ワンピースの世界をはったりで乗り切る 作:にーと
人攫いは違法なのだが、シャボンディ諸島では奴隷商人が職業紹介という扱いになっており、人攫いもその手助け的な職業という扱いになっている。よって人攫いを殺し回っている俺は罪のない一般人を殺している扱いになり、懸賞金1000万ベリーの賞金首にされてしまった。と言っても正体はバレていない。戦闘後の写真は撮られてしまったが、ゼリーちゃんの姿のみ。ゼリーちゃんはいくらでも顔や体格を変えることができ、写真に意味はない。
だが、賞金首になったことで海兵がゼリーちゃんを狙い始めた。人攫いが出そうな場所をパトロールとか罠を仕掛けたりとか。よってしばしゼリーちゃんの活動は停滞を余儀なくされた。真正面から海軍と戦うつもりはない。勝てたとしても戦闘でゼリーの破片が飛び散ったりしたら俺に行き着く可能性がある。もっとも、完全に活動を止めるわけではない。俺には捜査網の情報が届いてくる。夜中や休暇期間に海兵のいない場所でゼリーちゃんを出し、人攫いを狩っていく。この戦闘は俺の能力を高めることにも役立った。この島の人攫いはそこそこ強い。1000万超えの賞金首を倒したことのある賞金稼ぎも混じっている。油断している所を殺すとは言え、かわされて反撃されたら死ぬのは俺かもしれない。そういう緊張感があるから騙し討ちの攻撃が全力になるし闘志も出る。正義をやっているという感覚もある。だから強くなれる。
ある日、部下10人と共に森を巡回していた日のこと。
「ちっ。なんで俺達が人攫いを守るためのパトロールを」
「お、なんだお前。今更青臭い正義に目覚めたのか? やめとけって。他人のためになんて生き方はバカを見るぜ」
「じゃあてめえは何で海兵になったんだよ」
「そりゃ金さ。俺は頭がいい方じゃないが、腕っ節には自信があったんでね。と言っても化け物クラスの賞金首に勝てると思うほど自惚れちゃいねえ」
彼等は部下だが今生の俺より年上なので、こういう規律に反する話をあけっぴろげにやる。舐められているというやつか。もっとも、俺も規律に興味がないから咎める気はないのだが。
「例の女を見つけたらどうするんだ?」
「ま、1000万だからな。まずは様子を見て、強そうなら適当に足止めするフリするだけさ。戦闘は天才であられる少佐殿にお任せする。なっ、頼みますぜ、少佐殿」
男がにやにやしながら俺を見る。
「俺も死にたくはないからな。実力があるからと言って先頭に立つつもりはない。平等に戦ってもらうぞ」
「チッ、何が平等だよ。世の中平等なんてありゃしないってのに」
その時、不意に森の奥から男達の悲鳴が聞こえた。
「ギャーッ! 何すんだ! 女!」
「まさか!? お前例の美女か!」
距離は100mくらいだろうか。木で遮られて見えないが、声の方向は分かる。同僚の海兵達に一気に緊張感が走る。
「まさかのビンゴ?」
「まだそうと決まったわけじゃあ……」
その後も、ドカ、バキバキ、と大きな音が聞こえ、男達の悲鳴が続く。戦闘中のようだ。
「しょ、少佐、どうします?」
「ふむ。とりあえず、見るだけ見てみよう。遠くからね」
「そ、そうですね」
森の奥にいる女は俺が演じている美女ではない。素で強い美女だ。よっていきなり正面から現れて戦闘、なんてことはやらないぞ。
俺達が女の姿を目にした時、戦闘は既に終わっていた。若い黒髪の女。その前に横たわる5人の大男。手配書で見た顔もいるぞ。確か懸賞金4000万ベリーのミソッカスだったか。それを簡単に倒してしまう美女。一体何者なんだ?
女は不意に俺達の方を見る。あっ、この顔は、ミス・ダブルフィンガー!
「うおおお、いい女」
「しかし、なんて強さだ。ミソッカスと言えば凶悪さで有名なルーキーだぞ」
女は俺達を見た後、不意に男達の服を剥ぎ取り始める。手持ちの道具や金品も全てだ。
よく見ると、女の後ろに店がある。シャッキーズ、ボッタクリ、バー。そう書いている。なるほど。ダブルフィンガーってシャッキーの娘だったのか。まあ顔そっくりだしな。飲み屋の店主ってのも一緒だし。
ダブルフィンガーは身ぐるみ剥ぎ終えると、再び俺達の方を見る。
「そこのゴミ、片付けといてくれる? 邪魔だから」
パンツ1つだけの男達をチラと見て言い、店に帰っていく。
「ど、どうします? 少佐」
「うむ。とりあえず職務質問だな」
「ええっ!? 怒らせたらどうするんですか!?」
「おいおい、行くなら1人で行ってくれよ。少佐殿。俺達は応援を呼んでくるから」
いつもの俺ならここで真面目に職質なんてしない。安全優先だ。しかし、相手はシャッキーの娘だと分かっている。いきなり殺されたりはしないだろう。多少危険はあるが、俺は原作女キャラと話がしたい! ならば行く!
「いいだろう。俺1人で行ってやる」
「ひいいっ、なんてことを」
「まさか少佐が先頭に立つなんて。さっき平等とか言ってたばかりなのに」
「お前達はそこで寝てる海賊を本部に連れて行けばいい」
「こいつまさか思春期か? 目の前の女に一目惚れ?」
騒ぐ部下を無視し、店へと入る。
「お邪魔します」
「あら? 海兵さん。うちは酒屋よ。職務中に立ち寄るのはよくないんじゃないかしら?」
ダブルフィンガーが俺をジッと見て言う。唇テカッてる。かわいい。
「いえいえ、少し話をうかがうだけですよ」
「言っとくけど、うちは情報屋もやってるの。話をするならお金をもらうわよ」
「これは手厳しい」
うーん、どうしようか。話をするだけでお金取られるのは嫌だなあ。世間話だけですよ、ってのも後から情報料を取るとか言われて危ない気がするし。なんせボッタクリバーだから。
あれ? 待てよ。ダブルフィンガーって何歳だ? 目の前の女、原作の時とほとんど見た目が変わってないぞ。まさか美魔女か?
「何? 客じゃないの?」
と、別の女が水を手に出てきた。キャー、この子さらにかわいい。ピチピチ。この子もダブルフィンガーにそっくりだけど、若い。そして髪が青い。
娘か? しかし、10代中半に見える。はっ、まさか!
「ひょっとして、姉妹?」
「ふふっ」
俺がそう言うと、年上のダブルフィンガーは笑ったが、年下の方は不機嫌になった。
「何それ。私が母親の年代に見えるっての? 失礼ね」
「ああいや、ごめんよ。君のお母さんが若すぎて、つい」
「ふん」
ドンとテーブルに水が置かれ、椅子が引かれる。座ったらお金取られそう。でもいいか。かわいい原作キャラと話ができるなら。いや良くない。やっぱりぼったくりは怖い。
うーむ、どうしよう。あっ、情報を買うんじゃなくて、売るとか言ったら、話をするどころか知り合いになれる? 美女母娘とお近づきになれる? すげえ。これいい作戦だ。
「店長はいる?」
「私が店長よ」
母親が言う。ということは、こういうことか?
「ひょっとしてあなたがシャッキー?」
「ええそうよ」
ああ、なるほどー。シャクヤクの若い姿がダブルフィンガーそっくりだったのか。一応原作では歳取ってたんだな。ほんで目の前にいる彼女の娘がダブルフィンガーかな。本名もあったはずだけど忘れた。
俺は1つ問題が解決したことで気が楽になって椅子に座る。
「注文は?」
娘が言う。
「その前に質問。俺が情報を売ってもいい?」
シャッキーは少し驚いたような顔をする。
「いいけど、海兵さん大丈夫? 情報屋にとって情報源をバラすのはタブーだし私もバラす気はないけど、まだ初対面でしょ? こういうのって信頼が重要だと思うけど」
「ええ、そうでしょうね。しかし、私はお金持ちではないので。この店に気にいられるためには、これくらいのリスクを背負わないといけません」
「気に入られる? 海兵さんもしかして一目惚れ?」
シャッキーがニコニコ笑いながら言う。俺は中身おっさんだが見た目は若いからこういう反応がかわいいのだろうか。
「そ、そうなんです。お恥ずかしい」
俺も乗ってあげた。思春期の少年っぽい反応で。
「あら? ちょっと変な感じね」
バレた!? まさか見聞色か!?
「まあいいわ。どっちに一目惚れ?」
シャッキーは前傾し、胸が見えるか見えないか、みたいなポーズをする。俺の思春期っぽい反応を楽しみたいのだろう。ありがたや。
「うひいっ!? わ、私は、海兵! 人妻に手を出す気、なし! よって、娘さん、を!」
「ふふっ」
シャッキーは今度は笑ってくれた。よかった。娘は呆れた感じだが。
「ではゼリー使いの海兵さん。どんな情報をくれるのかしら?」
シャッキーが余裕のある笑みを浮かべて言う。俺をゼリー使いと呼んだということは、俺の情報を知っているということ。俺も有名人だったんだな。まあ悪魔の実食べてから雑魚海賊相手なら無双できてるからな。
「例の人攫いを殺す美女の事件、その犯人の情報と言ったら?」
俺は少し怪しげな雰囲気を出して言ってみる。シャッキーの目つきが変わった。余裕だけの笑みから真剣さも入った笑みに。
「へえー、それは興味深いわね。ポーラに聞かせてもいいの? 彼女は情報屋じゃないけど」
「大丈夫です」
「ふっ。でも、どうせ偽情報掴まされてるんでしょ? 海軍や人攫いがこれだけ探して見つからないんだから」
そう言いつつ、ポーラもグイと顔を寄せてくる。
「ふっふっふ」
俺は笑い、少し焦らしてみる。焦らしすぎると嫌われるからもう明かしちゃうけど。
俺は口を開きかけて、止める。その代わり、手のひらからゼリーを出す。
「え? 何?」
少し驚いて後ずさりするポーラ。かわいい。
ゼリーは俺の身を包み、人の形へと変わっていく。着色もなされて、手足の細かい部分も再現される。最後に手配書通りの顔を作って、完成。
「どう? これが女の正体」
ふっ、決まったな。全裸のゼリーちゃんだけどまあ裏世界を生きる女達の前だし問題ないでしょ。
シャッキーが「ヒュー」と口笛を吹き、ポーラは唖然としている。この二人をここまで驚かせられただけでも満足だ。俺はゼリーを解除する。
「まさか謎の女の正体が若い男の海兵だったとはね。これは一本取られたわ」
ぱちぱちぱち、とシャッキーに拍手してもらえた。やったぜ。
「どーりで海兵がいくら探しても見つからないわけね。情報が筒抜けだもの」
ポーラはそう言いながら俺のテーブルの向かいに座る。そしてグイと俺に顔を寄せ楽しそうな表情で目を合わせる。胸が見える角度だ。ありがたや。
「ねえ、詳しく聞かせてよ。女の話。どうしてあんなことしようと思ったの? あなた海兵でしょ?」
おお! これは、脈ありか? 単に事件に興味あるだけかもしれないが。喋ってよかった。
「海兵にも、いろいろいるんだよ。気に入らないこともある。上の言うことが間違ってるなんて、この島に配属された海兵なら誰でも思ってるだろうしさ」
「へー、そうだったんだ。もっとお堅い集団と思ってたわ」
「お堅いってわけじゃないさ。ただ、臆病で卑怯なんだ。海軍の権力を利用して、地位を得てほどほどに正義ごっこをして、安全に楽しみたいってだけ」
「そうなんだ。まあ、いろいろいるだろうけどさ」
クスッ、と笑うポーラ。やはり脈ありだろうか。なんか好意を感じるぞ。この感覚は間違っていないはずだ。
「ところで、ポーラは謎の女に興味があったの?」
「え? ……ふふっ。まあね。ほら、こんな島に住んでるわけじゃない。天竜人が通る度にコソコソ隠れなきゃいけないし、奴隷にされた女の不憫な姿が目に入ってくる。だから人攫いをやっつけるって話は、胸がスカッとしたわ。別に私は正義感が強いわけじゃないけどね」
おお、やはり高評価だ。
「私も謎の女のファンだったのよ。応援してたの」
シャッキーもか。しかもファン発言まで。いやー、謎の女やっててよかった。街歩いてたらこの島の住民からの評価は高いと感じていたけど、彼女達もそうだったとはね。
そう言えば、ハンコック姉妹が奴隷解放されてからシャッキーの店で暮らしていたんだよな? なら、奴隷関連は腹が立っててもおかしくないな。
「好きなもの注文して。今日はお金取らないわ」
「ありがとうございます。しかし、一応勤務中ですからね。アルコールはなしで」
「あらあら、お堅いのね」
その後、料理をいただきながら昔話をしたり世間話をしたりした。去り際、ポーラに「次の休暇、一緒に街を歩いてみないか?」と誘ったところ、OKしてもらえた。やはり脈ありだったか。