淫獄都市ブルース   作:ハイカラさんかれあ

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なんてことだ・・・・!! 間に合わないボスの射程の中に入ったッ! 投稿期間が飛んだぞ!


アニメのジョジョ5部面白いですね、どーもお久しぶりです。
<深者の章>は後は落とし仔に核兵器をシュゥゥゥーッ!! 超!エキサイティン!!➡︎佐兵衛さんをぬっ殺す➡︎締めにポルノ13する(動詞)だけなのですがどーにも筆が進まないです。

そんなわけでリアルでもいろいろあり中々更新で出来ずにいましたがモチベ的にも書かないと終わりが無いのが終わりになりそうなので気分転換として短編の投下しまーす。
決戦アリーナサービス終了前に投稿がギリギリ間に合ったぜ!


淫獄都市ブルース<精選の章>(短編)

1、

ある少年は特別な力に目覚めた。

後で聞いた話によると『魔界の門』が活性化したことで同時期に能力に目覚めた人間が複数現れたそうだ。

彼はそんな人間たちの一人であった。

 

十代半ばの二次性徴を迎えたことにより肉体が大人に近づき精神的にも自我が確立され始める思春期特有の『特別』に憧れる時期に手に入れた『才能』に当然のごとく有頂天になり少年は玩具のように自由気ままに使った。

 

社会と自分との上手な距離のとり方がわからない状態で万能感に酔いしれる少年は周囲の迷惑を考えず力を奮った結果、鼻つまみ者になり自然と裏世界へと流れていった。

 

「おらぁ! 乗り込んできたときの威勢はどうしたぁ!」

「ぐッ! た……たす…」

「聞こえねぇぞ!」

「あがぁ!?」

 

後はよくある話である、社会に溶け込めず力だけを持て余した馬鹿な若者が狡猾な大人の言葉に乗せられて鉄砲玉として使われた。

調子に乗って暴れたが所詮は素人、異能者や異形の住人相手に張り合う暴力を生業にしている人種に勝てるはずもなく今殺されようとしている、よくある話であった。

 

(いやだ…おれは…特別な力を手に入れたんだ…こんな…みじめな終わり方なんて…)

 

サイボーグ化による強化処置を受けた元米連の脱走兵や魔族などにサンドバッグにされたせいで顔は腫れ上がり、骨はところどころ折れたり罅が入り、内蔵が傷つきほっておいたらそのまま死ぬであろう。

よくある話である、ここまでは(、、、、、)

 

 

 

 

 

2、

魔都『東京キングダム』、ここは人魔入り乱れる陰謀と性と暴力に彩られた退廃の街である。

そんな街に乱立する娼館の中でその店は様々な要求に応じる人型の魔族たちの様々な能力と特異な肉体による独自のプレイに定評があり娼婦が護衛も兼任しており値段も良心的で財布にも防衛の意味でも安全な店だと評価が高い。

客層は主に外の世界での風俗に満足できなくなった人間が訪れ時々政府の高官が変態趣味を発散するために来たりすることもある人気店である。

そんな場所で今現在奇妙な光景が広がっていた。

 

先程下半身が蛇の魔族に尻尾を巻き付かれ圧迫されながらする濃厚なSMプレイを終えて満足して帰ろうとした客は店員全てがサングラスを掛けているのを見て首を傾げた。

見ると皆顔を赤らめて化粧をしたり、鏡を見て髪をいじったりしながら入口と時計を交互にチラチラと見ていた。

 

「何が始まるんです?」

「今にわかるわ」

 

そう言ってにっこりと店の娼婦は笑った。

 

「黙って拝顔しなさい」

「はいがん?」

 

聞き慣れない言葉にオウム返しする客は、次の瞬間声を呑み込んだ。

黒いコート姿は戸口を手も触れず(、、、、、)に開け前に進んだ。

ほとんど抜け殻状態になった彼の前を音もなく通り過ぎる。

 

「――なん、だ、あれ」

 

放心状態になった男の疑問に答えるように嬉しそうに娼婦が応じた。

さながら信者が降臨した神について語るかのようである。

その神は美の神に違いない。

目にかけたサングラスは天上の美に魂を麻痺されないようにする備えだ。

 

「『東京キングダム』が誇る二人の美の化身の一人、人探し屋(マン・サーチャー)の秋もときよ」

 

茫洋たる美少年はその美を見たものの脳裏に焼き付ける。

さながら掴むことも出来ず決して離れない影のように。

しかし本人は目覚めた瞬間に消えていく朧な夢の如くただ無言で通り過ぎていくのだ。

 

 

 

 

3、

「秋く…所長の顔を見に来たひやかしが13件で、正式な依頼は2件あったよー」

「了解」

 

探していた人物が来たと娼館から連絡が入り全身を巨大な口に飲み込まれながら甘噛されるプレイ中の依頼対象を粘液まみれのまま待機していた依頼人の前に連れていったもときは、依頼が片付いたと報告をして次の依頼が来ているかどうかを事務所で待機している井河さくらに聞こうと連絡をしていた。

 

「そろそろ私にも仕事振ってよー!」

「タダ働きならいいよ」

「えー、横暴だー!?」

「行方不明になった時の捜索費用分働けば手当は出すよ?」

 

実は迷惑料として出費を埋めて余る程に金は貰っているのだが言わないもときである。

様々な依頼をこなし最近は評判も上がり依頼も頻繁に来ているので忙しい。

どこぞのオークが「有能な人探しならコイツ」と紹介しまくったからという噂があるが真偽は不明である。

 

なんにせよ一時的なものだとは思うが電話で予約した相手ともときが直接面談してから依頼を受けて仕事という形式では手が回らないのでさくらを留守番にし、面談して仕事を受けるか否かの取捨選択して、受けた依頼内容をもときが持つ端末機へと転送しそれを見ながらもときがとりかかるやり方に変えた。

 

そういうわけでもときがこうやって慌ただしく外を駆け回っているのである。

しかし行方不明者や失踪者がこんなにも多いとは相変わらず対魔忍世界は物騒である。

 

「表立って秋くんの代理をやってると『女があの人の側にいるなんて許せない!』と嫉妬した女性陣にナイフや銃を向けられるから特別手当を要求するー!」とぎゃあぎゃあ騒ぐさくらの声を携帯の通信をピッとオフにして遮断した。

帰りになんか差し入れでも渡して腹が膨れれば機嫌も直るだろう。

 

「さてさて、次は竹生会の事務所に行って配信動画に少しだけ映ってた人物が探してる人物かどうか聞いて……」

「あ、あのー」

 

次の仕事に取り掛かろうとしたもときは、声をかけられ振り返るとこちらの顔を見て中学生か高校生ぐらいの女性が顔を真赤にして陶然としていた。

 

「はい、何か?」

「――は、はい! 凄いイケメンて話は聞いてたけど想像よりも何万倍もカッコいい…」

「急いでいるんで後でもいい?」

「い、いえ、あの探偵さんなんですよね私の依頼を受けて下さい!」

「うーん、残念! ちょっと違います、次の機会にまたお会いましょう」

 

Q、正解は?

A、L( ・´ー・`)」 [答]人探し屋(マン・サーチャー)

 

残念賞として名刺を渡して依頼ならこちらに予約してくださいと言い残しさっさと暴力団事務所のヨーチューバーから情報を聞き出すためにさっさと歩き出す。

 

今現在四件ほど仕事を抱えており、追加で二件増えたのでさっさと片付けて週末はだらだらするという目的があるのだ。

休んでばかりだと食っていけないが、働いてばかりではやっていけない、時に休むことは大切だ。

「金を払っても休暇がほしい」と過労死寸前の知人のオークが虚ろな目で言ってた。

 

「待ってください話を聞いて!」

「名刺だけ受け取って帰って欲しいなぁ」

 

もときにとっては迷惑なガッツを発揮して依頼を受けさせようとする少女は五車学園の対魔忍見習いらしい。

 

「対魔忍かー」

「なんだか嫌そうな顔してますけど五車学園出身の対魔忍ですよね?」

「そんな過去は忘れた」

 

一方的な思いを押し付けられ逆ギレした男女に命を狙われ続け、嫌なこともいいこともさっさと忘れるもときが強烈な印象を残す因縁の場所であった。

早く記憶から消したいのだが地面を掘り返したら出てくるミミズの様にちょくちょく絡んでくるのが悩ましい、対魔忍やめて久しいしどうでもいいことだが。

 

 

 

 

 

3、

もときは昼間は軽食を出すカフェをやっている美人の店員がいると評判のバーに昼休憩がてら入った。

ここのローストビーフサンドは絶品で、薄い肉を長めに一切れ入れただけのサンドイッチとちがい。

外はさくさく中はふんわりにトーストしたパンを柔らかさと歯ごたえの両方を堪能できるギリギリの厚さにきってレタスとオニオンスライスの挟んであるグレイビーソースのローストビーフサンドは値段の割にボリュームたっぷりで味もよく。

この店の名物としてそれ目当てに尋ねる客がいるほどに人気が高い。

 

「――人探しをお願いします。」

 

少女の奢りで店自慢のサンドウィッチにジンジャーエールを少し遅めの昼食としてとり一息ついたところで食事している姿をうっとりと見つめていた少女、島本菊世が依頼について切り出してきた。

ちらっと横をみると他の客もうっとりとこちらを見ていた、食事をしているだけの動作でも夢見るように美しいのがこの若者なのだ。

その手の反応に慣れたもので何事もなかったように視線を正面に戻してもときは返事をした。

 

「はあ」

 

もときが質問に対する返答はいつもこう(、、)だ、その間に状況の分析が始まる。

五車学園経由ではなく個人でもときに依頼を持ち込むということは任務中に行方不明になった仲間を探してほしいという依頼ではない。

その場合はわざわざこうやって直接来ないでも校長のアサギや他の教員からもときに『生徒を探して欲しい』と仕事の依頼が来る。

ではどういう相手を探したいかと言うと……?

 

「相手は恋人か何か?」

 

消去法として相手は対魔忍以外の知人となる。

対魔忍は代々一族で対魔忍をやっている者か、才能のある孤児が引き取られてなるものである。

対魔忍シリーズの主役である井河アサギ、八津紫、水城ゆきかぜは前者。

外伝の主役である結城炎美、もときは後者に当たる。

 

一族代々の対魔忍は幼少の頃から訓練をするため一般人の知り合いが基本的に少ないし、防諜のガバガバさに悪い意味で定評がある対魔忍だが特殊部隊であるため一応の身内の警護はそれなりにできており、身内が人質に取られて身動きが取れないという事態は以外にもそんなに多くない。

 

有名になりすぎてトップクラスの魔族に狙われたり絡め手を使わないとどうにもならないと認識されているアサギ、さくら、紫ぐらいである。

……対魔忍の重鎮がよく捕まるのは正直どうなのと思わんでもないが自力でなんとかできるので気にしてはいけない。*1

 

もときが対魔忍時代に特に名門がどうのこうのと家格がものをいう対魔忍社会で聞いたことのない島本という名字ではあるし一族代々の対魔忍でなく菊世は才能があるためスカウトされた元一般人であろう。

そのことから察するに一般人時代に親しかった相手が行方不明になったので探してほしいという依頼であると思われる。

訓練漬けの対魔忍見習いが貴重な外出権利を使うとなると恋人や想い人の可能性が高いという推理である。

 

「い、いえ! 違います」

 

手をわちゃわちゃと振って否定するが顔が紅くなっている、真剣に自分の方をみるもときの顔を見たからかさもなければ脈アリの相手なのだろう。

伊熊武志という名前の少年は菊世と同時期に『力』に目覚めて暴れ回りどこかに行ってしまったそうだ。

ここ東京キングダムでどこかの団体にそれらしき人物がいると人伝に聞いてもときの元に来たという。

 

「ふーん、いつぐらいの話?」

「三ヶ月位前です……」

「多分死んでる」

 

あっけらかんともときは他の人間だったら面と向かって言いづらいことを告げた。

ここ東京キングダムという場所では特殊な能力に目覚めたと浮かれてそのまま暴れる程度の人間が長生きできるような場所ではない。

裏世界の様々な人種が入り混じっている混沌の坩堝とでもいう戦場で使われる弾丸よりも命の価値が安い場所なのだ。

 

しかし下手に嘘をついてもしょうがないこととはいえ容赦がない。

下手に希望を持たせてその後に味わう失望のほろ苦さを知り尽くした東京キングダムの住人としての判断なのかもしれない。

――面倒くさいから仕事になる前に説得で片付けようと思っていのでは?といわれたら否定はできない。

 

菊世は顔を青くした。

探している相手に訪れたであろう運命を思ってのことではない。

無論心配はしているが恐怖を覚えたのは春風のような雰囲気を持つ茫洋とした眼の前の人物がこの上なく恐ろしく思えたからだ。

自分の前にいる美しすぎる人は死神で、すでにそいつには死を与えたといわれたような気がしたのだ。

 

「しかし選ばれし者ね」

 

茫洋とした中にどこか確固たる凄烈さを感じさせる美貌を宙に向け、失踪するまえの依頼対象が言っていたという言葉をもときはぽつりと呟いた。

 

「そんないいものでもないと思うんだけど」

 

今となっては思い出すことも稀なこの世界に降り立つきっかけとなった始まりの出来事に思いを馳せた。

ほんのわずかな過去に対する感傷の影がよぎったが、春に降る雪のようにすぐさま溶けて痕跡もなくなった。

 

 

 

 

4、

「超イケメンと評判の所長を出せ! そして私の家に呼ぶんだ即刻ゥ! そして永遠になぁ! 

この要求が通るまで事務所の備品を十分ごとに、ひ と つ ず つ !

破壊していくことを宣言するッ!

要求が入れられないときは、私は迷うことなく、備品への攻撃を開始するだろう!十分に一つぅ!」

「だから所長は仕事で外回りしてるから留守だって言ってるじゃない!」

「だったらすぐに呼んで来いマヌケェ……」 

 

一度事務所で忙しくて目を回しているだろうさくらにサンドウィッチを手土産として渡すために戻ったら僕らの事務所が何者かに侵略されていた。

これは訓練でもリハーサルでない襲撃している変質者は目を覚ませ。

どうやら特別手当に関しては真面目に考慮する必要があるようだ。

何故かもときの身の回りに時々現れる変態は無駄に戦闘力が高い傾向にあるのであった。

 

「あのー営業妨害はやめてもらえます?」

「なんだ!―――う、美しい…ハッ! 」 

「隙あり!」

「アジズ!?」 

 

とりあえず変質者を呼び止めたら恍惚の表情で動きを止めた為さくらの攻撃をまともに受けて失神した。

今日は仕事にならないから店を締めて変質者を適当な場所に捨てたあとで部屋を片付けるようにさくらに指示してから倒れた変質者の財布を抜き取る。

 

さくらに差し入れと一緒に思いの外、中身が詰まって分厚い財布を手渡して、これで壊れた備品を買い直してお釣りは特別手当だと言ってそのまま変質者を踏んづけてから事務所を出た。

そしてさくらと出会うと説明が面倒という理由で外で待たせてあった菊世と一緒に娼館を経営している情報屋の元を訪ねることにした。

 

「Bamboozle Gangの下っ端ね、先日鉄砲玉として暴れまわった末に捕まったそうよ」

「捕まったってどこに?」

「『龍門』の残党」

「うわぁ」

 

そこで菊世が持つ写真を見せたらあっさりと情報が手に入った。

『龍門』とは中華連合政府の出先機関である。

表向き「龍門キャピタル」という企業名を使ってビルを構えているが、無法地帯と化している東京キングダムでは隠す必要もないのか、島の売春の元締めをしている末端のマフィア構成員までもが堂々と「龍門」と名乗っていた。

 

一時期は東京キングダムを支配していた組織であるがアサギの活躍やノマドの策略によって大幅に勢力を縮小しているがいまだに少なからぬ影響力を持っている犯罪組織である。

もときの予想よりも捜索対象は長生きしていたがどうやら一足遅かったようである。

着いてきた菊世にどうするか聞こうとしたら娼館の顔写真に釘付けになっていた。

 

「知り合いでも居た?」

「あ、はい、学園の資料で見かけた人が何人か。――なんでこんな所に?」

「こんな所とはご挨拶ね、……実際碌な場所ではないけど」

 

ピンク色の照明に照らされた店内にはアルコール臭と、すえた体臭と、青臭いわずかなに酸っぱいような精液の匂いが焚かれた香に紛れて嗅ぎ取れた。

 

「任務に失敗した結果」

「そんな、五体満足だったら戻ることだって……」

「一度挫折して再び立ち上がれるというのは稀よ、特別な力を持って特別な訓練を積んで特別な存在であると思ってた人間が一度の失敗でドン底まで落ちて尚立ち上がれるというのは特に」

 

元々自信に溢れていた人間ほど折れると脆いもの。

服が身体に擦れ呼吸をしただけで絶頂する等、日常生活に支障があるぐらいに性的に肉体改造され、調教光景をネットに配信され強制AV女優デビューetc. 完全に人間としての尊厳を根こそぎ奪いさるような調教を受けてしまうと身体を完全に元通りにしても余程の桁外れに強靭な精神力を持ってないと立ち直り再びそんな目に合うような過酷な任務に就くことなど不可能である。

 

「井河アサギなら出来たぞ? 井河アサギなら出来たぞ? 井河アサギなら出来たぞ?

ならば同じ対魔忍なら不可能なことなどこの世の何処にもありはしない……と思ってる対魔忍は多いけど実際は無理だよね」

「捕まって暴行され続け性的調教され続けても施設を脱出して黒幕殺して調教の後遺症を精神力で抑えて再び前線で戦うとか不屈にも程がある最強対魔忍基準は無茶振りが過ぎるわ」

「校長は尊敬してますけどあのくらいでなきゃ無理というのはちょっと……」

 

冗談めいた口調でアサギを例に出したもときだが正直真似できるとは自分でも思っていないしする気もない。

井河アサギはすぐ捕まってアヘるネタキャラ扱いされてるが分類としてはヒーローなのだ。

ヒーローが捕まってアヘられる作品の主人公なので用心深さと自信過剰と先入観に騙されやすいのはご愛嬌、捕まっても自力でなんとかなるのでOK。

技量と何よりその精神性はもときが本気で敬意を持っている人間の一人であるが、ちゃんと生徒に罠にかからぬよう慎重さや臆病さや用心深さを叩き込む教育をして人探しの依頼件数を減らして欲しいというのがもときの願いである。

……叶う見込みはないが。

 

「井河アサギの話は置いといて探している少年は多分もう魚の餌、運が良ければ顔の腫れ上がった死体が見れるかもといった感じよ?」

「……それでも生きている可能性があるなら行ってみます、場所を教えて下さい」

「地図に印を書いてある場所がアジトよ、ここのどこかにいるはずよ」

 

そう言って渡された地図を受け取り頭を下げると菊世は取るものも取り敢えず急いで駆け出した。

 

「――力に溺れた馬鹿な男を思い続ける健気な少女か、今どき珍しいくらいのいい子ね」

 

マダムの顔に翳がよぎる、性と暴力が煮詰まった東京キングダムの翳だ。

 

「けどこの街向きじゃない、碌な結末にはならないでしょうね。……だから忙しい時にあの子の依頼を受けたのかしら? だとしたら優しいところもあるのね」

「三倍の依頼料を払うと言われた」

「――正直な子ねぇ」

 

マダムの呆れた声を背に受けて後ろにひらひら手を振って菊世の後をもときは追いかけた。

 

 

 

地図に記されたアジトに踏み入ったと同時に侵入者を排除すべくもときと菊世に高速で影が迫った。

秋もときを魔人と称するならこの瞬間であろう、飛びかかってきた六対の人影は一秒にも満たない次の瞬間に六体の肉片に変わったのだ。

そのまま何事もなかったように歩き続けるもときを見て驚いたのは菊世である。

 

彼を知っている大部分の人物からは『美しい』とだけ蕩けそうな夢見心地の顔で評する。

残り僅かな校長のアサギなどの人物は『美しい、そして敵に回したくない』と顔を赤らめて評する。

 

絶対的な美しさ故に戦いたくないからそう言ったと菊世は思っていたがこの伸びる影すら美しいであろう人物は実力に関してもこの世のものとは思えない程なのだ。

 

「ちわー」

「おお、早かった……なッ! なん…だ…おま…え」

 

もときがドアを開けようとすると電子錠がかかっていた、妖糸でなんとかした。

侵入者を排除して護衛が戻ったと思って声をかけた男は振り向いて目に入ったもときの顔を見て一瞬で表情が蕩けた。

こうなってはもう使い物にならない、顔を見せるだけで効果を発揮するので並大抵の催眠術よりもずっと強力である。

 

「この写真の人物に見覚えは?」

「あ…ああ…あるよ……」

 

手慣れたもので余計な面倒が減ったと前置きなしにもときは本題に切り込んだ。

 

「どこ?」

「死んだんで……死体は好事家に売った……」

「そんなッ!?」

 

すでに依頼対象は死亡した後らしい、菊世は衝撃を受けて目に涙を浮かべているがもときは質問を続けた。

 

「それでその好事家の居場所は?」

「わからねぇ…死体が入ったら……連絡をして…そうしたら向こうから…来るんだ」

「ふーん、どうする?」

 

もときは菊世に聞いた。 

好事家とやらに連絡をとって死体を取り戻すかという質問だ。

無神経ともいえる薄情な問いだが、この程度は本当によくあること(、、、、、、)なのだ。

ここ東京キングダムでは。

 

 

 

 

 

6、

目を開くと見知らぬ天上が目に入った。

体を起こすとかけてった毛布がぱさっと落ち、座布団二枚を布団代わりにして寝入っていたことに気づく。

汗ばんだ髪をかきあげて何故この場所にいるか思い出した。

 

幼馴染の武志がもうこの世に居ないと知らされたショックで頭が真っ白になりもときに手を引かれ秋DSM(デイスカバーマン)事務所の座敷で休ませて貰いそのまま寝てしまったのだ。

手を引いたもときの手の感触を思い出してぽっと顔が紅くなったが武志の死を思い出して気持ちは沈んだ。

 

普段は乱暴だが困ったときには必ず助けてくれたあの少年に二度と会うことができないと思うと目に涙が溢れてきた。

頭を振って気持ちを切り替えようとする。

座敷から出てみると事務所の隅に壊れた花瓶や菓子鉢がゴミ袋に入れてあった。

床には何らかの破片がまだ散らばっており、時間がないからとりあえず片付けた感がある。

 

壁に立てかけてある部屋箒とちりとりで片付けた後で雑巾でざっと埃を拭いておいた。

この手の細かい作業は好きなので落ち込んだ気分が紛れてちょうどいい。

作業をしながら事務所に連れてきたもときが言ってたことを思い出す。

 

「僕は仕事があるから出かけるんで鍵かけとくけど帰る前に連絡入れとけば鍵開けっ放しでもいいんで。 あと今日の受付は終了してるんで事務所の電話はでなくていいから」

 

面倒見がいい様に聞こえるが後でさくらが臨時収入で豪遊してから帰ってことを承知の上で言っているので、面倒くさくなったのが透けて見えた。

 

一通り掃除をすませて一息ついたので窓から見える街並みに目を馳せる。

様々な人妖入り交じっている姿は中々に新鮮で異様かつエネルギーに溢れている独特の光景だ。

その光景に探していた見慣れた姿の人物を見て菊世は部屋から飛び出した。

 

 

「あっ、ボス~! 今ボク、一人で暇なんだ。 遊んでよボス~♪」

「だれだっけ?」

「ひどい! あんなにあんなにアツイ時を過ごした仲なのに!」

「イタズラで火事になりかけたのを一緒に消し止めたから熱い仲とかないない」

 

菊世を事務所に送った後に残りの仕事を片付けるために依頼人に会いに行く途中でもときは声をかけられた。

黒い羽をはやした長い髪に着物をはだけたような服を着た能天気そうな少女は自称ヤタガラスの化身を名乗る魔族のミナサキだ。

とある仕事で偶然助ける形になって以来今はいないリリムという下級悪魔とセットで懐かれてたまに街で会うと遊べと絡んでくる。

 

ちょくちょく自分を人探しの職員にしろといってきて「上司ならやっぱり呼び方はボスだよね!」とこちらをボス呼ばわりしてくる。

一度見た物の場所を探知できるという地味に汎用性の高い「ハッピートレーサー」という能力があるため、雇用を真剣に考えたが普段の態度からするにすぐ飽きて遊ぶだろうと判断。

その話題が出るたびに次の仕事が見つかるようにお祈りの言葉を送っている。

 

「今仕事だからまた今度」

「えー、ぶーぶー」

 

子供っぽいセルフ擬音で文句をいうミナサキを無視してもときは依頼人の元に向かった。

 

 

7、

ドッペルゲンガー(二重存在)?」

 

もときは依頼主が告げた言葉をオウム返しした。

 

「もう一人の自分が現れて見たら近いうちに死ぬとかいうあれ?」

「それだ」

 

我が意を得たりと依頼主は頷いた。

 

「死者は蘇らない、条件が揃えば蘇生できるがあれは冥界に旅立つ前に腕を引っ張って連れ戻すだけで完全に旅立った者を呼び戻すわけではないのだ」

「はあ」

「かのドクターメフィストでさえも完全なる死者蘇生は不可能、ならばアプローチを変えてみることを思いついた。それについてまず――」

「そこでドッペルゲンガー?」

 

この手の碩学家の類は興が乗ると非常に話が長くなる。

まだ依頼が残っているので前置きは終わらせて本題に入らせるためにもときは話を急かした。

一瞬つまらなそうな顔になったが説明を続けた。

 

「そうだ! 死んだ人間が蘇らないなら死んだ人間から同じ記憶を人間を持った人間を作ればいい。 古典的SFではありふれた方法だが成功例は殆ど無い」

 

対魔忍世界ではクローン技術が成功しており、井河アサギのクローンが作られているが本人程の戦闘力は発揮されていない。

だからといって貴重なクローンを娼館送りにしているのはどうかと思うがそこらへんは変だよ対魔忍世界。

 

「思うに機械や魔術で記憶を転写するという方法をとっているため実際に体験したこととの差異が原因だろう、そ・こ・ですでに本体と同じコピーのような存在であるドッペルゲンガーに目をつけた!」

「はぁ」

「原理はまだわかっていないがドッペルゲンガーは本体とまったく同じ存在だ、ならば実際死者からドッペルゲンガーを生成できればそれは死者が復活したと同じではないか!?」

「はぁ、それで依頼の方は?」

 

そう言ってもときが質問すると依頼人はバツが悪そうな顔をして頬を掻いた。

困ったように視線を左右にキョロキョロと動かしている。

 

「あー、実は実験体に逃げられてしまってなぁ……」

「はぁ、逃げた実験対象の捜索ですか」

「まあ、その、なんだ、その通りなんだが……」

 

どうにも歯切れが悪い姿を見てもときはなんとなく察した。

 

「……既に作ったんですか死体からドッペルゲンガーを、それが逃げたと」

「そのとおりだ」

 

お手上げだとでもいいそうに両手を上げる依頼人。

こちらを伺うような視線を向けてくるがもときは平然としていた。

この街で人探し屋をやっているとこういう風変わりな依頼などよくあることなのだ。

 

「それで探しているのはどんな人物なんですか?」

「おお、受けてくれるのかさすが東京キングダムでも名うての人探し屋だ!」

 

こちらの人物なんだがと言って応接間から入って地下に入り金属で覆われたひんやりとした実験室に入れられる。

保存用のホルマリンの匂いがする部屋の奥に白いシーツをかけられた複数ある死体から一つを見つけ。

シーツを剥がした、そこに居たのは伊熊武志だった。

 

 

 

 

 

8、

「はぁ……、はぁ……。 俺に逆らいやがって!」

 

ドッペルゲンガーの武志は自分の足元に力なく横たわっている菊世にそういって悪態をついた。

馴れ馴れしくこちらに涙目で無事だったのか、心配したと触ってくる菊世に腹が立ち。

扇情的な格好を見て黒い欲望を抱いて廃墟に連れ込んで強引に迫ったのを拒絶されたのにさらに腹が立ち。

側に落ちていた石で頭を思いっきりぶっ叩いたら菊世は意識を失って大人しくなった。

 

「俺は特別なんだよ、選ばれたものなんだ! 誰だって俺の言うことを聞くべきだし思い通りにならなければいけないんだ!」

「死体から作ったドッペルゲンガーは死ぬ前の思いを強烈に焼き付けてそれを原動力にするというけどそういうことか」

 

 

秋もときが現れた、依頼人の家の前で蟻で遊んでいたミナサキにダメ元で写真をみせたら見覚えがあると言ったので案内させたのだ。

もしやと思い念の為菊世に糸を巻き付けてあったのだが、ドッペルゲンガーとして蘇った伊熊武志と同じ場所にいた。

それを辿ってその危機に駆けつけたというのは本人以外には知らないことである。

 

突然現れたこの世の者とは思えないほどの隔絶した美貌の持ち主に武志は我を忘れるが、すぐに正気に戻った。

何故なら自分は特別な存在なのだ、どんな美貌の持ち主だろうが自分に劣るという強烈な自負があった。

 

「ひどいことをするね、本人ではないとはいえ心から彼女は君の事を案じてたっていうのに」

「ハッ、助けるとか何様だよ頼んでもしねぇことで感謝されたがったってか? こっちにとっては一文の特にもなりゃしねぇよ」

 

自分の身を危険にさらしてまで少年のみを案じた少女への返答はそんな侮蔑に塗れた悪意だった。

もときは顔を俯かせた、少女の報われない思いに哀れみを感じたのか?

否、そんな感傷的な感慨を持つような人物ではない。

これまでも、()この瞬間もだ。

 

 

少年はそんなもときの姿を見て冷や汗を掻いて後ずさった。

まるでいきなり目の前の人物が唐突に別人になったかのように見えたのだ。

もちろん何も変化した様子はない。

 

こいつは危険だから逃げろという本能を強烈な虚栄心が上回り攻撃を仕掛けた。

ドッペルゲンガーという人間ではない人間という矛盾により本物以上の能力を身につけた武志はその一瞬、音速さえ凌駕する速度を可能にした。

死の淵から蘇り新たな力を手にした彼は間違いなく何かに選ばれた者であると言えた。

 

しかしもときの操る妖糸は武志の身に纏う絶対の自信と誇りに支えられた速度を見掛け倒しで存在などしていないも同然とでも言うかのようにたやすく身体を十字に切り裂いた。

ドッペルゲンガーを探せという依頼は受けなかったのだ。

 

再び顔を伏せてから、顔を上げた。

いつもの茫洋な秋もときであった。

 

倒れた少女の方へと視線を向ける。

少年に会わせるという依頼は完了している。

少女の傷はほっといたら手遅れになるが今なら病院に運べば助かるだろう。

しかし助けようとした相手に裏切られ、裏切った相手はもういない。

助けたところでその後がどうなるかわからないが少なくとも明るい未来ではないのは確かだ。

これ以上の手助けは仕事のサービスの範疇を外れる。

 

「選ばれし者ね、――選べる者にはなれなかったみたいだ」

 

『特殊』と『特別』は似ているようで全く違う。

オリンピックで金メダルを取れるぐらい『特殊』な才能の持ち主でも車には速さでは勝てないように『特別』とはそもそもの前提が違うのだ。

選ばれるという『特殊』程度では自由に到れる『特別』になれないということを彼は分かっていなかった。

 

自由とは自分を守る鳥かごがないかわりに外敵などから自分を守りきれる強さを持つものだけが手にすることができる物だ。

自分を守り抜く強さを強いられる自由と狭い檻で守られる不自由とどちらが幸せなのだろうか?

 

 

もときはコートを翻した。

依頼主の生存が確認できればもう用は無い。

東京キングダムでは選ばれるより選ぶ自由の方が得難いと知っているもときはメフィスト病院に連絡を入れてから残りの仕事を片付けることを選び(、、)電話をしまい振り返らず部屋を出た。

*1

なおユキカゼ(と凜子)はそんな手を使わなくても行方不明の母親の情報がチラつくと自分から檻に入る模様。




対魔忍決戦アリーナ終了前に一本かきあげたくて書いたけど、久々の短編なのに前編、後編に分けてもいいかもと思うぐらいの文字数になってしまった……、まあいいよネ!
本当は武志くんが助けられて「もときさんパネぇ!」と尊敬して終わらせようと思ったが……。
そういう作品でもないからこうなったスマン。
多分世界が悪かった、来世は異世界に転生でもして触手として頑張ってくれ。



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