その女性は青白い肌と青白い肌と尖った耳をしていた。
魔族の中でもダークエルフと呼ばれる美男美女揃いと名高い種族だ。
普段は真っ赤な肌に張り付くように薄いドレスからうっすらと見える胸の起伏が呼気と吐息で交互に美しく動く様子へ男たちの助平な視線を吸い寄せているのを薄く微笑んで返すであろう美女が今はそのドレスに負けないくらいに紅く火照らせていた。
目はもときの顔に引き寄せられ意思の光はどこにもない、本来なら胡蝶蘭の様に華やかな美貌へもときの問いかけに虚ろな声で応じている。
「ええ……はい…ここで働いてました…子供をなくして……休業するって…」
「彼女の家を訪ねても見つからなかったのですが居場所に心当たりはありますか?」
「いえ……すいません…オーナーなら……わかるかも」
「オーナーの連絡先は?」
「携帯番号も……自宅も……従業員には教えてないです…」
「ここで待ってたら会えます?」
「今日は……無理です明日の二十一時に様子を見に来るって…」
「どーも」
この瞬間が永遠に続けば、いえ今この瞬間に生が終わってくれないかと思い始めた美女はもときが外へ歩き出したのを見てへなへなと崩れ落ちてしまった。
「女の敵……ロリコン…黒ずくめ……なんちゃって対魔忍…」
「人聞きが悪い、ロリコンじゃないしそれに対魔忍はもうやめてる」
もときの横を通り過ぎる人間は耳をすませると足下の影からぶつぶつと若い女の声が聞こえることに気づくだろう、もっともその前に天使の顔を見て魂を吸い寄せらない人間に限定されるが。
懐からもときがコンパクトを取り出すとその鏡に写っている子供も女の敵だというさくらの意見には同意しているらしくコクコクとうなずいていた、ロリコンと黒ずくめとなんちゃって対魔忍は否定しないらしい。
「――とりあえずこの店のオーナーについて調べるか」
わずかな時間なにもせずに日の光に全身をさらしてから彼は面倒くさそうにコンパクトを閉じて歩き出した。
東京キングダムで銃撃戦があった翌日のことである。
たまの休日でアナログゲームの勝負はこちらに不正疑惑があると抗議したさくらが持ち出した自身の給料で購入した新世代ゲーム機で朝まで勝負をして二人して昼過ぎまで寝坊するという夏休みの学生みたいな休日の使い方をした日のこと。
目が覚めたもときはつけっぱなしのテレビとゲーム機の電源を切って顔を洗いに洗面所で顔を洗おうとした時に鏡に映る自身の背後に誰かがいることに気付いた。
そのまま背後を見ても誰もいないが鏡を見ると顔の見えない子供が映っており、魑魅魍魎の類かと思い霊体すら縛り切断する妖糸を用いて鏡に映っている場所を調べても何の手ごたえもない。
洗面所に入ってきたさくらが来るまで鏡とにらめっこしていたがその間にこちらに危害を与えようとする様子もなしであった。
さくらにその事を伝えたが鏡には別に変なものが映っていないとの反応からどうやら自分以外には見えないらしい。
別に害がないならいいかと放置することにした。
最初は無視していたもときだが二、三日経つと普通の手段じゃ気にするような相手ではないと思ったのか鏡以外の反射するものすべてにもときの前に出てピースサインをするなど修学旅行中の小学生並みにアグレッシブな映り方をするようになりさすがにちょっと気になったがスルーした。
朝、洗面所に入ったら洗面台の鏡に赤い字でなにやらよくわからない文字がかかれており鏡の中にいる子供が何やら下を指差していた。
指先を視線でたどると流しの中にコンパクトが置いてある、それを取れとジェスチャーしているので手にとった。
顔を上げ文字を見たもときは何かを思いついたのか洗面台の鏡に背を向けて反対側をコンパクトの鏡で文字を見ると
『おねがい ままさがして』
と書かれていた。
「ママをさがして?」
もときは怪現象に驚いた風もなくいつも通り茫洋とした顔で文字を読み上げると鏡の中のなんでこんなに手間をかけさせるんだといわんばかりに手をぶんぶんとふりながら子供はコクコクと頷いた。
「おはよ~う、……え、なに、これ、心霊現象!?」
ゲームをやって夜ふかしをしていたさくらが眠そうに洗面所に入ってきて騒ぎ出した、そういえばこいつホラー好きだったなとキャーキャー朝っぱらからはしゃいでいる寝間着姿の同居人兼自称助手冷めた目で眺めた。
その日の夕方、仕事帰りにあやとりをした子供と遊んだ場所へと足を運んだ、東京キングダムは大通りには一般の客向けのナイトクラブやカジノ、風俗店が立ち並んでおり、夜になると本土から訪れた観光客によって活気に満ち溢れるが、港湾地区に近づくほど治安は悪く、大小の犯罪組織に加えて米連や中華連合、ノマドなど様々な勢力の出先機関がひしめき合う危険な場所だ。
子供が遊んでいられるような場所は限られているので出会うのはいつも同じ場所であった、そしてもときが訪れたその場所にはこの街に似つかわしくない花束が置いてあるのを見つけた、黄色い花束を見ているとそっと東京湾から吹く海風がもときの頬に砂をばら撒く。
「鏡に映る子供の幽霊が依頼者か――引き受けたらロリコンだのなんだの文句言われそうだ」
自分のつきまとう鏡に映る子供は死んだあの子供だと思い至った黒衣の影は妖々とその場去った、死と隣り合わせの街を彩る喧騒とネオンのジャングルに呑み込まれてもその美貌は夜光虫の様に輝いてみえた。
というわけで第二話ですあんまり話が進んでないのはご愛嬌、これも全部台風ってやつの仕業なんだ(責任転嫁)