1、
「はッ!」
裂帛の気合とともに異形の魔獣を斬り捨てる。
<ブレインドッグ>
その姿はまるで目のない褐色の大蛙だ、
もっとも人どころか牛をも飲み込みかみ砕けそうな口に生える牙と、
人間の脳を吸い取るための4本の触手がこの世界の存在であることを否定している。
「あーもー、しつこい!」
金髪の少女はそのまま手に持った刃を振るい魔獣を再び両断した。
年齢はミドルティーンぐらいだろうまだまだ幼さを残したあどけない顔とそれに反して豊かに実った女性らしい起伏の体。
そして身にまとう黒い対魔忍スーツ、突如姿を消したとお思えば相手の背後に周う不可思議な動き。
足元の揺らめく影がその奇術の種だろうか?
影を操る『忍法・影遁の術』を使う最強対魔忍の妹と名高い井河さくらである。
(まずい、このままじゃジリ貧だ)
敵を倒し続けているがいかんせん数が多い。
こちらは一人で相手の戦力は不明の状況だ。
更にどこの施設かわからないが薄暗い建物の中で影が作り辛い。
援護が望めず、不利な場所で戦う羽目になっているのはこちらを仕留めるための計算しての行動だろう。
先の見えない状況に焦る。
「どうした? これまでか」
タコとイカを足した名状しがたい人型の生物
「女の子一人に数で嬲るとか、趣味悪くない?」
「臆病なものでね、そのまま力尽きるまで戦ってもらおうか」
人と顔の形状が違うので表情がいまいちわからないが声から、こちらを嘲笑っているのがわかる。
(どうにかしないとこのままじゃ…)
瞬間、銃声がさながら終末をつげるトランペットのようにこの状況を終わらせる合図のように場に響き渡る。
響く音からすると
恐らく反動を抑えるため小口径だが弾頭に炸薬をしこみ対象に接触すると爆発するいわゆる炸裂弾だろう。
炸裂弾は人体や物体を吹き飛ばすなど、大げさな高威力弾薬として描写されることが多い。
重機関銃や対物自動小銃に使われる遠距離での射撃で減衰した威力を補うタイプの炸裂弾が一般の炸裂弾のイメージだろう。
しかし拳銃や小銃に使用する小口径の炸裂弾は第二次世界大戦以降多発する、ハイジャック犯との戦闘用に開発されていたものでライフルなど大型銃では威力が高すぎて飛行機に穴が空いたりする危険があるため、
貫通力が低い弱装弾(弾丸を発射する火薬の少ない弾丸)を使い、
機体へのダメージを最小限にしつつ犯人のみを倒すために開発されたものであるそのため威力は低い。
実際に小口径の炸裂弾が使われた事件ではレーガン大統領暗殺未遂事件が有名だ。
その事件では銃を扱う入門用の弾丸と言われる低反動の.22LRの炸裂弾が用いられたが、
一発が大統領の胸部に命中、ジェームズ・ブレイディ報道官が頭部に被弾、他数名が負傷したものの致命傷には至らなかった。
拳銃や小銃弾の小さな弾頭の中に、有効な量の炸薬と確実に作動する信管を仕込むのは、技術的にかなり難しい。そして常に資金調達に苦心している軍から「わざわざ無理して手間と金かけて拳銃や小銃の弾丸を開発しなくても人間相手なら最初から威力が強い重火器を使えばでいいのでは?」という結論に落ち着いた。
警察などの拳銃や小銃が主な装備な団体はそもそも殺傷力の高い銃弾は必要ないので、殺傷目的の小口径の炸裂弾は弾頭が変形して体内で対象を引き裂くホローポイント弾の技術的向上もあり廃れた。
……のだが魔族の台頭により再び日の目を浴びることになる。
魔族相手には主流となっていた軍用ライフルの火力では効果が薄く、
高火力の重機関銃や対物自動小銃銃も遠距離での狙撃はともかく、
遭遇戦などの近接戦闘では重さと反動の強さ、装弾数の少なさにより取り回しが悪く、実践では役に立たなくなっていた。
そのため低反動かつ弾数が多く殺傷力の高い、なによりすぐ実戦投入するために『特別な訓練をせずに扱える既存の銃でも使用できる弾丸』を求められ、
開発されたのがこの
魔界の技術が流出したことで得た魔術と科学の両方の技術が使われた米連製の弾丸は、既存の火器に使用できる互換性を持ちながら重火器並みの高い威力と殺傷力を実現、まさに現代の魔弾というべき品物だ。
そんな対魔族用の新兵器だが、この異界の魔獣相手には決め手にかけるようであった。
「ありゃだめか、やはりこの世ならぬ者をこの世の武器で
そういって魔弾の射手は
いきなり現れた闖入者をみてさくらも。
ブレインドッグですらその姿に動きが停止した。
この世の美しさを白と黒で例えるなら、彼は黒。
しかも薄暗い闇すら汚れた絹の白に見えるほどに際立つ深い漆黒。
黒は死者と別れを告げる時に着る服である。
一説によれば何よりも目立つ色であるために死者を目立たなくする。
その存在を薄れさせ思い出に決着をつけさせる色だという。
彼を見ればあらゆる存在を忘れ彼一色に染まるであろう。
闇よりも深い黒の具現、彼の名は秋もときといった。
「しかたない、いつもどおり得意の技でやろう」
もときの姿をみて動きを止めていた
現れた相手が敵だと気づくと下僕の魔獣に命令を下してすぐさま包囲させた。
「この世の技でか?」
そう嘲るように言い放った言葉をもときは受ける。
「この世で身につけたこの世以外の技で」
そういい放つと1
他の者が扱ったところでチタン妖糸は単なる丈夫な屑糸以外の何物でもなくなる。
しかしもときの超常たる
鋼をも紙の如くに斬り裂く恐るべき必殺の武器に変化するのである。
それはまさしく常軌を逸したこの世ならざる技であった。
「なッ!?」
驚愕するは
体の構造は人と違えど、似た姿では弱点も似ているようでそのまま死亡した。
「え、と、あ、あ、ありがとう?」
さくらは状況の変化について行けないようだが、目の前の美しい少年が助けてくれたのがわかったので顔を赤く染めたまま礼をいった。
「どういたしまして」
そういうともときはそのまま脇を通り過ぎた。
2、
こんにちは、学校中退して自営業をスラムみたいな東京キングダムで営んでいる秋もときです。
今日も今日とて働きアリのごとく人探し稼業を行い、今回は廃棄された実験施設にきています。
今回は対魔忍からの依頼でなく東京キングダムの外から拐われた人物を探してくれとの依頼でここにたどり着いたのですが。
元は米連の施設だったのを現在マッドな魔界医師が使用しているらしくそこかしこに謎の生き物が彷徨っています。
前に仕事で交戦した米連兵からかっぱらった銃でホラーゲームのノリを楽しみつつ先に進むと誰かが人外と戦ってるじゃありませんか。
とりあえず、援護しましょうか。
ヒャッハー! 逃げる奴は魔族だ!
逃げない奴は訓練された魔族だ!
ほんと戦場は地獄だぜ! ……あっ、弾切れた。
▼
助けた相手はパッツンパッツンのスーツがエロい井河さくらさん。
対魔忍シリーズのメインキャラの一人だけあってスケベな体してるね素晴らしい!
しかし学園であった時よりどうみても若くてさほど自分と変わらない年齢なのをみると、これ決戦アリーナででた若さくらさんじゃね?
確かふうまのお館様がさくらさんを拐ってきた
やべ、ついカッコつけたくてイカタコマンを後先考えずに倒してしまった決アナ時空かここ!?
仕方ないんや、だって女の子のピンチに颯爽登場して決め台詞をビシッと言って敵を瞬殺するとかやってみたいシチュエーションじゃん!
「仕事が忙しいんで、じゃあの! 」で誤魔化せないかな?
無理? ですよねー(汗)
3、
「ちょ、ちょっと待ってよ!」
「……なにか?」
「いやいや、こんな所でうら若き女の子ほってどこいくの!」
「今、仕事中なんで(目そらし)」
「仕事?」
「マンサーチャー」
「まんさ??」
「人探し」
スタスタと軽やかダンスステップを踏むかのような早足でこの場を去ろうとするもときに、慌ててさくらが追い縋ろうとする。
「えー、つまり探偵みたいなお仕事?」
「探すのは人間だけ、そして探した人を依頼人に会わせる仕事」
「へー」
移動して話しながらもときは探知用の糸で、敵や罠を探っている。
薄暗い建物でも暗闇を超音波でさぐる蝙蝠よりも鋭い認識力を妖糸は可能とするのだ。
「ねえキミの名前教えてよ私はーー」
「井河さくら」
「いが……、知ってたの、なんで?」
「有名人だし、僕も元だけど対魔忍なんでね」
「え、そうなんだ! それでそっちの名前は?」
「秋もとき」
「じゃあ秋くんだね」
フレンドリーを通りこして正直馴れ馴れしいが不快にさせないのは一種の人徳だろうか?
不気味な生物の死骸や謎の薬品やカビの臭いが充満する場所に不釣り合いなくらい、和気藹々とした明るい雰囲気になっていた。
「けど対魔忍で、秋くんくらいカッコよければ私知ってそうなものだけどなぁ?」
「世代が違うからね」
「世代? そんなに歳変わらないよね?」
「いや『こっち』と『そっち』では十年くらい差がある、別次元だから」
「???」
「つまりイカタコマンに連れられてそっちからすると未来に来てしまったということ」
「え、嘘でしょ」
「ほんと。10年後の今だとそちらは講師やってる。アサギさんは校長」
「はー、へー、そうなんだー」
普通なら与太話扱いされそうな話だがあっさり受け入れたのは、対魔忍だから本人が柔軟な思考をしてるからかはたまた話した相手の美貌からくる魔力か。
「教師かー、こっちの私は立派にやってる?」
「……実力は確かだね」
雑魚には無双だがネームドキャラにボコられて負けた末に調教されて鼻フック姿でアヘ顔さらしたりする噛ませ犬ポジとはいえないもときであった。
4、
「ここか」
「一番奥だね」
「……いやなんで最後までついてきてるの?」
外面はポーカーフェイスを保つもとき。しかし意外かもしれないが、実は同年代の女の子と二人きりで話すことがそんなになかったもときは内心かなりドキドキしていた。
学園では女の子が二人きりになろうとすると必ずインターセプトされるか、二人きりになると血走った目で襲いかかってくるので、こうやって普通に会話するのはなかなかレアなイベントだった。
しかも一緒にいるのが気安い感じで接してくるピチピチ衣装でスタイル抜群の美少女なら余程女慣れしてなければ誰だってそうなる、俺だってそうなるby秋もとき。
ちなみに二人きりになっても、もときの顔をみてしまうとまともに話せないので照れ隠しで銃を向ける貧乳褐色ツンデレや、弟を理由に斬りかかってくる青髪ロングのブラコンなども襲ってくる相手に含まれていたりする。
「女の子をこんな所で置いてくとかなにかあったらどうするのよ〜」
「心配しなくても大抵の男は君より弱いよ」
しかし弱い相手に絡め手使われてアヘるのが対魔忍である。
「まあ、いいや仕事だ」
糸で内部を探ったら罠の類はないが……、未来予知じみた直感を持つ魔界都市の住人の中でも極めて強い直感を持つ秋せつらの肉体を再現したもときの勘が何かを囁いていた。
何が起きても次の行動にすぐ移れるように、糸で扉を開け――
「素材をマッスィィイーンに入れてシュートォォォ!
超エキサイティンッッッツ!!」
――扉を閉める。
「別の場所にいるみたいだ帰ろう」
「なにあれ?」
ハゲた白衣を着たいかにもなマッドサイエンティストが部屋で叫んでいた。
正直関わりたくないが仕事なので覚悟を決め部屋に入る。
「誰だ!」
「僕だ」
「ブルーノ、おまえだったのか…」
「違う、僕は秋もときです」
自分を見ても反応が薄い、どうやらこちらを
狂人の類だ。この手の輩は大抵面倒くさい。
「しかし貴様なんという美しさだ……、そうかおまえが神の御使か、ついに我が野望は成就した!」
「髪?」
「悪魔に対する神でしょ、邪神くさいけど」
彼の中では髪は死んだが神はまだいるのだろう。
「異形の神がいずれ世界を支配する、そのために私が尖兵となり新たなる世界に福音をもたらすのだ! その為の装置、その為の贄!」
「異形の神ってもしかして(小声)」
「さっきのタコイカマンだね多分(小声)」
要するに
「まあいいや、お宅が拐った人はどこ?」
「神が遣わした御使を捧げ新世界開闢の礎としよう!」
会話が噛み合わない
そして狂気の形相でこちらに手に持った杖を向けてきた。
その手首に赤い線が引かれーーーー消えた。
「おかしな技を使うな御使、だが儂は斬ったり撃ったりじゃ
「秋くん、こいつ多分むっちゃんと同じような不死身の能力!」
「しかも、こんなことも出来る」
もときの体が痙攣した。
妖糸を操る指先から痺れを感じていたのである。
「儂の体は体内電流を増幅して相手に流すことが出来る、黄色のネズミよりも強力な50万ボルトじゃ! よく無事じゃったな」
「はぁ」
間一髪糸を切り離せたのは魔界都市屈指の肉体が持つ固有の勘故か。
しかし感電したせいか舌がよく回らず、ついでに体が動かない。
「さあ、疾く昇天してその身を捧げるがいい、この電撃で!」
「影遁の術‘影鰐’」
その言葉と共に影の海から飛び出した影鰐(影の鮫)が白衣の狂人に食らいつき切り裂いて呑み込んでいった。
再生能力は高くとも、咀嚼されて挽肉になった所から再生できる程ではなかったようだ。
「やるねぇ」
「えっへん」
そう言って大きな胸を張るさくら。大抵の場合相手が悪いだけで間違いなく彼女は一流の実力者なのである。
5、
しばらく休んで実験室を探した所、幸いにもまだ捜索対象は手付かずで、薬で眠らされただけであり依頼人に連絡して引き取らせた。
東京キングダムでの行方不明者は死ぬか、ヤク中になるか、洗脳されて働かされるか、実験動物として人間をやめるかのどれかなので五体満足で後遺症もなくトラウマを抱えず生きて戻れるのは非常に珍しいケースだ。
「めでたしめでたし」
で、終わればいいのだがまだやり残した問題がある。
「それで私は?」
「うーん」
井河さくらのことである。
「あのタコイカマン秋くんが倒しちゃったから帰れないんだけど」
「そーですね(汗)」
拐った相手に戻させるのが一番だが、すでに死んでいるのでどうしようもない。
「対魔忍にはもう一人の私がいるから会ったらどうなるかわからないし」
「……SFとかだと対消滅したりしますしね」
「魔族は論外、米連は商売敵なんで正直行きたくないし」
「そーですね」
嫌な予感がビンビンである。
「これはもう責任を持って養ってもらうしかないね♪」
「Matte! いやいや、それは不味くない!?」
超絶イケメンボディとはいえ、前世から未だにDTには対魔忍の女性と一緒に暮らすのは刺激が強すぎる。
「えー、だって他に方法なくない?」
「ぐぬぬ」
命を助けて貰った手前、知ったことじゃないと突っぱねにくい。
しかしふうまのお館様みたいにホテル借りてそこに住ませるほどの財力はもときにはない。
「代わりに私が仕事手伝うからさ」
実際、さくらほどの手練れで使い勝手がいい忍法を使う対魔忍がいれば心強いのは確かである。
しかしなぁー、と悩むもときは名前の通りさくら色に染まる顔で熱っぽい視線でこちらを見ているさくらに気が付かない。
手を出してしまってもOKな表情である。
「それじゃよろしくね♪」
自分の命を助けてくれたこの世のモノとは思えない美貌の持ち主にすでに心を奪われていることに、必死でモラルと取っ組み合いしているもときが気付くのは暫く先のことである。
やっぱりおしゃべりなキャラだすと会話が楽しくて筆が進むね