夜明けへと向かう航路 (旧 クソッタレな世界の中で)休止中 作:KP 八神
第一幕 第一話 新人加入
ズキズキと痛む頭を抑え、布団を体から引き剝がしながらゆっくりと体を起こす。
霞む目を時計へ向けると時刻は9時30分、仕事を入れておかなくて正解だった。
ベッドからゆっくりと降りると鏡に向かい毎朝の日課である自己確認を始める。
「八神修《やがみ おさむ》、31歳男、好きなものは酒と煙草と珈琲。今現在は二日酔いで頭が痛い。毎日やってるこれはヤク中の妄言みたいで大嫌いだ。」
昨日の宴会の残骸で散らかっている部屋の惨状をどう片付けるか考えながら朝食の用意を始める。
今日はちょっと豪華にトーストとベーコンエッグにしよう。
そういえば昨日の依頼人は無事に帰れただろうか?今回の報酬はなんに使おうか、などと考えてるうちに朝食が出来上がってしまった。
いつもの通り両手を合わせ、感謝の言葉を口にした後食事を始める。
食事を終えるとほぼ同時のタイミングで携帯がやかましく自己主張を始めた、クソッタレこっちは久方ぶりの休日だってのに。
苛立ちを抑えながら電話を取り通話ボタンを押すと聞き馴染みのある明るい声が聞こえてきた。
『あ、もしもーし? リーダー? 昨日言ってた新メンバーの候補見つけたから11時にジェイルハウスのいつもの部屋に来てくんない?』
「冗談じゃねぇよリリィ、こちとら1週間ぶりの休日だってのになんでわざわざ仕事しなきゃなんねぇんだよ。」
『えー、使える人材探しとけって言ったのリーダーじゃん。それに面接みたいなことするだけだから、ね?』
自分が頼んだ仕事を部下がしっかりこなしてしまった以上こちらが何もしないというわけにもいかなくなった。面倒だが。
「あー、はいはい、りょーかい。11時にいつもの場所な、そっちは誰が来る予定なんだ?」
『レイレイは居るみたい。』
「あいよ、金はいつも通りでいいな?」
『オッケー、リーダーの進む道に主の導きのあらんことを。なんてね。』
終話ボタンを押し、大きく重い溜息を吐く。
どうやら休日はお預けのようだ。
家を出て馴染みの顔と挨拶を交わすと、銘が掠れてしまって読めなくなった煙草に火をつけ、煙を補給する。
「安かった割には悪くない香りだ、どこで買ったんだったかな。」
そう呟きジェイルハウスへと歩き始める。
<<幸運:80-->23 成功!>>
いつもの雑居ビルに入り、薄暗い地下行きの階段を3階分降りると、"Jail House"と書かれた小さな札のかけられた立て付けの悪い木製の扉が中の喧騒と光を漏らしながら出迎えてくれた。
腕時計を確認すると時刻は10時30分ちょうどで予定の時間よりは少し早かったが時間はいくら余裕があっても損をするものではない。
扉を開くと社会不適合者やその予備軍たちの馬鹿騒ぎが鼓膜を揺らす、二日酔いの頭にはなかなかに効くがやはり性根のせいか心地良く感じる。
しかしながら、せっかくの新人候補が「利き腕」みたいな面倒なやつらに潰されてしまっては困るのでリーダーの責任的に一応周囲を確認しておく。
<<目星:60-->50 成功!>>
目を凝らし周囲を見回すと、奥で「利き腕」が新しい女を口説いているのが確認できた、少なくとも今日1日は問題なさそうだ。
さて、後の問題は新人がどんな奴かってとこだが、まあ言葉さえ通じればなんとかなるだろう。
そう思い歩いていると目的の個室の前に緊張した様子で立っている女性を見つけた、年はだいたい18前後だろうか。
トップアイドルと言われても納得できるような整った顔立ちとスタイルをしている上に、レディーススーツにハイヒール、アクセサリには真珠のピアスと身なりからしてこの場には全くもって不自然な女性だが、もしや仕事の依頼か?それなら勘弁なんだがなぁ。
しかしその感情を顔に出さぬよう努めながら女性に声をかける。
「そこは夜明けの幽霊船の個室だが依頼かい?」
「あ、いえ、私はその夜明けの幽霊船に加入するために来ました。あなたはリーダーの八神さん、ですよね?」
まさかの新人だった。
「ああ、俺が夜明けの幽霊船のリーダー、八神修だ。とりあえず中入ろうか。」
そう言い、新人が何か言う前に個室の中へ連れ込む。
中へ入ると色白優男のへべれけがソファの上でいつも通り気持ちよさそうにくたばっているのが目に入る、近くのローテーブルには空の酒瓶が所狭しと並べられていた。
新人を適当な席に座らせると壁にかかった内線で適当な酒と軽食を注文する。
さて、今回は当たりだといいが。
そう思いながら改めて新人へと視線を向ける。
やはりいきなり部屋に連れ込まれたせいか警戒はしているようだが、どうしてもへべれけのチャイニーズが気になって仕方ないのかチラチラとそちらへ視線を向けていた。
そんなあまりにも普通な反応に少し笑みを浮かべながら新人へと話しかける。
「改めて自己紹介といこうか、俺はこの夜明けの幽霊船のリーダーを務めている八神修、そっちでくたばってるアル中は紅 麗麗《ホン レイレイ》うちの一番槍だ。あんたは?」
そう問うと新人は驚いたようにびくりと肩を浮かせ口を開いた。
「私は新田飛鳥《にった あすか》といいます、面接があるのでここに来るようにとリリィさんに言われていたのですが。」
「なるほど、その服装は面接って聞いてたからか。随分と真面目だな? アンタ。」
「新田です。」
「はいはい、新田ちゃんね。年は?」
「今年で19歳になります。」
「へぇ、19か。学校は?」
「高校は卒業しました、大学にはいきません。」
その後もいくつかの質問をして、問題がないかの確認をする。
今のところはクソ真面目な女の子ってとこだ。
「じゃあちと早いが最後の質問といこうか。なんでここに所属しようと思ったんだ? リリィに誘われた程度なら断れるだろうし、断ったとしてもあいつも追及しねぇだろうさ。 」
そう聞くと新人は顔を暗くし、俯いてしまった。
しかし2〜3秒の沈黙の後、再び口を開いた。
「………お金が、必要だからです。」
「金ねぇ。新田ちゃんの顔ならアイドルなんて簡単にできるだろうし、下世話な話だが体つきも悪くねぇからそれを売っちまえば簡単に金なんぞ手に入るだろうさ。それなのにどうしてわざわざ危険な"これ"を選ぶのさ。俺としちゃそこがわかんねぇと首を縦には振れねぇ。 」
「………………………」
「だんまりかい、それじゃ面接は終「妹が……病気になったからです。」
そこから新人は少しどもりながらも事情を語り出した。
妹が難病にかかってしまい、それの治療にどれだけ体を売っても払えないほどの莫大な費用がかかる。というこの世界ではありふれた御涙頂戴にすらならない話だった。
「前々から私と仲良くしてくれていたリリィちゃんが、その話を聞いたみたいで私にここを紹介してくださったんです。 」
「………………………へぇ。 話は終いかい? 」
「……………はい。 」
正直言ってしまうと俺からすればクソほどどうでもいい話だった、だがリリィがここを紹介する程の人材をみすみす見逃すのも不味い。
どうしたものか、と考えていると注文した酒と軽食を店員が運んできた。
「まぁ、とりあえず飯食いな。なんも食ってなかったんだろ?」
「……ありがとう、ございます。 」
そう言うと新人は遠慮しながらゆっくりと食事を取り始めた。俺も運ばれてきた串焼きと強めの酒を手に持ち、先程の話を続けるべく口を開く。
「で、何ができるのさ。」
その問いに希望でも見つけたのか、新人はこちらに驚いたような顔を向けてきた。その間抜けな顔に笑いそうになりながらもう一度聞いた。
「何ができるのさ。 」
「えっと、基本的にはオオサカベン、日本語、英語、中国語、ドイツ語や他にも五カ国の言語の会話と読み書きができます!あとは数学と物理学、薬学が得意です。
なので多少ならドラッグや医薬品の調合も、機材さえあれば出来る筈です。」
正直驚いた、十個の言語を理解しているのもそうだが、まさか薬の調合ができるとは。これは逃すわけにはいかなくなってしまった。
「リリィへの報酬を増やしてやらないとな。」
「へ?」
「こんどこそ面接は終了だ、結果は合格。今日からよろしくな、新田ちゃん。」
そう言い新人の肩をポンポンと叩くと、彼女は声を上げて泣きだしてしまった。
困ったな、女を鳴かせるのは嫌いじゃないが泣かせるのは嫌いなんだ。