夜明けへと向かう航路 (旧 クソッタレな世界の中で)休止中 作:KP 八神
数分もしないうちにアジトに着いた、地上ニ階地下一階の立派なアジトだ。
「とうちゃーく。ハンガーに停めてくるから先に行っててくれ。」
「ああ、頼む。」
一度ゴライアスから降り、二人を降ろそうと後部座席へ向かう。
扉を開けるとチビ助は自分で起きていたようなので脇を抱え降ろしてやった。
「ありがとう…」
「いい子だ。」
チビ助は頭を撫でられ、気持ちよさそうに目を細める。
自分でもなぜチビ助の頭を撫でたのか分からず、勝手に動いた右手に困惑してしまうが、しかし悪い気はしないのでまあ、よしとする。
「新田ちゃん、到着だ。起きな。」
「う、うーん。…あれ?もう着いたんですか?」
「おう、ここが俺たち幽霊船のアジトだ。先に会議室行くぞ、他のメンバーは揃ってるみたいだ。」
アジトの中に入り新人とチビ助を会議室へと先導する。
会議室の扉を開けると、俺の苦手とする人物が出迎えてくれやがった。
「ああ、遅かったじゃないかい坊や。お茶いただいてるよ。」
「おかえりー、リーダー。ヴィッキーは今ハンガーに居るよー。」
リリィとヴィクトーリアは俺が招集したから当然だが
「なーんであんたがいるんだ、シスターミラー。今日は老人会の茶会じゃなかったのか?」
「なあに、爺婆のつまらん暇潰しなんぞ出てやる必要なんぞないさね。あれに出るくらいなら死ぬ方がよっぽど有意義さ。それより、新人を雇ったそうじゃないか、顔を見にきたんだよ。後ろの二人がそうかい?」
「そうだ。ほら二人とも、暇を持て余した婆さんに挨拶してやりな。」
そう言い俺の背に隠れてしまっていた二人を前に出す。
「は、初めまして。本日より夜明けの幽霊船に所属させていただきました、新田飛鳥です。よろしくお願いします。」
「……カレン。よろしく…お願いします。」
二人の自己紹介を聞くとミラーの婆さんは元々シワの多い顔を更にしわくちゃにして微笑んだ。ここだけ見れば聖母とも言えそうな見た目なんだがなぁ。
「飛鳥に、カレンだね?しっかり覚えたよ。私はミラー、この街でシスターをやってる婆さ、たまにここでリリィと茶を嗜んでるよ。」
そうなのだ、ミラーの婆さんはいつのまにかアジトに入り込んで茶を飲んでいる姿をよく見ている。リリィに何度か注意したのだが……
「そんで私が幽霊船のアイドル、リリィだよ!よろしくね!」
この調子だ、望み薄だろう。
「で?本題は?まさか本当に新人の顔を見に来ただけじゃないだろう?」
「なんだいそんなに急かしたって良いことないだろうに。まあいいさね。」
そういうとミラーの婆さんはリリィに合図を出して、紙束を差し出させてきた。
「"ドール及びネクロマンシーに対する盟約の動向"?」
「そうさ、カレンもそうだがオオサカでドールが確認されているだろう?」
「ああ、だが今に始まった話じゃないだろう。」
「そうさね、十数年前から確認される頻度が増えたのは確かだ。だがね、今回は異様なのさ。」
「異様だぁ?」
「まあ、全員揃ってから話そうかね。」
そういうとミラーの婆さんは茶を一口飲みゆっくりとため息をこぼす。
「はい、リーダー。お茶入ったよ。」
「おう。」
とりあえず一口茶を口に含む、欲を言うならコーヒーが良いが淹れてくれた以上文句は言えん。
珍しく紅茶ではなく緑茶だったがたまには悪くない。
数分程茶を嗜んでいると、会議室の扉が開いた。
「お待たせしました皆さん。」
「よーう、おまたせぇって。げぇっ!ババァ!」
「随分な挨拶じゃあないかいヤンチャ坊主、もう一回礼儀を叩き込んでやろうかい?」
ギャイギャイと喧しいレイレイを無視してヴィッキーに話しかける。
「お疲れさん、首尾は?」
「ダメね、貴方に頼まれた情報を全て洗い出したけれど何一つ引っかからなかったわ。」
「婆さんから話は?」
「聞いたわ、それについて説明するためにシスターが来てくださったみたいよ。」
「そうか、新人は後で紹介するつもりだがなかなか良さげだぞ。」
などと話しているとミラーの婆さんから声がかかる。
「揃ったみたいだからそろそろ話すよ、さっさと座りな。」
新人とチビ助に席を案内してやり、自分の椅子に座る。
相変わらず真剣な顔のミラーの婆さんの威圧感はこたえる。円卓を挟んで反対側にいるはずなのにブルッちまいそうなくらいだ。
「さて、本題の前に飛鳥とカレンに一つ聞こうかい。二人はドールとネクロマンシーについてどこまで知ってるんだい?」
「私は名前だけですね、内容は全く知りません。」
「……ドールは私や姉妹のこと……ネクロマンシーはお母さんのこと……」
「そのくらいかい、なら一から説明しようかね。まずドールだが、動く死体ってのが一般的な認識だね。」
「動く、死体、ですか。」
「そうさ、死体を組み合わせてゾンビもどきにされたのがドールさね。」
「と言うことは、カレンちゃんは、一度死んでるってことですか。」
「そうなるね。」
新人の目がチビ助を見る。
「…うん、私は……一回…死んでるよ…」
しかし、そう言うチビ助の顔に陰りはなかった。
「一度ドールになっちまうと首を刎ね飛ばされようが、心臓を潰されようが生きてるんだとさ。」
「うん、…そのくらいじゃ…私は…死なない、………多分……?……私って今…生きてる…の?」
「私に聞かれてもわかりゃしないよ、でもまあ生きてるで良いんじゃないかい?」
「じゃあ…生きてる。」
じゃあで決めて良いものなのか?
「カレンも言っていたが、同じネクロマンシーに作られたドールは姉妹と呼び合ってお互いを守り合うそうだよ。カレンは姉妹がどこに居るかわかるかい?」
「……わかんない…」
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個人的にも気になっていた問題だが、チビ助の言葉に嘘はなさそうだった。いずれは見つけてやらんとな。
しかし、仕方ないとはいえ口を挟めずひたすら聞きに徹するのはつまらん。
「ドールについてはなんとなくわかりました、でもネクロマンシーはどうしてドールを作るんですか?」
「急かすんじゃないよ、ちゃんと説明してやるさね。」
懐から煙草を取り出そうとするが、婆さんに目で止められてしまう。
子供の前だからやめろってか。ちいさなため息が漏れる。
「さて、ネクロマンシーについてだね。ネクロマンシーは孤独に酔っちまった奴らのことさ。飛鳥はオオサカの外について知ってるかい?」
「たしかまだ復興できてない土地がたくさんあるとか。」
「そうさ、そこを箱庭にして自分で作ったドールや出来損ないで遊んでるのがネクロマンシーさね。ネクロマンシーは自分の欲のためにドールを使ってるってわけさ。」
「なるほど、ならどうしてオオサカにカレンちゃんみたいな子達が居るんですか?」
「"可愛い子には旅をさせろ"ってことらしいね、ネクロマンシーには自分の作ったドールを娘のように思う奴が多いらしいから経験を積ませる為に連れてくるそうさ。」
「私には、よくわかりませんね。」
「理解してやる必要はないだろう、結局は奴らの自己満足なんだ。」
そう言い切ると婆さんは一度喉を潤す。
「さて、簡単な説明はしたつもりだが分かったかい?」
「なんとか、大丈夫です。」
「……わかった……」
「なら重畳、本題に入ろうかい。」
その言葉を聞き、俺以外の幽霊船のメンバーの空気が張り詰める。
それを真似たのか、チビ助もすこし背筋をのばした。
「坊やには書類を渡したが、現在オオサカで一月に確認された新しいドールの数が三十倍になってしまっている。」
「今まではどうだったんですか?」
「一月にニ人出れば多い方だったね。」
「ってことは一月に三十人以上、ですか!?」
「入ってくるのは簡単とはいえ増えすぎだろ。」
「そうさ、増えすぎなんだよ。もっと緩やかに増えるなら納得はできたさ、だがこれは明らかに何かがある。」
「その何かを見つけて来いってわけか。」
「そういうことさね。」
そういう話なら先に言えば良かったろうに、などとレイレイは考えているだろうが、これはシスターの新人達に対する優しさだろう。
ここまで丁寧に教えてくれる依頼人はまずいないしシスターは教会の上位の幹部、情報はまず間違い無い。
老婆心ってやつだろうか。
「全く、いつまでたってもお優しいこった、シスター様々だな。」
「なんのことだかわからんね。」
「んで?前金と報酬は?」
「前金で六十、成功報酬で一人頭三百だ。」
「何をもって成功とするつもりだ?」
「そうさね、確たる裏がある情報を持ってきたら成功、下手人を連れてきたら百追加しようじゃないか。」
この言葉を聞き、俺は受けるつもりでいることをメンバーに目で伝える、すると新人二人以外はOKのサインを出してくれた。
「新田ちゃんとカレンはどうする。どっちでも良いぞ。」
「やります!」「やる。」
二人の返事を聞き、シスターに向き直る。
「我々夜明けの幽霊船はその依頼を受諾しよう。」
「そうかい、じゃあ成功を主に祈ろうかねぇ。」
そう言うとシスターは鞄の中から金を机に積み、部屋から出る。
「送らせようか?」
「いらんよ。」
バタン、と扉の閉まる音を背に皆に言う。
「さて諸君、お仕事の時間だ。」