淫獄都市ブルース   作:ハイカラさんかれあ

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章管理の練習中でしおりを挟んでもらった方々に
不便をおかけします

なんだか人気が高いようなので
あのキャラが本編に参加します


淫獄都市ブルース<彷徨の章>(短編)

1、

最近対魔忍もあまり捕まらないのでしばらく捜索依頼がなかった。

開業して一年未満でまだ知名度が低いため一般の人探しの依頼もまだそれほどこないので一時的な依頼の空白期間にもときとさくらは暇を持て余していた。

 

暇な時に出来る副業をなにか考えたほうがいいかなと思考を巡らせて練習作の煎餅を口にした。

ふと横に目をやるとさくらはヨガの体操をしていて非常に良い保養になった。

体の起伏を強調するポーズの数々さすが対魔忍、エロいことに関してはやはり天才か……。

 

通販でうるち米と七輪を買って煎餅を焼く練習をしていたがそろそろ練習でつくった煎餅は一通りアレンジを試して食べ飽きてきた。

本家の方は一袋500円以下の煎餅で年収3000万以上の売上を叩き出している。

大部分は店長である秋せつらの美貌によるところが大きいのでもときも同じことができるだろうが、ここは観光客が来る魔界都市<新宿>ではなく、東京キングダムなので需要があるとは言いづらい。

それでも『この人が焼きました』という謳い文句と写真でもつければ焼くのに失敗した煎餅でも飛ぶように売れるだろうが元が煎餅屋の体の影響だろうか、謎のプロ意識がそれを許さなかった。

 

ジリリリリリリン

 

いまどきもはや骨董品の部類に入る黒電話が鳴った。

東京キングダムの闇市めぐりであまりの珍しさについ購入してしまった一品だ。

もちろん盗聴器や呪術などの類がないのは確認済みである。

電話に出た。

 

「はい、もしもし」

「メフィストというものだが」

「そんな人知りません」

 

ガチャと電話を切る。

 

「誰から?」

「間違い電話」

 

ジリリリリリリン ジリリリリリリン

 

嫌そうな顔で再び受話器を取った。

 

「……もしもし」

「未だに時代錯誤の黒電話を使ってるのかね? 」

「大きなお世話だ、なんの用」

 

受話器をとってそうそうの嫌味に腹立ったような物言いだが、春風のような口調ではまったく迫力がなかった。

 

「仕事の依頼だ」

「断る」

「今、予定は空いて暇を持て余していると風の噂で聞いているが?」

「風となんかと話すなよ」

「ふむ、所で前回の診察代がまだ支払われてないのだがね」

「……すぐいくよ、この業突く張り」

 

ふん、と子供ぽく乱暴に電話を切ると嫌そうに壁にかけてある愛用のコートを取り出した。

 

「出かけるの?」

 

じゃあ、自分もと着替えの準備をするさくらをもときは止める。

 

「いや留守番で」

「え〜、何かあったりしたらアレだよ〜?」

「ついてったほうが危険だから」

「仕事依頼だよね、相手は誰?」

「女嫌いのヤブ医者だよ」

 

自分以外の者が言ったらどんな目に合うかわからない暴言をもときは口にした。

 

2、

メフィスト病院は都市計画で作られた建物を改築したものが多い東京キングダムで数少ない新築の建造物である、周囲の住人が気がついたら出来ていた。

当初は得体の知れない建物に近づくものがいなかったが、破格の料金と完璧な治療と患者を狙う不届き者を許さない院長であるメフィストの存在によって、絶対の安全と万全の医療体制を誇る。

 

現在では命のやりとりが日常である東京キングダムで「助かりたければメフィスト病院にいけ」との言葉が病院への絶対的信頼をあらわしており。

必要不可欠な施設として人が絶えない。

 

院長であるメフィストの医術は超一流であることは東京キングダムの誰もが周知の事実だ。

ただ、腕以外に広まっている院長の美貌に惹かれ、ひと目見ようと、仮病を使って病院に来る患者が後をたたないという弊害が生じている(病院スタッフが「またか」で対応するほどに、日常茶飯事の光景らしい)

その院長室にもときは招かれ足を運んだ。

 

「座りたまえ」

 

エクトプラズムの椅子を用意され、そのまま座った。

 

「で、仕事の内容は?」

「せっかちな男だな」

「仕事熱心なだけさ」

 

そういって相手を見る、天使の美貌と呼ばれる自分に対して神の美貌と呼ばれる自分以上の美しさを誇る男。

圧倒的な実力と、死者の蘇生以外に治せないものはない医術を誇る。

魔界と人間界の医術を合わせた技術を学んだ医師である魔科医(まかい)ではなく。

魔界都市を体現する魔界医師(まかいいし)

黒のせつら、白のメフィストと並び称される絶対に敵に回してはいけない人間。

魔界都市<新宿>の三魔人の一人、ドクターメフィストだ。

 

もときは自分同様に転生者ではないかと睨んでいるが、実力と美しさと『性的嗜好』から本人の可能性もある。

魔科医である桐生佐馬斗は死者の蘇生すらも成し遂げているので死者の完全蘇生が大望のメフィストならその技術を求めてこの世界にいてもなんら不思議ではない、なんでもありなのだこの男は。

魔界都市<新宿>だろうが東京キングダムだろうがドクターメフィストなら患者の治療ができればどちらでもかまわないだろう。

本物なら『私』の人格がないもときに興味がないとおもうのだが、聞いても答えないだろうし正直医者としての腕以外は興味もないので深くは追及していない。

 

「女を待たせているからかね、『僕』などという女に媚びる一人称を使う男はこれだから困る。 人間が犯した最大の罪は知恵の身を食べ楽園を追放されたことでなく(イブ)を作ったことだ。

それさえなければ人間は神の座に王手をかけていた」

「お前の男尊女卑思想はどうでもいいから早く仕事の話に入れよ」

 

ドクターメフィストは生粋の女嫌いだ、患者と自分の病院のスタッフ以外の女性を毛嫌いしている。

益荒男と彼が称する勇ましく雄々しい男性が好みで『私』の人格のせつらに懸想している。

もっとも『私』のせつらに言わせれば『私』を気に入っているのが気にくわないらしいが。

 

「失踪した患者を探して欲しい」

「自分の患者ぐらいきちんと管理しろよ」

 

嫌味をいうもときだが面倒な依頼だと頭が痛くなった。

メフィスト病院は独自の技術で万全の警備がしかれており、武装した警備員や警備機械、魔術的、霊的防御で患者の安全を確保している。

少なくともそれらを突破できる相手なのだ。

 

「治療が終わっていないので、連れ戻したいのだ」

 

外部からの侵入者ではないようだ、もっとも病院の警備を突破できる強者はそうそういないし仮に居たとしても患者に危害を与えるならメフィスト本人がでて病院の移植用臓器へと解体するだろうが。

メフィスト病院の移植用臓器が病院を襲撃してきた不届き者から摘出されているというのは有名な話だ。

 

「治療中の患者が脱走ね。忍法や能力でも使わなきゃ無理だな、患者は対魔忍か魔族か?」

「米連兵だ」

 

米連、正式名称は米国(アメリカ)及び太平洋諸国連邦。かつてのアメリカ大陸/東南アジア/台湾/朝鮮半島の一部が1つになった連邦制国家である。

魔界の技術を求め『こちら』と『魔界』を繋ぐ『異界の門(ゲート)』のある唯一の国である日本に干渉して対魔忍と敵対している組織のひとつである。

巨大なだけあって複数内部組織があり米連国防総省の下部機関であるDSO(ディーエスオー)、和名は「防衛科学研究室」は表向きは「オレンジインダストリー」の社名で存在している、そこの日本支部には対魔忍アサギ3の主人公のひとり『甲河アスカ』・仮面の対魔忍ことアサギの宿敵の朧の本来の中の人である『甲河朧』などが所属している。

 

「米連……能力開発された強化兵士か?」

「機械化装備の一般兵だ」

「……ということは、死にかけて能力が発現したケースか」

 

何らかの命の危機で突然能力に目覚めるというのは稀にある。

例えばアサギの右腕である『八津 九郎』は元レンジャー部隊出身の盲目の対魔忍という異色の経歴である。

任務で両目を失明したことがキッカケで能力に目覚め対魔忍になっている。

件の人物もそれまで眠っていた能力の根源である魔族の因子が『異界の門(ゲート)」に近い日本で死にかけたことで発現したというのは十分あり得る話だ。

 

「病室から抜け出したのなら空間を跳躍する異能系とか?」

「いや違う、病室にはいるのだ(、、、、、、、、)

 

「患者の魂を探すってどういうこと?」

「なんでもその患者が幽体離脱系の能力に目覚めて体から魂が戻ってこないらしい」

「幽体離脱! 戻らぬ魂!」

「なんでそんなに興奮してるの?」

「だって幽霊だよ、幽霊! ワクワクしない!?」

 

合流して事情を話したらキラキラ目を輝かせるさくらをみながら口にブロック状の栄養補給食を運ぶ。

先程メフィストから差し入れとして渡された「クララ・バー」だ。

これ一本で一日の栄養を完全にまかなえるもので院長お手製の完全栄養食だ。

以前院長が「アルプスの少女」を見ていたと、患者が憮然と漏らしていたのを聞いたがそれが名前の由来だろう。

 

「先日の戦闘で魔族と交戦して部隊は壊滅、生き残りはその女性一人だけ。 そのままメフィスト病院に運ばれ治療を施したが意識が戻らず原因は魂が体から抜けているからだと判明。

……魂が戻ってこないのは戻れないのか、戻りたくないのか」

「……生きていたくないから、体に帰りたくないってこと?」

「こんな街に来ればね」

 

そういって退廃と混沌の街を見渡す。

マフィア、その情婦、チンピラ、オーク、半人半馬、人種の坩堝ではなく人魔の坩堝だ。

 

「……それでも探すの? たとえ本人が望んでなくとも」

「あのヤブは人を治すのが仕事で、僕は人を探すのが仕事。

やらなきゃいけないことをするだけさ」

 

そう言ったもときの顔にはなんの感慨も浮かんでいない、その美貌を彩る表情に感傷の色など不要だといわんばかりであった。

 

4、

「米連兵士の個人情報を知りたい? また珍しい依頼ね」

 

酒と性臭ただようピンク色の眩い明かりで照らされる店内の奥へと進み、娼館のオーナーである情報屋の元にもときは足を運んだ。

元高級娼婦でいまでも金をいくら積んででも一晩を共にしたいという男が絶えないという美貌を誇る妖艶な美女だ。

 

「少し時間がかかるわ、それまで……一杯やる?」

「仕事中なんで結構」

 

お酒は20歳になってから、節度のある飲み方をしましょう。

 

「それで、報酬は一晩の付き合いでどうかしら?」

「いつも通りの金額を振り込んでおく」

「相変わらずつれないわね…」

 

娼館通いをする男達が歯ぎしりして嫉妬しそうな誘いをもときはあっさり断った。

影に潜んでいる助手が刃の形をした影を作ったのが関係あるかは定かではない多分。

 

「ーーーじゃあこれが対象の資料ね」

「時間がかかるんじゃなかった?」

「そんなこといったかしら? でも貴方が付き合ってくれれば多分一晩はかかったわね」

 

目の前の美女はそういってぱちりとウィンクをした。

 

「写真とドッグタグだけで短時間によくこれだけ調べられるものだ」

「私なんだかあの人嫌い」

 

資料を受け取り、手早く印刷された文字に目を通す。

ハッカーとのイタチごっこをする情報業界ではレトロな紙媒体の方が逆に安全である。

 

「ふーむ、機械化装備というからパワードスーツ装備やサイボーグ化しただけの部隊かと思えば違うみたいだね」

「脳にマイクロチップをいれて感情の制御、命令実行する為の情報伝達の誤差をなくす、脳内麻薬の分泌を促し基礎身体能力の一時的向上……ねぇ」

 

孤児を集めてつくった実験部隊だ。

上官五名がチップを埋め込んだ部下を統制して運用する部隊らしい。

部隊員達は生き残った一名を除き先日の騒動で壊滅しているが、その上官全員は逃走成功したらしい、部下を捨て駒にして逃げ出したのだろう。

その上官三名がここ数日で変死しているらしい。

 

「幽体離脱してなにをしてるかわかった」

「自分達を見捨てたことに対する復讐?」

「それは本人から聞くとしよう」

 

資料にはその上官の居場所も書いてあるが、恐らく身の危険を感じて逃げ出して書かれた場所にはいないだろうが両名ともまだ東京キングダムにいるだろう。

中国では幽霊のことを鬼と呼ぶらしい。

鬼ごっこをしている幽霊(おに)を探しに向かった。

 

5、

彼女には名前がなかった、いやあったはずだが思い出せなかった。

覚えている一番古い記憶は路地裏で空腹を紛らわせるために野良犬のように残飯を漁っていた幼少期。

そして窃盗を繰り返して警察に捕まり、更生施設ではなくなんらかの研究施設に入れられた記憶だ。

そこでは飢えることもなく、暖かい寝床もあり、訓練と称した運動で思いっきり体を動かせた。勉強は苦手だったが同じ境遇の仲間と友人になった。

思えばこの時期が一番楽しかった。

何せそれからはずっと苦しい時期が続いた。

 

『イブ』と呼ばれる鷲津マテリアル社製のマイクロチップを参考にした改良品を手術で埋め込まれたのだ。

もともとの『イブ』の効果は、対象の脳幹に移植されると、あらゆる性的調教に対して否定的な思考を抱けば頭痛を起こして苦しめ、

一転して妥協や肯定的な思考に至ると痛みも止まるという機能を持つ。

そのためイブを仕掛けられた者は、無意識に痛みを避けようとする選択を繰り返す内に性的調教を受け入れ結局すべては自分で選んだ結果なのだと信じて疑わなくなってしまうというものだ。

 

改良品のこのマイクロチップは命令に逆らわないように完全な人形にするための通常の機能と。

いざという時に個々の判断力を持たせるために記憶をON/OFFで切り替えられるようにする第二の脳として活用できるようにしている。

要するに完全に手綱を握りつつ調教して心が折れてない状況に強制的に戻して自我を失わせないようにする悪趣味極まりない機能だ。

苦痛で逆らえないようにして調教して完全に都合のいい性欲処理の道具にしたらまた楽しむために精神状態を戻す。

人の尊厳を踏みにじるような卑劣極まりない道具。

 

兵隊兼都合のいい玩具として地獄の日々を同じ境遇の仲間たちで構成された部隊で送る日々。

自分の意志では死すら選べない状況にあっけなく終止符が打たれた。

独断で部隊を運用した無能な上官達は東京キングダムで魔族を前に醜態をさらし、保身のために私達を囮にして逃亡し部隊を壊滅させた。

仲間は死に、私自身も死を迎えた筈だったが、何故か今、あれほど渇望した自由を手にしていた。

―――死人として。

 

「ば、化け物め! 死ね、死ねよぉぉぉぉぉおぉぉ!!!???」

 

そういってこちらに銃弾を発射した元上官の攻撃はすべてすり抜けていった。

無駄なことだ、すでに死んでいる私にそんなものは無意味なのに。

そのまま近づき、相手に触れる。

相手の体温が徐々に下がっていってるのか青ざめていくのに対して、私に熱が移っていく。

そして徐々に動きが鈍くなり完全に動かなくなる。

生前はあれほど憎かった相手を殺したというのになにも感じない。

肉体を失った影響だろうか?

体も薄くなってきている気がする。

なにも感じない。

すでに元上官たちを四人殺したがこの体になって忌々しいチップからの束縛がなくなり得た自由。

開放されたと実感した当初に感じた身を焦がすほど憎悪の『熱』はすでに失われており。

追いかけて殺しているのは惰性のようなものだ。

恐らく全員の命を奪った時点で生への執着も失い自らが消滅するだろうことも悟っていた。しかしそこに恐怖はなかった。

なにも感じない。

このまま存在がゆらぎ、ただ水面に揺れた波紋のように消えるのだろうか……。

 

「こんにちは」

 

その美しすぎる顔を見た瞬間に色あせた世界に色彩が戻り、失われた熱が戻った。

 

6、

もときがたどり着いた場所には一体の死体と一人の幽霊(おに)がいた。

さくらと二手に分かれて米連の士官を探したがどうやら当たりを引いたようだ。

半透明の女性は全裸姿であり。

均整の取れ、引き締まった体を彩る豊かな乳と柔らかそうな尻は、性的興奮よりも先に彫像のような美術的美しさを感じさせた。

 

「寒くない?」

 

女性の横に横たわる死体などどうでもいいかのように思ったことをそのまま言うもときに女性はくすりと笑った。

 

「とぼけた人ね。私が怖くないのかしら?」

「僕に怖いことしますか?」

「いいえ」

「なら怖がる必要はありません」

 

まるでコントのような会話にまた女性は笑った。

 

「ふふっ、面白い人ね……久々に笑ったわ」

「それは結構」

「それでこんな場所に何しに来たのかしら?」

 

薄汚れた路地裏にいかにもお坊ちゃま然とした、もときがいることに疑問を持った女性が尋ねる。

 

「貴方を探しに」

「……口説き文句としては悪くないわね、違うみたいだけれども」

 

女性は笑顔から警戒している表情になる。

 

「ええ、仕事です。病院から抜け出した患者を連れ戻せと知り合いの医者から頼まれました」

「病院? 医者じゃなく神父やお坊さんの間違いじゃないの?」

 

透き通った自分の体を見ながらそういった。

 

「まだ貴方は生きているので医者の管轄です」

「……生きているの私? こんな状態で?」

「ええ。ですが早く帰らないと、神父やお坊さんの出番になります」

 

神妙そうに頷くが、どことなく気が抜けてる感じがしていまいち信憑性がなさそうな言い方である。

 

「性格は悪いが腕だけは良い医者の言っていることなので確かです。早く戻りましょう」

「…………別にいいわ」

 

そういって悲しげに顔を歪めた。

 

「例え生き返っても、行く所もやりたいこともない。やるべきことをやり終えたら、まだ死んでないというだけの惰性に満ちた人生がいよいよ終わるだけよ」

「ふーむ」

 

悲痛な声を出す女性の言葉に、もときは黒板に書かれた数学の問題の解説を聞かされた生徒のような声を上げ。

 

「今まで生きていないのなら、これから改めて生きればいいだけなのでは?」

 

そんなことを口にした。

 

「この街は碌でもない街ですが、見方を変えれば普通の世界に居場所のない人間でも生きていける寛容な街です。

これはこれで住みやすい。とりあえず生きてみて生き続ける理由を探せばいいと思いますよ」

 

普通ならこんな一般論を言ったところで怒りを買うだけだが、闇と月光の化学変化が生んだ魔性の美の落とし子であるもときが口にしたことで心を激しく揺さぶる魅力的な提案に思えてきた。

 

「そうね……、貴方がそういうならって気になってきたわ」

「じゃあ戻りましょう」

「駄目よ、そうする前にしなきゃいけないことがあるの」

 

そういって女性は姿を消した。 

肉体から開放された魂は時空を無視することができるのだ。

 

「最後の一人の方へ向かったか……、間に合うかな?」

 

7、

「俺は死なんッ! 生きるッ! あってはならんのだ死ぬようなことはッ! だから死ねッ! みんな死ね!?!?」

 

血走った目で口角に泡を吹きながら持ち込んだ武器を手当たり次第撃ちまくる男。

完全に錯乱している。幽体となった女性がもたらす不可避の死の恐怖で発狂したのだ。

 

「あ~も~、失敗した! 逆にしてもらえばよかった!?」

 

そう言って逃げるさくら。

影を使って逃げようにも乱射した武器によって建物が見る見るうちに崩れていっているので、下手に影に潜ると瓦礫で埋まってしまいかねないため走って逃げるしかないのだ。

 

「死ね、死んでしまえあの世で俺にわび続けろ!?!?」

「いえ、あの世で詫びるのは貴方よ」

 

そういって男の前に幽体となった女性が現れる。

 

「馬鹿な……死ぬわけがない、俺が死ぬなどッ!」

 

そういって女性に向かって銃を撃ち続けるが、すり抜けた女性に触れられそのまま倒れた。

 

「本物の幽霊だ!」

 

逃げ回ってるうちに動いた状況に困惑するさくらだが、すぐに幽体となっている女性に目をキラキラ輝かせる。

 

「終わった?」

 

そう言って、空からもときが降りてきた。

糸を使って建物を某蜘蛛男のように次々と渡って高速移動してきたのだ。

 

「……ええ、終わりよ」

「それは良かった、じゃあ行きましょうか」

 

そういって女性に近づくもとき。

男の生命活動が停止しているのは妖糸で確認している。

 

「……やり直せるかしら?」

「さぁ? 自分次第でしょう」

 

そういったもときに女性はうっすら微笑むと消えていった。

もときの懐から振動が伝わった。

 

「患者の意識が戻った」

 

携帯電話のスピーカーからドクターメフィストの声が響いた。

「元の世界に戻ったらお姉ちゃんに自慢しなきゃ」と呟くさくらの声もついでに聞こえた。

 

8、

「それで彼女は?」

「体の傷は癒したし脳の異物は取り除いた。

完治したといっていいだろう。

しかしこの街に来る以前の記憶を失ったようだ」

 

ドクターメフィストでさえも完全な死からは患者の蘇生はできない。

彼女はこの街で人生をやりなおすために記憶を捨て(死んで)新しく生まれ変わったのだ。

 

「そうか」

「その方が幸せかもしれんよ」

「それを決めるのは彼女であって僕たちじゃないさ」

 

そういって、部屋から出ようとしたもときの背中に声がかかる。

 

「ところでこの後一緒に食事でもどうかね?」

「今日は自宅で食べると決めている」

「君は生涯の敵だ」

 

扉を閉めて、そのまま歩いて病院のロビーにでた。

 

「あ、あの、前にお会いしたことがありませんでしたか?」

 

声に振り向くと、元米連兵の女性がいた。

もときの顔をみて自身の顔が熟した林檎より真っ赤になった。

 

「なにか?」

「…………え、えっと、ナンパとかじゃなくて、そ、その、私この病院にいたより以前の記憶がなくて、でも貴方の姿をみたら、その、なんだか」

貴女とは(、、、、)初対面ですよ」

「そうですか……」

「退院ですか?」

「は、はい。 先に退院した同室の患者さんに「行く所がないなら、うちで経営してる酒場が人手不足だからよかったら住み込みで給仕でもやらないか」って言われて迎えに来てくれるのを待っているんです」

 

店の名前を聞いたらこの街では珍しい真っ当な人気店だ。

情に厚く人望がある店主が軽い過労でこの病院に検査入院してたのを聞いた記憶がある。

詐欺の可能性は低いだろう。

 

「――ごめんなさい一方的に話しちゃって。でもなんだかお礼を言わなくちゃいけない気がしたんです、『ありがとう』って」

 

穏やかな顔で笑う女性の顔が再び朱に染まる、もときの口端がわずかに上がり微笑んでいたからだ。 思い出した時にこの少年にそれを浮かばせたのは自分なんだと誇らしくなるような、そんな微笑みだった。

 

「お大事に」

 

そういって病院からでたもときは、今日の晩御飯は何にしようかと考えながらわずかに気分を良くしてこころなしか軽い足どりで東京キングダムの雑踏に消えた。




終わり方が別のシリーズっぽいですが
この終わり方をした魔界都市ブルースもあります

ところで紅とフェリシアの兄に転生した主人公が、
エドウィン・ブラックに「お前は唯一の成功例だ」
と言われるヴァンパイアハンターDTって需要ありますかね?
まあやるならぶる〜ちゅですが
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