淫獄都市ブルース   作:ハイカラさんかれあ

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書いてる途中でデータが飛んだので時間がかかりましたが投下します。
うーん、R-18禁要素削りながら対魔忍らしさを出すのはどうしたらいいものか


淫獄都市ブルース<哀愁の章>(短編)

1、

 

秋もときは仕事前と仕事後はサングラスをかける、

依頼人に会わなければいけないからだ。

人に会うのにサングラスをかけるのはファッションではなく、

その美貌の抑制のためである。

 

もときがまだ学生だった時代、ひさびさに学園の寮から休日に街へとくりだしたら複数事故がおきた。

彼を目撃した通行人達が棒立ちになって、交通を妨害し、ひどい場合は車に撥ねられた。

さらにその車の運転手がもときに眼を奪われ......(略

まさに眼もあてられない大惨事というやつである。

それ以来自主的にサングラスを購入したのである。

 

それでも、その美貌は古今類を絶する。

遠目で彼を見る通行人は無事になったが、それでもすれ違う者......どころか、前方数メートル以内で彼に気付くものは、老若男女を問わずに立像になる。

効果としては事故の規模が小さくなっただけであった。

 

サングラス装備でこれだと、いっそ仮面でもつけるかと考えるもとき。

そこで仮面をつけるデメリットとはなんぞやと思いを巡らせる。

まず「僕」の秋せつらの技倆止まりの自分ではこの顔も重要な武器である。

原作ではその再現不能の美貌で敵をも魅了して命拾いしたことがなんどもあり。

情報収集などが捗ったりしたことがしばしば。

こちらでいるかどうかわからないが、絵画で書いたものの魂を奪ったり、操ったりする能力者も絵に書けないほどの絶世の美貌のためにその術を無効にしたことが多々ある。

下手に仮面かぶったりして日常が不便になるだけならともかく、美貌のデメリットばかりみてメリットを殺して仕事に差し支えがあるような状況になるというのは考えものである。

 

色々考えた結果任務など特別な事情がない限り外出は、人目につかない夜にすればいいやともときは結論づけた。

それがまた別の事件引き起こすことになったのだが、その話はいずれ別の機会に語ることにしよう。

 

2、

「この人物の依頼を受けないで欲しいんです。」

「はぁ」

 

サングラスを付けたもときに依頼人として自宅兼事務所に来た女性は写真を見せてそう告げた。

相手もサングラスをかけているが、頰が赤く染まっている。

互いに目を遮らせても、もときの美貌は抑えきれてないのだ。

 

「そういった依頼は受け付けてません」

「相手より報酬を払うといってでもですか?」

「規則に例外をつくると癖になります」

「規則を破ることが?」

「依頼人が規則を破らせろということがです」

 

依頼人の女性は溜息をついた、説得は無理と判断したのだ。

それだけの動作だが気品がある、使われている衣服の生地も上等品だどこぞの上流階級の貴婦人だろうか?

 

「わかりました、時間をとらせてすいません」

「写真をお忘れですよ」

 

机の上の写真が浮かび上がり、女性の服のポケットに吸い込まれるように収まった。

その現象に目を見開き何かを言おうしたがそのまま頭を下げ、女性は部屋から出ていった。

 

「変な依頼だったね」

「まあね」

 

足元の影から声が響いた、影に潜んでもときの護衛をしているさくらである。

机の上にある菓子鉢から茶菓子を一通り糸で先程の依頼人が毒を盛ってないか調べてから取り出して口にした。

そして別の茶菓子をもうひとつ取り出して影に投げ込んだ。

そのまま噛んで顔を顰める。

本家を真似して作った手作り煎餅だ、硬かった。

煎餅職人への道は遠いようだ。

 

3、

「料金は一日5万円、現金でも口座振り込みでも可ですが振り込みを確認後に仕事に入る前払い制なので現金の方が楽です。

必要経費は別に請求しますがこちらは解決後でもかまいせん。 

料金3倍で最優先に解決の特急依頼となります。

こちらは予約制なのですでに特急依頼を受諾してると自動的に通常依頼となりますのでご注意を現在は特急依頼の予約はありません。」

「通常で構わんよ、前金はこれだ」

「了解しました、依頼が長引いて前金の分以上に日数がかかる場合連絡させていただきます。

逆に前金の分より短い日数で終わった場合必要経費を抜いてお返しします」

 

そう告げて前金の入ってる茶封筒をみる、この厚さは30万ほどだろう。

 

「この街にこられる人は必ずワケありです。

自分の意志で来たのか、それとも自分の意志に反して来させられたのかそれによって探し方が変わりますがどちらかわかりますか?」

「こんな街に自分の意志でくるはずないだろう」

「そうですか……、であれば注意事項を。」

 

そういいもときは田岡と名乗った相手の男性に目を向ける、相手は以前依頼を受けるなと言われた女性が見せた写真の人物だ。

 

「この街に来て笑顔で帰れることはほぼありません特に女性ならなおさらです。

この街にいる女性は死体かヤク中かマフィアなどの裏社会に属する住人か娼婦です。

あとは人間ではない者や、人間をやめさせられた『モノ』です。

わざわざ東京キングダムへ僕に会いに来てまで探したい相手が、変わり果てた姿になってる可能性が高いのを承知で依頼されますか?」

 

田岡はごくりと息を呑む、この美しすぎる少年が得体の知れない魔物に一瞬見えた。

この街の闇を深く知っている者特有の空気に気圧されたのだ。

 

「勘違いされてる方が多いのですが、この仕事は笑顔で再会するために探すのではありません。

相手が死んでいるか生きているかはっきりさせて思い出に決着をつけるために探すのです。

生きて見つけてもこれならいっそ死んでたほうがいい、、、、、、、、、、、、、、、、そういって嘆くお客様は多いです。

――それでも依頼されますか?」

「……当然だ、そうでなければこんな場所にわざわざこない」

「承知しました、気が変わってそちらが途中で捜索を打ち切っても支払った分の料金は返金しませんのでご了承を」

 

もときはそういって前金と依頼の資料を受け取ろうとするが田岡がそれを取り上げた。

 

「ありゃ」

「偉そうな口を聞いてくれたがこちらからすれば、そちらはまだまだケツの青い若造だ。

正直にいって探す気もない癖に金を奪おうとする方弁に聞こえる」

「はぁ」

「そこでだ、私の護衛と戦ってみろ。この殺伐とした街で人を探して回るのに私の護衛すら倒せない実力なら、自分で護衛を付けて自分の足で探し回ったほうがよっぽどマシだ」

「まあ、別に構いませんが」

 

そういってもときは相手の護衛を引き連れて外にでた。

そして数分もしないうちに護衛と一緒に戻ってきた。

部屋に戻った途端に護衛はそのまた倒れ込み動かなくなった。

 

「これでいいですかね?」

「……その男は元米連の特殊部隊上がりだ、それを軽く倒せるなら問題なかろうよろしく頼む」

 

そういって護衛を叩き起こすと、そのまま事務所を出ていった。

歩み去る足取りを妖糸で感知した。

田岡が後部座席に護衛が運転席に乗りそのまま去っていった。

 

「なにあの横柄な態度!」

「まあまあ抑えて」

 

ぷりぷり怒るさくらをなだめる、実際若造なのは確かだ。

安くない金を払ってもらうのだからそのくらいは我慢である。

突然、妖糸はこう告げた。

田岡と護衛の二人とも死亡した、と。

 

4、

「……あの依頼人可哀想だったねなんだか複雑」

「運が悪いとしかいえない」

 

確認したところ田岡の乗った車は見事に破壊されていた。

田岡を狙った暗殺か馬鹿な魔族の戯れかは新たな情報待ちだが、依頼人が死亡したのは間違いない。

依頼を受けるなと言った女性のことがなくともどうにもこの依頼はキナ臭い感じだ。

護衛と戦わせたのも依頼を達成できるか疑問だったというより、単にこちらの手の内を知りたがっていたような気がする。

 

依頼人は死亡したが前金貰った以上仕事は続ける。

資料の入ってるCDとそのケースを妖糸で探り仕込みがないのを確認してからPCに入れて読み込む、娘を探しているという話だが……。

入っていた画像データの写真の一つを見るとなかなかに可愛い女の子が写っており年は12、13ぐらいでもときとさくらより年下だ。

その少女を見てもときは何かが引っかかった。

 

「前に来た女の人に似てるね」

 

影からでてきたさくらが画面を覗き込む。

そう言われてみれば確かに面影がある。

姉妹にしては年が離れすぎているので娘か姪か。

どちらにしろかなり近い血縁者なのは間違いないだろう。

 

データには出生証明のコピーからはじまり小・中の成績表、写真、手紙などが入っていたが先程の写真が一番新しく最近の写真がない。

生年月日から計算すると少女はもときと同い年である。

高校時代の情報がまったくはいっていない。

しかもおかしいことに田岡とその妻、家族構成に関する情報が一切はいっておらず。

教えられた連絡先はダミーで、記された住所には別の一家が住んでいた。

 

 

5、

「悪いがそんな別嬪さんなら娼館や奴隷市にきたらすぐわかるよ、みてねぇな」

「どーも」

 

娼館で店番しているオークに情報代を渡して立ち去る。

ふと壁に貼っている写真をみると昔みたことがある顔が載っていた。

娼婦堕ちした元対魔忍だ。

居た堪れない気分で店から出た。

 

「東京キングダムに入った形跡なし、そもそもそれ以前に娘はすでに死亡している」

 

片っ端から情報屋にあたったが少女の目撃証言やそれらしい情報がない。

東京キングダムは広いようで狭く、例え人攫いや奴隷商人が関わっていても情報0というのはありえない。

魔獣が骨まで食べたりしても形跡は何かしらの形で残るものだ。

つまりこの少女は東京キングダムにそもそも来ていない(、、、、、、、、、、、、、)ということになる。

違和感を感じ調べた所、捜索対象はすでに死亡した女子高生だと発覚。

しかも五車学園の生徒、つまり少女は対魔忍であった。

 

「どういうこと?」

「……依頼人のことを調べる必要があるなこれは」

 

東京キングダムの外に出る必要があるとわかり。

サングラスつけただけではその美貌を隠すのに足りないのでどうしたものかともときはため息を吐いた。

一旦準備の為に家路へと足を向けると違和感が首に悪寒という形で走る。

周りには娼館に入ろうとするオーク。

客引きをする娼婦。

交代勤務で娼館の警護に向かう傭兵。

仕事が終わって帰宅する殺し屋。

喧嘩して殴り合う魔族らしき獣人。

道端でケタケタ笑うヤク中。

倒れたまま動かないホームレス。

東京キングダムでよくみる光景だが、なにかおかしい。

 

「秋くん」

「いつでも飛び出せるようにして待機」

 

声を出さずに影に向かって糸を伸ばしてさくらに糸電話の要領で振動を使った指示をだす。

歩きながら気付かない振りをして違和感の正体を探る。

 

喧嘩している獣人が銃をとりだした。

そして自分のこめかみに銃口を当てると引き金を引いた。

銃弾が脳を貫通し反対から脳漿が飛びーー散らず。

木片が代わりに噴出した。

獣人の顔はなかった。

見回すと周囲のもの全てこちらに武器を向け。

のっぺりとした顔がないマネキンに変化していた。

 

人形(にんぎょう)使い」

 

その言葉への返答は銃弾だった。

しかし撃ち込まれた銃弾は反対にいる人形に撃ち込まれた。

もときは空中に浮いていた。

逆バンジージャンプの要領で空中に移動した後に不可視の糸を足場にしてるなど相手の術者には思い浮かぶまい。

そのまま糸を振るい全ての人形を十字に切り裂き四つに解体した。

 

「人払いしてこれだけの数の人形を操るか」

「手練れだね」

 

もときが漆黒の衣装で音もなく大地に降り立つ姿はさながら黒い天使が舞い降りたようだった。

 

 

5、

「この男はうちに出資してる政治家の一人ね」

「へぇ」

 

五車学園校長室で対魔忍の少女について聞き出すためにアサギに会いに来たもときである。

姉とこちらの世界の自分に会うと面倒なことになりそうだということでさくらは留守番だ。

 

「娘さんは確かにこの学園に所属していた対魔忍よ、確かあなたが退学してしばらくした頃に任務中に殉職したはずよ。

詳しくはさくらが担当教官だったから聞いてみて」

「了解」

「後それと生徒の探索依頼をしたいのだけど」

「そろそろ本気でカリキュラムを組み直した方がいいのでは?」

 

 

 

「は〜い、秋くんひさしぶり♪」

「どーも」

 

もときの主観では毎日会っている井河さくらの大人バージョンである。

時間の積み重ねで色々アップデートされているな。

へへッ、コイツは中々暴力的ですぜ!(ナニがとはいわないが)

真っ正面からみると魅了されるので、相手が横目でみてるのをいいことにめっちゃガン見しているもときであった。

オープンスケベだと本人ではなく周りが血の雨撒き散らすのでかなりのむっつりスケベである。

露出度の高い東京キングダムの魔族もいいけど対魔忍もいいよね!

 

「それで殉職した田岡さんについてだっけ」

 

途中で言い淀むと視線を彷徨わせ、意を決して口を開いた。

 

「あの子、秋くんが好きだったみたいで学校やめたあと何人も気落ちしてる子がいたけど特に沈んでて。

殉職した任務の時も最後はキミの名を叫んでたって……」

「そうですか…」

 

もときは学生時代に自分によく話しかけてきた相手に彼女がいたのを今思い出した。

 

 

 

7、

「はいはい! どなたですかまったく」

「こんにちは、今大丈夫ですか?」

「………………………………………………………………」

「もしもし?」

「であッ!? あ、あ、あ、秋、もときさん!?」

 

チャイムを鳴らして赤みのかかった長い髪をツインテールにした少女はぶつぶつ文句をいいながらドアを開けた数秒後、口をポカーンと開けてもときが話かけるまで動きを止め、話しかけた後に血圧が心配になるほど顔を真っ赤にして慌てだした。

 

「え、嘘、なん、どう、あわわ、わ、わわわわわわ」

「大丈夫?」

 

扉を開けて目に入ったあまりの美に硬直してから、話しかけられ再起動してから気の毒なくらいものすごく動揺していた。

人形だけが友達ぼっち属性の彼女に五車学園における伝説のアイドル扱いのもときがいきなり訪ねて来るのはドッキリ番組以上の衝撃を与えたようだ。

 

「ちょっと尋ねたいことがあったんだけど」

「は、はい、ちょ、ちょっと待ってください!」

 

慌ててドアを閉めると、中でバタバタ音が聞こえる、人形を整備する工房を整理整頓しているのだろう。

大地震で荷物を持ち出すときですらこんなに慌てないであろう速さで片付けている彼女に対して別にいいのに、とボケーと待っているもとき。

中と外の心の温度差がすさまじかった。

もときが人形使いの対魔忍、白瀬楪(しらせゆずりは)を訪ねにきたのは、今回の敵が人形使いだからその対策のためだ。

 

「は、はひ、ど、どうぞ!」

「お邪魔します」

 

ぼさぼさになった髪と転んだのか服に張り付いたゴミをみてみぬふりをした。

汗で額に張り付いた髪と顔を赤らめ息を荒げる姿にもときは心の中で「いいね!」ボタンを連打した。

 

「それで御用件はなんでしょえか!?」

「えーとですね」

 

かくかくしかじか。

 

「敵の人形使いですか」

「そうそう」

 

要件が色気のある話ではないと気づくと泣きそうな顔をしたが、すぐ真剣な顔をして相談に乗ってくれた真面目な子で超助かるでかした!

 

「人形使いにも色々ありますが、幻術を併用するトリッキータイプですね」

「タイプ?」

「広義の意味で人形(ひとかた)を操るのはなんでも人形(にんぎょう)使いに分類されます。 

一般的な人形使いは傀儡(くぐつ)使いと呼ばれる人形(にんぎょう)を操作するタイプで私もそれに該当します。

しかし洗脳や催眠術で人を操るのも人形(にんぎょう)使いと呼ばれることも有り、今回のケースは軽度の催眠術と傀儡(くぐつ)を併用したタイプですね」

「へー」

 

早口で語られる情報に少し圧倒されるもとき、それをみて得意分野だからと熱くなり過ぎてドン引きされたんじゃないかと思いあわあわと慌てる楪。

 

「と、とにかく相手は恐らく認識を狂わせて相手を仕留める暗殺型の人形(にんぎょう)使いです。

奇襲に注意さえすればなんとかなると思いますよ!」

「なるほど、ありがとう詳しいね」

「……知り合いの子にそんなタイプの人形(にんぎょう)使いがいたんですよ」

「いた?」

「ええ、まあ……戦死してしまったので任務中に」

「もしかして田岡って名字だったりする?」

「! 知り合いですか?」

「名前と顔を知ってるだけ」

 

どうやら、話がだいぶ見えてきたようだ。

 

 

 

8、

 

「とうとう、来ましたね」

 

 

 

東京郊外にある田岡議員の豪邸を訪ね応接室に通されたもときを待っていたのは以前に奇妙な依頼を持ってきた女性だった。

田岡の家内です、それだけの言葉を出すのに一分以上の時間を必要とした。

 

「ねえ、どうやったら、まともに話せるかしら」

「もう手遅れです」

 

もときは正解を口にした。

 

「ここに来るまでに色々調べましたがまだわからないことがいくつかあります。

娘さんが死んだ原因を僕だと考えた田岡さんが依頼という形で罠にはめて僕を殺そうとして、

貴方が旦那を殺した」

 

田岡夫人は頷いた。

 

「私はあの人を止めました、そんなことをしても娘は喜ばない、むしろ恨むだろうと。

しかしあの人は止まりませんでした、私は自分の手を染めてでも止めると決意しました」

 

田岡夫人はうつむいて涙を流した。

 

「どうして僕の所にきた時に直接説明をしなかったんです?

依頼を断れと中途半端な警告ですませて旦那を殺してまで止めたのに、

――――その後僕を殺そうとした、なぜです?」

 

五車学園で色々話を聞いたとこと田岡議員は当時護衛だった対魔忍、現田岡夫人と結婚して、娘を生んだ。

 

娘にも対魔忍の素質が有り父親が止めるのを聞かずに対魔忍になるべく五車学園に入学した。

忍法は母親と同じ人形を操る術が使えたらしい(、、、、、、、、、、、、、、、)

 

「娘を心底愛していたのは夫だけじゃないの、娘を殺したのは任務でも娘を殺させる病に落としたのは貴方。

ひと思いに殺せればよかった、夫は苦しませてから殺すといったけど私にはできなかった……」

 

声は次第に笑いを帯びてきた、全身の震えは泣いているのではなかった。

夫人は顔を上げた、その目は燃えるような炎の意思があった。

 

「そして最後に、―――僕のことをどう考えてます?」

「あなたは、どうしてそんなに美しすぎるの?」

 

顔を上げた田岡夫人の目からは赤いすじが流れていた。

それも恋に落ちた女の心の働きだろうか。

幻術で隠した人形があらわれ、もときを囲んだ。

 

「恋い焦がれていたのは娘だけじゃないの、だから娘の仇とわかっていても、依頼を受けるなと、関わるなといったのよ。

娘も夫も死んだわ、せめて貴方と一緒に」

 

そういった、田岡夫人が頭に手を当ててうめいた。

 

「術返し、どうして……」

 

最後に苦痛の尾を引いて夫人は倒れた。

ひとつ息を吐いて、妖糸を放ち夫人の様子を調べた。

死んでは居ない。だが二度と術は使えないだろう、倒れた原因は脳溢血だった。

すぐに家の手伝いに声をかけた。

救急車と警察が来るまで時間がある。

もときは懐にあるものを取り出した。

友人が最期まで渡せなかったもときへのプレゼントだと、そう言って渡された人形だ、渡される前と違い割れてしまっている。

親の凶行を止めようとして、作り主の代わりに止めたのだろうか?

 

 

 

9、

警察の事情聴取が終わり戻ったのは日をまたいでからだ。

家の明かりが消えているので、さくらももう寝ているのであろう。

自分もそのまま床に入った。

昼近くに起きて事務所に入ると、何かを焼いている匂いがした。

換気扇の下でさくらが何かを焼いていた。

 

「なにやってんの?」

「煎餅を焼いてみた、ちょっとたべてみてよ」

 

そういわれ、一枚手にとって食べてみる。甘くて辛い。

 

「これ、なに?」

「七味マヨネーズ味の煎餅、コンビニにそんな味があったから試しに作ってみた♪」

 

明らかに調味料の分量がおかしい。

助手も所長も人探し家業をやめて煎餅職人として食ってくのはまだまだ先だな。

そう思いながら二口目を口にした。




七味マヨネーズ味は美味いけど途中で飽きるよね

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