ダンゲロス/IF 作:餅男
番長小屋の壁時計の19時を告げる音が鳴り終える。
「“転校生”対策……ド正義、おどれの事じゃから既に考えはあるんじゃろう。どうするつもりじゃ?」
「まず最優先すべきは“報酬”の天音沙希、彼女を救出し保護することだ。人命救助の意味もあるが、そうする事で“転校生”の動きをある程度予測できるようになる」
「しかし、“転校生”にとっても天音は絶対に手放せん存在じゃ。そう簡単には奪えんぞ?」
「あー、それについてなんだが悪い知らせだ」
邪賢王がそう言った時、小屋の隅で新しい絵を描いていたヴァーミリオン海我がカンバスを手に歩いてきた。皆の前でその絵を置く。
「まあ見てくれ……って、ド正義はまだ見えないんだったな。長谷部の絵を急ぎで描いてみたが、どうやら“転校生”は最低三人はいるらしい」
「何じゃと!?」
「……三人か」
その絵には怒る長谷部と三人の男女が描かれていた。内二人は沙希の絵にも描かれていたブレザーの男と奇妙な制服の少女。残り一人は大正の書生風の古めかしい服装の男である。
「むうぅ……これは相当に厄介じゃのう。正面からの勝負では勝ち目は薄いか……」
「ならば正面からではなく裏から攻めるまで。危険性は高いが、生徒会と番長グループのメンバーの能力を合わせれば勝機はある」
内心がどうかは不明だが、ド正義はあくまで落ち着いた口調で言った。
「ワシらとお前ら生徒会とで力を合わせる……全く、ハルマゲドンまでは想像もせんかった言葉じゃのう。それで、誰が必要なんじゃ?」
「6人、6人で“転校生”を攻略し、天音沙希を救出する」
そう言うとド正義はその6人の名を挙げた。
ダンゲロス/IF 第十二話 “相互理解”
旧校舎正面の少し開けた場所。
腰かけるに丁度良い岩に鵺野は姿勢よく座り、透き通る声で周囲に言った。
「夜分に失礼申し上げる! 小生の名は鵺野蛾太郎、こちらの我が友の名は『キヨ』『ハナ』『チヨ』『フミ』。諸般あり今宵よりこちらの森を大いに騒がせる事になる故、ご挨拶させて頂きたい。この森の『長』はおられるか!」
「ねえユキミ、アレって、ヌガー先輩は何をやってるの?」
教室の窓から声をあげる鵺野の姿を眺めつつ、黒鈴はユキミに尋ねた。
契約書を書いた鵺野は挨拶もそこそこに、
「ここの森は広い。ひと言『ご挨拶』をしてくる」
とだけ言って教室を出て行き──ああして森に向かって何かを言っている。
「ヌガーさんのクワガタは森のクワガタからすれば異分子だからな。都市部の学校とかならともかく、ここみたいに森の多い場所だとあらかじめ挨拶しておかないと元のクワガタ達を警戒させてしまうんだそうだ」
「え? ヌガー先輩の能力って殺人クワガタを操る能力だったんじゃないの?」
眠そうな眼を少し開いて意外そうに聞く黒鈴に、ユキミは口元に人差し指を立てつつ言った。
「それ、間違ってもヌガーさんの前で言うなよ? 温厚な人だがクワガタの事だけは別だ。あの人の能力はあくまで『クワガタとのコミュニケーションを可能にする』能力。それで仲良くなったクワガタと共に鍛錬を重ねていっているだけだそうだ」
「そうなん……!?」
「だ」まで言う前に黒鈴の言葉が途切れた。
見れば、鵺野の周囲に黒い小さな影が集まってきている。おそらくは森のクワガタ達だ。
「……小生の声に応えていただき、感謝する」
鵺野の眼前にひときわ大きなクワガタが進み出た。それに対し鵺野は一礼すると、懐から樹脂製のシャーレを取り出し地面に置いた。次いで小瓶を取り出し、シャーレに中の液体を注ぐ。
「まずは一献。富士樹海の樹齢千年の霊木より集めた熟成樹液は如何か?」
「………」
「ははは、舌が肥えていらっしゃる」
クワガタがカチカチと顎を鳴らすと、鵺野は破願して笑った。どうやら森のクワガタの長老(?)が面白い事を言ったらしい。
そろそろと大きなクワガタは従者めいた数匹のクワガタと共にシャーレに近づき、その中の樹液を舐め始めた。
「………」
「それは何より。さて、では我が友もご紹介させて頂こう」
そう言うと鵺野は腰に吊るした四つの小箱の蓋を開けた。中からもぞもぞとクワガタが這い出てくる。森のクワガタもなかなかの大きさだったが鵺野のクワガタはいずれもそれより一回り大きく、見事なアゴを備えている。
「まずこちらが『キヨ』、ややお転婆な所があるが愛嬌のある子だ。次いで『ハナ』、大人しく可憐。この最も大きいのが『チヨ』、皆のまとめ役を務めている。そしてトリに控えるのが『フミ』、最も年若いが元気さに満ちている」
「………」
「っ!? いやいや……そう言われるとお恥ずかしい限り」
鵺野は本当に恥ずかしそうに学帽を押さえて照れる顔を隠した。傍から見る限りには狂人にしか見えないが、本当に通じている点が一線を画す。
「おっと、相撲ですかな? わが友は強いですぞ?」
「………」
「良いでしょう、ならば……」
「……先輩、アレを何時まで続けるつもりなのかしら?」
「ま、まあ、必要な行為だからな」
森のクワガタと戯れる鵺野は、まるで子供のような無邪気な笑顔を浮かべてクワガタ相撲を眺めている。そのシュールな光景に黒鈴が呟くと、ユキミが曖昧なフォローを入れる。
やがて、話が終わったのか鵺野のクワガタは家である小箱に戻り、森のクワガタも散り散りに飛び去って行った。
鵺野はそれを満足そうに見送ると、肩を回しつつ旧校舎に戻ってきた。ひょいと地面を蹴り、二階のユキミ達が拠点としている教室の窓から帰還する。
「お疲れ様でした、ヌガーさん」
ユキミが労いの言葉をかけると、鵺野は楽しそうに言った。
「いやはや、ここのクワガタの方々は随分と義理堅いようだ」
「え?」
「いや、先ほどの相撲なのだが彼らはこう言ったのだよ。『こちらの相撲自慢が負けたら、貴方の仕事を手伝おう。逆にこちらが勝ったら我々の暮らしの手助けをしてくれ』とね」
「そんな複雑な内容のやり取りをしていたんですか?」
思わず問うユキミに、鵺野は当たり前のように言った。
「生き物である以上、暮らしの悩みや恋の悩みの一つや二つは有るものだよ。そして、小生のクワガタは見事勝利を収めた」
「しかし、只のク……いえ、彼らはどんな『手伝い』をすると?」
危うく「只のクワガタが」と言いそうになり、ユキミは言い方を変えて尋ねた。
「彼らは『眼』になってくれるそうだ」
「『眼』?」
「この森の全てのクワガタが、我々以外の人間が森に入れば連携を取り即座に小生に教えてくれる事になった。これで多少は楽になるだろう」
「……!」
事もなげに言う鵺野に、ユキミは息を呑んだ。
この希望崎学園は敷地の結構な割合が森で出来ている。練馬区並みの広大な土地を管理するにも手が足りず、元は建物があったであろう場所にも木が生い茂っているような有様だ。現在ユキミ達が拠点としている旧校舎周辺にしても深い森に包まれている。その敷地に棲息する全てのクワガタが監視カメラとなり、伝令役になると言うのだ。鵺野は「多少」と言ったが、これで自分たちは広大なレーダー網を得た事になる。
“転校生”の任務において最も重要になってくるのは、実のところ情報戦である。相手より先んじ、能力を発動させる前に無限の攻撃力で一撃で殺す。それが“転校生”が未知の魔人を相手取る時の基本戦術。
魔人を超越した存在である“転校生”は時間の概念を超えた不老の肉体と無限の攻撃力、そして無限の防御力を全員が持っている。しかし、「不老」ではあるが「不死」ではない。絶大な攻撃力・防御力を持っていると言うだけで肉体機能や構造自体は通常の魔人と変わらない。故に息が出来なければ死ぬ、腹が減れば餓死する。相手が即死能力を持っていれば普通に死ぬし、慌てて熱い汁ものを飲めば舌を火傷する。
それらのリスクを大幅に抑えるために必要なのが情報収集能力なのだ。
「……流石ですね、ヌガーさん」
「褒めるなら小生の『友』を褒めてくれ給え。とりあえずは、話に聞く二つの勢力が激突するのを待とうではないか」
ユキミの感嘆をゆったりと返し、鵺野は教室の椅子に腰かけた。
その鵺野が言う「対立する二つの勢力」の片側の拠点である筈の番長小屋。
「つ……連れて、きました……」
往復約10㎞の徒歩による大移動を終えた駒沢がフラフラになりつつ言った。
「すまんのう、駒沢」
「い、いえ、大丈夫です。邪賢王さん……それに、これからもう『ひと頑張り』しないといけませんから」
邪賢王の気遣いに、駒沢は首を振りつつ答えた。木箱に座っているあげはの心配そうな視線に気づき、そちらにも大丈夫そうに手を振る。
彼が連れてきた生徒会メンバーを声で確認し、ド正義は頷いた。
「……皆、よく来てくれた。事情は既に聴いていると思うが、現在の我々は非常に危険なライン上に居る。既に“敵”の暗躍が予測される状況で“転校生”が三人学園内におり、わが校の一般生徒である天音沙希が彼らと長谷部によって捕らえられている。これを何としても救出しなければならない」
包帯で顔が隠れた状態ながらも、日頃と変わらない凛とした声が番長小屋に響く。
ド正義は杖で床を突き、眼前に居るであろう『7人』に言った。
「隠し立てせずに言う。本作戦は死傷者の出る可能性が極めて高い。去年の学園祭では一人の“転校生”に対して5人の魔人が死亡、2人の魔人が重傷を負い、かく言う僕自身も戦闘不能に追い込まれた。今回はその時の反省を踏まえ、相手が“転校生”だろうと通用する能力者を揃えたつもりだが……三人の“転校生”の能力が全く不明な以上、それでも確実とは言えない」
見渡すように首を回し、全員に声が、思いが行きわたるようにド正義は言葉を続ける。
「危険を理解した上で退がるのは、臆病ではなく冷静な判断だと僕は思う。それでも本作戦に参加してくれると言うのであれば……一言でいい、僕に聞こえるよう答えてくれ。そうでない者は、無言で一歩下がって……」
「ド正義会長……そうは言っても、私が居なかったらこの作戦って成立しないわよね?」
「む……」
「フフッ、いいわ。やってみましょう?」
──番長グループ・鏡子。
「拙者の命は所詮、もともとド正義殿に拾われた命……捨てる覚悟は常に出来ておりますぞ」
──生徒会・赤蝮伝斎。
「確かにこの作戦であれば、俺と一刀両が適任だろう。いけるか、一刀両?」
「はい、先輩! あの、これが『初めての共同作業』というものでしょうか!?」
「………」
──番長グループ・白金翔一郎。
──生徒会・一刀両断。
「ぼ……僕にしか出来ない事です。やらせてください」
──番長グループ・“静かなる駒沢”。
「フゥ……正直言えば気は進まないのですが、ここで当座のリスクを回避した場合、最終的な私の死亡リスクがより高まるという計算にしかなりませんから」
──生徒会・ファーティマ=アズライール。
「……退がるつもりはありません」
──無所属・両性院男女。
「両性院君、気持ちは分かるが……」
「お願いします、会長」
珍しく言い淀むド正義に、両性院は真っ直ぐに言った。
実際、ド正義の作戦に彼は含まれていない。自分から死地に飛び込もうとする両性院を止めたいとド正義は思っていたが、仮にここで断れば彼は独自で行ってしまいそうであった。
「……分かった。ならば君は赤蝮君のチームに加わってくれ給え」
「ありがとうございます、会長!」
見えないと分かりつつも、両性院は深く頭を下げた。
「とりあえず全員参加なのは良いけれど……随分と消極的ね、ファーティマちゃん?」
「精液臭い顔を近づけるな、変態」
優しく声をかけてくる鏡子に、アズライールは露骨に嫌な顔をしつつ言った。
細目のスラックスに白シャツに黒チョッキというアズライールの洒落た格好と、洒落気の無いフチ無し眼鏡に三つ編みにセーラー服という素朴な格好の鏡子が並び立つのは何とも対照的な様子だ。
「あらあら」
「勘違いされては困る。協力する必要性は認めるが……私個人がお前と仲良くする道理は無い。被害届こそ出ていないが、お前が昼休みに中央広場で食事中の男子生徒に声をかけ、搾り取った『モノ』をご飯にかけて食べている様子が複数の生徒から通報されている。『白い米が食えなくなった』という苦情と一緒にな」
困ったように笑う鏡子に、アズライールは冷たく言う。
「そうは言っても私、アレがかかってないとご飯を食べた気にならないのよね……」
「一般的にはそれは『変態』もしくは『狂人』の行動だと言う事を知らないようだな?」
涼しい顔で鏡子が言葉を返すと、更に鋭い言葉でアズライールは言った。
「(……そう簡単にはいかないものか)」
内心でド正義はため息をついた。範馬ほど露骨な態度を示してはいなかったが、アズライールにもやはり思うところはあったようだ。中東の女性は貞淑さを求められると言うが、その辺りも“あの”鏡子を毛嫌いする理由なのだろう。
「……ふうん」
「な、何だ?」
ふと、鏡子の声のトーンが僅かに下がった。
流れるようなしなやかさでアズライールの褐色の手を取ると、鏡子はド正義に声をかけた。
「ド正義会長、作戦前にちょっとこの子と『レクリエーション』をさせて貰っていいかしら?」
「お、おい、離せ! 何を……!?」
「……作戦開始は翌朝の未明だ。眠る時間は与えてやってくれ」
「会長!?」
歯切れ悪くド正義は言った。男というのは筆おろしの相手には、なかなか強気には出られないものである。
「大丈夫、そんなに時間はかけないわ。ちょっと『相互理解』を深めるだけだから」
「だからそんなのは私は要らないと……!」
「ダメよ、ファーティマちゃん? 貴女、折角これだけ色々と『属性』を兼ね備えてるんだからそれを活かさないと」
「い、いやっ、おい、待て……!」
アズライールは何とか鏡子から逃れようとするが、彼女に握られている手をどうにも離せないままズルズルと小屋の隅の物陰に連れて行かれ、そのまま二人の姿は木箱の陰に消えた。
「いい加減にしろ! 私は……ひゃあっ!?」
「ほーら、脱ぎ脱ぎしましょうね~」
「ちょ、お前、どうやって!? きゃ……!」
ぽいぽいとアズライールのチョッキとシャツが外側に放り出される。
「あら、可愛いブラ」
「~~っ!」
「さて、それじゃ……『相互理解』とイきましょう?」
「え? あ、あっ!? ふぁあっ!? ど、何処、舐めてっ、ンンッ!」
「綺麗な肌……丁寧に手入れしてるのね」
「だ、だからちょっと待って! 私は女で……!」
「……? 何か問題があるの?」
「問題も何も……ふぁ、ンッ、アアッ! み、耳はぁっ!」
陰を作る木箱がカタカタと揺れる。今度は中からパステルカラーのブラが放り出され、赤蝮の男根めいた髷に引っかかった。それを手に取り、赤蝮は淡々と言った。
「……Aでござるな」
その間にも、物陰での『相互理解』は早くも次の段階に進んだようだった。
「先っぽが固くなってる……可愛いわ、ファーティマちゃん。あむっ……」
「あぁ、だ、駄目、そこっ、咥えちゃ……ああんっ!」
「敏感なのね……じゃあ、こういうのは、どう?」
「ふぁあっ! それっ、それ、もっとダメ……っ!」
「ダメ?」
「だ、ダメぇっ!」
「そうなの? でも、ここは『もっと欲しい』って言ってるわよ?」
「んひぃっ!」
当初の強気な態度はどこへ行ったのか、木箱の向こうから聞こえるアズライールの声は既に涙声である。
衣擦れの音が少ししたかと思うと、その声は一際高くなった。
「あっ、ああっ! やっ、そこっ、そこはぁっ!」
「あらあら、凄いお漏らし……指がふやけちゃいそう」
「ひあぁっ! や、やめっ! 本当に……ンンッ!」
「上から撫でているだけでこれなら、指が
「んあぁぁっ!」
ぽいと何かが物陰から飛来し、両性院の顔に「べちゃり」と貼り付いた。
「え? あ? うわっ!?」
それが異様に水分を吸った状態の、ブラと同じ色のパステルカラーのアズライールのショーツである事に気付き、両性院は顔を赤らめた。
「ひっ、あ、あぁ……!」
「うーん、思ったより弱いわね……という事は……」
「っ!? やっ、そこ、違っ! くひぃぃっ!」
「『違う?』そんな事は無いわよね? ほら、すんなり二本も挿入っちゃうなんて普段から『使って』ないと無理だもの。ふふっ、いやらしい子ね」
「あ、あぁ……ご、ごめん、なさい……あ、謝りますから、許し、ンンッ! 許して、くださ……ひいっ!」
「許すも何も怒ってないわ。ファーティマちゃんに、私は私の事を知ってほしいだけだもの……それで、私もファーティマちゃんの可愛い所をもっと知りたいだけ……」
「ひあっ!? こっ、壊れっ! ぎひぃっ!」
蛇口がある訳でもないのだが、何だか水音が聞こえてきた。木箱が更にガタガタと揺れる。
「可愛いわ、ファーティマちゃん……いいわよ、もっと、もっとその顔を見せて。だらしなくて、いやらしくて、素敵……」
「ひあぁっ、み、見ない、で……ふぁぁっ! 見ないでぇ……!」
「それじゃ……そろそろラストスパートとイきましょうか」
「ひぎぃっ! あっああっ! やっ、やあぁっ!」
不安定だった上の方の木箱の一つが転がり落ちる。
日頃のクールな態度からは想像できない、顔を涙と涎で汚し、半ば白目を剥きながら恍惚の表情を浮かべるアズライールの顔が覗く。
「あら、ちょっと激しすぎたかな」
「あはぁ……み、見ちゃ、やぁ……!」
「ふふっ、丁度いいわ。ファーティマちゃん、皆に貴方の本当の姿を見て貰いましょう。これから一緒に命懸けの作戦に加わる“仲間”なんだから」
「あっ! ンッ! んくぅっ! こ、怖いっ、怖いぃっ!」
「怖がる事は無いわ。ほら、怖かったら『お姉さん』とキスしましょ。んっ……」
「んっ、んんっ、ぷぁ……はっ、あっ! あぁぁぁっ!」
ビクビクと震えながら、アズライールの顔が見えなくなる。腰が抜けたようだ。
やがて、物陰から鏡子が彼女を連れて物陰から出てきた。『何故か』アズライールは全裸で、全身が汗や唾液や更に良く分からない液体に塗れている。
「……終わったのか?」
声と音で彼女の「相互理解」が終わったのを理解したド正義が尋ねる。
鏡子はまだ一人で立てない状態のアズライールを抱き寄せると、やはり液体塗れの眼鏡越しに言った。
「ええ……やっぱり、じっくりと互いを理解するのって大切ね。彼女も素直になってくれたわ。ね、ファーティマちゃん?」
そう鏡子が言うと、アズライールは潤んだ瞳で答えた。
「は、はい……
「んっ……もう、甘えん坊なんだから。ンンッ……」
そのままキスをせがむアズライールに、鏡子は人前にも関わらず舌を絡めた激しいキスで返した。
ここで彼女の誇りと名誉のために補足しておくと──アズライールを篭絡させた彼女の性技、これは魔人能力ではない。
“鏡子”、彼女は幼少期、実に小学校低学年の頃に性に目覚め担任教師を獣に変えて以降、一年365日常に性の高みを目指し、自身の技を磨いてきた希望崎最強の、否、世界一のビッチである。
彼女の魔人としての能力は別に存在するが、セックスについての全ては魔人として覚醒する遥か前から彼女と共にあり、そしてこれからも存在するであろう彼女のアイデンティティーなのだ。
故に鏡子はこう呼ばれる。“宇宙一セックスの上手い女”と。