神「なんだよそれ。憧れてたって、諦めたのかよ」
???「うん、残念ながらね。エロゲキャラは二次元限定で、大人になるとなりたいと人に語ることすら難しくなるんだ。そんな事、もっと早くに気が付けば良かった」
神「そっか。それじゃしょうがないな」
???「そうだね。本当に、しょうがない」
神「うん、しょうがないから俺がお前をエロゲ世界のキャラにしてやるよ。
まかせろって、お前の夢は――俺が、ちゃんと形にしてやるから」
???「ああ………安心した」
もとき「――って答えたら、目が醒めたんだ…とても懐かしい夢だったよ。
行くならイチャラブ系作品の世界が良かったなぁ」
さくら「最近忙しいから疲れてるんだよ秋くん、メフィスト病院行く?」
※このやりとりは本編に関係ありません
海沿いにある西欧風の館。
鉄柵に吹き抜ける海風は、大理石の彫像が引き絞った弓の弦を鳴らし。
噴水の清水に太陽と月の断片をきらめかす。
普段はアポイントメントを取らない客を対応することなどないと思われる厳正さを形にした平べったい潰れた鼻の執事が不意の来訪に応じたのはその訪問者の美貌を見てしまったからかも知れない。
月輪のような輝かしさと妖しさを兼ね備えた美少年秋もときである。
『アミダハラ』周辺の廃棄都市にあるとは思えない非常識な程に豪勢な屋敷に何故訪れたのか?
「秋
「ええ、行方不明の所員を探しにきまして」
そういい、写真を見せる。
そこには笑顔でダブルピース*1をしている井河さくらの姿が写っていた。
写真をみている執事から視線を外しふと空を眺めると雲に覆われ薄暗く今にも泣き出しそうな空模様だった。
1、
「秋くんの私に対する扱いが悪いので待遇の改善を要求する!」
「はぁ」
仕事を終えたもとき、さくらの両名が帰路に着く途中でさくらがそんなことを言い出した。
「とりあえずまだ早いけど食事にしてから聞いていい?」
何故か頬を膨らませて怒るさくらはもときのその言葉に空を仰いでからお腹具合を確かめ、日が完全に昇る一時間ほど前に早めの昼食を食べることに了承した。
昼前だというのに混雑している店内に運良く退席した客と交代する形で席についた。
客層の中にオークなどの魔族が混じっているのは東京キングダムではよくみる光景である。
「凄く流行ってるね、よっぽど美味しいのかな?」
外でもときと一緒にいる時に顔を見られて後で嫉妬からの凶行を防ぐため(もときの美貌を見た直後は我を忘れてるので大丈夫)
休日の芸能人のような帽子にサングラスという出で立ちで店内をキョロキョロ見回すさくらの視界に壁に飾ってある色紙が入る。
「……? 何て書いてあるんだろアレ」
「んー?」
英語とはまた違った言語で書かれた色紙をみて首を傾げるさくらに、メニューをみて何食べようか葛藤しているもときが顔をあげる。
「――あぁ、あれはラテン語だね」
「へー、なんて書いてあるの?」
「Dr.メフィスト」
「え?」
「あいつが贔屓してる店だからここ」
く
そういって再びメニューに顔を戻すもとき。
さくらは脳裏に白い麗人の姿が思い浮かぼうとしたが首を振って中断する。
眼の前の黒衣の美貌を見ながら、それ以上の美貌の持ち主のことを思い浮かべようとしたら脳の情報量を超えて処理できずにフリーズしてしまう。
「え、嘘、ドクターメフィストがよく来るの? この店に?」
あまりにも大衆食堂にそぐわない印象の人物が話題に飛び出たため思わず聞き返す。
「あいつ、タンメンが好物だから」
「はー」
フランス料理のフルコースをワインと共に楽しむようなイメージだったが思いの外庶民的な好みだと、意外な一面に感嘆の声が上がる。
セットにしたほうが得だけど食べきれないしなー、とメニューを睨んでいるもときにさくらが尋ねた。
「随分悩んでるけどドクターお気に入りのタンメンじゃだめなの?」
もときがその問いに答えようとするとガラスが割れる音が響き、店内に何かが床に落ちる。
飛び込んできた円形の物体を何か認識した瞬間にもときの指がチタン鋼の糸を操るために動く。
『それ』は爆発して破片をバラ撒くのでなく爆発すると高温・高圧のガスへと変化して膨れ上がり、それにさらされた人間は目や耳といった敏感な器官を破壊し表皮や肺に裂傷させるタイプのいわゆる攻撃型手榴弾といわれるものであった。
職業柄、銃器や爆弾などの知識の収集に余念がないもときはその物体を見た瞬間に脳内に記憶してある構造と指先から伝わる妖糸の探知により飛び込んできたものの内部にある雷管の場所がわかった直後に妖糸を使い爆発する前に無効化した。
「あっ、もう大丈夫ですよ」
飛び込んできた手榴弾にパニックにならないのはさすが東京キングダムの住人である。
もっとも、黙ってしまったのは手榴弾を拾い上げた人物の美貌をみてしまったからかもしれないが。
もときはそのまま不発状態になった手榴弾を闇市に後で売るために懐に入れた。
攻撃型手榴弾は金属片を広範囲にばら撒く破片手榴弾よりも危害半径が小さいため、相手を選ばない無差別テロではなくこの店にいる誰かを狙ったものであろう。
自分を狙ったのかそれとも別の誰かを狙ったかを聞き出すためにもときは、糸を店外へと伸ばし。
急いでその場から立ち去っていくものを探し当て糸を巻き追いかけるために店を出ようとした。
「――え、あっ、ちょっとちょっと!」
「注文はチャーシューメンでお願い、……それとね」
いきなりの出来事に眼を白黒するさくらに対してもときは店から出ていく前に耳元に近寄りこう囁いた。
「タンメンはこの店で一番まずいからやめたほうがいい」
▼
注文した料理がのびる前に戻ったもときはなにやら不機嫌そうなさくらを尻目に料理を平らげて、満足そうな顔をしながら店に入る前の言葉の真意を問いただした。
「えーと、待遇の改善がどうだって話だっけ?」
そういうとさくらはキッとこちらを睨みつけてきた。
「私ってそんなに頼りにならないかな!?」
「……は?」
あっけに取られるもときにさくらは言葉を捲し立てた。
「さっきだってこっちを置いてけぼりにして先に行っちゃうし、こないだも私のいない時に事件に巻き込まれたって言うし、護衛として雇われてるのに肝心な時に私を頼ってくれないじゃん!」
どうやらもときがさくらに対する評価が低いため頼りにされてないと思っているらしい。
「何かあったときの備えの切り札として雇っているから普段バリバリに表立って働かれると困るのだけど」
その人知を超えた美貌で相手を恍惚とさせて自白剤などの薬物を使用するよりも効果的に情報を引き出せ、探知用の妖糸で下手な科学捜査班のチームを凌駕する精度と速度の捜査・情報収集能力を持ち、戦闘能力も忍術無しで下手な対魔忍を寄せ付けない正に魔人と呼ぶべき強さを持つのが秋もときである。
しかし相性が悪い敵相手に不覚を取ってそのまま死ぬ可能性があるのが血と欲望と裏切りに満ちた裏稼業の世界である。
その万が一の備えとして一級の体術と影を使用した戦闘、隠密、などの汎用性が高い忍術を備えたさくらを影に潜ませているのだが……。
「最近留守番だけでほとんど何もしない状態ってどうかと思うの、こう、なんていうか腕に覚えのある対魔忍的に!」
「そう? むしろ代わってほしいくらいだけど」
「楽して生活したいなら秋くんはヒモにでもなって養われればいいんじゃない?」
「寄生相手のご機嫌取りするよりも、人探しの仕事であちこち動いてたほうが楽なんで……」
出歩くだけで大抵の女性に惚れられる容姿なので、独占しようと外に出さずに監禁されることになるだろうし正直勘弁していただきたい。
「それで待遇改善って具体的にどうしろと? 仕事量にあわせて給料下げればいいのかな」
「ええー!? いや、それは、ちょっと……」
楽して給料をもらうのが気まずいという建前の裏にある、好意を持っている相手に格好いいところを見せたいというさくらの乙女心などもときに理解できるはずもない。
その手の感情の機微は数え切れないほどの好意を感受しすぎてオーバーフロー状態なのである。
仕事に支障がないように経費の支出は出し惜しみはしないが、秋もときはスキあれば経費削減を狙うどちらかというとケチな経営者であった。
プライドは大事だが、お金は生活を潤すためにもっと大事である。
年頃の少女として色々と使用する予定がある給料を守るためさくらは慌てて減給を阻止しようとした。
「えーと、うーんと、そうだ! 私にも単独で仕事をさせてよ、それがいいよ、うん、だから給料は据え置きで!」
「はぁ、僕に秘密のボディガードがいるとばれないような仕事を選ばないといけないから……、めんどくさいなやっぱ給料下げれば良くない?」
「よくない!」
そんなこんなで適度に有能っぷりをみせつつ気持ちよく給料を貰いたいというさくらの要望により東京キングダム外での人探し仕事を複数任せることになった。
これが井河さくらから連絡が途絶える前にした最後の直接的なやりとりである。
2、
「また女絡みの厄介事か、いい加減恥というものを知ったらどうかね?」
「うるさいよ」
月に二度のメフィスト病院での定期検診を院長自らの手で行われたもときは、メフィストの嫌味をさらっと流して病院から出た。
「料金ぼったくって……、たんまり儲けてるくせに」
ぶつぶつと自分以外が口にだしたらどうなるかわからないことをいいながら行方不明になったさくらの捜索に出ることにした。
「土地勘のない場所で情報屋のコネもない状態で受ける仕事じゃないな、ちゃんと仕事の選び方を教えるべきだったかな?」
秋
一つは東京の地下300m地点に存在する『ヨミハラ』。
魔界の門に最も近いため、もときのモデルの人物やドクターメフィストに縁深い<魔界都市>という名前のついた場所である。
対魔忍世界のラスボスことエドウィン・ブラック率いるノマド傘下の魔界の住人を中心にしたマフィア組織がヨミハラ一帯を支配しており、麻薬・魔薬の取引、売春、殺人、人身売買といったありとあらゆる非合法がまかり通る犯罪の温床となっている東京キングダム以上に危険な場所である。
ちなみにメフィスト病院の分院があり、こちらもドクターメフィストが院長を務めている。
どちらの院長がダミーでどちらが本人かという議論が一部で行われているがもときには興味がない話である。
もう一つは『アミダハラ』。
近畿地方に存在する東京キングダムと同じ人工島都市。
日本第三の都市として栄えていたが、米連と中華連合の代理戦争となった“半島紛争”の煽りを食らって弾頭ミサイル攻撃により廃墟化。
その後、地下深くに存在する魔界の門を通じて魔族が流入するに従い無法者たちの巣窟となり、10年余りで<廃棄都市>と呼ばれる日本最大級のスラムに成長した場所である。
ただし東京キングダムやヨミハラなどの無法地帯とは違い、「魔術師組合」を中心としたアミダハラ独自の秩序が築かれており、中心地のシンサイをはじめ、キタ、キョウバシといった普通の街並みとさほど変わらない町地区と、危険な廃墟地区が併存している場所である。
この二つの場所での人探しの依頼は基本断るか他に仕事がないときまで後回しにしているのだが、今回さくらの要望により任せたところいくつか依頼は片付けたという連絡を最後に音沙汰がなくなった。
「うーん、対魔忍フラグが立つと思ったけど本当に立ってしまうとは」
嫌な予想が的中してしまったがほっておくわけにも行かずこうして遠方まで探しにきたというわけである。
距離がありすぎるためか、それとも他の理由があるのかさくらに巻き付けた糸がどうにも反応しないので探すために直接行方不明になった現地へ足を運ぶ必要があった。
移動の際に不幸な事故がないように(もっとも0にはならなかったが)。
乗り物に乗ってるときはアイマスクとマスクで顔を隠してぐっすり移動中に寝たため、すっかり固くなってしまった筋肉をビキビキと解しながらさくら探索をするため公共の乗り物で乗れるところまで乗ってあとは徒歩で移動して件の沿岸の廃墟都市に到着した。
「東京キングダムもそうだけど、こっちも日本の風景とは思えないね」
さくらが行方不明になったと思われる、『アミダハラ』近隣の都市廃墟周辺に到着したもときはその異様な風景を見て思わず言葉をこぼした。
ビルや建物が崩壊してアスファルトに亀裂が走り、窓ガラスの割れた建物たちのいくつかが無事な建物があるというさながらSFにでてくる崩壊した世界のような光景が広がっていた。
下級魔族やホームレスたちが廃墟に住み着くと聞いたが人の気配らしきものがまったくせず、糸で探ってもそれらしき気配は少なくとも数km範囲にはいない様子だ。
単に昼間は外で出稼ぎしているだけなのか、それとも人が住み着かない特別な理由があるのか……。
ここにくればすぐさくらに繋がる糸から居場所が分かると思ったが、糸の反応が妙だ。
掃除機のコードみたいに弛んだ糸を巻いて引っ張ってみると本体が近寄らず奥から新しい糸が伸びて遠ざかっているような手ごたえがする、初めての現象だ。
「いやーな予感、……いつものことか」
人がいないなら好都合と、廃墟周辺を探索するための拠点を確保することにした。
4、
無事な建物を探して入った所、先客がいたのかいくつかの荷物とゴミが部屋の中に散らばっていた。
捨ててあったゴミを見てみると軍用レーションの入っていた袋とプラスチック製のナイフとスプーンだ。
プラスチックの汚れぐらいからすると少なくとも昨日今日出たゴミではないようである。
「米連絡みか、人がいないのはそこらへん?」
うーん、と頭を捻ってみても情報が不足しているためなんともいえない。
荷物を漁ってみるとさすがに銃弾や爆弾のような武器の類はなくレーションの残りと、毛布などの野営グッズがあるのみだ。
「買い出しに行く手間が省けたな、ラッキー」
見た所賞味期限も問題ない、近頃のレーションは味も良くなっているらしいので楽しみだ。
今日の夕食はお湯を注ぐと作れるバナナ味の蒸しパンと紐を引くと蒸気で温まる容器に入ったビーフシチュー、ミートボール、ポテトグラタンに飲み物は水で溶かして飲む粉のグレープフルーツジュースに決定した。
「それじゃあ、あからさまに怪しいあの洋館に行ってみますか」
拠点に手荷物を置いて都市から離れた場所にある洋館に向かって足を進めた。
▼
「いえ、見覚えがありませんね」
空を見上げていたもときに声がかかる。
「そうですか」
そのまま渡していた写真を懐に入れる。
「そもそも、このような不便な場所にわざわざ人が来たりしませんよ」
「失礼ですが、そんな場所にわざわざ住んでいるんですか? 貴方のような使用人を雇ってまで」
「旦那様は人間嫌いなもので、このような場所ではなくては落ち着かないそうです」
「なるほど」
嘘だなと、もときは判断した。
言葉と表情はいっさい気取られないように平静を装っているが、執事に気付かれないようにまとわりつかせた糸から伝わる筋肉の反応は偽りを示していた。
どうやらここにさくらが来たのは間違いがないようだ、館を探索する必要がある。
「それでは失礼しました」
そういい、一旦ここから離れるためにもときは踵を返した。
糸を張り巡らせたところ入り口周辺には監視カメラや赤外線センサーのような電子設備はない、探索しに行くなら夜だ。
その後姿を執事はギョロと飛び出した大きな目で見つめ続けていた。
5、
草木も眠る丑三つ時、雲で月明かりのない絶好の不法侵入コンディションである。
一旦帰り食事をとってそのまま眠りについたもときは移動した時と合わせて睡眠のとり過ぎで頭痛が少々するが問題なく糸を使い鍵を開け屋敷の裏口より侵入することに成功していた。
館内部も幸運なことに電子的な防犯設備がないため鍵をどうにかすれば探索に支障がないため夜が明けるまで探索し放題である。
無論見回りに見つかることががないように糸を張り巡らせて、人の気配などを探る必要はあるが……。
明かりがなくとも糸による指先に伝わる感触で部屋の構造、人の有無などが分かり鍵も糸でかちりと開けられるので気分はさながら某怪盗紳士の三代目である。
足音がならないように壁に巻き付けた糸を足場にして綱渡りの要領で床に乗らずに移動しつつ、もときは館の探索を開始した。
(今すごく、忍者やってる気がするなぁ……)
一応対魔忍も忍びのはずだが忍者というよりNINJAだからなー、とそんなことを考えながら探索を続けていた。
どうやらこの建物は地上二階建て地下室を含めて三階建て。
一階が台所、食堂、応接間、使用人室、庭園、浴室、トイレ、物置。
二階が寝室、客室、書庫、美術室、ダンスホール、娯楽室。
地下室は人の気配がしたのでまだ入っていない。
外から見た面積と内部から探索した面積が違う気がするので、恐らくどこかに隠し部屋があるようだ。
とりあえず把握できたのはそれぐらいだ。
窓を見てみると空が白む様子だ、善は急げで突入して慎重に時間をかけて探索したせいでそろそろ夜明けが近い。
(本命の地下室は今日は無理だな)
鍵をかけ直しながら使用人が目覚める前に退散することにした。
そう思いドアを開こうとドアノブを捻ろうとした時、もときが手を触れる前にドアノブは回転して部屋の扉が開かれ誰かが部屋に入ってきた。
「ふぁ~…眠い……」
寝ぼけ眼で入ってきた、執事と同じく平べったい顔に潰れた鼻の使用人は目をこすりながらドアを開くと
「夜明け前だってのに、見回りしろとか旦那様は神経質なんだからもう……。」
ぶつぶつ呟いて窓を開き外を見渡し、再び窓を締め窓の鍵をかけると部屋から出ていった。
鍵を開けてドアを開く音が何回か聞こえ、だんだん足音が遠ざかると、もときは
「あぶなかった……」
咄嗟に糸でひっぱり天井にぶつかる直前で網を上下に張ってぶら下がっていたが、使用人が電気をつけて明かりを見ようと上を向いたりしたらアウトだった。
見つかる前にさっさと館から離れるもときが空を見ると雲間からうっすらと浮かぶ月を捉えた。
「満月まであと少しか、早く片付けなきゃね」
月が満ちれば魔が跳梁し活発化する、どうやら今回の人探しは長くなりそうだ。
6、
「オークにも人権があるつーの、俺はマダムの奴隷じゃないつーの!」
「そういうセリフはちゃんとツケを払ってからいいな!」
「ブヒー!」
うーん、母親の顔よりみた光景(親はいないが)、オークは場所が違っても生態はさほど変わらないようだ。
なんでも聞いた話によると東京キングダムとヨミハラとアミダハラではすこしオーク態度が違うらしい。
魔族の影響がもっとも強いヨミハラは弱肉強食の階級社会故に上に対して腰が低く、魔法使い達の組合に統制されてるアミダハラは協調性があり、東京キングダムは様々勢力が入り混じって自由な分ちょい悪らしい。
こんなことをわざわざ比較・分析したのは相当な熱意を持った暇人であろう。
いったい彼か彼女かはわからないがなにがオークの文化研究に駆り立てたのか不思議である。
閑話休題。
「……ああ…そいつなら…まっすぐ行った…ビルの…酒場だ」
「どーも」
いかにも一般人じゃなさそうな、顔に大きな傷跡を残す男は顔を赤らめてぼんやりした顔でもときの質問に答えた。
普段なら話しかけられても「うるせえっ!」と一喝して不機嫌そうに去るのだが、あまりにも美しすぎる顔の持ち主からの質問に応じないという考えは微塵も浮かばなかった。
館から去ったもときは拠点で一休みしてから、さくらの足取りとなぜ米連が廃墟に来ていたかを調べるためにアミダハラに訪れた。
見るものを陶然させる月輪玲瓏たる美貌を活用して裏事情に詳しそうな人間を適当に捕まえ質問することを何回か繰り返し、情報屋の居場所を探りあてることに成功した。
情報屋がいるというバーに入った瞬間こちらを見る者達が凝結した、
気にせずあんぐりと口を開いてグラスを磨いていたバーテンダーに情報屋について聞くと従業員用の控え室にいると答えたので、もときは礼をいうとそのドアを開いてずかずかと入った。
「うぅ……頭に響くだろ…丁寧にドアを開け……」
二日酔いでソファーに寝転んで休んでいただろう情報屋らしき男は頭を抑えた青い顔をこちらに向けて億劫そうに顔をあげ、目を見開いた。
「こりゃ…夢だな……こんな顔の奴がいるわけない…二日酔いの頭痛もぶっとんだぜ」
「あなたが情報屋さん?」
「お、おぉ! そうだ、客か」
こちらが情報を求めに来た客と分かると蕩けた顔が引き締まる。
プロ意識がしっかりしてるらしいこれは信用できそうだ。
「すまねぇ、ちょっと待ってくれ……ふぅ、生き返るぜ」
そう言うと情報屋は二日酔いの薬らしき粉薬を口に含み、机の上にあるミネラルウォーターのペットボトルを掴み一息で飲み干した。
「待たせたな、それでどんなことを聞きたい?」
「この女の子を見なかった?」
さくらの写真を渡すと、じっくり眺めてからああと声を出した。
「何日か前に新興ギャングと大立ち回りをした嬢ちゃんだな、『外』から女を攫って薬漬けにして売っ払うタチの悪い連中なんだがそいつらの所に殴り込みをしたそうだ」
「……はぁ?」
「一人で大暴れして攫われた女達を逃がしてから構成員をボコボコにしたらしい。
調子に乗った馬鹿達は近々ぶっ潰す予定だったんでよくやったとあれだけやってお咎めなし所か一部のお偉方に気に入られたらしいぜ? 」
「何やってるんだか……」
脳筋すぎる結果オーライとはいえ派手にやり過ぎだ、頭痛くなってきたさっきの二日酔いの薬貰おうかな?
「暴れた後は女達を『外』で保護させて、どっかに行ったらしい。
俺が知ってるのはそれぐらいだな」
「どーも、それとこの近隣に米連がどんな活動したかという情報ない?」
「米連? 米連なぁ……、最近なんらかの実験の協力をここのお偉方に頼んだら断られたって話は聞いたことがある、それに対して嫌がらせをしたとかしないとか」
「ふーん、最後に近隣の廃墟から人気がない理由を知ってる?」
ふと気になっていたことを聞いた、米連がなにかしたという情報がないなら他に理由があるということだ。
「……ああ、最近変なのが出没するらしいんで廃墟に住む連中はみんな一時的に退去したんだ」
「変なの? 曖昧な言い方だね」
「魔族の連中にもよくわからん化け物を見たらしい、魔獣の類とはまた別らしい」
「……ふーん、米連の実験とやらが関係してるのかな」
「さっき言った嫌がらせがそれじゃないかって話だ、失敗した生物兵器をあそこで廃棄したってな」
「本当なら大問題じゃない?」
「魔界の門からでた新種と言われたら嘘か本当か確かめようがないからな、魔界は広いからここに住む魔族も知らない生物は多いらしい」
どうやら、運良く遭遇しなかったが廃墟には化け物がうろついていたらしい。
拠点に荷物を残した米連兵達はそいつにやられたのだろうか?
「ちなみにどんな化け物かわかる?」
「詳しくはしらないがカエルみたいな化け物だとさ」
7、
情報屋に報酬を渡したもときは食糧を買い出すと一度拠点に戻った。
謎の実験をしようとした米連、そして現れた謎の化け物、行方不明になったさくら、それに関わっているだろうあの館。
色々と情報が出てきたがもときの目的はさくらの捜索だ、化け物がでるとかは正直どうでもいいのでまたあの館に行ってさくらの痕跡を探さなければ……。
とはいえ新しい拠点を探さなければいけないようだ、わざわざ危険な場所で度胸試しするような趣味もないのでどうしたものか。
「あの館に住ませてもらうのが一番だけどなー」
それが出来るなら探索する手間が減り、さらに住む場所を確保でき一石二鳥なのだが流石に無理だろう。
▼
「お断りします」
「ですよね」
駄目で元々言ってみたが駄目でした。
「縁も所縁もない赤の他人を屋敷に泊める理由はありません、お帰りを」
「はーい」
「お待ちなさい」
そのまま帰ろうとすると背中から声をかけられる。
「奥様! どうなさいましたか?」
「ここに来る客人など珍しいので興味があったのですが……」
そういって、この館の主人の奥方らしき女性がこちらの顔を覗き込んだ。
「ああ…こんな……こんなに…美しい……人が…この世にいるなんて………」
「はぁ」
何やら熱のこもった得もいわれぬ妖しい視線を女として脂の乗り切った肉感的なこの奥様から感じた。
「……毒島、この方はどのような御用件で来たのかしら?」
「は、仮宿を求めてだそうです。 しかし「いいじゃない」……は?」
「泊めてあげればいいのよ、どうせ使うことのない客室が空いているのだし」
「し、しかし奥様! このような得体の知れない客を泊めたりしたら旦那様がなんとおっしゃるか!」
「何も言わないわよ、……どうせ一人で殻に閉じこもって気付きもしないわ」
「ですが「毒島?」……わかりました」
「では、行きましょうか案内しますわ」
そう言うともときの腕をとり自分の腕を組ませた。
ふくよかな胸が腕にあたっているがわざとであろう。
……何やら話が自分を置き去りにして進んだが、まあいいやと気にせずもときは奥様に連れられ館の門をくぐった。
男は度胸、女は愛嬌とはいうがやはり決め手は度胸ではなく顔であった。
8、
鼻唄を今にも歌い出しそうな程に機嫌の良さそうな奥様と、対照的に不機嫌そうな執事に部屋を案内され夕食の席まで誘われたもときは、まさか本当にokが出るとは思わなかったので置きっ放しにした荷物を取りに廃墟まで一旦足を運んだ。
「買った食糧が無駄になったかな?」
缶詰めなどの保存食だから後日食べればいいかと、荷物をまとめて廃墟から出ようとすると近くでガタッと物音がした。
「……人かな、それとも話に聞く化け物か」
部屋の中心に移動し、外に向かって糸を伸ばすと170cmぐらいの身長の持ち主が部屋の前に居た。
部屋に窓はなく外に出るには一つしかないドアから出なければいけない。
待ち伏せには絶好のポイントだ、逆にいえば逃げ道がないということだが。
ドアを破り侵入してきた相手の顔は鼻は平らで、耳は異常に小さくなり、目はまばたき出来ない程飛び出て、指には部分的に水かきができ、首の周りはたるんでいた。
「……ここはアメリカのインスマスでなければ東北の
いわゆるインスマス面をした魚人であった、ヌメヌメとした光沢ある粘液が部屋にポタポタと垂れ落ちる。
「えーと、不法侵入についてなら今から出て行くので勘弁してもらえ……関係ない?」
もときの言葉など聞かず呻くようなら声を上げて掴みかかってきた、後ずさりしながらチタン鋼の糸が死を告げるべく疾った。
「あれ? やば……」
放った糸が見当違いの方へ
その身体の粘液がもときの糸が届く前に方向を狂わせたのだ。
飛びかかる魚人の背後から同じく魚人達が雪崩こむのが、もときの目に映った。
淫獄都市ブルース<深者の章 後編>に続く。
対魔忍RPGのイベントやら性春姫が煮詰まったりで遅れました。
今回のイベント若さくらは欲しいですが周回面倒ですねー。
勘のいい読者の方はタイトルでピンときたでしょうが、この話はクトゥルフ神話モチーフですTRPGの方ですが。
探索者が秋もときなのでRTAみたいにサクサク行くと思ったら長くなり中編になりました、短編形式からはずれたので後で外伝の方に回すかもしれません。
続きはそう遠くないうちに投稿……できるかどうかは若さくらのスキル5になるまでの早さ次第。