夜明けへと向かう航路 (旧 クソッタレな世界の中で)休止中 作:KP 八神
「泣いてる暇はないぞ、次は契約の確認だ。」
そう言い空のグラスに酒を注いでやると、新人は涙を誤魔化すようにそれを一気に煽った。
おいおい大丈夫か、その酒はかなり癖が強いはずだったが。
などと心配していると、案の定新人は顔を青くし口を押さえ、トイレへと駆け込んで行った。
「んで?お前はいつまで死体ごっこを続けるつもりだ?」
「あれやっぱバレてた?いやー今回は割と自信あったんだけどなぁ。」
顔を真っ赤にした長身痩躯の美男は笑いながら体を起こし、机の上の酒に手を伸ばす。
「で、お前から見てどうだった。」
「そだなー、言葉通りの戦力としては微妙だろうなぁ。でもしっかり育ててやればあの子は化けるだろうさ、良くも悪くも将来性がありそうだな。」
「聞いてただろうが、調合ができるらしいぞ。」
「それが決め手だろ?」
「当然、まぁリリィが連れてきたって時点でほぼ確定してたがな。」
「人を見る目は良いもんなぁ。」
そんな話をしていると、新人が少し顔色を良くして戻ってきた。
「突然出て行った上に、お待たせしてすみません!」
「大丈夫大丈夫、俺も今起きたとこだからさ。リーダーから聞いてると思うけど俺の名前は紅 麗麗よろしくね。」
「はい!よろしくお願いします。」
「んじゃあ、あー……、どこまで言ってたかな。」
「えっと、契約のお話を始めるってところからだったはずです。」
「あぁ、そうだったな。じゃあまずは報酬金の話からいこうか。
「はい!」
新人は勢いよく返事を返すと、メモとペンを取り出した。
「まーじめー。」
「茶化すな、んで報酬だが基本的に依頼に参加したメンバーで山分け、前金は準備費用とかに消えるから俺たちの懐に入ることはないぞ。」
「あの質問よろしいですか?」
「何だ?」
「依頼の途中で怪我をしてしまった場合はどうなるんでしょうか?」
「依頼中の怪我に関しては全額こっちが負担してやる。まあ、体を機械化するとかは知らんがな。依頼の遂行が困難な程の怪我を負った場合は、その途中までの働きと依頼成功への貢献度をこっちで判断してそれに見合った金が払われる。不参加の場合はもちろんなしだ。」
「勝手な想像ですけど、もっとブラックなものを想像してました。」
新人はそう言いながら少し苦笑いを漏らす。
失礼な奴だ。
だがまあ、その気持ちも分からなくもない。
なんたって亜侠は世界で一番死傷率の高い仕事だからだ。
今日会話した亜侠が明日にはホトケ肉として売られてることなんてザラにある。
「まあ、うちは他のとことは違うからねぇ。なあ?リーダー。」
「そうなんですか?」
「ああ、そうだ。うちは盟約が仲良しこよしするために構成された亜侠グループなんでな、多少の怪我は自己責任とはいえ、他とはかけられる金の桁が違う。」
「へー、リーダーとレイレイさんは何処の所属なんですか?」
「あー、俺たちは根っからの亜侠だ。どこにも所属しちゃいねぇ。」
「そうそう、元々幽霊船の乗員は俺とリーダーだけだったんだぜ、でも五大盟約以外の大きい盟約達が協定を結ぶとかなんとかで、その一つとして俺たち幽霊船が選ばれたってわけ。」
「餅は餅屋ってことだ、慣れてない奴らを集めてグループ作るより元々あるとこに入った方が色々と便利だろう?」
「成る程、リーダーとレイレイさんの他にはどのような方がいらっしゃるんですか?」
メンバーの紹介はもう少し後にやるつもりだったが、順番が前後するだけだし問題ないだろう。
「リーダーの俺、一番槍のレイレイ、情報担当で教会所属のリリィ、財布の紐を握ってる狩人協会所属のヴィクトーリア。この四人がさっきまでの幽霊船のメンバーだ。」
「リリィちゃんとは知り合いみたいだし説明はいらないよね。ヴィクトーリアの姐さんは仕事の時はザ・狩人って感じの人だけど実はスッゲェ乙女なんだよな。」
「言ってやるな、仮にもここに来るまでは普通の令嬢だったんだから不思議じゃないだろう。」
「そうなんですか?」
「うん。戦闘中は自分のモツが飛び出ようが、どんだけグロい虫相手だろうが冷静でさ、まるで機械なんだけど。オフの時は恋バナに花を咲かせたりお茶会開いたり、動物愛でたりとかまさに乙女って感じなんだよな。」
ありゃもはや多重人格だぜ、なんて言っているレイレイを横目に、静かにポケットで震えだした携帯を取りだす。
噂をすればなんとやら。ってやつだろうか、ヴィクトーリアからだった。
「もしもし?何か問題か?」
『リーダー、緊急なので手短に報告しますね。そちらに正体不明の武装勢力が向かっています。数はおよそ三十、武装に統一性は無し。性別等にも関連性は無し、目的は不明です。』
「了解、気をつけろよ。」
終話ボタンを押し、二人へ目を向けるとレイレイはすでに戦闘の準備を整えていた。
「新田ちゃん、悪いが早速の仕事だ。今ここに目的不明の武装集団が向かってきている。俺とレイレイは他の亜侠達と迎撃するから新田ちゃんは息の残ってるラッキーな奴を拘束してくれ。」
「ッシャァッ、久し振りの喧嘩だぁ!リーダー!見敵必殺でいいよな!?」
「一、二人生きてれば十分だ、いつも通り好きに暴れな。」
「ちょ、ちょっと待ってください!戦闘を行うのは仕方ないとして、せめて武器と拘束具をくださいませんか!?」
「俺の鞄の中に手錠と新田ちゃんでも撃てる銃が二、三入ってる、それ使いな。」
そう言い、腰のホルスターにさした二丁のリボルバーに指をかける。
しかし他の施設ならともかく"ジェイルハウス"に襲撃を仕掛けるとはとんだ命知らずな奴らだ、まさかとは思うがオオサカの外部からか?
これは今考えても仕方ないと思考を切り替え、個室の外へと飛び出し周りの荒くれ達に聞こえるように声を上げる。
「敵襲!数三十前後!俺たちの憩いの場を荒らそうとする不届き者どもに礼儀を教えてやりなクソッタレども!」
そう言うと亜侠達は一瞬で各々の武器を構え、近くの出入り口へと穴が空く程の熱を持ちそうな視線を向ける。
そうして十秒ほど経った頃、一つの扉が爆散し、それが狼煙となり大乱戦が始まった。
俺は出来るだけレイレイのサポートに努め、相手の行動を観察するが、どうにも違和感を感じる。
<<アイデア:80-->3 クリティカル!>>
3度目のリロードの時にふと敵の一人と目が合い違和感の原因に気づいた。
やつら、統率が取れすぎているんだ。
装備から何からバラバラのくせに戦線のカバーや連携があまりにも完璧すぎる。
事前に入念に打ち合わせをしていた、と言われてしまえば終いだが、だからってこれはあまりにもできすぎている。
「花丸100点をあげたくなるような連携だな!リーダー!」
「全くだ、まるで帝国の連中を相手にしてる気分だよ。」
「まあ、この程度あいつらと比べるとなんてことないけどな!」
「違いない。」
その言葉の通りどれだけ統率が取れていようが数には敵わないようで、ゆっくりゆっくりと襲撃者たちが放つ弾丸は数を減らしていく。
「リーダー!新田ちゃん大丈夫かな!?」
「問題ないだろうさ、この程度で死んじまう目はしてなかった。」
「そっちもそうだけどさ!捕虜の方!」
「それこそ心配いらないな。」
「なんでさ?」
「さっき、ガキをひきずって連れて行ってるのが見えた。」
「じゃあもう気を使わなくても?」
「構わねぇ。」
俺の言葉を聞くや否や弾丸のような速さで敵陣のど真ん中へ飛び込んでしまった。
全く、誰がカバーすると思ってるんだ。
銃声や怒号が鳴りを潜め始めた頃を見計らってレイレイへ撤退の指示を出す、少し不満そうな顔をしたが直ぐにこちらへと来る。
「戻るぞ、もう俺たちがやる必要もないだろう。」
「ういうい。」
かなりの数の穴が空いてしまった扉を開き、個室へと戻ると新人がガリガリの捕虜を抱きしめ泣いていた。
「?????? どうなってんだこりゃ、新田ちゃん。説明くんない?」
「ゔぅ〜、リーダーざぁぁん、レイレイざぁぁん。この子保護じであげれまぜんかぁ?」
「とりあえず聞き出した話報告してくれや、処遇はそのあと決める。」
新人の話によるとこのガキは人間市場で買われた孤児らしく、解放されても行くあてがないらしく、このままだと確実に死んじまうだろうから保護したいらしい。
「新田ちゃんやい、そのガキがどう言う立場かはわかったがなんでここに襲撃かけたのかは聞けたのか?」
「うぅ、ごめんなさい。泣いちゃって聞けてないですぅ。」
「あちゃー、どうする?リーダー?俺たちが聞き出す?」
「いや、新田ちゃんに任せる。」
「新田ちゃん、今日中にその子から情報を聞き出しな、それができたら保護も考えてやる。」
「本当ですか!?頑張ります!」
「あくまで考えてやるだけだぞ。」
そう言い残し、レイレイを連れ部屋から出る。
これからどうするべきか考えていると急に視界がレイレイの顔で埋め尽くされた。
「リーダーどしたん?悪いものでも食べた?」
「何言ってんだ。」
「だってさぁ、いつものリーダーならどんな相手でも銃突きつけながら尋問するじゃん?それなのに今回はそれしなかったのが疑問でさぁ。」
「分かってんだろうに。」
「やっぱテスト?」
「そうだ、捕虜の選別及び確保、情報の聞き出し方から扱い方まで。色々見るつもりだが基本はこの辺だな。」
「やっぱリーダーはリーダーで安心したよ。」
「どう言うことだよ。」
「あ、あとさ。保護って本当にするつもりなん?」
「俺は嘘はつかんよ。」
「加入はさせんの?」
「能力と働き次第だな。だがまあ、心配はいらんだろう。」
「あ、また悪い顔してらぁ。」
レイレイの言葉を無視し、考えをまとめる。
「よし、だいたい決まった。」
「んじゃ、これからどう動くよ。」
「情報を聞き出し次第全員集める、ありったけ準備する様にヴィッキーに伝えておいてくれ。」
「りょーかい。」
「ところでよう。」
「どうした?リーダー?」
「俺そんな悪い顔してたか?」