ガールズ&パンツァーwithナイトメア   作:tubaki7

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第0話 ~プロローグです!~

 立ち込める暗雲。先ほどまで晴れていたにも関わらず、この天気の変わりように流石に不安を抱く。世界一身長が高いとされたロバート・パーシング・ワドローの身長は生前最も高い時期で272cm、それよりも高い4.4m程の高さにある視界から入って来る情報を、内臓のOSが処理し瞬時に最適化していく。それを見ながら、周囲の状況を整理して最前線の状況を逐一仕入れる。山岳地帯。渓谷をゆっくりと進んでいく隊列が観える。規則正しく一列に並んで進んでいく、その先頭付近に一輌旗を付けた車輌を拡大する。順調に事を運んでいるようでホッと息をついた。

 

『心配か?』

 

 不意に耳のインカムから聴こえてきた声にビクッと思わず肩を強張らせてしまう。別に、この声の主が苦手とかそういうわけではない。ただ、いつまで経ってもどこか年上めいた声色が聴きなれないだけだ。それだけに、少し心で距離感を置いてしまう。

 

「べ、別に。ただ、アイツ性格の割にドジだから・・・」

 

 苦しい言い訳をしてそんなつもりはないと答える。実際、不安ではある。だがそれを言ってしまっては後で揶揄われるのが目に見えているし、それよりも前に今聴こえている音声の主に対してちょっとした〝裏切り〟にもなる気がしたから。だからそんな態度をとる。

 

  雨脚が強くなり始めていた。

 

『心配することはないさ。あの子ももう立派に先陣を切れるし、こうして私の副官も務めているんだ。・・・・しかしまあ、姉として少し寂しくはあるな』

 

 珍しくしみったれた事を言う。何時もは凛として冷静沈着、怖い程に落ち着いている彼女がそんな事を零したのが新鮮でならない。「珍しいな」と言葉にしてみれば、意外な一言が返ってきた。

 

『これでも好いた男の前では素でいたいんだよ』

 

 親が決めたことだ。反論しようともしたが、あながちまんざらでもないから否定しない。そもそも、それを否定したところで彼女の士気に影響・・・・というのは些か考えすぎるかもしれないが。ともかく、触らぬ神に祟りなしだ。言い返さない方が余計なイレギュラーを招かないで済む。

 

 雨が本降りになる。今いるこの場所は、周囲からは完全に遮断された人間二人ほどがやっと入れる程度の小さな広さ。目の前には画面越しとは思えないほどにクリアな世界が広がっている。天井を雨粒が叩く音がわずかに聴こえるが、特殊素材でできたこの空間には余程集中しない限りは外の音など聴こえないような設計になっている。彼女達が乗る戦車よりも頑丈な鉄製でできた4m越えの巨人。人の型を成し、全身を黒一色で塗られ背中にはランドセルでも背負っているかのような突出したコクピット。コンテナ、と言った方がしっくりくるかもしれない。自分も最初ソレを教科書で見た時はそんな感想を抱いたのを覚えている。

 

 手にはライフル。これも人間が使うようなものをこの巨体に合わせ製作されたものだ。彼女らが乗るモノよりは殺傷力という点では勝っているものの、装填手がいない為使い切ってしまえばそれきりの銃火器。脚部には車のタイヤを取り付けたようなものがサイドに備わっている。そして両腕には、近接用のスタン式のトンファーが折りたたまれている。

 

 高機動人型汎用作業機体。それがこの巨人が生み出された際のコンセプト。それが時代の歩みと共に姿を変え、兵器として運用されていた時代の時の一般的な呼び名は〝ナイトメアフレーム〟。イギリス出身の科学者であるメア・フレームという偉人が開発した作業用ロボットであることと、武装した際の姿、さらには現在に続く〝戦車道〟においての戦車の護り手としての扱いからそう呼ばれている。しかしながらその稀少性とコスパの悪さからか、既存の機体数はさほど多くはない。戦車道のある学校の中でも、所有している学校とそうでない学校もある程だ。それ故に、試合に出られないこともある。

 

 そんな機体を任されている。それだけでも、男にとっては名誉なことだ。

 

『戦車に乗るのが女なら、ソレに乗るのは男。硬いしきたりや文化は私もさほど好みではないが・・・・それでも、きみという騎士が控えているんだ。みほも私も安心して自分の役目に集中できることに変わりはない』

「・・・なんか俺励まされてる?」

『こういう話をすると、いつも消極的で悲観する癖があるからな。・・・・親の間で取り交わされた約束とはいえ、大和は私の将来の夫だ。強くあってくれなくては困る』

 

 それが本音だろ。そう言ってやりたかったが敢えて言わず、「善処する」とだけ返す。それに満足したのか、フッと笑ったような声が返ってきたのを聴いて、やはり言わない方が良かったと思う。

 

「にしてもまほ。いいのか?俺と雑談なんてしてて。随分と余裕じゃないか」

『こうでもしないと、実のところ私も心配でね』

「要はシスコンこじらせて限界だからはけ口に揶揄われてるだけか、俺」

『そうとは言ってな―――ッ!』

 

 突然通信が切れた。どうやら対戦相手の車輌と遭遇したらしい。砲弾が発射された音が激しくなり、撃ち合いする轟音がこちらにも聴こえてきている。

 

「・・・〝グラスゴー〟より各車輌へ。支援砲撃を開始します」

 

 森の中で身を潜め、手にしているライフルを構える。相手方の機体が近くにいるという情報は偵察に出ていたチームメイトから報告を受けていた。だからそちら側に向けて砲身を向けて、操縦桿に備わっているボタンに指をかける。周囲の風向き、その他諸々の気象条件を機体が自動的に算出すると、目の前のサークルが赤く光る。その刹那、銃の引鉄を引くが如くかけた指を動かした。ドン、という鈍い音を立てて砲弾が飛んで行った。結果は・・・・ハズレ。だが当てることが目的ではない為これでいい。相手にこちらの存在を示すことで注意を逸らすのが目的だ。大和の思惑通り、敵機はこちらに向かってきているのがレーダーでわかった。

 

  〝ナイトメアフレーム〟には幾つか縛りがある。行動できるのは、最初の内は今のように銃火器による支援砲撃のみ。基本戦車よりも圧倒的に性能の面でも火力の面でも勝るKMFは勝負にすらならない。故に戦車に対しての直接的な攻撃は厳禁。その逆は可能。そして彼らが最前線にて行動できるのは、自軍の戦車の車輌数が一定数以下になった場合にのみに限り、どちらかがKMFを前線投入した時点で相手も動かすことが可能となる。しかし、KMF同士の牽制の仕合に関してはその限りではない。だからこそ、こうして気兼ねなく撃てる。ルールに一部例外は存在するが。

 

 しかし、そこで事態は思わぬ方向で急変してしまう。

 

  先頭を走っていた車輌が突如足場が崩れ川の中へと落下してしまう。それにより隊列は動きを停止。それまでは、立て直せばなんとか

 

なりはする。多少の損害はあるだろうが、それでもフラッグ車と自分が残っていればそれでなんとかする自信はある。隊長、副隊長である西住姉妹がいればひっくり返せる。そう確信していた。

 

  だが、そんな大和の考えは一気に瓦解する。停車したみほの乗るフラッグ車の様子がおかしい。後退も前進もしない。どうしたんだと

 

拡大してみれば、フラッグ車から降りて行くみほの姿が。何をやってるんだと怒鳴りたくなったが、その降りて行った先を見て納得する。増水した川の中へと沈んでいく車輌がある。どうやら乗車している人間が出てこれていないらしい。そこにみほが助けに向かったということだ。にも関わらず、戦闘が中止される気配がない。

 

「みほッ!」

 

 残り一人を引き上げたところで急に強くなった流れに呑まれ、姿が見えなくなる。それを見た瞬間、居てもたっても居られなくなった大和は機体を動かしていた。脚部の車輪、ランドスピナーを降ろして地面を走行。最高速度に達したまま、山の斜面を一気に駆け上がる。

 

『大和、何をしているッ!まだ〝ナイトメア〟の出撃許可は出ていないぞ!?』

 

 まほからの通信が聴こえたが、そんなことは無視して機体を川の中へと沈める。上半身が出る程度の水位ではあるが、人間からしてみれば溺れてしまうには充分すぎる。好感度のレーダーで水の中にいるみほの反応を検知し、火器を捨てて両手を中に入れる。これ以上流されぬように位置を調整しながら、器用に彼女をすくい上げた。コックピットを開け、自身も掌で倒れているみほのもとへと駆け寄る。

 

「みほ、みほ!おいッ、しっかりしろ!」

 

 大和の叫び声が木霊する。そして、試合終了を告げるベルもまた戦場に響き渡った。

 

 

 

 

 

 

 

  ◇

 

 

 

 

 

 

 イヤな夢を見た。跳び起きてみれば、汗が額を濡らしている。それを右手で触れることで理解し、溜息をつくことで心の中のモヤモヤを外に吐き出す。それからベッドから出て汗を流す為にシャワーに入る。スッキリしたところで朝食を適当に済ませ、学校に行く為に支度を整え住んでいるアパートを出る。転校してから二週間、今の生活にも慣れ始めた。

 

「大和くーん!」

 

 後ろから聴こえてきた声に振り返る。自分と同じ学校の女子生徒の制服を着ている姿が、かつていた学校と違うというだけで未だに新鮮に感じる。

 

「おお、よく起きれたな。てっきり寝過ごして髪ぼっさぼさで追いかけてくるかと思ったけど」

「はあ、はあ・・・そっ、そんなことしないってば・・・!」

 

 とはいえ息を切らして走ってきたのは事実。高校二年生になっても、そそっかしい性格はまだ健在らしい。そのくせ大人しくて控えめという些か面倒くさいこの幼馴染との付き合いも、もう10年になるだろうか。

 

「ったく・・・行くぞ、みほ」

 

揃いの制服で、他愛のない話をしながら通学路を歩く。

 

「・・・近所になかったね、サンクス」

 

 コンビニの前を通りながら嬉しそうに話すみほ。

 

「もう何回目だその話題。つか、前見て歩けよー。でないと看板にぶつかるぞ」

「もう、私そこまでドジじゃな」

 

 そこで会話が途切れた。歩みを止めて振り返ってみれば、言わんこっちゃない。綺麗に顔面をステンレスの薄い素材でできた看板に真正面からぶつけて悶えている。深く溜息をつきながらしゃがみ込んで顔を押さえているみほに歩みより、手を差し出す。

 

「だから言ったろ?ぶつかるってな」

「ふぇぇ・・・」

「ハァ・・・そんなんだから二週間経っても友達の一人もできないんだよ」

 

 大和の呟いた一言に、痛みに耐えつつもムッとなって赤くなった顔にさらに涙目になりながらも抗議する。

 

「それを大和君が言う?そっちだって未だに一人も友達もいないくせに」

「あのな・・・女子高で、つい最近生徒数の減少を理由に共学になったばかりで、しかもまだ男子は俺だけ。テスト生徒って名目で入ってる俺が、どうやって友達を作れと?周りは異性しかいなくて、オマケに知り合いはお前だけなんですが?」

 

 「うっ・・・」と、バツが悪そうに俯くみほ。それを見て、流石にマズいと思ったのか、今度は大和が「あー・・・」と声を零しながら頭を掻く。

 

「わるい。言いすぎた」

「・・・ううん。私も、悪かったし・・・」

 

 気まずい雰囲気を醸し出しながらも、二人は大洗女子高校の校門をくぐる。普通Ⅰ科、二年A組がみほ。その隣のB組が大和の教室となっている。転校初日から少しの間はB組に男子が転校してくるという事でちょっとした客寄せパンダのような扱いをされていた大和だが、その人付き合いの悪さが幸いしたのか、今では腫れ物に触れるかのような感じになっており、あげくの果てには〝不良〟のレッテルすら出回っているほど。その為に、彼の周りにはみほの言った通り友達と呼べる存在はいなかった。

 

  たった一人を除いては。

 

「おはようございます!悠木殿」

 

 ドアを開いた途端、敬礼してはにかむ少女。癖毛と独特の口調が印象的な、大和と同じクラスの秋山優香里だ。

 

「・・・・あのな秋山さん。その、苗字でも名前でもどっちでもいいんだけどさ。殿ってのはやめてくんねーかな?」

「あ、嫌いでしたか・・・?」

 

 目に見えてしゅんとなる優香里の姿を見て、周囲の生徒が一瞬にしてざわつき始める。「女の子に酷い事してる」だの、「朝からカツアゲ?」だの。誤解も甚だしい。しかしそれを弁明したとしても、今更遅いわけで。だから大和は現状の回復に努めるしかない。

 

「い、いやァ、秋山さん!いいねェその呼び方。なんかこう、古き良き日本ってーの?古風な感じでカッコイイじゃん!」

「でも、今やめてほしいと―――」

「是 非 継 続 し て く だ さ い」

 

 何をやってるんだ、俺は。笑顔になる優香里を見ながらそう心の中で零した大和であった。

 

 

 

 

 

  ◇

 

 

 

 

 お昼休み。何時ものように一人屋上へとやってきた。毎回のようにみほが誘いに来るが、それをあえて大和は断っている・・・・というより、逃げている。転校早々、良くない評判の出回っている彼の傍に居れば、必然的に彼女にもその被害が及ぶと考えての行動だった。

 

  というのは、建前で。

 

 実際は男子が一人だけ女子まみれの食堂に行くのが困難を極めたからである。何時もの位置に腰を下ろし、フェンスにもたれかかって弁当を広げる。親元を離れ、かつて世話になっていた家を出てからは一人暮らし。オマケに学園艦という特殊な環境にいる為、必然的に覚えざるを得なかった家事炊事の類も、今ではお手の物。そんじょそこらの女子力では張り合いにならないとまで、自信を持って言えるようになってしまった。その事に再び溜息。

 

  まあ、自分で選んだ事だからいいんだけどさ。そう言い訳しつつ、弁当を食べる。

 

 上を見上げれば、カモメが遠くに飛んでいる。学園艦、その名の通り、学校を含める幾つかの商業施設など街の一部が船の上にある巨大な船の事を総称している。中心が学校、つまり学生が運用しているという事もあり、そのほとんどがこの大洗女子学園に通う生徒達だ。彼女らの身内や一部商業施設の店員などを除けば、学生の暮らす、海の上を移動する学校のある街・・・・と言ってさしつかえないだろう。作られた目的や理念などは幼い頃に習ったが、今は忘れてしまった。

 

 どうでもいいことだと、大和はふと浮かんだ事を食後のコーヒー牛乳のパックにストローを刺しながら消し去る。中身を吸えば、口の中に甘くほろ苦い味が広がる。それを、さながら食後の一服を楽しむ大人の如く息を深く吐くことで真似てみる。未成年である為煙草は吸えないが、きっとこんな感じなんだろうともう一口。

 

「ああ・・・そーいやみほの奴、メールで友達ができたとか言ってたっけ」

 

 昼休みに入って少ししてからそんな内容のメールが届いた。あのみほが、ドジでどんくさいみほが、だ。未だに信じられないと思う反面、嬉しくもあった。戦車なんて関係ない、純粋な交友関係。何にも縛れることなんてない普通の女子高生としての友達が、こんなにも早くできた。最初は卒業するまでできないかもなんて言っていたが、それをいい意味で裏切られた。とりあえず、一安心。

 

 

  そう、思っていたのに。

 

「あー、やっと見つけたよ悠木ちゃぁん」

 

  壊す奴らが、現れた。

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