淫獄都市ブルース   作:ハイカラさんかれあ

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ここ最近対魔忍RPGのイベントを走っていたら対魔忍作品の更新ラッシュに乗り遅れてしまった……。

ところで対魔忍RPGの詫び石臥者引いたら初のSRキャラ秋山凜子をゲット。
というわけで今回は「対魔忍RPGに秋もときが出たら」をやりたかったしチャプター5のシナリオが凛子先輩でてるのでこの作品風アレンジ話です。
外伝でもよかったけど性春姫じゃできないんで本編でやります。
対魔忍RPGのチャプター5が元ネタなのでネタバレがありますが

「ストーリー未読とかいつの話だよそんなんとっくに見たぜ!」
または
「そもそも、対魔忍RPGなんてやるつもりはねぇぜ早く見せな!」
という方たち以外はネタばれに注意して肩の力を抜いて気楽にお読みください。


淫獄都市ブルース<還来の章>(短編)

東京キングダムにある闇の円形劇場(アンフィエアトルム)

大地のほぼ中央に、二つの影が立っていた。

だが、これがある種の戦いだと誰もが知っていても、それに付き物の行為はなかった。

拍手はない、歓声もない、足を踏み鳴らす音もない。

競技に欠かせぬ選手への励ましも激闘を期待する興奮も、ここでは遠い行事であった。

 

「選手の紹介をします」

 

と、にやけた表情で男はアナウンスした。

これから行われる残虐行為(ショー)を楽しんでいるのだ。

 

「NEOカオス・アリーナの闘奴、

ブラッド・レディ!」

 

紹介された選手に対してスポットライトが当たる、光の下にはサディスティクな表情をして相手をみつめるレオタード姿の女性が鞭を携えていた。

 

「そして本日のゲスト、

『金剛の対魔忍』四條如月!」

 

そしてもう一人の女性にスポットライトが当たる。

その明かりに照らされていたのは苦しげに武器を持つ、対魔忍スーツを着た女性である。

脂汗が滲むその顔は明らかに健康とは程遠い調子で明らかに戦いに赴くべき様子ではなかった。

 

「では、これから始まる両者の『戦い』にご期待下さい!」

 

そういい始まりの合図をしてアナウンサーは舞台から去った。

 

「さて、どうやって料理してあげようかね?」

 

そういい、手に持った鞭を地面に振るった。

鞭には金属の棘が茨のようについており、打ち据えるのではなく相手の皮膚を傷つける用途だと知れた。

明らかに相手を倒すためではなく傷つけるための道具であった。

 

四條如月は力なく獲物である鉄棒を構えた。

もとよりこれは尋常な立会でなく半ば八百長試合のようなものだ。

とある任務で失敗し捕獲されてしまった彼女はこの試合に強制的に参加する羽目になったのである。

『NEOカオス・アリーナ』かつては『カオス・アリーナ』『デモンアリーナ』と呼ばれたこの闇試合は、戦いに参加した選手を勝者が時にはいたぶり、時には陵辱して嬲る姿を見せることで人気を馳せた残虐な見世物である。

 

今回強制的に参加させられた嬲られ対象の対魔忍である彼女もまっとうな条件では戦いに参加させられるはずもなく、薬と暗示により相手を攻撃できないという条件を与えられた上に全身の感度を上げ痛みや快楽に敏感になる状態にさせてある。

 

彼女の扱う忍法『金遁・金剛』は肉体を鋼のようにする防御型の忍法だ。

同格の相手にはその防御力と棒術で有利に立ち回れるが薬で意識が朦朧として、忍法に集中できない現在の状態ではただ嬲られる時間が長くなるだけであった。

 

容赦なく鞭で鉄棒の防御を突破して痛みに喘ぐ彼女を愉悦の表情で痛めつけるブラッド・レディと呼ばれた女はパワー・レディ、スネーク・レデイというかつてのアリーナの選手達と同様に魔族である。

殴り合いからの拷問器具責めが多いパワー・レディや毒を盛り両性具有の体で陵辱するのが好みであるスネーク・レディと違い鋼で出来た茨の鞭で肉を抉り鮮血に塗れさせる残虐ファイトが人気の女戦士である。

 

絶望的な状況にもめげずに気丈にも活路を見出そうとした如月だが薬により強化された痛覚と、出血により意識が朦朧とする彼女はどんどん悪化する状況に心が折れつつあった。

 

闇社会の住人に対して色々と邪魔な存在である対魔忍が心折られ敗者となった挙げ句に嬲りものにされていく過程を、愉悦と共に楽しんでいた観客達の視界にふわりと何かがよぎった。

 

スポットライトの明かりに照らされながら舞い降りる影はさながら黒い羽を背にした堕天使のようにも見える。

いきなりの闖入者にせっかくの宴に水をさされた観客が色めき立つが、次の瞬間に場内がまるで水を打ったように静まり返る。

 

降り立った黒ずくめの人物がもの珍しそうに観客の方をくるりと一瞥した。

ただそれだけ、それだけのことで巷にあふれる娯楽に飽き、血と闘争に彩られた残虐な催し者に熱を上げているNEOカオス・アリーナの観客達が全て黙り込んでしまったのだ。

その美貌はあらゆる場所において、すべてを忘却の彼方へ誘いただその美の持ち主以外のことを考えられなくしてしまう美の結晶とでもいうべき存在だった。

 

「対魔忍の四條如月さんですね? 依頼により貴女をお連れしに来ました」

「――――」

 

これが世にいう死に際に見る光景なのかと本気で彼女は思ったであろう。

想像すらできないほどの超常の美の持ち主が自分を連れていくと言っているのだ。

対魔忍としての責務を全うせずにこうして死んでいくのかとこの瞬間以前の彼女なら嘆くのであろうが、その美貌を前にした時から、いっそどこにでも連れて行ってほしいと心から思ってしまった。

 

「どこに連れて行こうっていうんだい?」

 

ブラッド・レディはその美貌を見て暫く恍惚となってしまったが、戦士としての矜持で強引にねじ伏せそれを作り出した原因である眼の前の相手に激しい怒りを燃やしていた。

 

「とりあえず病院?」

 

そういって自身に向けられた激しい怒りとぼけたような発言で煽っているようだが、わざとではなく本人としてはいたって素の会話である。

春風駘蕩たる雰囲気を持つこの世ならざる美を持つ少年、秋もときはそういう男なのだ。

 

「ヒューッ、見ろよやつの顔を…まるで天使か悪魔みてえな綺麗な顔だ!! こいつはやるかもしれねえ…」

「まさかよ、しかしブラッド・レディには勝てねえぜ」

 

なにやら騒いでいるオークを尻目に、怒りに燃えるブラッド・レディはその美しすぎる顔をズタズタにしてやろうと鞭を振るった。

しかし鞭がもときに届く前に弾かれた。

 

「なにッ!?」

「立てますか?」

 

ブラッド・レディからもときのあまりの美貌に呆然としている対魔忍の女へと視線を向けてこちらの方を見向きもせずに攻撃を防いだもときに愕然とした。

もときに害意を持つものは不可視の護り糸が自動的に防御するのだ。

相手に自身の防御を突破できないと判断したもときはすでにブラッド・レディを見向きもせず如月に対して妖糸による止血と、内臓機能の活性化により薬の効能を抜く作業をしている。

 

数度試してもまるで壁を叩くような手応えと共に鞭を撥ね返され、武器を捨て矜持もなにも捨てなりふり構わずに、一番信頼できる自分の体を使うことを選択しもときに殴りかかった。

その気概を感じ取ったのか、後ろを振り向いたもときの顔にブラッド・レディは拳を叩きつけようとした。

―――そして腕が拳から肩まで縦に裂けた。

 

「ッ…ぁ…」

「まだやります?」

 

声をだすことも出来ない激痛に腕を抑えるブラッド・レディにもときはそう尋ねた。

それをみてブラッド・レディは最初からこの少年は自分を路傍の石程度にしか見ていないのだと気づいた。

これだけのことをしても満員電車で揺れたせいで隣の人の足を踏んでしまった程度にしか思っていないのだ。

超越者である上位魔族達と同じようにこの少年は完全に自分とは『別』の種類の存在であると気づき戦意喪失した。

 

「じゃあ」

 

そういって未だにもときの美貌に恍惚としている如月を抱えてもときは妖糸を使い勢いよくこの場から飛び立った。

観客は先程の出来事が幻覚であったかのような心持ちであった、さながら白昼夢だ。

しかし腕を抑えて呻くブラッド・レディの姿がそれを否定していた。

再び観客達はこの場所に通うのだろう。

恐らくそれは残虐な闘争を見るためでなく、あまりにも甘美な夢を見させた少年をもう一度自身の目に焼き付けるためにだ。

 

1、

「所で実は貴方の復学運動なるものが校内で行われてるのよ」

「は?」

 

メフィスト病院に四條如月を送り届けた際に、

『魔族に嬲られた末に辱められ殺されるところを助けていただいたお礼に全てを捧げたい♥』

と言ってきたので「落ち着けまだ慌てる時間じゃない」と宥め。

逃げるように(実際そうだが)五車学園に報告しに来たもときはそんなことを言われ、「なにいってんだコイツ?」という視線をアサギにおくった。

ちなみに場所が学園なので今回もさくらは留守番である。

 

「というかこちらの安全と、学園にかかる被害を考えての自主退学なのに復学もなにもないでしょ」

「そうなんだけどねぇ……」

 

そう言ってアサギは目の前のもとき復学嘆願書の山を見て溜息をついた。

 

「この通りなのよ」

「はぁ」

「貴方に助けられた子たちが貴方の話をしているのを聞いて、退学して貴方に会えないから燃え尽き気味な子たちを巻き込んでこの通り嘆願書を出しているのよ」

「へぇ、まあどうでもいいですが」

「はっきり言うわね」

「気にしてたらきりがないので」

 

夜にたたずめば闇を染め、昼にたたずめば光を放つといわれる程に極まった美は人を狂わせるといういい例であった。

しかし影響を与えた本人はどこ吹く風である、嵐は移動するたびに他を巻き込み大きな損害を与えるが中心は穏やかなものなのである。

 

「それはさておき、いちいち報告にこちらまで来るのが非常に手間なんでどうにかなりません?」

「別に報告だけなら電話でも良かったのだけれども」

「いやいや、電話とか盗聴されるじゃないですか、せめて専用回線とかないと安心できませんし」

 

防諜対策が一般レベルの五車学園では安心できないので、ことあるごとにもときはこうやって直接来るのである。

最寄り駅である『まえさき』でさえ近くと言っても電車とバスで三時間ほどかかる距離なので東京キングダムからだと移動だけで一日予定が潰れてしまうのだ。

今現在はそれほど依頼がこないので問題ないが、将来的には非常に困る。

 

「連絡はどうにかするとして、うちの子たちを連れ戻す際に敵の襲撃があるかもと考えると護衛も兼任できる貴方が直接連れて来るのが一番確実なのよね」

「そうはいっても不便すぎなんですが。こうワープ装置的な何かで転送とか」

「あったら欲しいわねそれ」

「米連辺りが研究してそうですけどね」

「無い袖は振れないわね」

「じゃあ、もうちょい対魔忍が捕まらないようにしてくださいよ」

「……無い袖は振れないわね」

「いやいや、拉致から調教・洗脳されて無事に生還できるのは貴女ぐらいなんだからそこらへんちゃんと教育してくださいよ」

「教育できるいい人材いないかしら」

「いてもここには来ないと思いますけどね」

 

アサギが頭を抱えて唸り始めたので、もときは部屋を出た。

上層部が敵組織とずぶずぶで組織運営のノウハウもない場所に来る物好きはそうそういないだろう。

組織の体裁を保てるだけですごいとは思うが、だからといって貴重な人材が捕まったのを奪還すべく人探しをこちらに毎回毎回委託されると正直洒落にならない負担がかかるのでなんとかしてもらいたいものである。

 

2、

「来た、秋くん来た! これで勝つる!」

「秋ィ! お前は俺にとっての新たな光だァ!」

「もとき、お前が好きだッッ、お前が欲しい!!!」

「んほぉぉぉぉぉぉぉぉぉォォォォォォォッ!

らめぇぇぇぇぇぇぇェェェェェェェェェェェッ!

あきキュンに見られただけであらひは逝っちゃうのぉぉぉ❤︎」

「……ごゆるりと」

 

校長室の外にもときが学園に来たと知った生徒達が集団で押し寄せていた。

もときは後ろ手で扉を開きそのまま校長室に引き返した。

 

「老害連中始末したのが始まりとはいえ、そのままにしておいたらロクでもない事になるのは確実だったし、けど組織のたまった膿をだそうとしたらタガが外れた連中の派閥抗争が激化して組織の弱体化に歯止めがきかなくなるしどうしたらよかったのよ……」

 

まだぶつぶつ呟くアサギの横を素通りして、もときは窓から抜け出した。

妖糸を使いそのまま地面に無事に着地して、校長室を見上げた。

 

「対魔忍はこんな変態お笑い集団だっけ?」

 

おっかしーなー、と首を傾げるもとき。

もときの玲瓏たる美貌はその記憶を朧にして、見たものに美しいという印象のみ残して忘却の淵に叩き込むのである。

それに耐えて交流を深めようとする人間は、何よりも自我が強い。言いかえると揺るがない個性を持つ連中が集まっているのだ。

これもまた一種の人徳であろう。類は友を呼ぶものである。

 

「しかし虫が多いなここ、人も虫もいない場所どこかなー」

「あ、あの、秋くん」

「はい?」

 

こちらに寄ってくる羽虫を糸で駆除しながら、もときはそそくさ校舎から離れるため歩き出そうとして声をかけられた。

振り向いたら肩口まで髪を伸ばして前髪の長い華奢な少女がいた。

いわゆる目隠れ属性である。

 

「どちら様?」

「……っ! 以前貴方に助けられた田崎です、田崎麻美」

 

そういえば以前見たような気がする、といっても正直何人も女生徒を助けているので正直覚えていないが。

少女は忘れられたことに少し腹がたった様子だったが、睨もうとしてもときの顔を見て数秒間ほど我を忘れたことに気づき慌てて顔を振って正気に返った。

 

「うっとりしたり、憎んだり――貴方と一緒にいる女の人は気が休まらないですね……」

「はぁ」

「ごめんなさい、以前助けてくれたお礼を言おうとしたのに。 なんだかあたってしまって」

「いーえ」

 

自分に関わると女性が情緒不安定になるのは正直よくあることである。

 

「それだけですか用事」

「はい、そうですけど……」

「それじゃ急いでいるんで」

 

そういって足早に校舎から去ろうとするもときを見ながら、少女の口から独り言がぼそりと漏れた。

 

「―――やっぱり興味ないんですね、私も、他の人も」

 

3、

授業終了のチャイムが学園に響きわたる。

 

「おっ、昼だな。 では本日はこれまで!」

 

「「ありがとうございました」」

 

秋山凜子は剣術の授業が終わり用具を片付けていたが、次々と同級生が集まり人の輪が形成されていた。

 

「凜子さん、すごーい!」

「転校してきたばかりでもう学年一よ!」

「ありがとう、いやでも私はまだまだだ」

 

逸刀流の跡継ぎでもある秋山凜子は授業で見事勝ち抜き選抜試合の代表に選ばれたが、浮かない表情をしている。

凜子は以前、『彼』が斬った物の断面を逸刀流の師匠に見せて聞いたことを思い出した。

 

「真の名人ならば、血の一滴も流さずに骨まで断つことは可能だ。その技にかかれば斬られたことに気付かず数時間、あるいは数日の間を以て寸断されるともいう。

長きに到っては数年後まで普通に生活して突然四肢がばらばらになった人物もいるとなれば。

『これ』を成した者の技倆はいずれにしろ名人鬼神の域に達しておる」

 

秋山凛子は『彼』に返さなければならない大きな借りがある。

それを返すためには、少なくともあの技を再現できるくらいに強くならなければ――

そう考えると学年一という成果程度ではとても満足が行かないのだ。

 

「あのー?」

「――ああ、すまない突然黙り込んでしまってちょっと考え事を……」

「お久しぶりです先輩」

「ふぁッ!?」

 

先程まで思いを巡らせた相手が目の前にいた。

その顔を間近で見た瞬間から頬に熱がこもり、胸の高鳴りが激しくなり苦しくなってくる。

頭が真っ白になって何も考えられなくなり、口から漏れる言葉は意味をなさなくなってしまった。

 

「なななななななななな!?」

「なんでここにいるか、ですか? 達郎に依頼されて先輩を探しに来ました」

 

日が暮れたので、車での長距離移動をして疲れていたもときは学園に泊まることにした。

下手に学園をうろついて先程のような集団に出くわすと面倒くさいので、友人の秋山達郎の部屋で少し時間をつぶそうとしたもときであったが、彼の姉である凜子が行方不明という話を聞いて、もときはその話を仕事として引き受けた。

凛子が最後に目撃されたという体育館に探索用の妖糸を放つと違和感を感じた。

もときの操るnm(ナノメートル)の妖糸は空間の歪みを感知し、糸を使い空間を引き裂き出来た次元の穴にもときは命綱として妖糸を自分と壁に括りつけてから足を踏み入れた。

 

そうしてこの世界の体育館に出たのだ。

何時もどおりにもときの美貌で恍惚となっている生徒たちに、最近変わったことがないか聞くと、

トランス状態に近い精神状況に陥っている生徒達がぺらぺらと喋ってくれた。

 

「不良の井河さんが行方不明になった」

「秋山という美人の対魔忍が転校してきた」

 

興味を引いた噂話はその二つ。 

恐らく噂の秋山という対魔忍が自分の知っている秋山凜子だと思い、現在武道場で授業中と聞いたもときは足を運んだというわけである。

 

「はぁ…、ふぅ……、よし…落ち着いた」

「それでどうしてこんな場所にいるんです?」

 

呼吸を整えて、落ち着きを取り戻し凜子が周囲を見渡すと、武道場に残る同級生がみな顔を赤らめてぽけーっと惚けている。

術の類や道具を使わずにこんなことをできるのは、東京キングダムの白い医師と目の前の黒尽くめの男ぐらいだ。

間違いなく自分の知る後輩だろう。

 

「ああ……、数日前、ひとりで鍛錬をしていた所、急な目眩に襲われてな、いつの間にかこの世界に来ていた」

 

なんでも最初は気づかずに鍛錬を終えた後にアサギ校長に用があったので校長室へ行った所、

校長は別の人物だったらしい。

これはおかしいと凜子は教室に戻るも、そこに自分の席はなく、見知ったクラスメイトもいない。

危うく騒ぎになりかけたが、偶然この世界の凜子に出会ったそうだ。

 

「ロ凜子……だと……」

「ん? どうした、何か気になる点でもあったか?」

「いえ、続きをどうぞ」

「彼女の協力で『秋山家の遠い親戚だが対魔忍の力に急に目覚めて学園に来た』ということになってな。それで今まで学生としてここで過ごしていた」

「ふーむ。どう過ごしていたかはわかりましたけど、原因は不明ですか」

「まあそこは帰ってから原因を探ればいいさ」

「――帰る?」

「あちらの世界からこちらの世界にいる私を探しにこれたのだから、当然帰還方法があるのだろう?」

 

これで達郎(愛しい弟)ゆきかぜ(可愛い後輩)に久々に会える、とニコニコしている凜子にもときはそっぽを向きながら答えた。

 

「ソーデスネ」

「…………まさか、お前、来たのはいいが、――帰る手段がないとかいわないよな?」

 

もときは口端を上げて微笑んだ。

困った時の秋もときの奥義である、通用しないのは某白い医師のみという必勝の戦法であった。

多用しすぎるといらぬ誤解とトラブルを招くので、何度も使えない諸刃の刃である。

「あ、う、卑怯な…」と茫然とせずに顔を真赤にして少し反応できている凜子の精神力に軽く感心しながら、もときはこの世界に凜子が迷い込んだ原因を探しにこの場を離れた。

 

 

4、

「さて、どうしたものか」

 

ごまかすために凜子から離れたが、特に当てがあるわけでもなかった。

空間の穴を広げて来たのはいいがすぐに閉じてしまったので、糸は元の世界に繋がっていて場所はわかるが時空を操る能力があるわけでもないので正直お手上げである。

空遁という空間を操る忍法を使う凜子も自力で世界を超える力はないので、やはり原因を探すのが一番手っ取り早いだろう。

 

「そういえば不良の井河さんが行方不明という噂があったな」

 

どうやら小さい自分にあったという凜子の話を聞いた所によるとここは過去の世界らしい。

 

「……行方不明になった井河ってのは、もしかしてうちの居候のさくらのことかな?」

 

まさかねー、とは思うが、自身の直感が『それ』だと囁いていた。

本当にそうだとしたら、さくらは元の世界に帰れる機会をのがしたということになる。

今頃、家で買った携帯ゲームで遊んでいるだろう本人には黙っとくかともときは思った。

 

「となると、原因はあのタコだかイカっぽい生物かな」

「みつけたぞ、話はまだ終わっていない!」

 

顔を怒りか照れかはわからないが真っ赤にした凜子が追いついてきた。

そしてその直後、突然辺りの風景をかき消すような巨大な渦が出現して二人は身構えた。

 

「なッ、これは訓練してた時と同じ!?」

「へぇ」

 

興味深そうに周囲を見渡すとまるで、暗黒と星がきらめく宇宙空間の様な光景に変わり。

そして熱気感じる溶岩地帯らしき場所に出た。

 

「暑いな……まさか、幻術なのか!?」

「いえ、本物のようですよ」

 

周囲の熱気と探査用の妖糸が幻ではないと告げている。

その認識さえ幻術だという可能性もある。

だとしたらその術者は瞬時に二人同時に術をかける凄腕だ、そこまでの相手は正直おてあげなので考えてもしょうがない。

 

「いかにも魔界って感じの雰囲気ですね」

「瘴気を感じるぞ……」

「おい、お前らどこから来た!」

「突然現れるとは一体何者だ!」

 

突然オークの群れが現れる、しかも東京キングなどで見かけるのとはまた別物だ。

確か羅刹オークと言われる魔界にいるオークの中でも頂点に立つ戦士の氏族で、並のオークとは段違いの戦闘力と残忍さ、凶暴さを持つという話である。

 

「女と、……なんだこれは…。たまげたなあ魔界でも見たことがないほどの美形だぞ!」

 

何やらざわついているが、美人でスタイルのいい凜子先輩でなく自分の方に熱い視線が注がれている気がする。

まったくもって嬉しくない。

羅刹オークをかき分けて、ひときわ目立つ鉄仮面のオークが現れた群れのリーダーだろうか?

 

「ボス! 人間がいます!」

「女と信じられないほどの美形の男がいます、へへ……どうします?」

「ふーむ、よぉし、この女はおまえたちにくれてやる。 好きにしろッ! この男は俺がもらう!」

「さっすが~、ボスは話がわかるッ!」

「けど目が眩みそうなイケメンとはいえ男でいいんすかあ?」

「まだまだだな。ソドミーはいいぞぉ、半永久的な絶頂が得られる」

 

 

ボスの言葉で爆発的に士気をあげて盛り上がるオーク達。

さりげなくボスに狙われてるけど絶対強敵としてでなく♂的な意味である。

性に関して雑食すぎるぞオークは。

 

「見かけだけで性格は対して他のオークと変わらないなー」

「羅刹オークの実力はどれほどのものか、腕が鳴るな!」

 

横を見ると何故かやる気満々な凜子の姿があった、目がギラついて正直オークよりこちらのほうが凄みがあって正直怖い。

 

「乗り気ですね、……やりますか」

「やろう」

 

そういうことになった。

これから先は特に語るまでもない、羅刹オーク達は糸と刀によってバラバラになった。

羅刹オークといっても所詮オークなので悪鬼羅刹と呼ばれることのある超美形人探しと『斬鬼の対魔忍』の敵ではなかった。

そして再び風景が変わる。

 

「学園に戻った? ……あっ、タコ怪人だ」

「敵か、いつ斬る? 私が両断しよう」

「対魔院、……じゃない対魔忍的思考ですね」

 

先程のもときが振るった妖糸による切断面を見てからなにやら凜子が張り切っていた。

気合が入りまくっていたところで数だよりの力押しの羅刹オークに肩透かしもいいところなので消化不良のようだ。

愛刀である石切兼光からチャキと鯉口を切る音が響く。

 

「MATTE☆ 話せば分かる、これだから下等生物は野蛮で困る……」

「口が悪いなぁ……ちょっと教育的指導するかな」

 

腕を振り回すもときと、ギラついた目で殺意を向けてくる凜子にブレインフレイヤーが慌てた。

 

「生意気言ってすいません! 自分アルサールといいます! どうか話を聞いていただけないでしょうか!」

「へいへい、オクトパスビビってるぅー。 で、なんでここにいるの?」

「煽るな! ……ごほん、我がブレインフレーヤーは究極の技術で快適かつ自由に次元移動ができるのです」

「次元移動」

「次元、お前たちが言う世界は五次元宇宙に浮かぶ水滴のようなもの。

我々は五次元宇宙を伝って水滴、すなわち世界を移動している。

危機的な環境変化に見舞われ、そこで高度な知的種族である我らにふさわしい移住先である次元を調査して、現地の有害生物の駆除をしているのです」

「勝手に人様の世界に来て住むのに邪魔だから殺す、それは侵略行為ではないのか? やはり斬るか」

 

そういって再び鯉口を切る凜子をぼけっーと見るもとき、元の世界に戻れるなら別に死んでもいいやと思っているのだ。

 

「だからYAMETE! 主流派はそうだが環境保全運動家もいます!

移住先の野生環境を保全する運動を行っていて私もその一人です。

無論、自分たちの邪魔にならぬ程度ですが、この世界の端っこに、君たちの自然保護区を設置してあげましょう。

君たち害獣にも生きる価値がどこかにあるはずですから。下等であることを卑下してはいけませんよ!」

「先輩GO」

「うむ、所詮タコもどきの辞世の句ならその程度だろうな」

「ひりゅー!? 暴力反対!」

 

上段に刀を構え、凜子はアルサールを一刀両断する態勢を整えた。

ひゅっーーーーと、何かが降りてくる音と共に見たことのない生物達が謎の言語で叫んで襲ってきた。

 

「■■■■■ーーー!!」

「Gaaaaaaaaa!!」

「なんだこいつら」

「次空間を渡る際に空間に相当の負荷がかかるので、まったく別の下等生物を連れてきてしまったりしますので恐らくどこかの世界の下等生物でしょう、まあ我々高度な種族が活動するためには些細な犠牲です! アハハ!」

「凜子先輩、あの世界に連れてった犯人はやっぱこいつですよ」

「逸刀流奥義……」

「あっ、ほらほら来ましたよ! そちらを片付けなきゃ」

「くっ、仕方ない」

「がんばれ♪ がんばれ♪」

「お前も戦え! なんであれだけの実力があるのにいちいち不まじめなんだお前は!」

 

一気呵成に空遁と忍の剣術である逸刀流の技を組み合わせて敵をばったばったと斬り倒す凜子を応援するもとき。

それが気に入らないのか怒りながら更に勢いをまして敵を瞬く間に倒していく姿はさすが次世代のエースと名高い『斬鬼の対魔忍』である。

 

「虫けら共よブラボー! おお…ブラボー!! 見事な戦闘力であったぞ!」

「あ、どこに隠れてたんだ?」

「環境保全に勤しむ私は戦闘はからっきしなのですよ」

「騙されては駄目よ秋くん」

 

静止する声を聞こえ、そちらの方を向いたら対魔忍スーツに身を包んだ少女がそこにはいた。

校長室から出た後に会った少女だ。

 

「誰だ?」

「えー、んー、……そうそう田崎さんだっけ」

「知り合いか?」

「前に仕事で助けたことがあったとか?」

「なんで疑問系なんだ……」

「さぁ? えーと、騙すとはどういうこと? こいつが胡散臭いのは確かだけど」

「私の虫が聞いたのよ、そいつはテクノロジーをくれるって唆したあとで、味方のように振る舞って油断したら奴隷にしてやるといっていたわ」

 

どうやら彼女は蟲使いらしい、蟲を使ってアルサールの独り言を聞いていたようだ。

 

「まあ、よくある詐欺の手法だね」

 

親切に振舞って相手を信用させてから、隙をついて罠に嵌めるというのは古来より使われている詐術の常套手段だ。 

 

「………………ふん、所詮は下等生物、黙って私の環境保全に従えば奴隷として飼ってやったものを、物分りの良い奴隷がいれば便利だと思ったのですがね……代わりはいくらでも探せるでしょう! 

@%&$■?●**、――あれ?」

 

なにやら呪文を唱えだしたので、もときは妖糸を使ってアルサールの首を跳ね飛ばしさらに念の為に空中に飛んだ頭を十字に裂いた。

 

「今更だが帰る方法を聞き出さずに倒して大丈夫だったのか?」

 

『対魔忍たるもの純然たる悪は倒して当然』なので問題ないが、とった行動の順番は正しかったのかと聞いているのである。

恐らく自分一人だとそんなことを気にせず斬ったであろうが、先輩として格好つけたいんだろうなぁともときは推測した。

間違ってもそんなことを考えてるとおくびにも出さないが。

 

「僕を知っている人がいる五車学園ということは、元の世界に戻ったということでしょ多分」

 

指先から伝わる糸の感触が自分の体に結んだ糸が体育館に繋がっている感触があることから間違いないだろう。

 

「えー、田崎さん。 なんだか変な渦に巻き込れたりした?」

「いえ、先程の魔族の術かなにかですか?」

「違うならいいです。 じゃあ先輩、達郎の所まで行きましょうか、それで依頼完了です」

 

凜子と同じように異世界に連れて行かれたのではないと確認したもときは、それで話は終わりだとすたすたと校舎に向かって歩きだした。

あわてて二人はそれについていった。

 

もときはその背中を危険な色を宿した眼が見つめていたのを気づいただろうか?

ガサガサと去っていく三人の背後に小さく音が響いた。

 

5、

その夜、学園の者たちが皆寝静まった時間に一人校舎におぼつかない足取りで移動する人物がいた。

『斬鬼の対魔忍』秋山凜子だ。

弟と後輩に行方不明になった事情を説明して、翌日学園に報告をするために早く床についたはずの凜子は今、虚ろな目で校舎へと導かれていた(、、、、、)

その先には肩口まで伸ばした髪に長い前髪でその目を隠している凜子を操った張本人である田崎麻美がいた。

麻美が忍法で操る蟲はすでに凜子の脳を支配して彼女の意のままに動く人形と化していた。

 

「――――これで四人目……貴女達が悪いわけではないんです。けど感情が抑えられない(、、、、、、、、、)

ごめんなさい、だから死んでください」

 

そういって麻美が忍法で呼び出した巨大な蜘蛛は凜子の体を骨さえ残らずに貪り尽くそうと近づいていった。

 

「悪いけど、そうはいかない」

「!?」

 

蜘蛛達が十字に切り裂かれた。

そこに現れたのは闇夜に溶け込まず逆に存在を強烈に彩る眉目秀麗なる少年、秋もときである。

 

「秋くん!? 何故ここに、そんな、どうしてここに、彼女が特別だから来たとでも言うの!?」

「実は校長から依頼があってね、生徒が三人程学園から行方不明になってると聞いていたので調べたら全員僕が助けだした人物だったとわかった。

それで次のターゲット候補として二人をマークしていたけど、まさか片方が犯人だったとはね」

 

もときは単に救出の報告だけのために五車学園に来たのではなく、正式な依頼があるから学園に直接来たのであった。

凜子を探す依頼を受けたのも縁深い人を助けたいという情からでなく、知り合いがターゲットになれば学園の行方不明者を作り出した犯人への囮役にちょうどいいだろうという合理的判断で引き受けたのである。

 

「――そう、そうよね、たとえ知り合いだろうと仕事でもなければ自分から関わろうとはしない。 

貴方はそういう人だもの」

「行方不明者三人はさっきみたいに蟲に襲わせて殺した?」

「そうよ、蟲たちの餌にちょうどよくて死体も残らず痕跡を消せて一石二鳥だったわ」

「それでどうしてこんなことを?」

「どうして? ……貴方に貴方と会ってしまったから。 

一度貴方に会った途端にみんな女は狂ってしまう、助けられたらもう忘れることなんて不可能よ。

けど貴方はそんなことを省みない、ただ依頼のままに助けて出会った女の心を奪い何事もなく日々を過ごす、私は……、そんな貴方にとっての有象無象の一人になりたくないの」

「他の人間を殺したところで特別にはなれないと思うけど」

「殺したのはついでで目的ではないわ、『薬』を貰って自分が抑えきれなくなってしまったの」

「『薬』?」

 

明らかに異常な様子の少女はどうやら『薬』とやらでこうなったらしい。

長い前髪から除く眼光は明らかに人のものでなく、さきほどから漂う尋常じゃない妖気は彼女が人でないものに変わってしまった証左だ。

対魔忍の力は魔族の異能を根源としているため時に血に目覚め魔族へと堕ちるものもいる。

今の彼女は一線を越えて完全に『魔族化』していた。

 

「ずっと前から貴方に使おうと思っていたの、誰であろうと興味を持てない貴方を私だけのものにする力を!」

 

空中の空間が歪み、彼女が召喚した蟲は空中で数千匹に分散し一匹でも目標に接触すれば体中にある毛穴のどこからでも体内に侵入して対象の脳を支配して思いのままになるのであった。

ピンク色の雨がもときに降り注ぐ。

銀色の閃光が走った。

空中の虫が一匹残らず両断され悶え狂って死んだ。

その直後、魔族になった少女が頭から断たれた。

 

「そ…そん……な…あ、あき……、せめて……さい…ごに……だき…しめて…」

 

魔族になったため即死はしないが致命傷だ、ほとんど目が見えなくなったであろう彼女のぼやけた視界にガサガサした音が耳に響いたあとでゆっくりと影が近づき、そのままそっと抱きしめた。

 

「いっ…し…よ……に…」

 

そうつぶやいて彼女の体が紅色の舌を伸ばした炎に飲み込まれた、自決用の爆薬か何かを使ったのだろう。

 

「――そんなことだろうと思ったよ」

 

爆発に巻き込まれない場所に凜子を抱えて移動していたもときは憮然とつぶやいた。

秋もときの秘術、『死人使い』

もときは死体ですら全身に張り巡らせた妖糸を一種の神経繊維と化して肉体を刺激して生前以上の筋力を持つ傀儡として自在に操れる。

卓越した第六感が必要だと囁いたので見つからぬようにこっそり糸を使って草陰に隠していた、ブレインフレイヤーの死体を彼女に抱きつかせたのだ。

 

「悪いけど付き合いきれない、代わりにそいつと仲良くしてやって」

 

ふと、自分が関わらなかったら彼女も普通に暮らせたのだろうかともときは思案した。

その場合は助けが間に合わずに敵対組織にそのまま洗脳されただろう。

はたして自分の意志を失って道具として長生きするのと、自分の意志で行動して早死するのではどちらが幸福かと考え、どっちもどっちだなと結論を出して凜子を抱えて校舎に向かって歩き出す、その背中は現世からの執着を拒んでいるかのようだった。

 

後日、五車学園である教師を調査した所、対魔忍を魔族へ変化させるために生徒を実験体にしたと思われる様々な実験データが部屋から出てきた。

その件を問い詰めた所、その教師は所有していた『薬』を自らに投与して魔族へと豹変し学内で生徒が数名重傷を負うなどの被害が出てアサギ校長をはじめとする複数の対魔忍が対処する事態になった。

 

対象の魔族は対魔忍達の総攻撃が始まる寸前に胴と首が分かれる末路に至った。

足元に転がった生首の切断面を見た凜子が下手人についてアサギ校長に尋ねたが口を閉ざしたため、何故この事件に部外者である東京キングダムの人探しが関わったのか凜子は結局わからなかった。




凜子先輩をヒロインにするつもりがこうなったけど、凜子先輩いなくてもこの話は別に問題ないんじゃないかなーというのは内緒。
余談ですが臥者で凜子引かなければもときが東京キングダムの闇カジノで負けて素寒貧になりそうになって仕方なく女性ディーラーの席に移動して不思議と勝ちまくったりして客に勝ち分おごって小銭を持って帰る話にする話になる予定でした、原型全く無いですね。

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