ワンピースの世界をはったりで乗り切る   作:にーと

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アイドルプロデュースに対する謎の熱意

 あれから約1ヶ月。船のリフォームが終わり、喫茶の開店が間近に迫った。

 単に開店してもいいが、せっかくポルチェがアイドルを目指しているのだ。開店と初ライブを同時に行ってもいいだろう。両方とも客が増えて悪いことはない。というわけで、ポルチェとフォクシーを呼んで、会議をする。

 

「来週にも、ポーラの喫茶が開業する。名前は?」

「スパイダーズカフェよ」

「ほー」

「よかったじゃん」

「開店に合わせて、客の目を引くためにイベントを行おうと思う。そこでだ。ポルチェ、ライブをやってみないかい?」

「え? いいの?」

「いいとも。俺は今も君を仲間から外したつもりはないし、ポーラの記念にポルチェの初ライブ。最高じゃないか」

「は、はい! やらせてください!」

 

 うむ。ここまでは問題なく進んだな。しかし、ここからが重要になる。

 

「ところでポルチェ。ファン層を考えたことはあるか?」

「ファン層? 何それ」

 

 まあ考えてないわな。

 

「君の歌や踊りを聞かせたい、見せたい相手はどういうファンかってことだよ。子どもなのか大人なのか。老人なのか。男なのか女なのか」

「おいおい。そんなの分けなくていいじゃないか」

「そうそう。皆に楽しんでもらえればいいじゃない」

 

 フォクシーが言い、ポルチェが相槌を打つ。

 

「確かにそれが理想だ。だが、現実は甘くない」

「甘くないってなあ。そりゃあ分かってるよ。だけどやってみなきゃ分かんねえじゃねえか」

「そうだよ。だいたいあにき、ライブとかやった時あるの? あにきだって何も知らないでしょ」

 

 無知と言えば無知。だが、前世の記憶が言っている。無策では危ないと。

 

「確かに俺はアイドルについて無知だ。だが、人間の感情は分かる。例えばだ。ポルチェが、若い男達のハートを鷲づかみにしたとする。町中のいい男は近くの女に振り向かず、ポルチェの噂話ばかりしている。するとどうだ? 女達は怒る! ポルチェうざいと言ってくる! 悪口を広める!」

「えっ。そんなの酷いよ!」

「おいおい、いくらお前でもそれは言っちゃいけねえ! まだ始まってもないのに、なんで脅すようなことを!」

 

 悲しむポルチェ。フォクシーはポルチェを庇うように前に出て、俺をにらむ。

 

「だが、事実だ。なあ」

 

 俺はポーラとジーナの方を見る。

 

「私に振らないでよ」

「ノーコメントで」

 

 同意の言葉はなかったか。だが、想像すれば誰でも分かることだろ? 実際はもっと危ないことになる。男ファンは風呂を覗いてくるし、身体を狙ってくる。女アンチはストーカーして醜聞を探そうとする。その醜聞を男ファンが耳にしたら、凶悪なアンチに変貌する。殺意もありうる。

 等々、説明する。

 

「そんな……」

「てめぇゲルマン。恨むぞ」

 

 落ち込むポルチェと俺をにらんでくるフォクシー。俺はカッと目を見開く。

 

「違うぞ! そうじゃない!」

「えっ」

「な、何が違うんだ?」

 

 俺の謎の覇気(?)に、たじろぐポルチェとフォクシー。

 

「お前達は、最初に言ったな。皆が楽しめるようにすればいいと。人は選ばないと」

「う、うん」

「それがどうした?」

「だったら、全員が楽しめるようにすればいい! 若い男も若い女も! おじさんもおばさんも! 子どもも老人も!」

「だからそうするって言ったじゃねえか」

「あにきの言ってること分からないよ」

「ふっ」

 

 俺は笑みを作り、懐から紙を取り出す。昨日の夜、徹夜して作った、と言ってもポーラとエッチしたから作り続けていたわけではないが、イベントの予定表だ。

 

・6時ポルチェと朝の健康体操

・7時カフェ開店

・8時シャボンディ諸島ブランド品大安売り

・9時ポルチェと一緒にお花摘み体験

・10時ヨットレース(子どもの部もあるよ)。優勝者にはポルチェの花飾り

・11時カラオケ大会

・12時ランチタイム・ポルチェのライブ

・13時かわいい人魚達()の水中サーカス

・14時カポーティが教える魚人空手講座

・15時おやつタイム

・16時ポルチェと楽しくダンス

・17時サッカー

・18時ディナースタート・ジーナ姉さんが性の悩みに答えます

・19時ポルチェのライブ

・20時ジーナ姉さんのポールダンス

・21時ポルチェとカラオケ

 

「どうだ! ジジババや子どもの朝は早い! そこで6時に一緒に体操! 7時、汗を流したところで一緒にモーニング! 8時には主婦を射止めるブランド品安売り! 9時には集めた主婦、その子どもと共にお花摘み! 男の子も忘れないぞ! 10時にはヨットレース! レース好きな男達も参加してくれるはずだ! この優勝商品が先ほど作った花飾りという間合いの良さ! 次がポイント! 11時のカラオケ大会! 喉自慢の主婦やジジババに十分に歌わせておく! そこからのポルチェのライブ! これで嫉妬や批評家の出現を極限にまで押さえ、ポルチェのライブをのど自慢の続きという感覚で一緒に楽しめる! しかもランチの時間と合わせることで、仕事の合間に男達も見に来れる! 13時から15時あたりにポルチェは休憩だ。俺とカポーティがなんとか間を持たせる。16時、脂肪の気になる主婦とダンス! 子どもも楽しめる! 17時にはダンスが物足りない男の子とサッカー! 18時! ここから男達がワッと増える! ディナーとジーナ姉さんの力で男のハートを鷲づかみ! 最高潮に盛り上がったところで、19時にポルチェのライブ! 20時にジーナ姉さんのポールダンス! 21時にポルチェのカラオケ! 4連弾でお父さんも大満足! どうだ! この最強の布陣は! 老若男女、誰もが楽しめる!」

 

 俺は一気にまくし立てた。誰も次の言葉が出ない。ポーラでさえポカーンと口を空けている。俺の変貌ぶりについていけないのだろう。今までのクールな演出は砕け散った(船上エッチしまくりな時点でクールじゃない)。俺もやりすぎたと思っている。だが、前世の芸能界への怒り! 金、肉欲、優越感、劣等感が渦巻く濁った世界への、破壊衝動! それが俺を突き動かす。止まるんじゃねえぞ。心の中の俺がそう言っている。

 

「アイドルは孤高であるべき? 庶民的に会いに行けるアイドルであるべき? ダメだ! どっちも偉ぶってる! 上から目線なんだよ! そもそも、アイドルが庶民を楽しませる? 施しを与える? 庶民はアイドルを欲し、依存する? だから金を払う? そういうのが、ぜーんぶダメなんだよ! 全て、不幸な庶民を増やすだけだ! お金が欲しいとか、優越感が欲しいとか、そんな欲では誰も救われない! そういう思考を捨てるんだ! 庶民目線になるべきなんだ! つまり、アイドルが、皆と一緒に遊ぶ! アイドルが、皆と一緒に暮らす! 皆の生活を支える! 苦楽を分かち合う! それが、皆のアイドル! 俺が思う、ポルチェが目指すべきアイドルなんだよ!」

 

 決まったな。何が? 知らなーい。

 しばらくの間、皆が黙っていた。ある者は呆れた顔をし、ある者は感動し、ある者は真剣な眼差しで予定表を眺める。

 

「あの、私のポールダンスって何?」

 

 まずツッコミが入ったのはジーナ。やはりな。予想できたことだ。

 

「ノリでやってくれ」

「はあ?」

 

 くっ、厳しいか。

 

「俺の魚人空手講座と言われても、あれは魚人だけが」

「じゃあふつうの訓練でもいい。男の子が好きそうなやつ。それだけで主婦は助かる」

「そうなのか? まあそれなら」

 

 カポーティはセーフか。

 

「レースは誰かに声をかけたのか?」

「いや、まだだ」

「チッ。こんなギリギリに言いやがって。選手が集まらないとイベントが破綻するぞ。まずここを集めるべきだ。実況と解説もいるな。用意しよう」

「できるのか?」

「やるしかないさ」

 

 フォクシーは急にやる気になってくれている。よかった。まあ、フォクシーがデービーバックファイトでやってたレース、球技、格闘、を取り入れたからな。お花摘みってのも、ポルチェは花が好きだと知っているから入れたんだ。ポルチェとフォクシーにとっては特に楽しめるイベントになっているはず。格闘はカポーティが教えるだけだけど。

 

「すごい。すごいよ……」

 

 と、肝心要。ポルチェは目をキラキラ輝かせている。

 

「すごいよあにき! すっごく楽しそう! ライブって、皆の前で歌うって、ちょっと怖かったけど、これなら大丈夫! お花を摘んだり、身体を動かしたり、皆と一緒に遊べばいいんだ! これがアイドルなんだ!」

 

 ポルチェに褒められた。よかったよかった。

 と、フォクシーが手を上げている。

 

「どうした?」

「6時、朝の体操。ジジババや子どもは、この場所まで来ないんじゃねえか? 朝だしよ。ふつう遠出はしねえぞ」

「た、確かに」

 

 しまったな。単純な見落としだった。

 

「ふっ。ブラザーでも抜けてる所はあるんだな。俺は体操の代わりにゴミ拾いを提案するぜ」

「えっ」

 

 ブラザー呼び? そしてフォクシーの口からゴミ拾い?

 

「この島にゃあ、大工から落ちぶれた荒くれ者が多いっつー裏の顔がある。そいつらが夜中に暴れた汚ねえ道を、誰が掃除する? 朝の早ぇジジババが好意でやってんだよ。それを、ポルチェのような若い娘が手伝うんだ。爺さん達泣いて喜ぶぜ」

「ブ、ブラザー。なんて素晴らしい」

「へへっ、よせよ」

 

 さすがは落ちぶれていた男。町の汚い部分がよく見えてるな。

 

「しかも、ゴミ拾いしながら町中にイベントの宣伝ができる! 一石二鳥!」

「おっと、それは思いつかなかったぜ。さすがはブラザーだな」

 

 その後も、会議は盛り上がった。

 

 そして、カフェ開店及びライブイベントの当日。

 イベントを主催する俺達の前に、わらわらと人が集まっていた。まず、俺、ポーラ、ポルチェ、ジーナ、フォクシー、カポーティの6人。加えて、ポルチェのライブ仲間3名。ポーラとジーナが用意したカフェのバイト5名。フォクシーが用意したゴミ拾い及び宣伝の手伝い30名、レースの実況及びイベントの司会進行1名、のど自慢の採点をする歌の先生1名、レース用のヨット10隻。さらに、レースの参加者や喉自慢大会の参加者も最低限として5名ずつそろえてきたという。

 恐るべきはフォクシーの手腕。短期間でこれだけの人を動かした。もはや才能だろう。人を集める才能。他のマンガならば王の才能と呼ばれる物かもしれない。この世界では人をビビらせたり気絶させたりする覇王色の覇気なるものが王の才能と呼ばれているが。俺は人を動かす才能の方が王に必要だと思う。

 

 皆が軽く挨拶をして、イベントの流れを確認。えいえいおー、などと言ってから、それぞれ別れる。ポーラとバイトは厨房へ。残りはゴミ拾い兼宣伝へ。

 

「今日4番ドック付近の港でライブイベントがあるんですよ。是非来てください。船上喫茶、スパイダーズカフェの開店記念です。ランチやディナーもありますよ。船の上でおだやかに過ごす、優雅でしょ」

 

 などと宣伝していく。主婦にはブランドの安売り、男の子にはレースや格闘技、女の子にはお花摘みやダンス、使い分けて話しかける。これがこのイベントの強みだよ。

 イベントについて、フォクシーが事前に宣伝しまくったこともあり、大人の男は知っている人も多かった。しかし、老人や子どもには知らない人の方が多かった。

 ゴミ拾いを終え、ドックに戻る。老人が5割、子ども連れの母親が3割、男が2割ってところだな。思ったより男が多い。ジーナファンやポーラファンもいるからかな?

 

 予想より人が多いが、並ぶほどではない。船が大きいので席をたくさん置いている。皆座れる。だが、これは朝だ。ライブの客が集まるランチやディナーは座れない人の方が多いかもな。料理も間に合わなくなるだろう。初ライブで弱気になり過ぎていたか。人が多いのはうれしいが問題だ。

 

「フォクシー、これではランチとディナーで厨房が追いつかない。おそらく席も足りなくなるだろう。今から簡単な屋台、間に合うか? 水水肉とかラーメンでいい。椅子は俺のゼリーで作ってもいいが」

「チッ。当日に言うなんてよ。だが、間に合わせるしかないだろうが」

 

 フォクシーはイトミミズという細い男に話しかけ、そいつの相棒の大きなスズメに乗せてもらう。そして、どこかへ飛んでいった。

 8時、ブランド品の安売り。主婦の格闘が始まる。カフェはドッと人が減るが、ジジババはまだいる。

 9時、花摘み。戦闘を終え、偽りの仮面を再びかぶった主婦が花がかわいい蝶がかわいいと言って遊ぶ。女の子も一緒に。

 10時、男の時間。ヨットレース。原作キャラではフランキーとパウリーも来ていた。この2人はいい勝負でトップを争っていたが、競り合いの末に両者バランスを崩して失速。ピクルスとかいうデカい少年が勝った。

 11時、喉自慢大会。ガチで上手い素人の美声には拍手が置き、音痴には失笑が起きる。しかし、途中で歌の立候補者がいなくなるアクシデント。仕方なく俺、カポーティ、ジーナが間を持たせる。ジーナはそこそこ上手かった。最後には歌の先生が歌い、優勝者の発表。そしてポルチェのライブへ。俺は警備員へ。

 

 ポルチェの歌は、まあふつうだ。一般人に毛が生えた程度。ジーナより下手だと思う。だけど、若いから勢いでいいのだと思う。若者やおじさんは楽しんでいた。おばさんは知らない。

 激動の時間が終わり、職人達は仕事に戻っていく。残ったのは子どもと母親がほとんど。ジジババもいる。次は俺が演じる人魚達()の水中サーカス。単にゼリーで女人魚を作り、泳がせたり、ジャンプさせたりするだけだ。こういう激しい動きをする時、近すぎるとバレるから50mくらい岸から離れた所でやっている。こうすると皆に見えるからいいよね。なお、実況はイトミミズ。

 

「よく見えんのお。爺ぃにはきついわい」

「そう? 綺麗だったよ」

「人魚なんて初めて見た。うれしいー」

 

 と、感想はこんな感じだった。

 そして14時からはカポーティの格闘教室。娘と来ていた主婦が去っていく。男の子は残る。

 

「実戦がやりたかったなー」

「型なんてつまんなーい」

「ダメだダメだ。基礎がないと怪我をするぞ」

 

 感想はこんな感じだった。

 15時、おやつタイム。トムさんが来てた。ポルチェが丸くてかわいいと言っていた。

 16時、ポルチェと楽しくダンス。主婦がちょっとだけ戻ってきた。若い男も来た。トムさんは仕事に戻っていった。

 17時、サッカー。またフランキーとパウリーがやってきた。2人がとても目立っていた。女子にキャーキャー言われて照れていた。カポーティが出たそうにしていた。

 18時、ディナースタート。仕事を終えた男共がドッと増える。ジーナ姉さんの悩み相談に思春期の男女やおじさんが集まる。

 19時、ポルチェのライブ。いよいよ人が増え、席が足りない。カフェも大行列。フォクシーが慌てて用意した屋台でも足りない。不満の声が聞こえる。歌はそこそこ盛り上がった。

 20時、ジーナのポールダンス。まずは俺とカポーティが前座をし、失笑を集めておく。そして衣装を身に纏ったジーナ姉さん登場。男達が大興奮だった。女の皆さんにはごめんなさい。

 21時、ポルチェと一緒にカラオケ。人が多すぎて1人ずつカラオケという雰囲気ではなかったので、ビンクスの酒のような著名な歌をポルチェと一緒に歌うという流れだった。

 22時、イベントは解散。カフェは24時までやるそうな。だけどこの時間帯は料金が高すぎてお偉いさんしか入れない。ポーラ曰く、最終的には一見さんお断りにして贔屓の客だけで楽しみたいらしい。今回のランチやディナーみたいな激しいやつはイメージが違うとのこと。

 そこでフォクシーが提案する。船に使ってないスペースがたくさんあるんだから、レストランをもう1つ作ればいいと。実は、今回のバイトや客の中に、海上喫茶で是非働きたいという男女が10人以上いた。海上が優雅で気に入ったらしい。ポーラは1人で働きたいが、新しく来た男女は今回のような入れ替わりの激しい接待でも歓迎だとか。

 問題は、この船はウォーターセブンを離れることもあるし、積極的に賞金稼ぎもするということ。戦いに自信はあるのか。命を懸ける覚悟はあるのか。そう尋ねた時、一般の居住区から来た連中は去っていった。が、裏町の連中は残った。彼等は皆「どうせ生きていても落ちこぼれなんだ。好きなことをして死にたい」という感じだった。ならばと、仲間にした。レストランは俺の奢りで作ってあげた。と言ってもポーラのカフェと違って内装は何も手をつけてないけど。椅子と机と食器とキッチンを用意しただけだ。

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