淫獄都市ブルース   作:ハイカラさんかれあ

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3行でわかるプロローグ

主人公は超絶美形の凄腕糸使いの転生者だよ。
美形過ぎて学園生活をやめる羽目になったよ。
拉致られた対魔忍とか人探しの仕事始めたよ。


本編
プロローグ<転生の章>(短編)


近未来の日本。

人間達の世界と魔族と呼ばれる魔物が住む魔界が隣あった世界、古に結ばれた人と魔の間での相互不可侵の約定が人の堕落(だらく)により破られ、魔界の住民達が人間界で活動を始めた魔都東京。

両者が結託した企業や犯罪組織の登場によって、時代は混沌(こんとん)と化していった。

しかし闇の勢力に対抗できる者が現れ、いつしか人々は其の者たちを対魔忍と呼んだ。

 

1、

『彼』の脇を通り過ぎる連中の大半は、明らかに尋常な人間でなかった。

通り過ぎる人々は何かに憑かれた異常に鋭い目の光を放ち。

一目で殺し屋か用心棒と知れる、脇の下に銃器による膨らみがあるトレンチコート姿。

その辺の魔界由来の技術を持つ魔界医による強化手術を受けたらしいパンツ姿の筋肉男。

道の真ん中で犯され嬌声をあげる、破れたレオタードのような服装......対魔忍スーツをきた女子。

それをみて続々と集まる豚顔人間、下級魔族のオークである。

―――みんなおかしい明らかに異常だ。

 

 

ここは東京キングダム・シティ、東京湾に建設された人工島の通称である。

かつては政府主導で都市開発が進められたが、現在では魔界の住人も入り混じった、闇社会が構築され無法地帯になっており退廃と混沌が形を成した魔都になっていた。

 

 

だがそんな場所に住む連中が『彼』が通り過ぎるたびに、目を見開き硬直した。

黒いロングコート、黒いシャツ、黒いスラックス、上から下まで、靴に至るまで黒一色の男。

着る人物が間違えば気障か或いは不審者と言う、評価は免れない黒尽くめと言うファッションを、黒と言う色はこの男に纏われる為に神が生み出したのではと、余人はそう思うだろうと断言できるぐらい自然に着こなしていた。 

しかし魔都の住人が停止したのは、服装ではなく来ている本人の顔を眼にしたせいかもしれない。

小春日和が顔に取り付いたようなのほほんとした、間延びした表情のくせに、実に恐るべき美貌の持ち主だった。

 

吸い込まれそうな深みを湛えた黒瞳、天然の絶妙のバランスで形作られた鼻梁、薄い紅を引いたような唇、太陽のように眩い歯並び。

美を司る神がノミを持ち、自らその顔を彫り上げ、依り代にしたとしか思えない美の具現。

 

「見つけた」

 

多くの通行人を唐突な忘我へと導いた本人は、周囲のそんな反応などどこ吹く風。

オーク達に犯されていた女の近くにより顔を覗きこみ呟いた。

 

「あのー、その女性に用があるんですが」

 

オーク達は硬直した顔を数回瞬きし、リーダーらしきオークが色欲と暴力で構成された下卑た顔で前に出た。

 

「ブヒヒッ、イケメンの兄ちゃんよぉ見ての通りお楽しみ中なんだよ、はいどうぞって簡単に渡すわけにはいかねぇな」

「そこをなんとか」

「だったらあんたが代わりに相手するかい? 俺は特に男には興味ねぇがあんただったら別だ」

 

媚薬効果のあるオークの体液を全身で浴び過剰摂取したことで、自分が今何をしているかわからない程に快楽に酔っていた、破れた対魔忍スーツの女子は急に自分に対する激しい快楽が止まったことに疑問を持ち顔を上げ見た。

その顔が視界に入り認識したとたん性的興奮による恍惚の顔が、至高の美を目の当たりにした芸術家のごとき、法悦の色に塗りかえられた。

 

「男でもいい、避妊するから!」

「さきっちょだけ、さきっちょだけだから!?」

「あんたいい男だな、俺と、やらないか?」

「おいこっちケツ向けろ。あくしろよ」

「うぉぉぉッ、助けてくれぇええええええっ! あんたを見てたらオチ●チンが破裂してしまうううううう!!! パーンて!!!!!!」

 

肉欲まみれの熱烈ラブコールに嫌そうな顔をする青年に、オーク達が群がり女から離れていったが女子の視線は『彼』にずっと向いていた。

その視界に一瞬蜘蛛の糸より遥かに細い、銀色の閃光が複数瞬いたことに彼女は気づいただろうか?

 

「聞いたか? 皆をこんなたぎらせた状態にさせて帰す訳ないだろ、三日三晩犯しぬい……ッ…ガ!」

 

『彼』を囲むオークの群れが再び硬直した。

先程の熱に浮かされ表情と違い、今度はまるで極寒の地で全裸にされたうえ、頭から水をかけられすぐさま凍りついたかのように青ざめている。

肉ばかりか骨まで切り込む痛みと痺れのせいだ。

 

「そんな暇はないし彼女を連れ戻すのが仕事でね」

 

美しさのあまり夢見心地な周囲の人々がオークが受けている苦痛を体験し、それを与えてるのがこの若者だと知ったら『彼』を悪魔だと断言するだろう。

中世の拷問官でさえ色を失いそうなその残酷、その美しさ。

見ている周囲の通行人も、そして、苦しみに囚われたオークでさえ、法悦に近い血のたぎりに身を灼いた。

『彼』がオーク達になにかしているのは確かだが、茫洋とした表情のまま両手を軽く握って微動だにせずただ立っているだけだ。

しかし、腕一本動かさず、いったいどんな手段を講じているのか?

 

ゆるめる(、、、、)からそのまま帰ってよ」

 

その言葉と共にオーク達の痛みが消える。

ほとんどのオークが得体の知れない攻撃による激痛から解放されたことにより、一斉にへたり込んだ。

しかし残りは怒りと性欲となにより恐怖(、、)により暴走し、『彼』に向けて武器を構えた。

再び硬直し今度は何が起きたか理解する前にまるで人型の積み木みたいに崩れ落ちたのである。

コンクリートの上に散らばった手足と胴は合せて数十個に達した。

 

あまりの切断面の滑らかさに血すら流さず倒れ、路場で人体断面図の展示会を開いた仲間に生き残っていたオークのリーダーはこの魔性の美貌の持ち主が触れてはいけない不可侵の存在であると骨身にしみて(、、、、、)呆然と呟いた。

 

「あ、んた……、もしかして対魔忍……だったのか…?」

「『元』ね、見習いでやめたけど。しかし脅せば逃げると思ったんだけど失敗だったな反省」

 

凄惨な光景をつくりだしながら、どうということのない声色で呑気、というよりこの状況では不気味とも取れる台詞を口にした。

オークたちをバラバラにしといて、その美貌には苦悩や凄愴(せいそう)(かげ)ひとつ浮かんでいない。

そんなもの、美しさの邪魔でしかないという風に。

 

オーク達が知るよしもないが自分達を金縛りにし、解体したのは錬金術で加工したチタン鋼の糸、太さnm(ナノメートル)

風にもそよぐ、綾取りもできる。

しかし『彼』の指が動くとき、それは主力戦車の装甲すら断ち切る鋭利な刃と化して敵を両断し、あるいは骨までめり込む不可視の紐と化して、四肢の動きを封じるのだ。

そのような神業、否、魔技を可能とする指先の手練。

『彼』はまさしく魔人であった。

 

いまだ呆然としてる女性のもとに腋の下から妖糸を侵入させ、肝機能と腎機能とを一気に昂進させ、オークの体液による媚薬効果を分解させる。 

多少障害は出るが、医者に行けば治る……だろう。

二、三度身震いをして、瞳に理性の光がともされる。

 

「五車学園所属、対魔忍見習いの佐川久仁子さんであってますよね?」

「あ……はい」

「五車学園の依頼によりあなたをお連れします」

「え……あ、その、貴方は?」

 

夢から醒めたばかりのような虚ろな声に、『彼』はオークから脱がせたコートを破けた対魔忍スーツの上に羽織らせ優雅に頭を垂らせた。

 

人探し(マンサーチャー)をやっている、秋もときです」

 

 

2、

こんにちは神だか悪魔だかよくわからん超越存在に闇の勢力に対抗できてない場面が多い凌●エロ特化サイバーパンクである、対魔忍世界に魔界都市ブルースという作品の主人公である、秋せつらの顔と能力を持った転生者こと秋もときです。

 

魔界都市ブルースシリーズを知らない人に説明すると、魔震(デビルクエイク)とよばれる大地震に遭ったことが原因で、妖獣が棲み、異能の犯罪者集団や暴力団の巣食うようになった魔界都市《新宿》。

そこで主人公の秋せつらが桁外れの美貌と鋼糸による超絶技術で人探し屋(マンサーチャー)として依頼された人物を探して魔界都市を駆け回る話だ。

ちなみに人探し屋は副業で本業はせんべい屋である。

 

秋せつらは二重人格(謎の第三人格もあるので多重人格かも)で、通常の一人称が『僕』の人格が敵わない場合や外道な相手に出てくる数段技量が上の一人称『私』の人格という無双モードがある。

しかし再現は無理だそうで、『僕』の秋せつら擬き(もどき)で、《秋もとき》という名前になりました(駄洒落か)。

それで今何をしているかというと、学校の校舎裏で愛の告白をされています。

 

 

3、

「あ、あの、ひ、一目会った時から好きでしたッ!」

「はぁ」

 

若々しい青春美のエネルギーを慕情にこめて決死の覚悟で伝えた思い。

それにたいして相手はいつもどおりの茫洋な声で応じた。

神は世界を作るのに5日と半日かけたというが、この男の美しさは一週間以上かけただろうと芸術の徒に囁かれる秋もときである。

この男は他者が自身を視界に収めた瞬間から老若男女を虜にする美の化身だ。

 

 

「あ、あの、それでどうでしょう?」

「ごめんなさい」

「!? ど、どうしてですか、悪いところがあったら直します、り、理由を!!!」

「悪いけど同性愛のケはないんで」

 

相手は男だった。 ゴリゴリマッチョメンで制服ピチピチである服のサイズ変えろ。

エロい体つきの美女・美少女が大勢いる五車学園でなんでゴリラのような男に愛の告白されてるんだろうともときは嘆いた。

 

もときは知らないが学園では女性たちが淑女協定なる不戦の約定を結んでおり。

『YesもときNoタッチ。我が命我が物と思わず、至高の美愛でること、あくまで陰にて、己の器量伏し、抜け駆けするもの死して屍拾う者なし、死して屍拾う者なし』

と何かを勘違いした条約が締結されている。

 

無論淑女協定なので男子は含まれていないのでそんな条約を知らない男子は止められず。

今回の告白劇につながるのであった。

これにより不戦の約定が解かれ、もとき争奪の熾烈な忍法合戦が繰り広げられるのは完全に余談である。

淫獄都市ブルース-甲河忍法帳-はじまりますん。

 

「そ、そんなことをいわずに! 同性愛はいいぞぉもときぃ、性欲が絡まないからピュアな愛だ」

「そうかもね、じゃ帰るわ。 あと呼び捨てすんな」

「待って! ……ならば力でそんな常識、私が塗り替えて見せよう、この、拳で!」

「ええー(ドン引き)どんな考えでそうなるのか、というかキャラブレすぎ」

 

完全に性欲の激流に身を任せすぎてどうかしてる、糸で相手を調べても洗脳の類は感じられないので素であった。

学園という閉鎖的空間で訓練漬けの毎日だからかなぁと、もときは遠い目になった。

 

「鍛え抜いたこの体と忍法、今使わずいつ使う見よ、我が全身全霊!」

「いや任務のときに使うべきでは?」

 

筋肉ムキムキマッチョメンこと鈴木東海林太郎丸宗近(しょうじたろうまるむねちか)(17)の上半身に纏う制服が膨張した筋肉ではじけとんだ。

さながら巨大な巌が割れて川に落ち、水に流されていくうちに余分な角がとれ 川下で完全な球体なった。

そんな印象を持つ肉体である。

もときはそんな肉体に興味はないので相手が筋肉に力を入れてるうちに、こっそり距離をとった。

 

「私ぁ能のない対魔忍でしてねぇ、唯一できるのがこの筋肉操作なんです」

「もしかして転生者だったりする?」

「?」

「違うのか…」

「なにやら知らんがいくぞ!」

「こないでいいよ」

 

鈴木(略)の使う『忍法・爆肉鋼体(ばくにくこうたい)』は筋肉操作による爆発的パワーと鋼鉄の如き鎧とかした鉄壁ならぬ肉壁防御を誇る、硬い・速い・強いの三拍子が整った攻防一体の術だ。

本人の技量に強さが左右されるが学園随一の格闘能力を誇る彼が使えば、単純故に隙のない強力な術である。

 

「フルパワー100%中の100%だ!」

「戸●呂なのか美しい魔闘●鈴木なのかどっちだよ」

 

忍法で強化された巨大な筋肉が高速で迫ってくるのは岩山がこちらに向かって雪崩れ込むような凄みがあった。

強化された絶大なパワーと質量を増した鋼の肉体から繰り出される攻撃をまともに受けたら、性癖を変える以前に肉体のほうがミンチよりひどい変化をとげそうである。

すごい勢いで突撃してくる相手の腕にもときは糸を巻き付けひっぱり、合気道の要領でバランスを崩して相手の力を利用して投げ飛ばした。

その結果規格外のパワーを制御できずに鈴木はもときの上をロケットのようにものすごい勢いのまま空に向かってすっ飛んでいった。

 

あとで聞いた話によると鈴木は限界を超えた能力の使用(100%を超えた歪み)で空中で動けなくなりそのまま受け身を取れず着地して、捜索隊が来るまで身動きが取れずに衰弱状態で発見されそのまま入院したそうである。

その後、彼が退院して学園に復帰直後に行われた、(当事者無視の)もとき争奪の忍法合戦で猛威を振るったというのは完全に余談である。

 

「まだ午後の授業まで時間あるな教室で寝よ」

 

まだ昼休みである、五車学園の一日は長い。

 

4、

「よう、もとき」

「やあ達郎」

 

こいつは友人の秋山達郎。スタイル抜群の才女であるブラコン属性の秋山凛子を姉に持ち、褐色貧乳の水城ゆきかぜを将来彼女に持つリア充である。

エロゲの主人公か! と突っ込みたいが対魔忍ユキカゼでは制止をガン無視でほぼ無策で娼館突っ込んであっさり洗脳からの調教雌落ちされたせいで頭対魔忍という言葉を浸透させた原因であるゆきかぜが主役だ。

そのためエロゲの主人公ではない彼は姉と恋人が高確率でNTRるエンディングをむかえる星の下に生まれた可哀想な男である。

 

容姿レベルが高すぎて最早オーバフロー状態のもときは学園内でモテすぎるが故、逆に周囲が牽制し合って冷戦状態となっているため、モテまくってるのに主観ではあたかもモテてないような不可思議な現象が起きている。

普通にリアルが充実してるが破滅の未来が待っている達郎が羨ましいようなそうでないような微妙な気分にさせるのであった。

ちなみに将来付き合うといったのは現在付き合ってないからである、いつ付き合うかは正直忘れたがやっぱり羨ましいやつである。

 

「昼飯も食わずに相変わらず呼び出しか。どっち(、、、)だ?」

どっち(、、、)も」

「いつもどおりか、モテる男はつらいな」

 

愛の告白と決闘とどっちかという質問だ。

だいたいセットなのでどっちもするのが秋もときの日常である。

 

「そういえば、放課後校長室に来てほしいって伝言預かったぞ」

「へぇ」

「他人事だなお前、また外で仕事か?」

「さぁ?」

 

五車学園の生徒はあくまでも見習いなので基本は訓練と下積みのため現役対魔忍のサポートが中心だが、一部の有望な対魔忍はすでに現場で働いておりもときもその一人である。

その美貌と実力からもときと組みたいという生徒は多い。

しかし一人で索敵、強襲、奪還、撤退をこなせるもときは下手に組むよりも個人で活動することを好み、『騙して悪いが』系のダミーの依頼以外失敗もなく八面六臂の大活躍をしておりちょくちょく呼び出され便利屋扱いをされていた。

 

「とりあえず放課後校長室ね、了解」

 

5、

「申し訳ないけれど自主的に退学してほしいのよ秋くん」

「はぁ」

 

関東の一角にある現代の隠れ里『五車町』、そこに存在する対魔忍養成機関である『五車学園』の校長室ですまなそうな顔をしている妙齢の美女。

意志の強さを感じる目、後ろにまとめた濡れ羽色の髪、野生の豹のようにしなやかに無駄なく鍛えられた肢体。

シックな女教師スタイルの服からはち切れんばかりに主張する、豊満な胸としゃぶりつきたくなる引き締まった尻。

凛々しさと強烈な女の色気を合わせ持つ、最強の対魔忍と名高い五車学園校長の<井河アサギ>である。

ドーモ、タイマニン=サン息子がいつもお世話になってます(R-18的な意味で)

 

「<上>からの直々に退学させろとの命令よ」

「敵対組織の政治工作」

「……でしょうね」

 

対魔忍は魔族に対抗するために近年設立された日本政府公認の組織である。

しかし日本政府の役人は大部分が魔族と手を結んでいる状態だ、そこから根回ししたのだろう。

しかしなぜ一介の見習い対魔忍のもときをわざわざ指名して退学させようとするのか?

 

「ここ最近、間諜(スパイ)が多かったですからね」

「それを排除し続けている生徒を退学させろ、ここまで露骨だと笑えないわね」

 

対魔忍の構成員は古来より退魔の力を受け継ぐ家系の出が多く『ふうま』が没落した現在、アサギの『井河』が筆頭である。

しかしその『井河』の当主であるアサギの祖父が裏切りアサギの手によって粛正されたゴタゴタで、政治や組織運営に長けた人物が失われアサギを中心とする若手が組織を担うことになった。

結果、ノウハウもなく手探り状態で組織を回している五車学園は防諜に関してザルでスパイ天国状態になっている有様だ。

ソシャゲの対魔忍決戦アリーナ(通称:決アナ)の主人公である『ふうまのお館様』など数多くの工作員達が潜入し人材確保のために様々な策を弄して、何人もの将来有望な見習い対魔忍が洗脳や調教を秘密裏に受けて拉致されている。 

 

 

当然人妖問わず魅了する魔性の美貌を持つもときに対してもあの手この手でその魔の手を伸ばしているが、ことごとく妖糸の返り討ちにしている。

今さっきもこの部屋に入る直前にもときは探査用の糸で部屋を探り、部屋に足を踏み入れた瞬間に妖糸で仕込んであった罠を解除していた。

余談になるがもときが会話しながら遠隔操作の罠を辿ってその先にいるスパイの首を刎ねていたのを目の前のアサギが知るのは、もときが部屋から出て少しして清掃員に扮した魔族の死体を発見したと報告が入った後である。

 

「けど、それが退学させる理由ですか?」

「もちろん違うわ」

 

井河アサギは単純な実力では文句なしに対魔忍最強だが裏世界の住人にしては情に流されやすい、その甘さがアサギ自身の首をしめることが多々あるが、逆に言えば敵からの交渉で仲間を売るような真似は自分が不利益を被ることになってもしない。

だからこちらの少し横(、、、)をみて話すアサギをみて、もときは理由は『これ』かなぁと内心ため息をついた。

 

敵に囚われれば、常人なら発狂するかストレスで死亡する。その常人を遥かに凌ぐ対魔忍ですら屈する凄惨な調教に耐え抜き、機会を窺い敵を排除し生還した実績が何度もあり、調教の後遺症もその卓越した精神力で抑えきる最強対魔忍井河アサギ。

そんな彼女でさえもときの顔を数分以上見つめ続けると夢の世界に旅立ってしまうのだ、もしもまだ十代の精神的に未熟な見習い対魔忍がもときの顔を見続けたらどうなるだろうか?

 

「喧嘩で重症になった生徒や、精神的にまいってしまいカウンセリング中の生徒が多数」

「はぁ」

 

もときが次の移動教室先を聞くために少し女子と会話しただけで話した女子に対する嫉妬による争いが起き、もときを見ただけで一目ぼれをして思春期の男女(、、)が重度の恋煩いで日常生活がままならなくなったのだ。

 

「あなたに手足を切り落とされた者の人数が多すぎて、保健医が過労死すると直訴があったわ」

「あとぐされがないように、手足でなく首を切り落とした方がよかったですかね?」

「気持ちは察するけど、もう少し手心を加えてあげなさい……」

「同じ対魔忍相手にそんな余裕ないです」

 

特別見覚えのない女子に「自分のものにならないなら一緒に死んで!」と無理心中を図られたり。

「俺の女(片思い含む)奪いやがったな死ね!」と男子から身に覚えのない報復の刃向けられたり。

「お前が好きだ、お前が欲しいィィ!!!!」と性的に襲ってくる男女を返り討ちにするのはもはや日常茶飯事。

もときもうんざりして、「正直どうでもいいや」と投げやりな対応だが、さすがにあんまりにもあんまりな発言にアサギはドン引きして顔をひきつらせた。 

 

「えーと、つまり学園に悪影響がでてる+政治圧力で退学?」

「それが建前、本当は無理して残るとあなたを学園から確実に排除するために敵が何をするか予想がつかないからよ」

「別に自分の身くらいなんとかなりますが」

「あなたを排除するのに他の生徒が巻き込まれる可能性があるのが問題なのよ」

「ですよねー」

「『自主退学』というのはそういう形でないと一部生徒から猛反発がでるわ、そうしてもでるでしょうけどしないよりはマシね」

 

あれれ~おかしいぞ~、最初は超絶イケメン最強キャラでしかもエロゲー転生で勝ち組確定、モテモテのうはうはだぜfoo!とか思ってたのに、護身のためにリビドーに翻弄される学生や教師の手足ぶった切る毎日送った末に退学とかどうなってるんだYO!

相手の手足ぶった切るのが悪いだろって? 

いやいや、だって言い訳させて貰うと自分は超絶イケメンフェイスと糸の技倆を再現したせいで転生特典に忍法非搭載のなんちゃって対魔忍なのだ。

固有の『(嘘)忍法・ 美影身(びえいしん)[効果 常時魅了]』を常に使用していると(超イケメンスマイルで)誤魔化しているが実際には忍法どころか対魔粒子を扱えないのである。

対魔粒子で身体強化できるうえに切り札に忍法の使える対魔忍と自分との間に身体能力は雲泥の差がある。

先手をとって糸で()らなきゃ()られるのだ、しかたないね。

そもそも対魔粒子は魔族の血を引いたものしか操れないのでメイド・イン・ゴッドボディの秋もときが使えるはずもないのだが。

 

あいつら糸で激痛与えてもたまに気合で耐えて忍法使ったりすんだよねー、手足ぶった切って確実に戦闘不能にしないとこっちが死ぬんで手加減とか無茶いうなし!

というかなんでそういう根性を味方を殺そうとしたりレ●プしようとする時に使って、敵の罠にかかったときにみせないであっさりつかまってるんですかね逆だろ普通!

 

「こちらも正直心苦しいのでその後のフォローするから、なんとか了承してもらえないかしら?」

「はぁ(これ断れなくね?)」

 

世界の不条理にもときは嘆くが悲しいことに正義側の美形キャラはさっさと殺されるか性的に食われるのが凌●系エロゲー(対魔忍世界)のお約束であった。

そんな世界で知性がある人型の生物なら問答無用に魅了する魔貌をもっていれば、どうなるかはいうまでもない。

 

6、

そんなこんなでもときは性的に襲われ続ける学園生活に正直嫌気がさしてたので学校を中退した。

しかし異能の域にある美貌はトラブルの元になるので、異能・異形のはみ出し者が集まるトラブルが起きるのが日常的な魔都東京キングダムへ行き。

生活の糧を稼ぐため本家と同じ人探し(マンサーチャー)家業なんて始めていた。

 

学園の配慮で(需要が多いのも確かだが)、ちょくちょく見習い対魔忍の探索依頼を受けており。

今回も任務に失敗して行方不明になっていた、見習い対魔忍の少女を探してくれとの依頼を受託。

オークから救出して五車学園に引き渡すために、現在学園から手配されていた車に乗って移動中であった。

 

先程こちらを狙っていた半径2kmの地点にいる、狙撃手三名の首と胴を妖糸で切断したもときは、敵兵の無線での連絡をどういう原理でか糸を通して正確にミスなく感じとっていた。

どうやら少女を敵に売った内通者が、情報の暴露を恐れて傭兵を雇い、強襲部隊を編成して学園につくまでにこちらを抹殺する気らしい。

 

「しかし内通者とか、相変わらず対魔忍は組織的にガタガタだなぁ」

「え、あ、はい! ど、どうかしました!?」

「いーえ、何も」

 

独り言を呟くと横に目をやると助けられた少女が、自分に話しかけられたと思ったのか。

夢から醒めたように慌てて返事をするが、もときが視線を向けるとまた脳裏が恍惚と溶けた。

 

女性に接するとよくある反応をされ仕事終わった後の夕食はどうしようかと考え始める。

そんなくらいのことでも宇宙の真理に思いを馳せてるように見えるのが、ハンサムの得な所だ。

 

「おや」

「どうしました?」

 

もときの常ならぬ美に酔ってしまった少女に代わりそれまで沈黙を守っていた運転手が今度は話しかけてきた。

もときが何かを感じとったのを察したらしい。

客の雰囲気が変わったのを敏感に察知するのはさすがベテランといったところか。

 

「襲撃ですね、思ったより対応が早い」

 

もときは米連製であろう銃火器とパワードスーツを装備した兵士たちが乗った装甲車が接近しているのを周囲に張り巡らせた糸から感知した。

運転手が緊張する、少女は蕩けている。

 

「大丈夫です」

 

春風のような言葉であった。

車の後部座席で左手を開き戦闘態勢を整え、東京キングダムの人探し(マンサーチャー)秋もときが比類なき美貌と戦闘力を持つ『魔人』であると、襲撃者たちに思い知らせるのはわずか数分後であった。

これが対魔忍世界での一人の転生者のありふれた日常であった。




おかしい、学園生活を満喫させるつもりが第一話で退学している不思議
ちなみにタイトル名は「いんごくとし」です

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