

「んほぉぉぉぉぉぉぉ!だめぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!ばかになっちゃうのほぉぉぉぉぉぉ!」

「これは酷い」

 

淫獄都市ブルース<深者の章 完結編>に続く。




ふー、 ノルマ達成したぜ!
完結編とありますが、まだまだこの話は続きます

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