傷ついた車輌がレッカーで運ばれていく。ある者は、それを誇らしげに。またある者は、この後に待ち受けているであろう惨劇に顔色を悪くして片をを落としながら、その光景を見ていた。敗北。その二文字がみほの脳裏を過る。思わず強張ってしまう肩だが、もうここは西住の家ではない。熊本の、黒森峰じゃない。大洗だ。大洗女子高だ。そう言い聞かせてみるも、やはり一度植え付けられてしまった負の感情という物は抜けてくれない。
でも、この手があるから平気。
優しく撫でる手。その温かさと存在が、暗い水の底から引き出してくれる。でも。
「大和君、その・・・撫でてくれるのは嬉しいんだけど、恥ずかしいっていうか・・・」
「まあ、みほだから」
それでいいの?と視線を向ける華と沙織。たしかに犬っぽいというか、小動物っぽいところはあるが。しかし抗議の言葉は口にするものの、甘んじて受け入れているところを見ると満更でもないらしい。なんだかんだで照れ笑いを浮かべてるみほに癒しをもらいつつ、これまでの疲れを取る沙織と華。
そこへ、意外な訪問者が現れる。
「貴女が隊長さん?」
背筋をピンと伸ばし、赤い制服に身を包んだ姿はまさに優雅。風貌も相まって、本物のイギリス淑女にも見える。流石、と大和は内心で零した。・・・・約一名を除いては。
「・・・フフン」
勝ち誇った顔で鼻で大和を笑うローズヒップ。二人の戦闘の結果は・・・・大和の敗北。そして、大洗女子の敗北。〝死神〟と戦い勝利したということが彼女の自信に繋がったことで、ただでさえ調子に乗りやすい性格がさらに調子に乗ってしまったようだ。顎を少し上げ、見下すが如く大和を見る。
「およしなさいな、ローズヒップ」
ぴしゃりとダージリンにたしなめられる。それにしゅんとなる姿を見てデジャブを感じる三人。
「ごめんなさいね。この子も嬉しいのよ。なんせ、あの〝死神〟に勝てたんですもの」
「・・・喧嘩売ってんのか」
「そう思ったってことは、貴方が勝手に負けと認めたということよ。・・・さて、自己紹介がまだだったわね。私はダージリン。貴女は?」
「西住・・・みほ、です・・・」
今にも消えそうなくらいの小声で名前を言うみほ。そしてバツが悪そうにそっぽを向く大和に、大体の察しをつける。戦車道を嗜む人間で、西住の名を知らないなどありえない。全国にその名を轟かせ、日本一の称号を不動のものにしてきたあの〝西住流〟の令嬢。黒森峰では姉であるまほの方が印象に残ってしまうが、それでもみほの事を知っている人間は少なくはない。だからこそ、ダージリンは察した。戦車道無名校に、西住みほと悠木大和が居る。これだけで、何かあったという事は理解できた。だからそれ以上の事は何も言わず、ただ一言「なるほど」と呟く。
「・・・それでは、ごきげんよう。また試合できる時を楽しみにしていますわ。・・・あ、そうそう」
立ち去ろうとした時、ダージリンが足を止めた。
「あの隠し玉には驚いたわ」
「あの隠し玉って、私達何かしたっけ?」
「〝ランスロット〟の事ですよきっと。系統が似たKMFは少なくないですが、あそこまで似通ったモデルはそうそう出回るものではありませんからね」
沙織の疑問に優香里が同じく小声で返す。
「いいサプライズだったろ?」
皮肉を込めて言った言葉にダージリンは小さく笑う。
「そうね。次はどんなサプライズをしてくれるのか楽しみだわ・・・・それじゃ、ごきげんよう」
◇
―――では、やってもらおうか。アンコウ踊り。
その言葉通りに執行されたアンコウ踊りは、予想もしないチーム全員での罰ゲームとなった。会長の杏曰く連帯責任ということらしい。ピンクの全身タイツ、それもピッチリとしたデザインの為着れば当然スタイルもくっきりと出てしまう。しかしそんな年頃の花も恥じらう戦車道乙女達の姿よりも、そのあまりの可笑しさに耐え切れず、一人大笑いする大和。男がやっても面白くないという杏の独断と偏見により難を逃れてはいたものの、その後彼女らの買い物に付き合い荷物持ちとしてこき使われてしまうのは、当然のことだった。
大洗でも一番大きなショッピングモール。学園艦の着港している港も近くということもあり、今はかなりの人で賑わっている。両手いっぱいの荷物を抱えながら、前を行く四人の少し後ろを歩く。ちなみに麻子は個人的な用事があるとのことでこの場にはいない。
「いやあかついつい買いすぎちゃったね」
「お腹もすきましたし、どこかで食べていきましょうか」
まだ歩くのか。いい加減プルプルと震えてきた腕で荷物を持ちつつ抗議の視線を前を歩く四人に視線を向けると、その先にはショッピングモールを行き交う人の中でひと際目立つ人力車が一台。こちらを見たかと思うと、それを引いていた男が微笑みかけて歩み寄ってくる。顔は所謂濃ゆい系の、一昔前の男前な比較的整った顔立ち。背も高く、がっしりとしている。そんな人が、頬笑みかけて寄ってくる。そんな状況で、この少女が反応しないわけがなかった。優華理の肩をバシバシと叩きながらキャーキャーと黄色い声に妄想を乗せて一人もだえる彼女。しかし現実というのは非常なもので。そんな沙織などまるで眼中にないかのように素通りして向かったのは・・・華だった。それにがっかりすると同時になんだか納得してしまうのが悔しいのか、ぐぬぬとなる。
だが、発せられた言葉は予想もしないものだった。
「大洗に来てたんですね、
「新三郎・・・」
笑みを浮かべる新三郎に対し、何故かリアクションが悪い華が対照的に映る。その視線は目の前の男を見つつも、その真の視線は奥に座している人物に向けられていた。客席を覆うかのように展開されている屋根、そこから顔をのぞかせるのは、どこか華を思わせるような顔立ちの女性。薄紫の着物に身を包み長いであろう後ろ髪を団子にまとめたその姿はまるで花の牡丹のよう。その整った顔に笑みを浮かべ華に歩み寄る。そんな姿をみて華が「お母様」と言った事でこの人が母親何だと知るも、普段は学園艦で暮らしている身。そうそう家族に頻繁に会えるという距離ではない為、もう少し和やかなムードになると思ったがそうではない。どちらかというと、歓迎していないといった印象を大和は受けた。そこから感じ取った事は、どこか経験のあるようにも思える。
「元気そうね華。そちらの方々は?」
「同じクラスの武部沙織さんと西住みほさん。それから――」
「隣のクラスの秋山優香里と悠木大和ど――・・・です。みんな戦車道を受講していて」
戦車道。その言葉に先ほどとはうって変わって真逆の顔になったのを見て、大和は感じていた既視感の正体に気づいた。
ああ、この人も同類か、と。
華に詰め寄ったかと思えば、いきなり手を取って鼻をクンクンと動かす。
「石鹸の匂いに混ざってかすかに油の香り・・・貴女まさか戦車道を?」
いや今そう言ったじゃん。そんな言葉を飲み込む大和。
「私、もしかして何かマズいことを言ってしまったんでしょうか・・・」
地雷を踏んだと思った優香里があわわと震えだす。もしかしなくてもそうだと直感したのは、華の母である百合が軽くヒステリックを起こして倒れた後の事だった。
◇
五十鈴家は、代々華道の銘家として続いてきた家柄だ。戦車道で西住流と島田流の二大流派が有名なように、華道では五十鈴流と言えばそれは常識としてとらえられるほどの有所正しきもの。そんな家の一人娘として生まれたのが華であり、百合は娘の華に五十鈴流としての技と極意を教えてきた。展覧会などがあれば必ず賞を取るほどに彼女は成長し、五十鈴家の子として立派になったと言えるのだろう。少なくとも百合は華に対してはそう思っていた。華こそ、五十鈴の名を背負って立つに相応しいと。
そう、思っていた。しかしそれが戦車道によって変わってしまった。よりにもよって、一番毛嫌いしてる分野のものに。
「どこの世界、家にもめんどくさい大人っているもんだな・・・」
襖の隙間から対峙する母と娘を見ながら、大和が小声でつぶやく。
「こら大和君、失礼でしょ?」
沙織に窘められつつ聞き耳を立てる。会話の内容はそれは酷いものだった。やれ野蛮だの、戦車なんぞ鉄くずになってしまえだの会話という会話をしようとはしないで、ただひたすら戦車道を否定する。
「アレでもか?」
「ギルティですね」
許す余地なしと言い切る優香里に苦笑するみほ。もうかれこれ30分は過ぎたであろうこの不毛な会話だったが、そこで華は百合に戦車道をやめるよう告げられる。そこは貴女の場所ではないと。本当の貴女ではないと。そう、否定されながら。それを見守っていたみほの顔がどんどん暗い物に変わる。おそらくは自分と重なる部分があったのだろう。彼女がどうしてそうなったかを知る二人のチームメイトとしては、これ以上はやめておいた方がいいと思い別室へと戻るよう促した。
その時。
「・・・わかりました。だったらもう、うちの敷居は跨がないでちょうだい」
「奥様それはッ!」
「新三郎はおだまり!」
ぴしゃりと反論しようとした新三郎を遮る百合。険しい表情で見つめてくる彼女より告げられたのは、事実上の絶縁。それは17歳という若い歳の女の子にはあまりにも重すぎる言葉だった。それを見た大和の目に、数ヶ月前の光景が重なる。直後、聴こえるか聴こえないかほどの声で沙織に言う。
「ごめん、武部さん」
言われた沙織は辛うじて聞き取れたものの、その意味がわからず立ち上がった大和が襖を勢いよく開けるまで何もできなかった。だからこそ、彼は止まらない。ズカズカと中へ入って行き、華の隣に立つ。静かに百合を見下ろす彼の目は、怒りを表すように鋭くなる。
「・・・貴方は?」
「・・・華さんと同じ戦車道を受講している、悠木大和です」
「大洗は女子高でしょう?どうして男子の貴方が―――」
「そんな事はどうでもいい。・・・貴女は、ご自分の娘がやりたいと言った事を否定するのですか?」
視線はそのままに、ただ言葉に気持ちだけを込める。そんな大和の後ろ姿を見てみほは不安に両手を握った。また、彼は立っている。誰かの為に、大切なものを必死に守ろうとする人の為に。
怯えて、全てから逃げてしまう人の為に。
「貴方には関係のない事です。部外者は口を挟まないで頂戴」
「俺は五十鈴さんの・・・・華さんのチームメイトです。仲間が困っているなら、助けるのに理由はいらないでしょう。それに、貴女は彼女の居場所をここではないと言い切った。だったら、もうここにいる必要はないでしょう?」
問われた言葉にさらに眉を顰める百合は、大和に手をひかれている華に視線を移す。それを受けた彼女は一瞬のためらいこそ見せたものの、直ぐに表情が変わったのを見て百合の表情はさらに険しいものになる。今まで自分の言う事に異議を唱えることはなかった華が・・・娘が、初めて反抗的な態度を取った。驚きと憤りが入り混じった視線を目の前の二人に向けつつ、百合は大和の言葉に反論しようと口を開く。
「行きましょう」
百合よりも先にそう切り出したのは華だった。少し目を伏せるように視線を落としながらそう言う彼女の表情は何処か哀し気で、苦しささえ感じれる程に沈んでいるのが窺える。行きましょう、その一言で大和は察したように踵を返す。背後で百合の言い淀んだ息遣いを感じつつ、新三郎が静かに正座している隣の襖に手をかける。
「お嬢・・・」
ようやく絞り出したであろうその声は、涙でかすれているのがわかる。
「顔をあげなさい新三郎。これは門出・・・新しい一歩よ」
そう言う華の表情は、先ほどとは違い穏やかで。普段仲間たちと他愛のない会話をしている時の、いつもと変わらない穏やかで優しそうな顔だ。声色も表情と同じで、それを受けた新三郎は堪えるように声を押し殺して涙を堪えつつ、部屋から出て行く二人を頭を下げて見送った。
「・・・さ、行きましょうか」
少しの寂しさをその瞳に映しつつも、華は笑ってそう言った。
◇
大洗での練習試合を終え、日も暮れた頃に定期便は貨物や人を乗せて学園艦へと戻っていく。夜風に当たりつつも、鼻孔を抜ける潮の香りがなんとも心地いい。少し火照った心を冷やすにはちょうどいいと、大和はフェンスに肘を預けてもたれかかる。
「ここにいたんだ」
振り向かなくともわかる声に、大和は軽く後ろを振り返る。
「ちょっと頭を冷やしてた。流石にやりすぎた・・・」
後悔しているのか、溜息をつきながらそうみほに返す。彼女も歩いてきて隣に並び、海を眺める。苦笑いを浮かべつつ、みほは言う。
「でも、華さん感謝してたよ?ありがとうって」
「・・・俺礼を言われるような事してないけど」
「それは大和君がそう思ってるだけだよ。・・・私には、わかるの。華さんの気持ち。だから・・・うん。嬉しかったんじゃないかな」
再び「そうか?」と今度は長めの溜息と落胆。ガクッと項垂れる姿にどう返していいものかと悩んでいると、今度は何処か緊張しているのか裏返ったような声で「あの!」と声をかけられた。そちらの方を向けば、意外にも澤 梓を車長としていた一年生組だった。こちらが上級生だからなのか、それとも単純に大和にビビっているのか。丸メガネの大野あやと、普段では活発な少女の操縦手である坂口桂利奈の二人は彼女の後ろに半ば隠れるようにしてこちらを見ている。
「今日の試合では・・・すみませんでした!」
梓の謝罪とともに一斉に頭を下げた。と思えば、今度は顔をあげれば先ほどとは打って変わってキラキラとした瞳でまくしたてるように喋る。
「先輩方の勇姿、とても感動しました!」
「悠木先輩もなんだかんだでかっこよかったです!」
「一言余計だっつの後輩」
通信手の宇津木優季が軽く大和を煽ったところで、遅れて沙織、華、優香里と麻子の四号車輌の面々がやってきた。
「この子たちがね、どうしても謝りたいからって」
「許してやれゆーき。暴力はいかんぞ」
「どうして俺はそうバイオレンスに見えるんだ・・・まあいい。敵前逃亡は何も悪い事じゃーない。練習したとはいえ、今回が初実戦だったからな。けど、砲弾が飛び交うような中で車輌の外に出るってのはかなり危険な行為だ。いくら競技用の弾丸とはいえ、タダじゃ済まない。それはわかってるな?」
フェンスから離れ、真面目に一年生達に説教する大和。それがなんだかおかしくて、みほはバレないよう小さく笑う。
「はい・・・」
「わかればよし。・・・んで、これからどうする?」
「私達、みんなで話し合ったんです。それで―――」
「戦車道、続けます!」
「どうしたら上手くなれますか!?」
「強くなる秘訣は!?」
「盗んだバイクで走りだしたりしますか!?」
「おい待て最後なんだ」
あっという間に打ち解けていく姿を見て、良かったと顔を見合わせる四人。このままやめてしまうのではないかとヒヤヒヤしていたが、どうやらそれは気にしすぎだったらしい。
「あ、ここにいた」
「探したぞ西住、悠木」
船内へと続く階段から姿を現したのは生徒会の三人。会長の杏を挟み左に控える柚の手には何やら木箱のような物が抱かれているのが見える。なんだろうと首を傾げるみほ達に対し、大和は心底うんざりしたような顔でそれを見る。
「うわっ、いかにもイヤそーな顔」
「箱からしてわかる。小山先輩、コレダージリンからでしょ」
「凄い、どうしてわかったの?」
「俺ももらった事あるんスよ・・・」
柚から受け取った箱を開けるみほ。中にはカップが二つと手紙が入っていた。
「・・・えっと」
日本語で書かれていない為読めないで首を傾げるみほ。その横から優香里が顔を出す。
「聖グロリアーナは好敵手と認めた相手には、ティーセットを贈るそうですよ!これは英語で・・・えっと・・・うわぁ・・・」
書かれている文章を読み解いた優香里はその内容に苦虫をかみしめたような顔でそう零す。
「なんて書いてあるの?」
「・・・素敵なサプライズをありがとう。どうせ下を向くなら紅茶でも淹れてはいかが?・・・って書いてある。ちなみに上の文章は西住さんに宛てたもので、いたって普通だな。ま、あのお嬢様らしい」
麻子が淡々と読み上げる横で沙織が感嘆の声を出す。遅刻や居眠りは多い彼女だが、成績だけを見れば学園の中でトップを誇る。英語を翻訳する程度は朝飯前だろう。だがそんな麻子の口調とは真逆な男がここに一人。
「あンの紅茶バカ・・・ッ!」
「なんだかワナワナしてますね」
「聖グロリアーナは悠木殿の〝ランスロット〟には苦汁を飲まされつづけてましたからね。公式戦でもそれ以外でも、確か白星はなかったはずですから」
「勝ったってより、機体が動かなくなって自滅した感はあったけどねー」
さらにトドメを屈託のない顔とテンションで桂利奈が刺す。これには流石に応えたようで小さな声で「うっ」と漏らした。
「まあまあ、そう気を落としなさんなって」
「そうだよ悠木君。まだ全国大会もあるから、そこで挽回すれば大丈夫!」
「そうだよ大和君!全国大会だってあるんだもん!まだまだこれから・・・・はぁい?」
そんな沙織の声が夕闇に溶けて行った。
◇
一難去ってまた一難。杏から切り出された大洗女子学園の全国大会への出場決定という報せ。これで終わるはずがないと薄々は考えていた大和だったが、彼にとってはイヤな形となって現実になる。戦車道のない学校を選んだにも関わらずこうして再びナイトメアに乗っている。オマケに大会への出場。もはや本末転倒ではあるものの、ここまで来てしまったならもう仕方ないと諦めをつけて空を見上げる。どこまでも青い雲一つない晴天は、抽選会場でもある多目的ホールの屋根に遮られるまで続いていた。
「・・・・帰りたい」
そう一人愚痴を零す。中に入らないで一人こんなところに居る理由はただ一つ、ここに西住まほもいるからだ。会いたくないし、できれば会わせたくない。今のみほに、まだ彼女の存在はキツいからだ。だがそれでも「大丈夫」と笑って入って行ったのだから、みほのなかでチームメイトの存在がどんどん大きくなりつつあるのがわかった。とりあえずは、あの言葉も信じていいのかもしれない。しかしながら、個人的な理由でポツンと終わるのを待っているのも退屈ではある。
さて、どうやって時間をつぶそうか。そう考えていると不意に声をかけられた。
「やあ、大和じゃないか。こんなところで何してるんだい?」
聴こえてきた声は男。自分と同年代のもの。こんな風に気さくに話しかけてくるのは、同姓では数少ない一人だ。
「タカシか・・・ってことはケイもいんのかめんどくさい」
「きみは相変わらずうちのボスの事邪けんに扱うね・・・」
「だって距離感近いし、ウザいし。あと、隙あらば勧誘してくるし」
「そこは、まぁ・・・あの人らしいと言えばらしいね」
長崎タカシ、サンダース大付属高校二年。戦車道では彼もナイトメアフレームのパイロットとして活躍している。騎乗するのは〝トリスタン〟。褐色の髪に少し茶色く見える瞳と、整った顔立ち。如何にも好青年という言葉が良く似合う、そんな彼は大和の隣まで来てベンチに腰掛けた。
「きみの腕は僕らの界隈じゃ相当なものだからね、そりゃ欲しくもなるよ」
「おまえがいる時点で俺いらねーじゃん」
「戦力が多いにこしたことはないからね。それに僕もきみが居た方が張り合いがいがあるし、なにより楽しいから」
そう言って笑みを浮かべるタカシ。自分とはまったく逆の性格ゆえか、数少ない同姓の知人とはいえ少々苦手意識もある。その為か彼のこういう笑顔と言動を直視できない大和はそっぽを向く事でその雰囲気から逃れようと試みた。
「・・・どうやら、一回戦の抽選が終わったみたいだよ」
携帯のバイブレーションが機能し、中での経過を報せる。その内容を見て、タカシは笑みを浮かべた。それは親しい友人に向けるようなものではなく。例えるのであれば・・・強敵を前にして、武者震いが止まらない。そんな印象を受けるようなものだった。だが大和はそれを見ることはなく、雰囲気で察したのか「そうか」とそっけなく返す。
「やけに興味なさげだね」
「やるからには勝つ。だから、俺は・・・俺達は負けない。たとえ相手が誰であってもな」
「・・・・そっか。なら、楽しみにしてるよ」
「おう。チキンでも焼いて待ってろ」
「コーラはいるかい?」
「付けてくれ」
「わかった、ケイ隊長に言っとくよ。・・・・それじゃ大和、また試合で」
そう言って、タカシは中から出てきたチームメイトのもとへと歩いて行った。大洗女子学園、第一回戦の相手は・・・サンダース大付属。