ガールズ&パンツァーwithナイトメア   作:tubaki7

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第四話 ~激しい戦いです!~

 試合開始から約20分。審判の合図からそれぐらいの時間が経った頃、試合が動きを見せた。一定の距離から離れて様子を窺っていた大和はインカム越しのみほの声によりその報せを受ける。

 

《こちらAチーム、敵を誘い込みます。皆さんは作戦通り、配置についてください。大和君、準備はいい?》

「ああ。〝紅蓮〟の位置も把握した。支援砲撃を開始する」

 

機体を操作して膝をつかせる。ライフルを天に向かって構え、スコープを覗きこむような動作をすれば、メインモニターが狙撃モードへと切り替わる。走行する敵戦車との距離を計算し、引き金を引いた。直後、反動で機体がほんのわずかに揺れたのを感じれば、その数秒後にⅣ号の通信手である沙織から連絡が入る。

 

《相手チームに牽制成功!グロリアーナの動き、ちょっと鈍くなったよ》

「今のでこっちの位置も知れた。移動する」

 

 機体を立ち上がらせ、狙撃体勢を解いてランドスピナーを降ろし走行する。KMF(ナイトメアフレーム)戦において先に援護射撃をすれば、位置が確実にバレてしまう。その為戦車をこちらに割かれた場合、いざという時に援護に参加できないどころか最悪の場合撃墜すらありうる。こうして移動しなければならないが。

 

『見つけたわよ、悠木大和!』

 

 機体に備わっているスピーカーから聴こえる声に、さながら呼応したかのようにレーダーが〝紅蓮弐式〟の反応を捉える。

 

「もう来たのか・・・人気者は辛いなっ」

 

 掲げた左腕からばら撒かれるかの如く撃たれる弾丸を躱しながら、林の中を疾走する。

左腕に装備されているマシンガンから弾丸をバラまき、こちらに攻撃してくる。命中精度こそないが、そもそも彼女の機体は機動力を生かした近接戦闘にある。近づかれたら、装備どころか装甲すらままならない今のコンディションでは一撃で落とされてしまう。遭遇戦は一番避けたかったが、こうなってしまった以上避けては通れない。故に、今できることはなるべく彼女を本隊から引き離すことだと大和は深くフットペダルを踏み込む。

 機体が加速度を増し、装甲が付いていない分の機体重量の軽さを生かして速く走る。生い茂る木々を躱しながら、後方を確認しつつ距離を離す。

 

《待ちなさい悠木大和!このワタクシとお勝負なさいッ》

 

 相変わらずぎこちないお嬢様言葉で、機体のスピーカー越しに挑発してくるローズヒップ。

 

「だったら追いついてみろよ。〝紅蓮〟の機動性はそんなもんじゃないだろ!?」

《そんなこと、重々しょーちしてますわよ!》

 

これでいい。あとはみほ達が作戦通り、相手のフラッグ車を討ち取れば試合が終わる。

 

  終わる―――筈だった。

 

 ガクン、と突如揺れる機体。一瞬コクピットモニターにノイズが走ったかと思ったら、赤く点滅するコックピット。機体でのトラブルを報せるアラートが鳴り響く中、目線を前とモニターを行ったり来たり。フットペダルは踏み込んでいる筈なのに、速度が上がらない事に焦りを覚えるも、冷静さを手放すまいと必死に操縦桿を握りしめ、思考を巡らせる。その結果、導き出された結論は。

 

「ランドスピナーのケーブル破損!?」

 

 表示された内容に舌うちしつつも、何とか相手を振り切ろうと機体を駆る。無理もない、付け焼刃の整備ならこんなものだ。寧ろ彼女達―――自動車部は非常に良くやってくれたといえよう。慣れない整備に機材、そして極端に短い期間。それでここまで動けるように仕上げたんだ。それだけでももの凄い整備の腕前だと大和は内心で感心する。ここからは、自分の腕前次第だ。圧し掛かるプレッシャーを操縦桿を強く握ることで耐え、機体を捌く。スピナーを収納し、反転して〝紅蓮〟と向き合う。その行動を見たローズヒップはニヤリと口角を上げた。

 

「とうとう観念しましたわね悠木大和!ここで討ち取れば!」

 

 右腕に司令を送る。操縦桿に備わっているコントロールボールを操作し、武装の展開を促しスピードを上げる。鋭く大きな爪のある腕、その掌を相手に向かって突き出した。バチバチと電流が走る。〝紅蓮弐式〟最大の火力を誇る輻射波動機甲は、特殊装備の備わった右腕に高圧の電力を流し、触れたものを強制的に機能停止させ使い物にならなくしてしまう代物で、翳めただけでもKMFの機能を低下させるには充分すぎる。今の大和が駆る機体の昨日は本来の70%にも満たない。直撃はおろか翳めでもしたら・・・。

 

(勝負は一瞬・・・・・・・―――ここッ!)

 

 こちらも右腕のスラッシュハーケンの切っ先を展開させ突進。体勢を低くし、駆け抜ける。狙いは、〝紅蓮〟の細い腰部分。その関節。しかし大和の狙いは、ここでも狂わせられてしまう。

 

「それはお見通し、ですわッ!」

 

 眼前にまで迫った相手が急にターンする。それによりコースから外れ、体勢の崩された大和は正面から地面を這いつくばる形に倒れてしまう。動かなくなる機体。それを見たローズヒップは心底残念そうな顏で倒れた相手を見下ろしたあと、言葉を発することもなくその場から離れた。

 

 

 

 

 

  ◇

 

 

 

 

 ザワリ、と。悪寒が背中を伝うのを感じてみほは一瞬目を見開いた後、すぐさま集中していた意識を引き戻す。現在、残存車両はこのⅣ号のみとなりグロリアーナの有する〝チャーチル歩兵戦車Mk.Ⅶ〟、そして〝マチルダⅡ歩兵戦車Mk.Ⅲ〟とⅥにより奮闘するも徐々に追い詰めらている。練度の低さもあり、さらに相手は全国大会で準優勝の実績もあるチーム。たった一輌で、ここまで立ち回れているだけでもかなりのものだろう。それだけ西住みほの存在が大きいということの現れでもある。

 

 が、凄いのはなにも彼女だけというわけではない。ここまでほぼ無傷に近い被弾で済んでいるのは、ひとえに同じ車輌に乗り込んでいるこの仲間たちのおかげだろう。秋山優香里、五十鈴華、武部沙織、そして冷泉麻子。彼女らの活躍があってこそ、今みほは戦車に乗って指揮を取れる。トラウマを抱え、戦車と関わらないとさえ誓っていた筈の思いを抑えながらも、だ。ただ・・・・そう、ただ一点。その一点が、彼女の不安をかき立てていく。後方を見れば、遠くからでもわかる真紅の巨人。右手の大きな爪は、獲物を狩る狩人が如く鋭く光る。戦車道のルールによりこちらに対して直接的な手出しはないものの、その存在は脅威に他ならない。

 

「後方に、〝紅蓮弐式〟・・・」

「〝紅蓮〟がいるってことは、まさか悠木殿が!?」

「やられちゃったってこと!?」

 

 みほの呟きに優香里が最悪の事態を告げ、沙織がそれに便乗してしまう。落ち着け、まだそうと決まった訳じゃないとみほは固く握った手を、もう片方のカタカタと震える手で抑えながら自分に言い聞かせる。撃墜のコールは本部からされていない。となれば、動けない状況にあるか、相手を撒いてどこかに身を潜めているかの二択。

 

 しかしそんなみほの憶測を打ち破るかのように、麻子が言った。

 

「やられてないなら、この状況で援護がないのはおかしい。つまりもう、アイツはやられてるって考えた方がいいかもな」

 

 無情とまで言える彼女の言葉に、一番否定したかった可能性を考えなければならなくなったみほは、今まで支えにしてきた物を崩され不安に押しつぶされようとしていた。そんな中、ついに退路は行き止まりという形で絶たれてしまう。停止する車輌。後方には、敵戦車7輌にKMFが。条件を満たしたことにより、車輌と機体の距離はほど近いものになっている。戦車道において、KMFが本隊と接触できるのは両チームのバランスが極端に崩れた場合のみに限る。しかしそれは有利不利に関わらず適応されてしまう為、このように圧倒的不利な状況に立たされることも珍しくはない。

 

《どう足掻こうとも、これでおしまいですわ!》

 

 ローズヒップの勝ち誇った声がオープンチャンネルのスピーカーから聴こえてくる。通信制限の設けられている公式試合ではない為、普段なら嗜めるダージリンだが、今回はあの〝死神〟と謳われた悠木大和を抑えての合流を果たした彼女に免じて、それはしない。グロリアーナの戦いは常に優雅。それを体現するかのように、彼女は紅茶を一口口に運んだ。

 

「・・・・チェック」

「これで、おしまいなのでしょうか・・・」

「・・・・大和君・・・・!」

 

 諦めかけた華の声に、みほは思わず口にする。一緒に家から出て、ここまで付き添ってくれた少年の名前を。絶体絶命な状況の中、相手の砲身がこちらに向いた・・・・その時。〝紅蓮弐式〟のコクピットに、警報が鳴り響いた。ハッとなってレーダーに目を向けるローズヒップだが、その画面上に浮かび上がる光点の位置をダージリンに報告する前に、それが目の前に現れた。放たれた砲弾を握りしめた剣で払い、一刀両断して落とす。その衝撃で、今まで撒かれていた布が風に攫われて飛んだ。その中から現れる、額から吐出した角。全体的に白一色で統一され、所々見える素体の部分から受けられる印象は無機質。しかしその外見から連想される姿はまさに、あるものは待ち望み、あるものは恐怖すら覚えた存在だ。

 

《みほ・・・悪い、遅くなった》

 

 通信機から聴こえてくる声に、今まで重くのしかかっていた圧が嘘のように晴れるのを感じた。フッと軽くなる心に若干の戸惑いを覚えつつも、根底から湧き上がる歓喜を抑える事はせずに彼女は名前を呼んだ。

 

「大和君!」

 

 来てくれた。護ってくれた。目の前に立つ巨人の背中に、この上ない安心感と温かさを感じてみほは前のめりにそう叫んだ。

 

「〝ランスロット〟・・・!?そんな、アレは黒森峰所有の筈です!」

 

 取り乱すオレンジペコに、努めてアッサムが冷静に返す。

 

「いえ、あれは正確には〝ランスロット〟の予備素体でくみ上げられたもの・・・いわば、量産機に近いものですね。型番も違います」

「でも、あの姿はまさにあの白騎士そのものよ。・・・油断したわ」

 

 撃墜判定が出ていない。ローズヒップから倒したとの報告もうけていない。その二つから考えるべきだった懸念を抱かなかった自分の采配ミスだとダージリンは目の前の脅威を見据える。

 

《ローズヒップは俺が抑える。みほ・・・・勝て、なんて言わない。無理すんなよ》

「うん。・・・大丈夫。もう、大丈夫」

 

 深く息を吸い、吐いてからしっかりと前を見る。やれる。そう思わせてくれる仲間がいる。やれる。勇気をくれた人がいる。それだけで、西住みほは戦えるのだ。

 

「ローズヒップ!」

《おまかせくださいませダージリン様!》

 

 〝紅蓮〟が動く。いち早く反応した大和は目にもとまらぬ速さで機体を駆り、突っ込んできた相手と取っ組み合いをしながらも押し返す。それによって開かれた隙間を縫うようにして、麻子は操縦桿を操作して車輌を走らせた。ダージリンが残存車輌を引き連れ、逃げるみほを追いかけて行くのをちらりと確認しつつ大和はローズヒップを組んでいた体勢から蹴り飛ばして距離を置いた。

 

 そこから、静かににらみ合う両機。どちらから出る事もなく重い静寂が続く中、遠くの方で響く轟音、爆発音。それが味方のものか敵のものかなんて判別すらつかないほどに、二人は意識を集中させる。そして・・・・白と紅は、激突した。

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