艦これ×ガンダム ガンダムビルド艦隊これくしょん 作:黒瀬夜明 リベイク
電を担いで階段を目指す時雨と夕立。その途中で吹雪が作動させた自爆装置のアナウンスを聞いた時雨と夕立は、更に足を速めた。
「自爆装置…この施設を隠蔽する措置までしっかりやるなんてね」
「時雨?」
「何でもないよ。電、出口の階段まであと少しだ。頑張って!」
「なの…です」
しかし電の表情はすぐれなかった。それもその筈だ。と時雨は心の中で呟いていた。
(今まで親しかった人が、隣から消えたんだ。僕も、その経験はしているからよくわかるよ)
先を急ぐ3人はやがて、分かれ道のところまで戻ってきた。そして、時雨と夕立は迷うことなく右の道を選択し、歩き出したその時だった。
「時雨!」
「え!深海提督!」
背後から深海が時雨を呼び止めた。深海は荒い息をしていたがやがてすぐに時雨に問いかけた。
「検体保管室は何処だ!」
「深海提督!あの吹雪はどうなったの?」
「あとで教える!とにかく検体保管室は何処か教えろ!」
「深海提督さん?」
「早くしろッ!!」
「「!?」」
深海はこの時、初めて焦った顔を他人に見せた。時雨は慌てて検体保管室の場所を教えると、深海はすぐにその方向へと消えていった。
「深海提督さん。あんなに慌ててどうしたんでしょう?」
「わからない。でも今は出口を目指そう。自爆に巻き込まれるなんて、ごめんだしね」
「あ!階段が見えたっぽい!」
3人は階段を上がり、やがて出口に辿り着いた。
出口の扉を開けた3人。するとそこは、よくわからない計器やメーター、配管が巡らされた部屋だった。
「え?扉を開けたら外じゃないっぽい?」
「きっとこの建物…たぶん上下水道の施設に擬装しているんだ…」
「あ!時雨さん、夕立さん。あそこから出れそうなのです!」
電が部屋の先、光がこぼれ出ている扉を見つけた。そして、その扉を目指し歩を進めた3人は、ようやく外へ出ることが出来た。外は草が生い茂る、まるで森林公園の広場のような場所だった。そしてその広場には、梅雨葉が立っていた。
「あ!時雨さん、夕立さん、電さん!」
「梅雨葉!急いでここから離れるんだ!さっきの施設の自爆装置が起動したんだ!」
「えっ!」
「だから早くここから離れるっぽい!」
梅雨葉は、はい!とハッキリ返事をして踵を返し、走っていった。時雨と夕立もまた、電を支えながら歩き出した。その時。
「あの、時雨さん、夕立さん。電、もう大丈夫なのです」
電が時雨と夕立に話しかけた。時雨は、本当に大丈夫かい?と尋ねると、電は大きく頷いてみせた。
「わかったよ。でも、無理はしたら駄目だからね」
「なのです!」
「電ちゃんの傍には夕立が付くっぽい!」
「夕立さん、お願いします…」
2人の肩から離れた電は、ゆっくりと地面に足を付けて立った。着実に1歩ずつ歩を進めていき、やがて電はしっかりと歩けるようになった。そして3人は先行する梅雨葉を追いかけて走っていった。
森林公園の広場から、近くの木々が立ち並ぶ森へと入った4人。幸い、近くに人工の道があり、4人は真っ直ぐその道を進んでいった。すると、4人はその道の先にあった駐車場の様な空間へと足を踏み入れた。
「ここは……駐車場?」
辿り着いてすぐにその場を見渡した時雨。すると、駐車場の隅に1台のワンボックスカーが停まっていることに気づいた。
「みんな!あそこに車が!」
「…本当なのです!」
「もしかしたら使えるかも。行ってみます?」
「迷ってる時間はない!急ごう!」
4人はワンボックスカーへ向かって行った。そして車に近づき、時雨が運転席を確認した。すると―――
「え、人?」
そこには薄いピンク色の髪をポニーテールにした襟と袖が青いセーラー服を着て、青いキュロットを履いた人物が顔に本を乗せて寝転がっていた。時雨はその人物の顔に乗っている本に目を向けた。そこには「ネタ帳」と書かれていた。
「青葉さんだ!」
「「「ええ!?」」」
時雨は慌てて車の窓ガラスを叩いた。ゴンゴン!と窓ガラスの音に反応した青葉が、ゆっくりと顔に乗せていたネタ帳を顔から外した。
「深海司令官もう帰ってきたんで―――って!し、時雨さんじゃないですか!」
と、仰天する青葉。青葉は慌てて窓を開けると、時雨が物凄い勢いで話しかけてきた。
「青葉さん!僕たちをこの車に乗せてもらえないかな!」
「ど、どうしたんですか時雨さん?そんなに慌てて」
「説明してる暇ないっぽい!青葉さん、夕立からもお願いするっぽい!」
「梅雨葉からも、お願いします。青葉さん」
「電からもお願いなのです!」
「って、深海司令官が言ってた4人が全員いるじゃないですか!わかりました、乗ってください!」
青葉はそう言って、車中央の自動ドアを開けた。慌てて乗り込む、電たち。そして、全員が乗り込んだ時、先程電たちが森から出て来た道から深海が飛び出してきた。そしてその肩には、背の高い白髪の女性が担がれていた。深海は走りながら荒げた声で青葉を呼んだ。
「青葉!」
「深海司令官!」
青葉が深海の声に応えて窓から顔を出す。
「急いでエンジンを掛けろ!」
「は、はい!」
青葉は急いでエンジンキーを回し、エンジンを掛けた。深海がその数秒後に車に乗り込み、それを確認した青葉は、ドアを閉めた。そして深海は叫んだ。
「めいいっぱい飛ばせぇッ!」
「了解ですッ!」
青葉はアクセルを一番奥まで踏み込み、車を発進させた。駐車場を抜け、道に出るとそこからは一気に下り坂となっていた。そして、その坂を青葉の車は一気に駆け下りていった。
「………」
その様子を、坂の更に上から見ていた吹雪は手に持っていたリモコンのボタンを押した。そのボタンには「自爆解除」と書かれていた。そして施設内で響いていたアナウンスとサイレンは一斉に終息した。
「騒ぎになると面倒だからね。さて……私も準備を急がないと!」
吹雪は森の中へと消えていった。
そしてその夜、車はガンプラバトル全国大会の会場へと戻ってきた。青葉は、電たちを選手村まで送ると、次に深海と梅雨葉を彼のキャンピングカーまで送った。
「深海司令官。大丈夫ですか?」
車を降りた深海を、青葉は少し心配そうな表情で見ていた。すると深海は青葉に振り返って言った。
「大丈夫だ。お前も、しばらくはゆっくり休んでおけ」
「はい…その、おやすみなさい」
「ああ。おやすみ」
そう言って青葉は車を発進させ、去っていった。深海と梅雨葉はゆっくりと歩いてキャンピングカーに戻った。そしてキャンピングカーの扉を開け、車内へと入った深海を時雨が迎えた。
「お帰り。梅雨葉、提督」
「ああ。ただいま」
「ただいま。お母さん」
「秋雨たちはもう寝たのか?」
「うん。ついさっき、寝たところだよ。3人とも、2人が帰ってくるまで起きてる!って言ってたけど、睡魔に負けちゃったみたいだ」
キャンピングカーの奥では秋雨と雨葉、白が揃って眠っていた。すると梅雨葉のお腹が、グ~と鳴った。
「お母さん。梅雨葉、お腹すいた」
「わかったよ梅雨葉。提督も何か食べる?」
「ああ。頼むよ」
時雨がキャンピングカーのキッチンへ向かったのを確認した深海は、担いでいた女性、空母水鬼をソファの上に寝かせた。しばらくすると、時雨がキッチンからカレーを作って持ってきた。深海と梅雨葉はそれをゆっくりと味わって食べ、完食した。すると梅雨葉はたちまち眠気に襲われ、おやすみぃ~。と眠気に満ちた声をあげながら奥の部屋へ歩いていった。そしてその場には、深海と時雨、眠ったままの空母水鬼だけとなった。すると時雨が深海に尋ねてきた。
「提督。その空母水鬼さんって…」
「ああ。前にお前にも話した、俺の……母さんだ」
「……提督」
「………ああ。死んだと思ってたけど、生きていたんだ」
「………」
「………」
そしてしばらくの間、車内は静寂に包まれた。すると、時雨が何かを察したのかゆっくりと立ち上がり。
「僕、もう寝るね」
「…ああ」
ゆっくりと奥の部屋へと入っていった。そして、ベットに入った時雨は心の中で呟いた。
(良かったね。提督……)
その目からは涙が零れていた。
それから数時間が過ぎた午前3時。深海はソファで眠る空母水鬼の元を離れることなくずっと傍にいた。深海は空母水鬼の両手をギュッと握っていた。空母水鬼の手は凍てつくように冷たかったが、深海はただ黙って手を握り続けていた。
「……母さん」
深海が小さく呟いた時だった。
ピクッ
「!?」
深海が握っていた空母水鬼の手が小さく動いたのだ。それに気づいた深海はハッと顔を上げた。自然と視線が、空母水鬼の顔へと向く。そして―――
「………ぁ?」
空母水鬼の赤い両目が、深海の顔を映し出した。そして、空母水鬼は掠れた声で途切れ途切れに言った。
…み……か、ぃ……
その言葉を聞いた深海の両眼から大粒の涙が零れた。何十年ぶりに聞いた母の声は、掠れていても、深海が子供の頃に聞いたその声そのものだった。
「……かあ……さんっ」
深海は、堪えられない涙を流しながら空母水鬼に抱き着き、泣いた。空母水鬼は、そんな深海を優しく抱き締め返した。
続く