あの深海棲艦との戦いから数ヵ月が過ぎた。世界に平和が訪れた。平和? それは本当だろうか?
ある晴れた日、私はある情報を携えてとある街を訪れた。その街には退役したある提督が住んでいたからだ。
「〇〇元提督ですか? 取材を申し込んだ烏丸文です」
「やぁ烏丸さん。こんな狭い家ですみませんね」
まだ二十代の〇〇元提督は私の取材に快く協力してくれた。狭い家というがボロのアパートだが通された部屋は案外とスッキリしていた。
「すみませんね、コーヒーですけど」
「あやぁ、これはどうも」
〇〇元提督からコーヒーを貰い、一口付ける。さて本題に入ろう。
「今日の取材なんですが……」
「セクハラ提督……での取材と聞きました」
「あやぁ、やはり嫌ですよね」
「構いませんよ」
「それはありがとうございます」
目の前にいる〇〇元提督、実は艦娘からセクハラを訴えられて辞職して退役になった経歴を持っている。赴任場所タウイタウイ泊地、かの昔に起こったマリアナ沖海戦で第一機動艦隊が停泊していた泊地でもある。
「国防省から頂いた資料には優秀な功績を残しておられるようですね。ですが何故艦娘にセクハラを?」
「……そうですね、あれは偶然に偶然が重なった出来事でした」
「と言いますと?」
「自分の経歴にセクハラとなってますが自分は奥手でね、チキンのハートなんですよ」
「ほぅほぅ、それが何故セクハラを?」
「四月一日の事でした。四月一日と言うとエイプリルフールですね」
「えぇそうですね」
「自分がセクハラしたとなっている相手――鈴谷は有り体に言えば女子高生のような感じです」
「はい、重巡鈴谷は女子高生のような出で立ちをしていると聞き及んでいます」
「彼女はよく自分をからかっていましてね。あの日も自分をからかってました――ドッキリというからかいをね」
「ふむふむ」
「自分にドッキリしたのは告白です。向こうから自分が好きだ。好きだから付き合ってくれってね。自分はまさかと思いましたよ、彼女のからかいかと思いましたけどあの時の自分は本気に思えた。だから言ったんですよ自分も好きだとね」
そこで元提督は一旦言葉を切った。
「でも次の瞬間、執務室の窓が開いて熊野達がドッキリの看板を持って現れてね。あぁ、やっぱりドッキリだったかと。でもその付近に青葉がいたんだよ」
「青葉というと私らみたいに記者をしている艦娘ですね」
「えぇ。まぁ青葉が写真を撮って泊地や憲兵に通報するのはいつもの事でした。でもあの日はいつもの事ではなかった」
「というと?」
「……憲兵隊の施設にたまたま貴女と同じように取材に来ていた記者がいたんだよ」
「あやぁ……という事は……」
「その記者が海軍の恥を見つけたとばかりに新聞にデカデカと載せたんですよ。記者にしてみれば海軍を批判する記事が出来たんですからね」
「………」
「そして国民の批判の声が自分に集中。有らぬセクハラ容疑もかけられて自分は辞職届けを出しましたよ。あの時の憲兵の済まなそうな表情は今でも覚えています」
「……つまり遊びの事が本当になってしまったと?」
「えぇ。嘘が本当になってしまったわけです」
「……それでその後は?」
「泊地は数日のうちに他の提督が赴任する事になりましたよ」
「いえ、貴方がです」
「……本土に帰ると海軍の身内は済まなそう雰囲気をしてましたね。けど外に出ると批判の雨ばかり、石も飛んで来ましたね」
「……マスコミを恨んだりはしないんですか?」
「書いた記者を恨みましたけど、過去はどうする事は出来ませんからね。その記者も本土に帰る途中で船が潜水艦の雷撃を受けて轟沈しましたけどね」
……何とも言えない雰囲気だと思う。
「可哀想なのは鈴谷ですね。あの記事のせいで鈴谷は相当精神的ショックを受けたと風の噂で聞きました」
「会いたいとは?」
「思いませんよ」
「……え……?」
「彼女とは上司と部下の関係ですから。それに会ってどうにかなるんですか?」
「そ、それは……」
一度付いた傷は中々癒える事はない。特にこういった世間体の事は。
「おっと、そろそろバイトの時間なんでそろそろ……」
「あやぁ、これは長々と失礼しました」
「いえいえ」
そして私は元提督のアパートを後にした。私はこの事を記事にするか悩んだが元々は取材だった事もあり記事にした。けど国民は無関心だった。漸く終わった戦いを今更蒸し返してどうするというのが実態だった。
けど、記事に来た女性がいた。あの重巡鈴谷だった。彼女は元提督にずっと謝りたいらしく連絡先を教えてほしいとの事。私は悩んだが二人の関係が修復するかもしれない可能性を信じて彼女に住所を教え、私はこっそりと彼女の後を付けてあのボロいアパートに向かった。
しかし元提督はいなかった。
「彼は先日、暴漢に襲われて亡くなりましたよ」
鈴谷と大家の話を聞いていた。私が取材をして数日後、鈴谷のファンだと言う暴漢に後ろからナイフで刺されたらしい。しかも滅多刺しという……。
泣き崩れる鈴谷に大家も困った表情をしていた。私も驚いていた。私が記事にしたから殺されたのだろうか? 記事にしなかったら彼は殺されなかったかもしれない。だが鈴谷があの記事を目にする事はなかった。
どうにも煮え切らなかった。それから数日後、鈴谷は海に身を投げた。発見された遺書には「私が悪かった。彼は悪くない」と書かれていた。
「……どうにもやれ切れないな」
鈴谷の記事を目にしながら私はそう思った。どうせ国民は直ぐに忘れるだろう。そんな物である。
「烏丸、この取材を頼むぞ」
「あやぁ、分かりました」
そして私は鈴谷の記事を机の中にしまいこみ、取材に出掛ける。今日もその日は晴れだった。
「というのはどうですか司令官?」
「何で俺が死んでんだよ」
「私も死んでるし」
タウイタウイ泊地、執務室で提督達はそんな話をしていた。
「良い出来だと思うんだけどなぁ」
「そんな事考えてる暇があるならメシ食ってこい。もう六時だぞ」
「じゃあ失礼しますね司令官」
提督はシッシッと青葉を追い払うようにする。二人になる。
「ねぇ提督、鈴谷はそんな事しないからね?」
「そんな事分かってるよ」
手をモジモジと動かす鈴谷に提督は苦笑して鈴谷の頭をクシャクシャと撫でる。
「わ、もう止めてよ提督」
「司令官、青葉見ちゃいました!!」
「出ていけ青葉!!」
言葉は嫌がるが表情は嬉しそうにする鈴谷に青葉が扉を開いてカシャカシャと写真を撮る。そんな青葉に鈴谷が二十.三サンチ砲をぶつけて大破した青葉が入渠入りするのは些細な事である。
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