乾いたドン、と響く音の直後、盛り上がった土の山が吹っ飛ぶ。その中央に建てられた的は見事に真ん中を貫通―――どころか木端微塵に破壊してしまっている。その様を観て「やりすぎだろ」と呟いたのは、それを撃った白い鉄の騎馬に乗る大和だ。青い銃身から立ち込める硝煙と、それまであったはずの的とを交互に見て絶句するメンバー。
「重戦車並・・・いや、比較になるかどうか・・・」
絶句しながらも言葉を口にする優花里。片膝をつき、構えていた銃を降ろして立ち上がる。それらの動作を一通り終えた後、コクピットが開いて降りてくる。
「これなら来週の練習試合もらくしょーだね」
呑気な声でそんな事を言いながら、いつも携帯している干芋を頬張る杏。なにも考えていないのか、今までの事を考えればそんなことはない筈だが。
そんな杏が昨日聖グロリアーナ女学院との練習試合があることを告げた。期限は一週間。それまでになんとか戦力の確保と人材育成をしなければならない。みほと大和、そして知識がある優花里以外は完全にド素人な為、操縦技術や用語の暗記だけでなくトラブルの対処法まで教えなければならないことは山ほどある。しかし、知識がないからなのか、彼女らの吸収の速度は早かった。まだかなり粗削りではあるものの、良い腕をしているメンバーも何人かいる。これなら期待を持てる・・・筈。そこでネックになってくるのが〝ナイトメアフレーム〟の装甲と武装。さっき大和がやって見せたように威力は調整が必要、装甲は所々素体が見えている付け焼刃状態。そんなコンディションの中、練習試合に挑まなければならない。
「大和君、なんとかなりそう?」
流石に不安になったのか沙織が小声で耳打ちする。みほも沙織同様、ほかのⅣ号乗車メンバーも同様の思いらしい。あまり感情を表に出さない麻子でさえ、その色が少しうかがえた。
「操縦技術だけでなんとかなるとは思えない。俺も、高いとは言えないからな。それだけに頼りになるのは剣だけと思っていい」
「流石の〝死神〟でもこれはお手上げですか・・・」
「だからその呼び名やめろって」
ともかく、現状は厳しいという事だけはわかる。いくら士気が高くても、それを生かす戦術があっても、戦力が心もとないのではカバーできるのにも限界がある。それを弱みとして相手に付け居られないよう、立ち回らなければならない。みほのプレッシャーは大きい。
「西住」
桃がみほに声をかける。
「この後、各車輌のリーダーを集めてのブリーフィングを行う。悠木、お前も来い」
「それでは、お二人とも。また後程」
問題を解決している時間など、残されてはいない。どのみち残りのパーツが間に合わないなら、せめて打てる手は打つべきだと頭を切り替え、生徒会室へと向かう。中ではすでに作戦内容が記されたホワイトボードがあった。テーブルを挟み、来客用の長めのソファに腰掛け、立案者である桃の説明を聞く。
「―――以上が、今回の作戦だ」
桃が練った作戦は、こちらが囮を使い、敵をキルゾーンまで誘い込み一網打尽にするというものだった。相手の車両は装甲が厚い為、地形の高低差を利用して上から集中砲火を浴びせるというもの。が、これに難色を示す。
「西住ちゃん」
言いたい事があるけど、言えない。転校してきて日が浅く、ましてや相手は一年先輩で生徒会役員。引っ込み思案のみほが進んで発言できるわけもなく、終始黙ってしまっていたがそこを見かねた杏がみほに促す。
「言いたいことがあるなら、はっきり言っていいよ?」
その言葉に小さく頷き、意を決して口を開く。
「敵はおそらく、こちらが囮を使ってくることを想定してると思います。それを逆手に取られて逆包囲されたら、手も足もでない・・・」
「私がたてた作戦に異議があるのか!?文句があるなら貴様が隊長をやれッ!」
作戦会議とは。そんなことを問いただしたくなるような発言だが、みほが隊長になるという点に関してだけは、大和も賛成する。経験者で、西住流に明るいみほがやるのは適材適所といえた。だがやはり本人はためらいがあるようで、それを一端は否定する。
「俺も、みほが隊長になるのは賛成だ」
後押しするように隣に立っていた大和が言う。不安げに見上げてくる彼女に、心配するなと頭に手を置く。
「おまえが隊長なら、指揮も機能する。それに俺もその方がやりやすい」
「なら副隊長は悠木ちゃんにけってーってことで」
いや、そこまでは・・・そう言いかけた時、みほが言う。
「わっ、私も賛成・・・」
満場一致、逃走経路なし。八方ふさがりでもはや受諾するしかない空気に溜息をついた。
「わかった・・・んで、戦車の方は河嶋先輩の案でいいとして、問題は〝ナイトメア〟の方だな」
「聖グロリアーナ女学院・・・私は戦ったことないんだけど、どんな機体なの?」
「えっと、日本製の〝紅蓮〟って機体みたいです」
タブレットの情報を読み上げる柚子から聴こえてきた名前に、大和は赤い機体を思い返す。
「正式名称、〝紅蓮弐式〟・・・俊敏性と火力に優れた機体だな。ってなるとローズヒップか」
「対戦したことあるの?」
「ああ。まあ、良くも悪くも真っ直ぐな奴だよ」
みほの質問に答え、大和はホワイトボードの前まで出る。そして描かれている作戦図にペンで丸く二つ記す。
「つか、河嶋先輩の作戦て〝ナイトメア〟の事、考えてないよね」
大和の指摘にグヌヌと唸る桃。それもそうだ、戦車道という競技名である以上、花形はあくまでも戦車。後発的に生まれた〝ナイトメアフレーム〟は、今でも色物として見られることも多い。維持コストも国から補助が出る戦車とは違い、未だにその体制は確立しきってはいないとも言える。それだけに、こうして作戦の中に〝ナイトメアフレーム〟が存在しなかったり、最初から保有していないなどの事例は珍しくはない。数十年経った今でさえ、だ。
「別にアンタの作戦が気に食わないわけじゃないけどさ。戦力としてカウントしてくれないとショックなんだけど」
継ぎはぎみたいな外見だけどさ、と嫌味を含んで付け加えるとみほからの視線を感じて目を向ける。頬を少し膨らませ、眉を逆ハの字で大和を見上げていた。
「大和君、言いすぎ」
珍しく怒ったな。そんな感想を抱きつつ嫌味を向けられた桃に再度視線を戻すと、半分涙目でグズグズと鼻をすすっていた。言い負かされた事が相当悔しかったようで、怒り半分の悔しさ半分といった感じに睨むような目つきで泣いている。
「女子を泣かすとは・・・」
「やっぱり不良」
「女の敵だッ!」
酷い言われようにたじろぐしかない大和。
「まあまあ。あ、言い忘れてたけど、負けたらアンコウ踊りだからねー」
◇
それからほどなくして、試合当日。会場は茨城県は大洗の市街地となっている。戦車道の試合において市街地戦というのは珍しくはなく、山岳地帯などよりもより高度な連携と指揮能力も問われてくる難しい戦場になっている。ちなみに人的被害が出ぬよう徹底されており、建造物への被害は国からの補助で修繕費を賄っている。つまるところ、「戦車がうちの店壊したぞラッキー新築できる」という訳で、むしろ当ててくれと思っている客も少なくはない。
閑話休題
試合会場内の閉鎖が完了すると、開始の挨拶をするために集合場所へと集まる。
「ねえねえ、なんでうちの〝ナイトメア〟はあんなローブみたいなのつけてるの?しかもフードまでついてるし」
「なんでも、サプライズなんだとさ」
ふーんと沙織が言ったところで相手の隊長が戦車から降りてくる。クリーム色の髪を後ろで括り、歩く姿はまさに優雅。赤いパンツァージャケットがさながら兵隊のようにも見える。そしてその中に混じって、全身赤で統一された衣装で現れたのは、聖グロリアーナ女学院の所有する機体〝紅蓮弐式〟に騎乗する騎士。堂々としたその立ち姿は横に並ぶ隊長であるダージリンとは真逆の印象も受ける。そんな彼女が、大和を見て口を開いた。
「死神・・・!」
「・・・ハァ。はいはい、死神さんですよー」
「今日こそは負けないわよ!?」
「ハイハイ、オタガイガンバリマショーネー」
何故片言。まるで相手にする気がない大和に、さながら威嚇する犬が如く咆えるローズヒップ。そんな彼女をダージリンが宥め、今度はダージリンが大和を見据える。
「確か、戦車道から離れたとお聞きしましたが?」
「色々あってな。今は大洗女学園で騎士をやってる」
「なるほど・・・・噂は本当でしたのね」
そういうダージリンの表情からは、「残念」といった感じが窺える。スカウトでもする気だったのだろうか。
しかしどのみち戦車道を離れた大和にとって、みほが普通の女子高生として過ごせない環境ならば行く気はない。西住の家から・・・・黒森峰から去ると言い切った時からそう決めていた。そして二人が黒森峰から転校したという話は瞬く間に他校に広がり、あずかり知らぬところで引き抜きの話も少なからずあった。聖グロリアーナもその一つである。戦車道界隈において、西住の名前はかなりのブランドを誇る。そこにかの〝死神〟がついてくるとなれば〝ナイトメア〟保有の学校にとっては、鴨がネギを背負っているようなものだ。
だからこそ、のダージリンの反応である。蓋を開けて見たら、まったくの無名校にいた。しかも、戦車道の復活させたばかりの。
「まあいいですわ。・・・たとえ相手が無名の学校だとしても、手加減はしません。騎士道精神でお相手しますわ」
宣戦布告。それを受け、挨拶を済ませた後は所定の位置まで移動する。
《それではこれより、大洗女子学園と聖グロリアーナ女学院の練習試合を開始します。試合、開始ッ!』