ダンゲロス/IF   作:餅男

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第十五話 職員棟の上と下で

 職員棟・地下シェルター。

 1992年に希望崎学園で勃発した魔人による番長グループと一般人による生徒会との、180人もの死者を出した壮絶な戦争により学内の施設のほぼ全てが破壊された際、教職員の安全を確保するために新校舎建築に合わせて建造された大型シェルターである。核戦争にも耐えうる堅牢な構造と十二分に用意された糧食により、外部から遮断された状態で最長一年の生活が可能となっている。

 その居住区にしても避難所めいた大部屋ではない。女性教員のプライバシーへの配慮やVIPの避難も想定された内部は個室化されており、共有のラウンジもあるが食料の補給などの場合を除いて部屋から出る必要は無いように設計されている。

 

「……ふぅ」

 

 その無人の廊下を歩く、小柄な女性がひとり。

 月読零華は腕時計に眼をやりつつ、早足でシェルターの出口に立った。IDカードを通すと厚い鉄扉が重々しく動く。

 

「遅い、予定時間を二分過ぎているぞ」

「す、すみません隊長! その、神輿のかけ声が、いえ! 申し訳ありませんでした!」

 

 シェルターを開けた先で直立不動の姿勢で並ぶ魔人小隊の隊員たち。彼女らより一歩前に立っていた出鯉に零華は静かに言った。緊張しつつ出鯉が何か言おうとしたが、それを引っ込めて敬礼で返す。

 出鯉も女性としては決して大柄な方ではないが、それでも零華に比べると頭一つ大きい。しかし、魔人小隊で積み重ねてきた経験と実戦による重みだろうか、零華から感じる威圧感を出鯉は確かに感じていた。

 

「まあいい。まだ上ではドンパチも始まっていない。ここに来るまでで、何か報告事項は?」

 

 そこまで遅刻について引っ張るつもりもなかったのだろう。零華は早々に話を切り替え出鯉に尋ねた。

 

「は、それなのですが……イズミノ?」

「はい」

 

 聞かれた出鯉は首をひねりつつ後方に並ぶ中のイズミノを呼んだ。魔法瓶を片手にイズミノが進み出る。

 彼女の能力「リクィド・スフィア」については当然ながら零華も把握している。零華はイズミノに言った。

 

「何か『リクィド・スフィア』に反応があったのか?」

「はい隊長、これを見て頂いて良いでしょうか」

 

 そう言うとイズミノは魔法瓶の蓋を外し、そこに水を注すと唾液を垂らした。

 唾液による波紋がレーダーのように波打つと、そこに幾つかの不自然な水の跳ねが起きる。彼女の能力で感知された「能力発動中の魔人」の反応だ。中央部に幾つかと、遠く離れた位置に数か所の反応。

 

「中央の反応はおそらくこの上……生徒会の誰かが能力を使っているものと思われます」

 

 現在の彼女らが居る位置は職員棟の地下、生徒会が会長室を中心に陣を張る教員棟三階の真下である。怨み崎Death子のような自動発動の能力者もいるため、それが反応に引っかかっている格好だ。

 ハルマゲドンが既に始まり学内が閉鎖状況にある今、この敷地内に居るのは彼女ら以外では生徒会と番長グループだけの筈である。しかし──

 

「……番長小屋とは位置が違うな」

「はい。番長側の別の作戦行動かとも思ったのですが、それにしては職員棟から距離が離れすぎています」

 

 その波紋を見つつ零華が言った。番長グループの拠点である番長小屋は職員棟から真東に数kmのところに位置する。確かにそこにも反応があるが、それとは別の位置、南に2㎞ほどずれた位置にひとつ別の反応が出ている。

 

「この位置は……『旧校舎』だな」

「旧校舎?」

「かつての学内抗争で破壊され、放棄された建物だ。特に秘匿された物資などもなく、戦略的価値は低い」

 

 確かに番長グループが動いているにしては妙な位置である。零華はイズミノに尋ねた。

 

「この反応に動きは?」

「ありません。特に動きは見せず、能力についても常時発動させている訳ではないようで、時々反応が出るような状態です」

「そうか。だとすると……」

 

 零華は幾つかの可能性を考える。

 番長側、もしくは生徒会側の伏兵? 否、守りに適した状況を捨てて生徒会側から攻める可能性は低い。かといって番長側が兵を潜めるには不可解な場所だ。

 何らかの第三勢力の介入? 否、学園自治法で定められている学内抗争の上に「単なる学生同士の喧嘩」に他組織がわざわざ介入するメリットがあるとは思えない。

 ならば──

 

「『ハルマゲドン開始前に学外に出損ねた魔人生徒が、能力を使いつつ終了まで隠れようとしている』……といったところか」

 

 よくよく不運な生徒だ。零華はそう思いつつ言った。

 

「es」

「はい!」

「適当なのを二名連れて旧校舎へ向かえ。そこに隠れている生徒が一名、あるいは数名居るはずだ」

「了解しました。発見時の対応は?」

「殺せ。このハルマゲドンに参加をしている“当事者の魔人”たちは本意、不本意関係なく全員死んで貰わねばならん」

 

 眉ひとつ動かさず零華は言った。自分たちが介入している事自体が「学園自治法」に対しての重大な違反である。それを知る外部の者が居てはならない。

 

「はい、では行って参ります!」

 

 esはやけにテンション高く答えた。零華は与り知らぬ所であったが、先ほどの大きなクワガタがまた森に居るかもという気持ちもあったのだろう。

 

 

 ──魔人小隊。彼女らが“転校生”の存在と介入を知るのは、このesがクワガタに喰われて死ぬ数分前からである。

 

 

 

 ダンゲロス/IF  第十五話 職員棟の上と下で

 

 

 

「会長、今晩は“番長小屋”に残るって。赤蝮先輩や一刀両ちゃんも」

「そう……だ、大丈夫かしら……?」

 

 職員棟三階、第二保健室。室内の整理を行いつつ言う絶子の言葉に、Death子は寝たままのxxの布団を直しつつ言った。

 敷地の広さに加えて魔人による被害が絶えない希望崎学園には幾つかの保健室が用意されている。とはいえハルマゲドン中は養護教員も避難しているため、現在は生徒会が貸し切りの救護室として使っている状態だ。

 

「……まだ、起きないわね」

 

 Death子はそう言いつつxxの寝顔を見た。元々骨と皮ばかりの即身仏めいた容貌のxxだが、それが土気色で眼を閉じていると本当に死んでいるようにも見える。時折胸が上下する事で、ようやく呼吸していると分かる程だ。

 既に出血が止まってから数日が過ぎている。一応は魔人という事もあり肉体的には回復しており、あとは精神的な覚醒を待つだけらしい。しかし──それが何時になるかは、本人次第だという。

 今まで生徒会の防犯カメラを含む電脳系のセキュリティはxxが独りで全て賄っていた。彼がこのような状態である現在、生徒会の有志が監視役を務めているが──

 

「やっぱり、不安だよね」

 

 絶子も素直にそう感じていた。

 一日の大半を電算室で籠りきりで過ごし、掃除の時くらいしか顔を合わせない先輩ではある。しかしながらこういう時になって改めてxxが生徒会の屋台骨を裏から支えていた事が絶子にも理解できた。

 

「少しは起きたりしないのかしら……?」

「そんな、寝ているだけって訳じゃないんだから」

 

 Death子の言葉に絶子がツッコミを入れた瞬間、

 

「!?」

「ひゃっ!?」

「きゃあっ!」

 

 ベッド上のxxが突然に目を見開いた。そのままバネ仕掛けのように体を起こす。

 

「……! ……!?」

 

 xxはぎょろぎょろと眼を動かし、そこで初めて自分を見ている絶子とDeath子に気付いたようだった。何かを言おうとしているのか、ぱくぱくと口を開閉させる。

 

「オ……! ア……!」

 

 意識に肉体がついていけてないのだろう。声にもならない音を発しつつ、xxは緩慢な動作で自身の首筋を指した。

 

「な、何を言ってるの、xx先輩……?」

「……そうか!」

 

 オロオロとするばかりのDeath子に対し、こういう状況で空気を読む事に長けている絶子がxxの動作の意味を察した。自身のポケットを探り、携帯を取り出す。

 

「あとは、ええっと……あー、これ充電専用のやつ! Death子、携帯の通信ケーブル持ってる!?」

「え!? あ、あるわ。ちょっと待って」

 

 保健室の隅に置いていた鞄を慌てつつもDeath子は探り、そこから携帯用のケーブルを見つけると絶子に渡した。

 

「………!」

 

 xxの瞳が一層大きく開かれ、指で首筋に埋め込まれている端子を指す。絶子はxxの背後に回り込み、対応している端子にケーブルを差し込み、反対側を自身の携帯に差し込んだ。

 

【オイ! 歪み崎、俺は何日寝てた!? 今の状況はどうなってる!?】

 

 途端に、絶子の携帯から合成音声によるxxの声が飛び出してきた。機械的な音声だが、そこからでもxxの緊張が伝わってくる。絶子は何とか落ち着かせようとゆっくりと答えた。

 

「落ち着いてください先輩。ええっと、今日は9月10日で、ハルマゲドンの初日です」

【……!? 畜生、出遅れた! 歪み崎、怨み崎! 俺の身体を電算室に運んでくれ!】

「む、無茶です先輩……ま、まだ、起きたばかりなのに……」

【ンな事言ってる場合か! ド正義はどうした!?】

「ド、ド正義会長は“転校生”対策で番長小屋に……」

【“転校生”だァ!? お、うわっ!?】

 

 Death子の言葉に合成音声が裏返る。緩慢な動作でxxは自分で身体を起こし立ち上がろうとしているようだが、元々の貧弱な身体に加えて一週間ほど寝たきりだった故にその肉体は弱り切っている。体を支えようとしていた腕がつるんと滑り、そのままxxの身体はベッドから転がり落ちた。強く引っ張られたケーブルから携帯が外れないように身を近づけ、彼の身体を起こそうとしつつ絶子が言った。

 

「だから無茶ですって、先輩! 今は生徒会の他のメンバーが先輩の代わりに頑張ってますから、まだ寝ていてください」

【痛たたた……あのなぁ、俺の代わりが完全に出来る奴がいる訳ねえだろうが! 俺の勘じゃ、“敵”はとっくに入ってきてる。時間がねえ!】

「……!?」

 

 当然ながら監視役メンバーには不審なものを発見した場合、即座に報告と共有を行うように指示がされている。しかし、現時点でそういった報告はない。

 未だに反応を決めかねている絶子に、xxは再度言った。

 

【頼む、歪み崎! “転校生”まで現れたってのに、このまま寝ている訳にはいかねえ……!】

「……まずいと思ったら、すぐに救護室(ここ)に連れ戻しますからね? Death子、担架を用意して」

「わ、分かったわ」

 

 折り畳み式の担架を二人は組み立てると、xxの骨と皮ばかりの軽い身体をそれに乗せ、前後を持ち上げた。

 

【すまねえ……運びながらでいい、ここまでの状況を教えてくれ。とりあえずは“転校生”について頼む】

「分かりました。その、ハルマゲドン開始前の会議中に番長グループから電話があって……」

【番長グループ?】

「ああ、そういえば先輩が運ばれたのはそれ以前でしたよね。ド正義会長が番長小屋に行ってですね……」

 

 扉を開けるのに少し苦労しつつ、絶子達はxxを運び始めた。電算室は同じ三階にあるが、いかんせん希望崎学園は教室間だけでも不必要なレベルで距離を備えて設計されており、彼を運びながらでは時間がかかりそうであった。

 その時間を埋めるように絶子は歩きつつxxにここまでの経緯を説明した。ド正義が自身の目を犠牲にして番長グループとの協力関係を取り付けたこと、ハルマゲドン直前になって去年のミス・ダンゲロスである天音沙希が長谷部と謎の協力者たちによって誘拐されたこと、そしてその協力者は“転校生”である可能性が極めて高く、その対策のためにド正義や赤蝮、一刀両、アズライールらが職員棟を密かに離れていること等を。

 

【“転校生”三人か……随分と面倒なことになってきやがったな】

「対“転校生”作戦は明日の早朝に実行するそうです。それまでは私たちは守りを固めて、会長たちが帰ってくるのを待っているようにと」

【分かった、それだけ聞けたら……痛たたたた!】

 

 担架上のxxが呻いた。思わず足を止め、絶子が尋ねた。

 

「だ、大丈夫ですか、先輩!?」

【ああ畜生、頭の中でインド象が踊ってやがる! ま、まあ……大丈夫だ】

 

 それは全然大丈夫ではないのではないか、絶子はそう思ったが言えなかった。既に電算室は近い。ここで救護室に戻そうとしても、彼は這ってでも行こうとするだろう。

 一旦担架をゆっくりと置き、電算室の扉を開く。残暑の気配の残る廊下に冷たい空気が流れ込んでくる。

 中では数名の生徒会メンバーがPCを前に監視を行っていた。絶子は彼らに状況を説明すると、xxを室内に運び込んだ。

 

「着きましたよ、先輩」

【あーあー、勝手に位置を変えやがって。おーい、キーボード外して、机どけてくれ!】

 

 言われるがままにキーボードをPCから外し、机を動かして部屋の中央に大きなスペースを作る。担架から降ろされたxxはDeath子たちの手を借りつつ、そのスペースで胡坐をかいた。

 

【よし、回線を全部俺の首に差し込んでくれ】

 

 ぷすぷすとxxの首筋に埋め込まれた端子にケーブルを差してゆく。最後にDeath子の携帯ケーブルを抜き、そこにも差し込む。

 

【歪み崎、怨み崎、ありがとよ。もういいぜ】

「そうはいきません。先輩の調子が悪くなったら、すぐ運ばないといけませんから」

【……真面目だねェ】

 

 モニターに表示されるxxの言葉に絶子が首を横に振る。

 

【さて……と】

 

 xxは一息つくと、一週間ぶりの電脳世界へのダイブを試みた。

 

【ぐっ……!?】

 

 頭の中に幾つもの視界が展開してゆく。同時にxxは後頭部に強い痛みを感じた。分かってはいたがやはり本調子には程遠い。見るだけならば何とかいけるが、積極的なハッキングや攻撃能力「インターネット殺人事件」を使うのは危険か。

 痛みを堪えつつ、xxはハルマゲドン開始前からの防犯カメラの映像を走査してゆく。絶子の話では“転校生”は旧校舎を拠点にしているようだが、十数年前に破棄された場所だけにあの周辺には防犯カメラは無い。彼が探しているのは、このハルマゲドン開始のタイミングに合わせて侵入してきている筈の政府の部隊である。

 

【大橋からの侵入者……なし。周辺の海からの上陸……なし】

 

 学園側からのカメラでは、本土側の状況は僅かにしか確認できない。周辺警戒のための魔人警察が展開しているようだが、その中から橋を渡ろうとしている警官もいないようだ。

 

【いや……いる筈だ】

 

 xxもかつては電脳犯罪者として暴れまわったサイバーテロリストである。その経験則が彼に警戒を促していた。間違いなく、“敵”は何らかの方法で潜入してきている。

 走査を行いつつ、今度はxxはド正義の携帯に発信を送った。自身の回復を伝えるためである。

 数度のコールの後、電脳世界のxxにド正義の声が聞こえてきた。

 

「xx君、大丈夫なのか!?」

【完全復活……とはいかねえが、まあ、調べものくらいは出来るって感じだな。今、校長の手勢が侵入(はい)って来てねえか確認しているところだ。まだ見つからねえが、おそらくは……】

「そうか、それなら……ん? xx君、ちょっと待ってくれ。替わってほしいそうだ」

 

 どうやら、ド正義は誰かに電話を替わるよう言われたようだ。数秒の間の後、聞き慣れない声が飛んできた。

 

「あー、聞こえるか? こちら、番長グループのヴァーミリオン海我だ」

【ヴァーミリオン? 美術部の部長が何でそんなトコに居るんだ? って言うかお前、魔人だったのかよ?】

「まあ、その話は後だ。xx、あんたの手を借りたい」

 

 意外に思う間もなく、xxの前に画像が送られてきた。海我が描いた絵のようだ。そこには、何かの建物内で話をする校長と、その部下と思われる軍装の女性が描かれていた。

 

【おいヴァーミリオン、こりゃ何だ?】

「俺の能力は『ファンクション・ファイブ』。絵に描いた人物の行動をトレースして、リアルタイムで絵を変化させる能力だ」

【……! って事は】

「ああ、多少のタイムラグはあるが、少なくともここ数分前の校長の姿だ」

 

 海我の説明に、xxは改めて画像を確認した。

 

「だが、俺の能力はあくまで『個人』をトレースする能力で、周辺の背景までは詳細に捉えられない。xx、あんたなら学内の構造は把握してるよな? 断片的だが、そこから校長の位置を割り出せないか?」

 

 そう言われ、xxは更に画像を拡大する。少なくとも教室が並ぶ一般的な場所ではない。ならば──

 

【いけるぜ。時間はかけねえ。絵に変化があったらすぐに送ってくれ】

 

 どうやって侵入したのかは分からないが、やはり彼女らは入り込んでいる。学園内にはプライバシーを理由にカメラが設置されていない場所もあるが、それでも──

 

「……何だこりゃあ!?」

 

 その時、電話の向こうから海我の驚愕の声が聞こえた。

 

【おい、どうした!?】

「い、いや、それが……絵が、消えた!」

 

 

 

 同時刻、番長小屋。

 

「そんな、絵が!?」

 

 通話する海我の様子を伺っていた両性院は驚きの声をあげた。今の今までカンバスに描かれていた校長の絵が突然消え、真っ白に戻ったのだ。

 

「ヴァーミリオン、こりゃどういう事じゃ!?」

「わ、分からねえ! 俺もこんな事は初めてで……!」

 

 思わず尋ねてくる邪賢王に、海我は戸惑いつつ答えた。混乱しつつも、この原因を考える。

 彼の「ファンクション・ファイブ」のトレースは、更新時間が絵のクオリティに左右されるという面はあるが追尾性においては相当なものである。仮に対象が世界の裏側で死んだとしても、その死体はちゃんと描かれる。

 また、変装したとしても変装の様子が描かれ、隠す事はできない。

 残る可能性としては──馬鹿げた話ではあるが、魔人の能力と考えれば、あり得ない話ではない。

 

「……有り得るとしたら、対象が文字通り『この世からいなくなった』って事だ。死んだとかじゃなく、それこそ存在自体が消えでもしなければ、俺の能力が解除される事はねえ」

 

 そしてこれは同時に海我の能力が半分殺されたという事でもある。既に『ファンクション・ファイブ』は一度解除されている。再度彼女の絵を描けばトレースできるかもしれないが、いつ消えるか分からない以上、完全な追尾は不可能だ。

 

【……成程な。ってえ事は、少なくともあちらさんには存在消失能力者が居るって事か】

 

 

 

 再び電算室。

 ぴくりとも動かず胡坐をかいたままのxxの表情は見る限り全く変わっていない。しかし、その内面でxxは素早く思考を張り巡らせていた。

 

【畜生、となると……完全な迎撃も不可能って事か】

 

 そもそも存在に気付けないのだ。当然何らかの制約はあるだろうが、それでも何人かの彼女らがこちらの内部深くに入り込めるのは間違いないだろう。

 xxは部屋の隅でこちらの容体を見守る絶子たちに言った。

 

【おい、歪み崎。フジオカを呼んできてくれねえか?】

「フジオカ先輩……ですか?」

【ああ。危険だが、あいつの手が必要になる】

 

 そうメッセージを表示させ、電脳世界のxxは再び絵の解析に挑み始めた。

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